【参加者募集中】読者参加型SS スーパーロボット大戦 無限戦争 作:ダス・ライヒ
リップシュタット連合軍が破れ、完全に帝国再建委員会が勝利した頃、黒音とキュートは密かにこの世界より脱出しようとしていた。
「ふぅ、本当におっかない世界だわ。こんな世界、速く脱出しなくちゃ」
墜落した自機のVF-25Aメサイアより取り出せる物だけ取り出した黒音は、サバイバルケースを肩に抱え、双眼鏡越しで帝国再建委員会の将兵等が無抵抗な現地の敵兵を射殺する様子を見て、速いところ脱出する必要があると口にする。
あの勢力に自分らの技術を提供すれば、即座に軍事利用されることは確実だ。そうなれば、この世界のように帝国再建委員会に侵略され、幾百、幾千の世界が支配下に置かれる事だろう。
そうさせない為に、黒音とキュートは帝国再建委員会に自分らの正体を黙っていたのだ。もっとも、何名かは気付いていたが、組織を暴走させまいと敢えて黙っていた。
『マスター、TARDIS、補給完了です』
「やっと補給できたわね。それじゃあ、速くおさらばしましょう」
ワルキューレや帝国再建委員会と同じ次元航行装置を持つ自分の船、一見すれば六十年代のポリスボックスのような船を目前に召喚させ、黒音とキュートはそれに乗って起動させた。
この船には次元航行装置のみならず、タイムマシンでもあるのだ。万が一これが帝国再建委員会でも渡れば、イヴ人らは自分らの帝国の崩壊を防ぐため、過去を書き換えてしまう。黒音とキュートもそれを阻止するために、敢えて黙っていたのだ。
「各部異常なし。よし、父さんの所へ帰ろう」
船を起動させれば、スイッチを押して即刻この世界より立ち去った。
同時刻、リップシュタット連合軍においてこの世界の代表たるベルンブルク公ロイターは、迫り来る帝国再建委員会に震え、会議室を籠っていた。連合の盟主であるリップシュタット公は主君たるアルゴン王の為、証拠を処分している。
既に連合が崩壊し、自身の君主であるベルンブルク公が会議室に籠って震える中、彼に仕えるフランツ・ルーク・アンス・テレジアは自分の家族に向け、アガサ騎士団の元へ行くように告げていた。
「何故です父上!? もう既に私は覚悟が出来ております!」
フランツの息子三名は帝国再建委員会に特攻を仕掛ける覚悟であった。息子が、それも全員揃って特攻などこの世界において珍しく心優しい父が許すはずが無い。フランツは自分の言うことに反発する長男の頬を叩く。
「ならんと言っている! この酷い弱肉強食たる世界の為、犬死するつもりか!? 既に手筈は整えている。貴様たちはベルンブルク公ではなく、アルゴン王に忠誠を誓うのだ。この世界の為に心中するなどと口にするでない! 母にアリシア、ケーシーを連れ、アガサ騎士団と共にこの地より脱出するのだ!」
長男をぶったフランツは、自身が嫌うこの世界の為に自分の息子を死なすつもりは毛頭もない。アガサ騎士団の幹部であるリップシュタットに騎士団に息子や娘たちが入れるように取り計らっており、既にアガサ騎士団側も受け入れる手筈を整えていた。
無論、仕えるべき主君をベルンブルクと決めている息子らは父の説得を聞かず、更に反発する。
「何を勝手な…! 我がテレジア家の家訓を忘れましたか!? そんなこの地を逃げるような真似を!」
「テレジア家の当主として、恥ずかしくないのですか!?」
「頑固者共め、なれば…!」
自分らをアガサ騎士団に入れ、逃がそうとする父に反発する息子らに対し、その父であるフランツは腰から剣を抜き、それを息子たちに突き付けて宣言した。
息子たちからテレジア家の継承権を剥奪し、妻と離縁して息女の親権の放棄。テレジア家は自分の物であると。
「当主の権限において、私は息子たちの継承権を剥奪する! 妻アライダと離縁し、息子三人と娘二人の親権を放棄。テレジアは私の物だ。もうお前たちは私の息子でも無ければ、テレジア家の者ではない。アガサ騎士団の騎士だ。異界の騎士身分風情が、我がテレジア家の継承権を求めるのは言語道断だ。私はこの継承権を他の誰にも譲る気は無い。早急に立ち去れ!」
