艦これの進め方   作:sognathus

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手書きが当たり前だった当時はどれだけ書類関係の仕事に人は時間を使っていたんでしょうね。
まぁその分字は綺麗になりそうですけど。
当然こちらの提督は手書きはできてもそれを仕事とする程には慣れていないわけで……。


10:文明の利器

午後の演習が終わり、艦隊のレベルも上がった。

遠征に出した艦隊も戻ってきたので約束した報酬を受け取った駆逐艦達は皆嬉しそうにお互いに選んだサイコロを見せあい話に花を咲かせていた。

一方その頃、提督はというと……。

 

「では、本日の実働任務はここまでとします。以降は本部への報告書の作成等の執務となります」

 

「はいはい」

 

沈みゆく夕日の光が差し込む執務室でこれからその日最後の仕事に取り掛かるところだった。

因みにその日はもう提督は制圧海域を拡げる気は失せていた。

いろいろあって疲れたのだ。

多少腰は痛くなるだろうが事務作業くらいならまだ行う気力はあった。

 

「そういえば提督宛に荷物が届いてましたが……」

 

「お、有難う。これどうやって届いたの?」

 

「まるで補給物資をばら撒くように空からパラシュートが付いた荷物が……」

 

「マジかよ、アバウト過ぎるだろ。せめてドローンとかなら良かったのに」

 

「ドローン?」

 

「そういう名前の自動で飛んで届けてくれる機械だよ」

 

「なんですかその秘密兵器みたいなのは」

 

「まぁその内うちでも見る事になるかもしれないけど……」

 

提督は大淀から受け取った少し大きめの箱の梱包を剥がしながら言った。

彼が開梱している箱には英語の文字が印刷されており、それを見た大淀は自然と口に出して読んでいた。

 

「ア……マ……○ン?」

 

「スマホから注文してみたんだけど届いて良かった。これ支払いはカード払いにしてあるんだけどどうやって引き落としされるんだろ。まぁ給与の額面を越えないようにしていれば問題……ないのか……?」

 

提督は自分がどういう境遇でこの世界に招かれたのかまだ理解できていなかった。

昭和時代の世界のようでありながら、自分には現代の文明の利器が支給されているし、艦娘たちが本部と呼ぶ場所もIP電話が繋がるのだ。

 

(もしかしたら俺だけ次元とか時空を越えて本部じゃなくてこの世界の()()に繋がっていたりしてね)

 

考えれば考えるほど自分が置かれている状況の不可解さに説明がつかなくなってきたので取り敢えず提督はそこで考えるのはやめた。

 

(まぁ自分のペースで行けるところまで行ってみよう)

 

「提督、なんですかそれ?」

 

大淀は提督が箱から取り出したまたまた見慣れない妙な黒い箱のようなものを指差して訊いた。

 

「これはプリンタと言ってね。俺の机に置いてあるパソコンと接続することでなんと筆の代わりに文字を一瞬で印刷してくれるんだよ」

 

「印刷……? えっと、新聞みたいに、ですか?」

 

「まぁ印刷だからそんな感じ……なのかな? これは大淀にも使い方を覚えてほしいから、その内に艦娘用のパソコンやスマホが用意できたらこれについてもいろいろ教えるよ」

 

「は、はい。ありがとうございます……」

 

「さてと、先ずはこの報告書に似たフォームを作って……ありがたい。シンプルだから直ぐ終わりそうだ」

 

そこからは半分独り言を時折漏らしながら提督は、カタカタと小さな音を連続して響かせること3分程。

何をするでもなくただ立っていることしかできなかったので居心地の悪さを大淀が感じ始めた所で提督が「できた」と、伸びをしながら言った。

 

「え、出来たって、まさか報告書がもう出来たんですか?」

 

「いや、流石にまだまともに作ったやつじゃないよ。出来たというのは自作の報告書のフォームに試しに文章を入れてみて、良い感じの仕上がりになったって事」

 

「……?」

 

提督が何を言っているのか理解できずに眉を顰める大淀に彼は「ちょっと待ってね」と言うと、今度はあの小さな板、スマホと呼んでた物を弄り始めた。

 

「せっかくだからアプリを使ってスマホから……お、繋がった繋がった。印刷、と」

 

提督がそう言った瞬間、誰も手を触れていないのに突如あの黒い箱のようなプリンタという物が聞いたことがない妙な音を響かせながら小刻みに揺れた。

プリンタは動作すること数十秒、動きが落ち着いたと思ったら最後にまた妙な音を出して真白い紙を吐き出した。

提督はそれを手に取って一通り確認した後で大淀にも差し出した。

 

「見てご覧」

 

「えっ……」

 

大淀は提督から受け取った紙面を見て驚きに目を見開いた。

紙には『本日はお日柄もよく~』等と全く本来の報告とは関係のないことが書かれていたが、彼女が驚いたのはその文字数だった。

ざっと見たところ300文字以上はありそうな文章がプリンタからたった数十秒で出てきたのだ。

文字も綺麗だった。

達筆的な綺麗さではなく新聞の文字のような機械的で整った綺麗な文字だった。

 

「提督は……これからこれを使って執務を行うんですね?」

 

「いやぁ、全部手書きというのは堪えるからね」

 

「これを何れ私も使えるように?」

 

「大淀なら直ぐに理解できるんじゃないかな? やっぱり事務方のサポート役が似合ってる雰囲気があるし」

 

「は、はぁ……ありがとうございます?」

 

恐らく自分を評価してくれているのだろうがやはり言い方が解り辛くて大淀は曖昧な礼を述べるに留まる。

提督もそれは自覚があるようでそんな大淀に謝意を含んだ苦笑をすると、正面に向き直って机の上のパソコンを見ていった。

 

「さて、取り敢えず今からその報告書を作ってみるけど出来たやつの添削お願いね」

 

「承知しました」

 

 

文明の利器を使って効率が上がったとは言ってもやはり軍務関連の仕事となると、例え報告書の作成という聞く分には大した事がなさそうな作業でも一般企業のそれとは大分勝手が違って提督は大分苦労した。

しかしそれでも何とか書類作業は深夜になる前には終えることができ、提督はその日の労をねぎらって大淀の退出を見送ると手早く風呂を済ませて、やっとできた自由時間をどう過ごすのかを考えるのだった。




次の話は割と自由な内容になりそうな予感。

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