なら艦これというゲームにおいて真っ先に、安易に頼ることができる方法は一つだった。
提督が先ず行ったのは遠征の嵐だった。
「ま、また遠征?!」
何度目か分からない遠征の指示に流石の陽気馬鹿の川内も悲鳴を上げた。
「一体何回遠征に行ったらいいっていうのぉ!?」
「提督の最優先指令です。補給を行ったら早く征って下さい」
無慈悲な命令を指揮官代行の大淀が告げる。
眼鏡のブリッジをクイと上げてそう言う彼女の姿はまるで何処かの国で戦争を強制する鬼軍曹の姿そのものだった。
「後三度行ったら休息を許可しています。頑張って下さい」
「あと3回も行かないといけないの?!」
「気張れ」
聞きたくもない声を聞いた。
ギギギという擬音が聞こえそうな鈍い動作で川内が振り向いた視線の先には件の原因である提督の姿があった。
「提督……」
素性の判らない中年男性を若干の恨みが籠った声で川内は言った。
「全部足らないんだ。仕方ないだろ」
「うぅ……」
何も言えなかった。
確かに資材が足らなければ何もできない。
実戦や演習で経験も積みたいがそれを実行することもできないのだ。
ならば遠征に行って少しでもポイントを稼いで必要な資材等を本部から貰わなければならない。
「後3回行ってくれれば建造も1回はできるし演習もこなせる」
「了解……」
「川内頑張って。私も頑張るから」
川内は五十鈴の励ましの言葉の力を借りて何とか提督に答えた。
やるしかない。
現状を好転させるにはやるしかないのだ。
川内は項垂れた背中を提督と大淀に見せながら相棒の五十鈴と一緒に皐月と電を伴って水平線の彼方へと姿を消していった。
「……仕方ないだろ。お前を編成に組み込めればまだマシだったんだけどな」
「先程も申し上げたようにそれはまだ不可能です」
「解ってるよ……」
大淀の言葉に少し前の彼女とのやりとりを提督は思い出しながら言った。
『え? 無理?』
『はい。無理です』
『仕事と艦娘の数の関係?』
『ご推察の通りです。私にはまだまだやらないといけない事が尽きませんし、またそれを交代で回せる余裕も今はありません』
『…………』
解ってはいても涙目になった。
大淀はそんな中年男性が涙ぐむ気持ち悪い姿など見たくもなかった。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。少しの間くらい警戒任務を行う者がいなくても」
「それが慢心ってものじゃないか? 弱小勢力だからこそ制圧され易いし、敵にとっての陸の拠点になるってものだろ」
「……」
提督の指摘に大淀は反論しない。
その通りなのだ。
その通りだからこそ今は所属艦を増やして少しでも余裕を持って鎮守府を運営できるように頑張っているのだ。
「私、煙草嫌いなんですけど」
「煩い」
大淀の棘のある言葉に気にした様子も見せず、提督はいつの間にか吸っていた発展途上国の線香のような香りがする煙草の煙を撒き散らしながらそう言った。
続くかどうか分からないと言っておきながら、短文でも良いかと浮かんだ話です。
出来たのはお酒のおかげ。