提督が泣き笑う話
入浴からほくほく顔で戻ってきた艦娘に提督は再び遠征を命じた。
相変わらず資材は少ないのだ。
最初は繰り返し行くことに不満を漏らす者もいたが、提督の改革によって幾分か提督の事を見直すようになっていた艦娘達は意外に感じるくらい素直に応じたのだった。
「了解!」と元気な声で命令を受諾し遠征に出発する艦娘達。
提督も以前より彼女達が協力的になってくれた事を感じ、建築した浴場が効果を発揮しているのを確信した。
「いやぁ、作ってもらって良かったぁ」
「提督、本当にありがとうございます。これは私一人からの御礼の言葉ではありません。ここにいる艦娘全員の感謝の言葉だと思って下さい。間違い有りません、保証いたします」
パスタを差し入れた時と同じあの嬉しそうな顔を大淀から向けられて提督もまんざらでもなさそうに笑顔で応じた。
「ありがとう。妖精にも見かけたらお礼言っといてね。払った報酬の事もあるけどマジで頑張ってくれた事には変わりないから」
「勿論です。承知致しました」
笑顔のまま承諾する大淀。
別に最初も印象は悪くはなかったが、たった一日前の彼女と比較すると明らかに良い意味で違っていた。
ふと提督は、そんな大淀に何か違和感を覚えたがその理由に直ぐに気付いた。
(ん……? あ、そうか)
違和感の正体は大淀から感じた湯上がりの体温と石鹸の匂いだった。
(確かにまだ日が明るい内から仕事中にそんなの感じたら違和感覚えるわな。ま、これに関しては今回が特別な状況だったってだけだ)
「さてさて……」
提督は再び建造機の前にいた。
まだ直ぐに制圧に乗り出す気はないが、次の海域(1-3)からは敵にとうとう戦艦が出てくるのだ。
だからといって別に火力がある戦艦が欲しいというわけではない。
火力を意識するなら寧ろ現状一人しかいない重巡の羽黒との交代要員としてもう一人重巡に来てもらった方が助かると言えた。
しかしそれより優先して回したい建造レシピが提督にはあった。
前回の建造と同じ空母レシピである。
ルート固定の編成では1-4までは戦艦も空母も出番はないが、この鎮守府海域の最終ステージである1-4はボスまでのルートを固定するために水上機母艦が一隻必要という問題があった。
故に提督は今回も空母レシピを回し、あわよくば千歳か千代田が出てほしいと思っていた。
「提督、これ、前と同じ配分ですね。やはり空母の充実をお望みということですか?」
「まぁ戦艦はともかく、空母がもう一隻来たら鳳翔と交代して鎮守府周囲の警戒とかも定期的にできるようになるしね。まぁ……第三艦隊が使用できるように川内型を揃えるのも有りといえば有りだけど、軽巡も多いからな……」
教本には提督として十分な戦力を保有したと判断する前段階の条件として川内型の完備が挙げられていた。
これを見事に達成してその事を本部に報告すれば、新人提督に新しい艦隊の保有が認められ、遠征の効率も上がるし、また保有戦力に応じた報酬も本部から貰えるのだ。
今のところ提督の鎮守府はジリ貧状態だったのでこれを狙うのも確かに悪くはないと言えた。
「ふふっ……」
提督の口から自嘲気味な笑い声が漏れる。
本当にやる事がたくさんあって改めて自分が立たされているスタート地点を考えると泣きたくなってきた。
「提督、大丈夫ですか?」
「ああ」
大淀の心配する声に提督は目頭を押さえながら片手を上げて体調に問題ないことをアピール。
そこから目を閉じた状態で暫し熟考する事10秒程。
目を開けた提督は先ずは空母を一隻追加で迎えた後は、暫く消費が少ない建造をメインで行い川内型完備を目指すという方針を決定した。
因みに1-3のルート固定条件はこの時点では満たしていたが、最後に戦艦が出てくる事を考えるとレベル的にはまだ不安があったので、やはりこちらの攻略も先送りとした。
その先に控えるルート固定に水上機母艦が必要な1-4、艦隊のさらなる充実を約束してくれる金剛型完備が条件である第4艦隊の開放。
提督からしたら本当にまだまだスタートに立ったとは言えない状況だった。
「それじゃやりますかね。えーと今回空母レシピを回すと残りは……」
提督が数字を出す前に大淀が素早く教えてくれた。
「以前と同じ数値で建造した場合は残りは燃料700、弾薬700、鋼材500、ボーキサイト500となります」
「早い、流石だ」
「お任せ下さい。これが仕事ですから」
当然のことですとちょっと誇らしげにメガネをクイッとあげる大淀に苦笑して提督は考えた。
(遠征頑張ってもやっぱり鋼材とボーキの消費が痛いな。それでも前回の建造後に残った数値よりはマシな気がするけど……)
「よし、やるか」
これ以上考えても仕方がない。
意を決した提督は実行ボタンを押した。
その結果は……。
「航空母艦、加賀です。貴方が私のて……」
建造機から生まれ出た加賀は提督に一言挨拶をしようとしたが、自分を見る提督の視線に柄にもなく動揺して途中で言葉が途切れてしまった。
「え……なに……? 私に何か問題……でも……?」
強力な戦力を引き当てた提督の豪運に感動する大淀の横で提督はと言えば、嬉しいような悲しいような何とも複雑な表情で加賀を見つめていた。
そんな彼の胸中はこのようなものだった。
(死ぬ……。俺の鎮守府が死んでしまう。コイツを運用してしまったらボクの鎮守府が枯れてしまう。加賀はまだ俺の所では養えない……!)
提督は心の中で激しく慟哭した。
それでは今回はここまでとさせて頂きます。
今までかなりの更新頻度で来ましたが、単純に筆が波に乗っていただけです
以降もこうとは限りませんので、あまり期待はされない方が良いと思います。