息子らに脅すように告げれば、三人は後退り始め、罵声を浴びせる。
「こんな状況にまで家に拘るとは! 情けない男!」
「俺たちがアガサの騎士だと? 勝手に決めやがって! ぶっ殺して…」
長男が腰より抜いた剣を向けながら罵声すれば、次男もそれに続いて剣を抜き、罵声を浴びせ、斬りかかろうとしたが、背後より姿を現したアガサ騎士団の騎士たちに後頭部を殴られ、三人揃って昏倒する。
言うことを聞かない頑固者の息子三名を昏倒させた青いサーコートを着たアガサの騎士に、フランツは頭を下げて礼を言う。
「かたじけぬ。息子三人を説き伏せれぬ駄目な父親に代わり、手を煩わせてしまって」
「とんでもない。貴公は父としての務めを果たしている。息子たちの教育は我がアガサ騎士団に任されよ。立派な騎士に鍛えてしんぜよう。それに長女か次女も我が騎士団に入るようなら、立派な騎士に育てて見せましょうぞ」
「この酷い世界で傍観を決め込んだ男の願い、叶えてくれて感謝もしきれぬ…! 貴方がたこそ、まさしく騎士だ。この世界の紛い物とは大違いだ」
自分を卑下して礼を言うフランツに、アガサの騎士は父親として務めを果たしていると諭し、預かった息子らは立派な騎士に育て上げると約束する。
これにフランツは涙しつつ、アガサ騎士団の事を自分らが知る騎士とは違う真の騎士たちであると告げる。
余りにも自分とこの世界を卑下するフランツに、死なせるのは勿体ないと思ってか、アガサの騎士は共に行かぬかと手を伸ばす。
「貴公も我らと行かぬか? 貴公はこの世界を嫌っているようだ。現主君を見捨て、アルゴン王の下で働いてみぬか?」
「それは出来ませぬ。私はテレジア家の当主として務めを果たさねば。現にあのような主君でも、我が主君でありまする。それにベルンブルク公も“この世界の被害者”なのです。どうか、テレジア家の最後の当主として、勤めを果たさせてもらいたい」
「貴方…」
フランツはテレジア家の最後の当主として務めを果たさねばならないと言って、アガサ騎士団入りを断った。このフランツの当主としての固い決意に、アガサの騎士と妻のアライダは圧倒される。それでも妻は諦めず、フランツの説得を試みる。もしくは夫婦そろって家の務めを果たそうと説得を試みた。
「貴方、あんな男と共に心中するつもりですか!? なれば私も御連れ下さい! 覚悟はできております!」
「駄目だ、君はまだ息子たちといてくれ。一番上は二十歳だが、まだお前が必要なようだ。それにこれは僕が決めたことだ。最後だけは言うことを聞いておくれ、アライダ」
「奥方、失礼ながらフランツ殿の意思は固い。これ以上の説得、無意味と思いまする。フランツ殿の意思を尊重し、共に脱出いたしましょう!」
「…分かりました。それじゃ…!」
説得しようとしたが、フランツの意思は固かった。これにアガサの騎士は説得は不可能と判断し、彼の妻であるアライダとその子供たちを連れて行く。連れて行かれる妻の瞳からは涙が流れていた。
「さようなら…」
彼も瞳に涙を浮かべつつ、テレジア家の務めを果たすために主君の元へ向かった。
会議室に籠る彼の主君であるベルンブルク公は、覚悟を決めた腹心であるフランツとは違い、生にしがみ付いていた。利権を維持する為、自身の息子か娘を婿に出し、帝国再建委員会に取り入ろうと言うのだ。これにフランツは呆れ、誇りを捨ててまで利権に縋る主君を見捨て、妻や家族と共にアガサ騎士団へ行けば良かったと後悔する。
だが、ここで投げ出してしまえば、代々ベルンブルク公に仕えて来たテレジア家の当主たちに申しわけない。覚悟したフランツは、帝国再建委員会が決してベルンブルク公を生かしては置けないと告げた。
世界の秘密を握り、大帝国ですら逆らえないベルンブルク家最後の代であるロイターが初代の足元すら及ばぬ程であれ、この男尊女卑の象徴と言えるので、古き時代を終わりを宣言するため、帝国再建委員会は必ず処刑するとフランツは君主に伝える。
