シャニマスバトルロワイヤル   作:ナツアキ

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第二話

一日目 未明

 

 甘奈と甜花が灯台の下で結華を倒した時、そばの茂みには彼女らを隠れて観察する影があった。樋口円香である。

 結華の次に灯台の近い位置でスタートした円香は、誰かと遭遇する危険を冒してまで灯台に登るべきか考えあぐね、ひとまず身を隠して様子を見ることにしていた。そこに大崎姉妹が現れ、結華との戦闘が始まった。結果的に先の判断によって彼女は不要な戦闘を避けることができ、また敵の情報を得ることにも成功した。ゲーム開始から10分としないうちに大崎姉妹が合流した状態で現れたことで灯台はひとまず彼女らが制するだろうと考えた円香は、次に自分がすべきことは甘奈たちに気づかれないようにその場を離れて身の安全を確保することだと判断した。

 が、それができなかった。結華たちの戦いの間に円香の後ろから樹里がやってきて、近くの木の中に隠れたためである。

幸い樹里は円香に気づいていない様子だったが、開けた道にいる甘奈・甜花と、森の奥の方からやってきた樹里に挟まれた円香は、茂みの中でしゃがみ込んだまま気づかれないよう祈ることしか出来なかった。樹里一人が相手であれば逃げることは可能だろうが、戦い始めれば大崎姉妹に気付かれるのは明白だった。甜花の銃の腕を見てキメ顔で「へえ、やるじゃねえか」などとつぶやく樹里に対して円香は早く去ってくれという感情以外持っていなかった。

 戦いが決着して双子が灯台に入ったのを確認した後、樹里はようやく離れていった。近くに誰もいないことを確かめると、円香は大きく息を吐き、地面に寝転がり木々の隙間から見える空を仰いだ。明け始めた夜の空を、鳩が一羽横切って行った。

 

 

一日目 朝

 

 夜が明けるとともに黛冬優子は隠れながら動き出すことにした。

 暗いうちにやたらめったら動き回ることは思いがけない敵との遭遇につながる、そう考えた冬優子はスタート時の海岸から離れて森の中に入るとしばらく身を隠していた。戦いや逃げ足に自信があるのであれば序盤から動き回るのは有効であり、あさひにはそうするよう指示していた。しかし奇襲を受ける可能性などを考えて、そしてなによりも自分の能力を見て、冬優子は自分はあまり動くべきでなく仲間を待つべきだと考えた。そのおかげか、実際に彼女はここまで誰とも遭遇せずに済んでいる。

 それでも夜が明けた後に移動することにしたのは、見つかってしまった時に周りの状況がわかっていなければ「どこに逃げるべきか」がわからないからである。自分が勝てない相手から逃げている時に下手に開けたところに出てしまえばその瞬間脱落は必至である。他にも相手を撒けるポイントや行き止まりなどを探しながら冬優子は四つん這いで少しずつ森の中を進んでいく。

 そのとき、微かにではあったが、冬優子の前方から銃声が聞こえた。冬優子は少し警戒するも、ある程度離れていることが分かるとふたたび落ち着きじっと耳をすます。

(撃ち合っている……?いや連射している、これは……)

 向かうべきか、向かわないべきか。冬優子の脳内を駆け巡った思考は前者を選んだ。待つべきと判断したにも関わらず銃声の方へ向かうことにしたのは、そこにいるのが誰なのか、思い当たる節があったからである。

(でもふゆが見つからないことが最優先、誰か確認するのは二の次)

 周りを警戒しながら彼女は先程よりわずかに急いで進んでいった。

 

 

 このゲームにおける優位とは何なのか、小糸は考えていた。

 もっともわかりやすいのはおそらく人数の優位である。仲間が多ければ当然有利であり、誰もが最初はユニットの合流を目指すはずである。特に、5人組ユニットは全員が集合すると強力であり、アンティーカと放クラは合流される前に叩く必要がある。

 では、個の優劣を決めるのは何か。一つは素の身体能力であろう、移動にも戦闘にも情報収集にも体力は最重要となる。全23人のアイドルたちの中でこれが特に優れているのは樹里やめぐる、あさひだろうか。

