艦これの進め方   作:sognathus

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二日目の艦娘が遠征と午前の演習を行っている時の話。

*作中では「家具コイン」を「妖精コイン」として名称を変え、妖精間で流通している通貨という扱いにしてます


15:改善の第一歩

話を聞けば、悪名高い前任者の下でも鎮守府近海(1-1)は本当にあっさりと、誰も被弾する事無く完全勝利で制圧できたらしい。

それによって当時は艦娘達も前任者の能力に期待し、敬意も持っていたのだとか。

つまり第一印象はバッチリだったのだ。

 

『お前たちで適当にやってこい』

 

指揮の放棄、無能の証明以外の何ものでもないのだが、この言葉を放った後に前述した勝利を収めた為、艦娘達は提督は予め任意の判断で制圧が可能であることを見越してあのような言葉を放ったのだと逆に彼の先見の明(だと思っていた)を称えた。

嬉々とした表情で勝利を報せる艦娘達。

前任者はそんな彼女達を笑顔で抱き締めて迎えた。

艦娘達も最初こそその大胆さに驚いたが、提督は自分達を心から褒めてくれていると最初はまんざらでもなかった。

だが背中に回していた手が躊躇することなく腰からその下まで下りてきた辺りから……。

 

(最初から飛ばし過ぎだろ)

 

大淀からこの話を聞いた提督はドン引きした。

前任者は何故こうも遠慮なくそんな事ができたのか、話の雰囲気から察するに彼女達はそれらの行為を堪えていたようにも思えた。

提督は貴重な外国産のお香のような匂いがする煙草をふかしながら以前いた『労務』や『組合』といったものがあった世界を思い出していた。

 

(まぁ()()()()が昭和初期の気質ならいろいろ難しかったんだろうな。俺みたいに『本部』ではなく『運営』に繋がりがあればまだ……)

 

大淀が提督に自分から過去の話の一部を語ったのは、初めて見た提督の実戦の指揮が予想以上にまともかつ的確で、前任者との差にショックを受けたからであった。

彼は出撃した艦娘から無線が入る度にちゃんと「そのまま進め」とか「問題無い」と言ってくれるし、会敵した際も展開する陣形までしっかり指示してくれた。

戦闘時は流石に離れている場所からの指示が難しいらしく「可能なら大型から仕留めるように」といった大雑把なものであったが、ちゃんと戦闘後は一人ひとりの状態を確認した上で次の進攻も指示してくれた。

合間にボソリと「子○使いのようにいかないか」とボヤいていたのを大淀は聞いたが、正直意味は解らなかった。

その結果が今回の勝利【判定A】だったのだが、負傷して戻ってきた艦娘達の顔は痛みで顔を歪めるどころか初めてまともな戦い(指揮を受けて)をして、そして勝利できた事にとても満足げな表情をしていた。

 

 

そんな川内達が勝利の吉報を携えて鎮守府に帰投する少し前、提督は空いた時間に入渠する場所を確認していた。

思えば初めて自分の指揮で怪我をした艦隊が傷を癒やす事になるので、一度自分の目でどのような場所か確認がしたかったのだ。

 

「ここが入渠所です」

 

「……ふーん……」

 

案内されたその部屋の設備を見た提督はそんな言葉にならない声しか出せなかった。

この鎮守府の入居所はさながら自分が子供の頃、学校のプールにあった腰洗い槽そのものだった。

床も壁も全てタイルが貼られて冷たげで飾り気のない雰囲気だった。

そしてそんな場所に設置されていた槽に張られた液体は……。

 

「冷たっ。まんまアレかよ!」

 

(確かこの設備は少なくとも俺が働いていたときには無意味なものとして学校からドンドン姿を消していたはず。やっぱり()()は時代が……)

 

提督は頭を掻いて溜め息を吐くと「こんな場所では流石に可哀想だ」と言って大淀の方を向いて訊いた。

 

「あのさ、此処って妖精っている?」

 

提督は「妖精」と自分で言って少し恥ずかしかったが艦娘がいるなら妖精だっていたっておかしくはない。

彼は心の中でひたすら大淀が「いる」と答えてくれることを祈った。

 

「ええ、いますよ。殆ど仕事が割り振られることはないので、大体明石が籠もっている工廠の方にいます。提督、もしかして妖精に何かご依頼するおつもりですか?」

 

何故か怪訝な表情でそう訊く大淀に何だか嫌な予感を覚えながら提督は「そうだけど?」と答えた。

それを聞いた大淀は申し訳無さそうな顔をして提督に言った。

 

「提督、残念ですが妖精に何かを依頼する事は容易ではありません」

 

「というと?」

 

「妖精に何かを依頼する時は本部が製造し、彼らの間でのみ流通させている『コイン』が必要なんです」

 

「ほう」

 

「勿論私達にも入手手段はあります。遠征から戻ってきた時にその報酬として本部から頂くのが主です。しかしその量は本当に微量で……」

 

「それってこれの事?」

 

提督がポケットから取り出した透明で虹色に光る不思議な色をしたメダルの塊に大淀は驚愕して目を剥いた。

 

「?! て、提督?! そ、それは一体……?!」

 

「いや、俺は部屋にあって違和感がある家具は例えかなり余裕があっても買わなかったからさ」

 

相変わらず提督が何を言っているのかよく解らなかったが、彼が握りしめているそれは紛うことなき妖精コイン(家具コイン)だった。

そして提督はもう片方のポケットから更に信じられないものを出して見せた。

 

「そ、それ……」

 

提督が出したそれは妖精コインの中でも流通量が特に少なく貴重なコイン、妖精大精貨(特注家具職人)だった。

そのコインも提督は片手一杯に握りしめており、明らかに持っている数は数十枚という量だった。

 

「これ使って依頼すれば妖精は割と大規模な改築も短時間で実現してくれたりするかな?」

 

「え? あ、はい……。妖精は私達以上の超常の存在で、本部も依存している部分が多々ある程に万能です。ですのでそれを使って交渉して頂ければ大抵の事は実現するかと……」

 

「素晴らしい」

 

それを聞いた提督は上機嫌な様子で今度は工廠の奥にある明石がいる場所への案内を大淀に頼んだのだった。




次はお風呂回かな明石回かな川内回かな

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