もっとも信頼する臣下より自分の運命を告げられたベルンブルク公の顔は青ざめたが、理解しているようだった。その為にフランツは君主に仇を討つ約束の条件として、毒を服用して自殺するように勧める。フランツが指を鳴らせば、毒入りのワインボトルを持った部下二名が会議室へと入って来る。彼は主君に名誉ある自殺をしてもらう為、毒を用意させていたのだ。だが、ここに来てフランツの予想を反する人物も含まれていた。
まだ二十歳にも満たないベルンブルク公の妻だ。フランツは彼女と出陣していないベルンブルク家の十代前半や十歳にも満たないご子息等と共に脱出するように命じたが、主君の妻は自分の言い付けを無視して夫の元へと来たのだ。これに驚きつつも、フランツは妻が頼めば、ベルンブルク公は毒を飲むだろうと思い、敢えて訳を問わなかった。
妻も見っともなく女性だけの種族であるイヴ人に媚び諂ってでも生きようとする夫に呆れ果てたのか、フランツと同じく自殺を勧めた。
信頼する腹心のみならず、脱出せずにわざわざやって来た最後の十八歳の妻にまで自殺しろと言われたベルンブルク公は覚悟を決め、自分の前に置かれたフタのコルクが開けられた毒入りのワインボトルに手を伸ばした。男が全てなこの世界で、男である自分が敵、それも卑下する女に屈せずに死ぬことが名誉であると思うベルンブルク公はワインボトルを掴み、毒が混入したワインの飲み干そうとした。
「嫌だ! わしは死ぬのは御免だ! わしは彼奴等に取り入り、安泰した地位を手に入れる! わしはこの世界一の名家、ベルンブルク家の当主なのだぞ! 逆に支配してくれるわ!! このわしが決めたことに異議を唱える、ましてや女風情が意見する出ないわ! それに名誉の為に死ねなどとほざくなど! わしはこれからも、これからも支配者として君臨するのだッ!!」
だが、ベルンブルク公は躊躇し、結局は生にしがみ付いてしまう。
死ぬのは嫌だ。俺は男だ。男が全てなこの世界の男である自分が決めたことに、女が異議を唱えるなど以ての外だ。
そう叫んでワインボトルを腹心のフランツに投げ付け、帝国再建委員会に取り入るため、この場から逃げようとした。だが、これもフランツは織り込み済みであり、廊下に待機させているもう二人目を会議室へ突入させ、主君を先に入った二人と合わせ、四人がかりで取り押さえて動けないようにする。
自分を取り押さえる四人を振りほどこうと必死に暴れ回るベルンブルク公であるが、大の男四人に抑え込まれては、幾ら大柄な彼でも振りほどけない。そのまま予備の毒を取り出したフランツに、無理やり口を開かされ、毒をねじ込まれた。吐き出そうと藻掻くが、フランツもそれを理解して飲み込ませようと鼻を摘まみ、主君を毒殺した。
「これでベルンブルク家、最後の当主は名誉の服毒自殺を遂げた。同じくテレジア家の最後の当主、必ず主君の仇を討つことを約束いたしましょう」
毒を飲まされて毒死した自身の主君に向け、フランツは敬意を込めて必ず仇を討つと約束した後、部下らにベルンブルク公の死体を丁寧に扱うように指示した。
「どうやら、世界の影の支配者はくたばったようだ。テレジア家の最後の御当主様、しくじるなよ」
会議室前の廊下では、壁にもたれかかっているミッシングリンク隊のスミスの姿があった。彼はフランツが行うであろう仇討に一枚かんでいたのだ。その為に仇討に必要な道具を用意していた。
そうとは知らず、帝国再建委員会は戦勝式典を行うべく、ベルンブルク城へと入城した。
それから二日後、帝国再建委員会は大量に獲得した捕虜に戦闘で破損した個所の補修工事をやらせ、戦勝式典を行っていた。
参加しているのは少尉から元帥などの将校や将軍だけであり、兵や下士官は式典会場となる玉座には呼ばれていなかった。居るとすれば、警備兵である。敵側であるアガサ騎士団も式典に参加しており、警備も共同で行っているらしく、アガサ騎士団側の方には、あちらこちらに槍やハルバートを持った衛兵が立っている。