 そしてもう一つ、極めて重要なのが各々に割り当てられた「能力」である。この能力に関しては誰が優れたものを持っているかわからず、しかもその性能の個人差がどれほどのものかもわかっていない。もしかしたら人数差を覆すほどのものかもしれない、いやそうに違いない。自分の能力を確認しながら小糸は確信した。自分、そして他人の能力が何なのかを知ることがこのゲームで勝つために必要不可欠と言っていいのである。

 そう考えていたからこそ、小糸は自分が今見つけてしまったものに困惑していた。歩いていた山道の傍の茂みに、伝令書の封筒が捨ててあったのである。伝令書には自分の能力が何なのかが書いてあるのだから、その重要性をわかっているのであれば当然大事に持っておくべきものであるが、それが無造作に捨ててあったのである。いくらなんでも不用心すぎはしないだろうか、苦笑いしながら小糸は封筒を拾う。しかし、流石に捨てた者もそこまでの考えなしでは無いようで、中身は空っぽであった。

「ま、まあそりゃそうだよね……!」

 そう小糸は言って自分を落ち着かせる。しかし、この封筒が落ちていたことは、小糸に何も与えなかったわけでは無い。「誰かがこの場所にいた」、そのことがわかっただけでも大きな情報なのである。味方であれば合流することができるかもしれないし、敵であればあらかじめ警戒できる。何のリスクもなしにこの情報を得られたのは、良いスタートだといえるだろう。

 小糸はそう思いながら封筒をポケットにしまおうした時、視界の隅に入った白い何かに気付き、それを二度見してさらに当惑する。山道からさらに少し外れた茂みに伝令書が捨てられていたのである。そんな馬鹿な、と思い目を凝らしてみるが、どう見ても伝令書である。封筒の持ち主は本物の不用心者だったか、と思いながら小糸は拾いに行く。

 しかし伝令書の内容を見た瞬間、小糸は自分の過ちに気付く。しまった、と引き返す間もなく、彼女の両足は勢いよくロープに絡め取られ、逆さまに木に吊るし上げられてしまった。

「ひっかかった〜」

 声の方を見ると、摩美々が木の上でいたずらっぽく笑っていた。

 

田中摩美々

「お手軽!罠設置キット」を持つ

 

 

 灯織は他の多くのアイドルと同様に海岸に降ろされ、冬優子と似たような考えで森の中に入って周囲を探っていた。ただ他のユニットと比べて人数が少なく、体力が他のアイドルより優れているのがめぐるだけであることから、うまく作戦を練る必要があると考えていた。

 その時、灯織が考えていたことを全て忘れさせるほどのものすごい勢いで、後方から影が近づいてきた。それはおそろしい速さで接近して来ており、灯織の本能が告げた。逃げねば死ぬと。灯織の判断は早かった。全力で影と反対方向に走りだす。しかし、迫りくる影との距離はどんどん短くなり、灯織は息を切らし始めた。

「冬優子ちゃーん!冬優子ちゃーん!見つけたっすよー!」

 追ってくる影、いや、あさひは叫ぶ。

「冬優子さんじゃないよ、わ、私だよ……!」

 逃げながら必死に灯織が答えるとあさひは「あれ?」という顔をしつつもその足を止めない。

「ひっ灯織だよ……」

「あー灯織ちゃんでもいいや!ちょっと聞きたいことがあるっすー!とまるっすよー!」

「ひいっ」

「待つっすよー!」

 絶対に捕まってはならないという恐怖による必死の走りもむなしく灯織は木の根につまづいて転んでしまう。倒れこんだまま後ろを振り返ると、あさひが満面の笑みで近づいてくる。

「待って、待って……」

 あさひはすこしずつ近づいてきて、座り込んだ灯織に目線を合わせるためにしゃがむと

「冬優子ちゃんか愛依ちゃん見なかったっすか?」

 そう聞いた。

「え!?いや、見てない、見てないよ」

「……本当っすね?」

 あさひはじっと灯織の目を覗き込む。

「ほ、本当だよ」

 しばらく沈黙した後、あさひは立ち上がり、

「ありがとうっす!」

 そう言って灯織に背を向けた。そして離れた木の後ろから見ていた影に向かって

「樹里ちゃーん!見つけたっすよー!ちょっと聞きたいことがあるっすー!」

 と叫びながら駆け出していった。

 戦いにならなかったことに安堵しつつ、灯織は深くため息をついた。

 

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