艦これの進め方   作:sognathus

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話のシチュエーション的に本話に至るまで大淀と提督の二人の場面が多いですが、別にこの時点では2人ともお互いを意識するような状態にはなっていません。(余計な補足)


21:改善の二歩目

「本当に届いていたんですか。昨日も届いたのにまた何を取り寄せたんです?」

 

「……母親みたいな事言うなよ……」

 

「え?」

 

荷を解く提督に大淀が母親の小言のようなことを言う。

本人はそんなつもりはなかったのだが、提督からしたら実に聞き慣れた耳に痛い言葉だった。

 

「それで、今回は何を?」

 

「ん……ああ、これか」

 

「……?」

 

前回も解らなかったが今回はもっと解らなかった。

大淀は提督が箱から取り出した銀色に光る小さな四角いブリキ缶のような物をしげしげと見つめる。

 

「んー……」

 

「何か当ててみる?」

 

提督が少し意地悪そうな顔で笑いながら言った。

その顔は完全に親戚の子供をからかうオジサンの顔だった。

大淀はその顔にちょっとムッとして提督からの挑戦を受けて立つことにした。

 

「そうですね……」

 

大淀はそう言うと今回届いた謎の物体をじっくり観察し始めた。

 

(見た感じは金属かと思ったけど触ると全然違う。重さも想像より軽い。両側に風を通すような小さい縦長の穴が幾つも……。風を通すということは中で熱を持つという事。これらの点から推測するに……)

 

「降参です」

 

解らない物は解らない。

自分がいくらそれを観察したところで見た目から用途を当てるのは困難だった。

だったら意地になって的外れな回答をして恥をかくより良い。

冷静で論理的な実に大淀らしい結論だった。

そんな彼女に対して提督も別に小馬鹿にする事もなく、潔く白旗を上げた彼女に短く笑いながら「そっか」と言った。

 

「これはプロジェクターって言うんだ」

 

「プロジェクター?」

 

「うん。まぁ映写機に近いやつ。これで壁に光を当てると映像が観れるんだよ」

 

「えっ、どう見てもフィルムとか設置する機構が見当たりませんけど」

 

「映写機ではないからね。ま、こいつは今日皆の手が空いた時にお披露目するつもりだからそれまで楽しみにしといて」

 

「はぁ、分かりました。あれ? まだ何かあるんですか?」

 

大淀の言う通り、提督は箱の下からもう一つ何かを取り出した。

 

「あ」

 

大淀は提督が手に取ったそれの形状に見覚えがあった。

彼がよく弄っているスマホと呼ばれる物の大型版のように思えた。

 

「提督、それは、それもスマホというやつですか?」

 

「惜しい。けど大分近い。これはタブレットと言って機能的には確かにスマホと凄く似ている」

 

「機能が似ているという事はスマホではできない事をそれで何か行う目的でも?」

 

「いや、これはどちらかと言うと艦娘用」

 

「えっ」

 

これは予想外な答えだった。

スマホは全て提督にしか扱えない物だと思っていた。

正確には違うとはいえ、それに近い物を艦娘が使うことを前提にした物だと言うのだ。

 

「私達に、使いこなせるでしょうか……」

 

「直感的な操作に適してるのが特長の一つだからね、大丈夫だよ。が、その前に大淀達に渡す物がある」

 

「?」

 

提督はプロジェクターとタブレットが入っていた箱とは別に机の上に置かれた分厚い封筒のような物を手に取って大淀に見せた。

 

「あ、それ、確か定期便で今朝本土から届いていた物ですよね」

 

「うん。これは例の大淀達に行き渡らなかったお給料だよ」

 

「ああ、それがですか」

 

給料と聞いても相変わらず大淀の反応は薄い。

それも無理もないと言えた。

元々提督が所属する鎮守府は辺境と言っても差し支えがない地にあり、そもそも現金はあっても使う事ができない。

必要な食料や日用品は全て本土からの補給物資で賄われていた。

これでは金に対する興味が薄くなっても仕方がなかった。

だから提督は今回それを使う機会を与えようと思ったのだが……。

 

「ん?」

 

提督は封筒に同封されていた艦娘各員に分配する金額の合計の値が記された紙を見て首を傾げた。

 

(なんだこれ。なんか大分俺の予想より桁が……。いや、待てよ、もしかしてこれ……)

 

提督が封筒から札束を出すとそれらは全て彼が見たこともない形や額面をした紙幣だった。

見た感じ日本の紙幣であるようだが自分が使い慣れている紙幣に比べて見た目が少しシンプルで妙に旧い漢字が所々に使われていた。

 

「……」

 

提督は手袋を外して紙幣を直接触って感触を確かめてみた。

 

(んー……なんかゴワゴワしてて安っぽいな。そっかなるほど……)

 

ある程度それの見当が付いた提督は、その紙幣の束から大淀に割り当てた分を抜き取って彼女に渡した。

 

「はい、大淀のお給料」

 

「えっ、こんなに貰えるんですか」

 

予想通り額面だけなら提督の価値観では大分低いのだが、大淀は貰った給与の額に結構驚いているようだ。

 

(……参ったな。これ、通販サイト使えないんじゃないか……?)

 

未だに給与の額に気を取られている大淀を横目で見ながら提督は、先程届いたタブレットを操作して通販サイトの支払い方法を調べようとした。

 

(えっ……)

 

提督の指はその項目に行き着く前に通常の商品の紹介ページで止まった。

画面に出ている商品は表示されている価格から察するにちゃんとこの世界の貨幣価値に換算されていた。

 

(うーん……俺の給料は銀行振込みたいだけど、スマホから注文した時に見た金額は違和感なかったんだけどなぁ……。)

 

「まぁ……いいか」

 

提督は溜息を吐いてそう一言漏らした。

仕組みが謎過ぎて悩んでも埒が明かなかったので、提督はタブレットは自分で先程言った通りに艦娘用にしておけば取り敢えず多分問題ないと結論するしかなかった。

 

(さて、それでは……)

 

提督は漸く次の改革、大淀達に金の使い道を教える為、彼女に声を掛けた。

 

「大淀、皆を集めて」




次は買い物回かな

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