義勇軍も居るはずであるが、イヴ人の将校や将軍以外許可されていないようで、人間で許可されいるのはアガサ騎士団の騎士たちだけだ。参加を拒否された義勇軍の将兵等は外で開催されている祝杯の方に居り、特別に支給された高級酒で戦勝を祝っていた。
尚、義勇軍将兵等の給仕係を行っているのは、今は崩壊したリップシュタット連合軍の捕虜たちであり、彼らが口にする料理も捕虜にされた糧食係の将兵等が行っている。
「ち、何が戦死者十二万人よぉ。こっちは五十万もくたばってんだぁ! あれだけの激戦で、そんだけで済んだことを感謝しやがれってんだぁ!!」
一人の酔った下士官は、ラジオから聞こえて来るイヴ人将兵の戦死者を発表する放送に対し、自分ら義勇兵は五倍以上は死んでいると文句を言う。これに同じく酔っている下士官が酒瓶を片手に肩を抱き寄せ、イヴ人の文句は言うなと告げる。
「おいおい、イヴ人さまに文句を言うんじゃあねぇ。あいつ等の娼館を出禁にされちまうぞぉ! 文句を言った罰でなぁ!!」
「お前、ここにイヴ人の憲兵は居ねぇよぉ! 今は好きなだけ文句も不満もぉ言えんだぁ! もうこの際だから言っとけ言っとけぇ!!」
「応よぉ! 勲章じゃなくてやらせろぉ! 俺はお前らとやるために委員会に参加したんだぁ!!」
「良いぞ! もっと言えっ! 心の内に秘めた鬱憤を晴らせぇ!!」
酔っている義勇軍の陸軍将兵等は、周りにイヴ人の将兵や憲兵が居ないことを良い事に、内に秘めていた不満を酒の力を借りて叫ぶ。聞こえていれば、どんな目に遭わされるか分かった物では無いが、この戦勝式典の場では許されていた。
会場が酔った将兵等によって騒がしくなる中、アムレート・グレンケアは静かにウィスキーを飲んでいた。そこへ部下が近付き、彼の昇進を祝う。
「おぉ、これは! 昇進おめでとうございますぅ! ちゃんと飲んでますかぁ?」
酔った部下に何の返答もすることなく、アムレートは静かにウィスキーを飲む。これに部下は絡むことなく、仲間たちの方へと向かった。
「まぁ、あんたは無口だもんなぁ! 俺たちは俺たちで騒ぎますよぉ! なんたって俺たちも昇進してるからなぁ! バッハハハ!!」
笑いながら仲間たちの元へ向かう部下に気にすることなく、アムレートはウィスキーを一口飲んだ。
陸軍と空軍で別れているらしく、空軍でも陸軍の将兵等と同様に酔って騒いでいる。真下一元も伍長から軍曹に昇進したが、大して変わらないので、自棄酒をあおっている。仲間に止めろと言われても、一元はその手を払って酒瓶ごと呑んでいる。
「うるせぇぞぉ! 伍長から軍曹になっただけぇ、何が変わるってんだぁ!? 畜生が!」
自棄酒で酔う一元が泣きながら喚き散らす中、ナチス軍のヴィルヘルム・エーレンブルグとの戦いで負傷したフェリーチェ・バルボッサが、式典会場へと入って来る。これに義勇空軍の航空魔導士らは驚いていた。何せ彼女は特別に正規軍であるイヴ人と共に肩を並べて戦うことを許可された唯一の人間だ。イヴ人の方に居るかと思ったら、人間の方へと来たのだから、彼らが驚くのは無理もない。
「どうした、バーバ・ヤーガ。なんでこっちに来るんだぁ?」
「人間だからだよ。流石に向こうには参加出来なかったよ。それとその名で呼ぶんじゃないよ。今度はぶっ殺すよ?」
「そうかい。まぁ、あんたは二階級特進だからな。ここで昇進祝いと行こうぜ!」
一人が訳を問えば、フェリーチェは負傷して重い身体を動かしながら空いている席に座り、流石にイヴ人の会場へは入れなかったと答える。これを聞いた義勇軍の将兵等はフェリーチェが二階級特進したと知ったので、それを祝ってやろうと思い彼女の前に置かれたカップに高級酒を注ぐ。
仲間たちが彼女の昇進を祝う中、何故か給仕係をしているルルモードがトレイに載せられた豪華な料理をフェリーチェの元へ持ってくる。無論、フルプレートの上からエプロンを掛けての登場なので、一同からは驚かれる。
「シャハハハ! フェリーチェ・バルボッサ殿、少尉まで昇進おめでとうございます。わたくしが丹精を込めて作った料理でございます。どうか、召し上がってくださいませ」
「な、なんだこいつ!?」
