艦これの進め方   作:sognathus

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提督の夜はまだ続く。


12:上機嫌からの悪夢

先程大淀と話していた時の提督には気遣いをする大人特有の良い人感が出ていたのだが、部屋に戻った彼には早々にそんな雰囲気は無くなっていた。

何故なら……。

 

(おー! 良い酒がこんなに……!)

 

 

提督は自室の冷蔵庫の前で歓喜の声をあげていた。

彼の部屋には冷蔵庫が何故か小さいサイズと大きいサイズのものが並んで置いてあり、作った料理の具材は大きい方から出したのだが、部屋に戻った時に気になって小さい方を開けてみると、本部の計らいかはたまた前任者の忘れ物か、中には提督からしたら高級で良い酒がたくさん並んでいたのである。

 

(おお、素晴らしい……)

 

提督は冷蔵庫の中に並んでいる酒を見て感嘆の息を漏らす。

保存されていた酒は殆どが日本製のウイスキーであった。

そのウイスキーは提督に馴染みのある世界では有名であると同時に店頭で見かける事があまりない希少なもので、更にこの冷蔵庫の中にあったものは何と全てに年数表記が入った高価なものだった。

『入手難度が高く年数表記がある上位の有名な日本のウイスキー』これだけで転売をすれば定価の2~3倍の値は付く。

そんな物が目の前に数十本は入っているのだ。

おまけに細かい気遣いとばかりに好みの黒糖焼酎まで数本確認できた。

提督の機嫌が鎮守府に着任して以来最高になるのは自然の流れだった。

 

(うーん……どれを飲もうかなぁ……)

 

キラキラした目で飲む酒を選んでいる提督だが、実はそんなに酒が好きなわけではない。

厳密には誰かと酒を飲んで楽しく酔う事を重視する酒好きだ。

故に一人酒はあまりしないのだが何故か酒の収集癖があり、特に集める酒の中でも年数表記があって且つ高級な印象を受け易いウイスキー、そこから更に日本の銘柄のものを中心に集めていた。

酒の味があまり解らなくても年数表記がある物の方が美味しい気がすると自分にも味の違いが解った事に感銘を受けたウイスキー。

本来彼は焼酎が好きなのだが、前述の経験もあって提督は焼酎の次にウイスキーが好きであった。

因みに3番目に好きな酒はウォッカ。

理由は味も匂いもあまりしないので癖がなく、ただ飲んで酔いたい時に適しているから。

 

提督が飲む酒を決めたのはちょうど冷蔵庫が長時間の扉の開放を注意するブザー音がなった時だった。

彼は取り出した一本をダブルウォールグラスに一杯だけ注ぎ、自分の食事用として作ったペペロンチーノを酒の肴とした。

誰も相手がいないのは少し不満だったがそれでも十分に満足できる時間を過ごすことができた。

そして程なくして提督はほろ酔い気分という最高の心地で床に就いた。

床に就いた提督はベッドの上で睡魔に負けるまで考え事をしていた。

 

(そういや艦娘にも酒好きの印象があるのが何人もいたなぁ。だからと言って一緒に飲みたいわけじゃないけど)

 

馴染みのある世界では殆ど友人と飲む機会が多かった提督は女性とその時間を楽しむのはあまり得意ではなかった。

同性と飲む事に慣れ過ぎてしまったせいもあるが、ある時に知り合いの女性と酒を飲んでいる時に常に違和感を覚えてしまい、結局飲めども飲めどもあまり酒が回らずに終わってしまったのだ。

 

(なんか飲んで話しているだけでも不要な気を遣ってしまうんだよなぁ……。まぁ人間にも艦娘にも友達と同じように楽しく飲める人はいるかもしれないけど……)

 

提督はやがて完全に深い眠りの底に落ちていった。

 

 

場所は変わって艦娘の部屋の前の廊下。

寝静まって静かな通路にキイと音を立てて開く扉が一枚あった。

 

「……」

 

部屋から出てきたのは電だった。

彼女は提督に抱いていた最後の不安要素について確かめる為に足音を響かせないように静かに歩いて提督の部屋に向かっていた。

 

(大淀さんから聞いた時は驚いたけど本当かどうか確かめないと……)

 

電は自分達が午前の演習に出ている時に提督が艦娘の部屋を視察する為にマスターキーを受け取った時の話を大淀から聞いていた。

 

『提督は私が鍵を管理していて私から渡された事に何の疑問も怪訝な表情も浮かべなかったわ。視察した理由も話を聞けば理解できるものだったし、鍵も私に返してくれました』

 

「…………」

 

艦娘は特殊な存在であるが見た目の年齢にこそ差はあれ、艤装がないとただの人間の女性だった。

前任者は指揮も酷かったが男性としても酷かった。

あれだけ自分達を軽く扱いながら夜はしっかりそっちの欲望も出したのだ。

上官という立場を利用して。

 

「…………」

 

マスターキーは元々鎮守府の責任者である提督が管理するものだった。

それは軍隊という上下関係が特に強く出る組織においては別に不自然な事ではなかったし、風紀を重んじる軍紀においては、その鍵を管理するのが例え男性であっても問題が起きない事が当然だった。

 

電は提督の部屋に向かう途中で全ての仲間の部屋に鍵がかかっている事を確認しながら歩いていた。

音を立てずに扉のノブを回し、硬い感触がする度に彼女は安堵の息を漏らした。

そして目的の部屋へと辿り着いた。

電は意を決して扉のノブを掴んで回す。

 

「えっ」

 

なんと提督の私室に続く執務室の扉には鍵はかかっていなかった。

抵抗なく開いた扉を抜けて電は提督の私室の扉の前まで来てしまった。

 

(ま、まぁこの扉に鍵がかかっていなければ問題ないのです……)

 

カチャリという音を立てて扉は開いた。

 

「えぇー……」

 

部屋に進入した電は思わず小さく呆れた声を出してしまった。

件の無警戒過ぎる提督はベッドの上で少し大きい寝息を立てて普通に寝ていた。

 

(ふ、普通に寝てる……?)

 

もうここまで来たら実際に寝顔を見て本人かどうか確かめるくらいしても良いだろう。

そう考えた電はベッドの傍まで近寄り真上から提督の顔を覗き込むようにして本当に本人が寝ているかどうかを確かめた。

 

「……ん?」

 

提督の意識が眠りの世界から一瞬だけ戻ったのは本当にただの偶然だった。

何となく妙な圧が、違和感を覚える匂いが、自分の顔の近くで凄く軽い何かが触れるか触れないかの距離で揺れているような、それはただの夢だったのかもしれない。

だから提督はまだ半分夢を見ている心地で半目を開けたのだ。

 

「…………あっ」

 

提督の目の前に真顔で見つめる電の顔があった。

ハッキリ言って怖かった。

女性と寝たことはあっても年齢問わず(この時は子供だったが)男性であれ女性であれ誰かに寝顔を深夜に真上から見つめられるなんて経験はした事があるはずもなかった。

故に提督は絶叫した。

 

「?!? ぶあっ?! あああああぁ?!」

 

驚愕して頭を起こした瞬間、見事に電の額に自分の額をぶつけた提督は再び眠りとは違う理由で意識を失った。




前半要るかなって思われるかもしれないけど、個人的に提督の嗜好の話を入れたかったので。

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