「あんた、そこまでするのかい?」
ルルモードの姿を見て驚く一同を他所に、フェリーチェは左手で彼が持ってきた料理を手に取り、それを口に含みながら給仕係までするのかと問う。
「もちろんですとも。なんせわたくしのメカの修理代を稼がにゃあなりませんからねぇ! 少しでも足しになれば、するのがこの水晶騎士ルルモードですよ! では、次の料理をせにゃあならんので」
「…美味いね」
フェリーチェの問いに、ルルモードは自分の機体であるジョングの修理代を稼がねばと思ってやっていると答え、厨房へと戻って行った。そんな彼の姿を見て、フェリーチェはルルモードの料理を少し口にすれば、美味いことに驚きの声を上げる。
チェンバーレイン・リリウムを含めるイヴ人の兵や下士官の方でも、義勇軍とは違う高級酒などが振舞われていたが、未成年者が多いので殆どがケーキなどの菓子類だった。騒げない代わりに唄を歌い、安住の地を手に入れたことを祝う。
外で祝われる中、メインイベントとも言えるベルンブルク城の玉座の間では、帝国再建委員会の委員長がかつてはベルンブルク公が座っていた玉座に腰を下ろし、両脇に護衛二名を従え、この戦いを勝利に導いた将校らに労いの言葉を掛けていた。そんな彼女の隣では、礼服に身を包んだリップシュタット連合の盟主であるリップシュタット公が何食わぬ顔で立っている。ジン・グレイツァ・エルバーンも包帯を巻いて参加していた。座っているのは他の騎士たちと同じ席である。
式典にはシェイファー・ハウンド戦闘団の将校らも参加していたが、部隊長であるカヤは式典には参加していない。シェイファー・ハウンド戦闘団はガイエス平原での戦闘で最も戦果を挙げた部隊であるが、損害も馬鹿にならず、五千人はいた戦闘団は二千人まで減っており、カヤは損害の責任で昇進できず、式典には参加できなかった。
空軍ではターニャを見捨てた第6大隊のアーデルトラウト・ブライトクロイツやアルフィン・テオドールは何のお咎めの無しに、大隊長と共に参加している。ターニャはその第6大隊の中に居たが、敢えて文句は言わない。
他には第1大隊のヴィルヘルミーナ・ブリュンヒルト・ニュルンベルク・インノゲール・フォン・ビスマルク・シェーンハウゼン、全身複雑骨折の状態のため、車椅子に座っての参加のエリカ・グラーフィン・フォン・ホルシュタイン、第5大隊のフォルモント・フォン・ヴェルトラオム、フォルカ・ラーティが居た。
ルシル・ジャベリンはテキサス軍の為、参加できず、ゾフィー・レオンハルトはバレて独房に入れられた。ナーニャ・デミグラス、タリナ・ゴットワルトも居て、晴れて准将となったミロスラーヴァ・ユーギンは、将軍の場の方に立っている。他にフュカリタ・モーラー、アザギ・アマガネも参加している。
式典が順調に行われる中、主君の仇討ちを行う為にフランツが、カートの上に置いたベルンブルク公の遺体を入れた棺を押してベルンブルク夫人と共に入って来る。帝国再建委員会とアガサ騎士団と警備兵が付いており、暗殺の心配は無いと式典に居る誰もが思っていた。
表向きは主君とその妻を献上することを条件に、身の保証を要求して来たフランツに、ミロスラーヴァを始めとしたイヴ人至上主義者らは蔑んだ視線を向け、侮蔑の言葉を掛ける。
「主君の死体とその妻を献上して自分の身を守るか。この世界の男はつくづく下賤な者ばかりだな」
ミロスラーヴァがフランツに対する侮蔑の言葉を投げ掛ければ、彼は気にすることなく委員長の前に主君が収められている棺を止めて一礼する。それから棺に近付き、底からある物を取り出す。それは使い捨てのロケットランチャーであった。周りが慌てる中、フランツは冷静に安全装置を外して照準を委員長に向け、主君の仇を取ると宣言する。
「我が主君の仇、取らせていただく!」
その言葉の後、フランツはロケットランチャーを発射した。使い捨ての筒より真後ろから高熱を噴射して発射されたロケット弾は、委員長の左右に控える護衛の魔法障壁によって狙いが逸れ、玉座の後ろの壁に命中して爆発する。防御されたと判断したフランツは懐より予め弾頭を装填しておいたワルサーカンプピストルを取り出し、再び狙おうとするが、衛兵に取り押さえられ、あらぬ方向へと撃ってしまう。
「ぬわぁぁぁ!」
フランツが撃った方向に居たのはアガサ騎士団の衛兵らであり、床に撃ち込まれて爆発で何名かが吹き飛ばされる。
「取り押さえろ!」
数人掛かりでフランツを取り押さえる警備兵や衛兵らであるが、暗殺者は彼だけでなかった。ベルンブルク夫人も仇討を狙っていたのだ。注意がフランツに向いたのを確認した奥方は、左手の薬指にはめてあるレーザーを発射することが出来る指輪で委員長を狙おうとした。だが、撃った先に偶然にもリップシュタットが重なっていたのだ。それを目撃したターニャは、一目散に駆け付けようとした。
「危ない!」
「ん、ぐぅ…!?」
既に遅く、レーザーはリップシュタットの身体を貫いた。レーザーは委員長に届こうと思われていたが、リップシュタットの意図せずの身を挺した防御によって狙いは逸れ、彼女の頬を掠めた程度で済んだ。
「おのれぇ!」
二射目を発射しようとする夫人であるが、左腕をリップシュタットの息子が抜いた剣で斬り落とされ、そこから衛兵らの槍で身体を貫かれた。
自分が仕損じた場合に備え、主君の夫人にも仇討を行わせようとしていたフランツであるが、それも尽く失敗したのを見て、もう仇は討てないと判断して奥歯に仕込んである毒を呑み込もうとする。
「ベルンブルク公! 申し訳ございませぬ! このフランツ・テレジア、しくじりました!! 夫人も仕損じ、敵の槍に貫かれましたが、貴方一人では行かせませぬ! このフランツめも詫び向かうついでに、お供いたしまする!!」
「飲ませるな! 吐き出させろ!!」
仇討が失敗したことで、毒を呑み込むフランツより、毒を吐き出させようとするが、既に毒を呑み込んだ後で、もう息絶えた後だった。
「い、医者だ! 速く医者を!!」
「うぅ…デグレチャフ、デグレチャフよ…!」
フランツが毒で自殺した後、レーザーに撃たれて瀕死のリップシュタットの近くに寄ったターニャは医者を呼ぶが、既に手の打ちようが無かった。最期にターニャに何か告げようとするが、体内より溢れだす血で上手く伝えられない。
「な、なんだ親父!? 喋るんじゃない! もう直ぐ医者が来る! もう少し頑張るんだ!!」
「貴公に、貴公に…アガサ騎士団を…」
「頑張るんですリップシュタット公! もう直ぐ医者が来ますぞ!!」
息子と共に必死にリップシュタットに呼び掛けるターニャであるが、医者が来る前に彼は最期の言葉を伝えられず、息絶えてしまった。
「駄目です、ご臨終であります…!」
「そんな、親父ィィィ!!」
医者は脈拍を確認したが、リップシュタットが息を引き取ったことを息子に伝えた。それを聞いた息子は泣き崩れ、ターニャは亡命先を失ったことを悟り、床に尻もちを着いて茫然とした。一方でまだ息のある夫人は息絶える前に、断末魔を上げながら息絶える。
「クソっ、あんな男の為、あんなおっさんの為に…! 失敗するんなら、逃げれば、逃げれば良かった…」
最期までベルンブルクに尽くしてしまったことを後悔しつつ、夫人は血を吐き出しながら息絶えた。
「ちっ、使えん奴らめ。ドローンを自爆させろ。直ちに撤収だ!」
その様子を遠目からドローン越しで見ていたスミスは、舌打ちしながら撤収する。フランツらが使っていた武器の類は、スミスが用意した物だ。臨検を行う衛兵も、スミスが買収しており、こうしてフランツと夫人が仇討を実行できたのだ。
こうして、戦勝式典はベルンブルクの仇を討つ臣下とその主君の妻、リップシュタットとアガサ騎士団の数名の衛兵の死で幕を下ろした。
「逃げ場が…私の逃げ場が…!」
ターニャはリップシュタットの遺体の前で、帝国再建委員会の一員として戦い続けることを余儀なくされたと思い、絶望に打ちひしがれていた。
そして、今に至る…。
裸エプロンに我が主君の仇と濃い内容になったな…。
次回で幼女の過去編の最終回となります。