艦これの進め方   作:sognathus

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アナザーストーリー


24:羽黒

妙高型重巡洋艦4番艦羽黒、艦これ(ゲーム)においての彼女は一般的に気弱かつ引っ込み思案なイメージが強いが、戦闘面では史実での活躍を連想させるような頼もしい姿を見せることもある。

改二となった時のイラストは、内向的な印象のものから咲いた花のように感情を表しているような笑顔が印象的だ。

ケッコンカッコカリにまで至ると、母港でのボイスは慕う提督への愛情をとても感じられる内容で、聴く度に提督はほっこり……するところなのだが、残念ながら彼はプレイ中は一切の音声を切っていた。

 

(まぁ偶に聴くと改二になる前から成長したなぁって気はしたけど)

 

提督は執務室の窓から羽黒が体力を付ける為と称して、汗だくになりながらも気合が入った表情で走り込みをしている姿をちらりと見た。

 

 

「はぁ……っ、はぁ……はぁ……っ、まだまだっ!」

 

(こんなんじゃ足りない。この程度の疲労なんて()()()と比べたらマシという言葉でも足りない! 私はもっともっと……強くなるんだ……!)

 

まるで狼のように闘争心に燃える目をギラギラと光らせながらたった一度だけ立ち止まって汗を拭うと再び猛烈な走り込みを再開する羽黒。

彼女はまだ改二前だというのに既に戦闘力の高さの片鱗を見せ始め、ただ己の力を磨くことに全力を注ぐ頼もしい『戦士』となっていた。

最早そこにはかつての気弱で大人しそうな姿は影も形もなかった。

 

「…………」

 

(まさかあの映画にここまで感化されるとはなぁ)

 

提督は以前開いた映画の上映会で羽黒がえらく感動した様子で自分に詰め寄って感想を言ってきたのを思い出していた。

 

『司令官さん……この映画……最っ……高です!!』

 

それからというもの、羽黒は事あるごとにお互いの都合が付けば「あの時の映画を」と何度も上映をせがんできた。

提督も別に嫌ではなかったので自分の生活に支障が出ない範囲で特別上映会を開いてあげていたのだが、流石に何度も同じ作品を上映していると、羽黒以外の観客は飽きてしまい途中で来なくなった。

提督も5回目(羽黒と二人きりでは2回目)の上映会では参ってしまい、再生機器とメディアを購入すれば個人で好きな時に鑑賞できるからと彼女に独り立ちを推奨したのだが。

 

『大きなスクリーンで観るのが良いんです!』

 

と、あくまでもプロジェクターによる上映を望んだ。

現在は流石に自重して鑑賞は月に1回程度には控えてくれるようにはなったのだが、それでも未だに羽黒のあの時観た映画への情熱は冷めないようだった。

 

(艦娘ってやっぱり新しい世界に転生した姿なんだろうなぁ)

 

羽黒や他の艦娘たちを見て提督はそんな事を思った。

自分が居た世界より古そうな時代だが敵はあくまで深海棲艦、そして羽黒たちは軍艦だった頃の記憶があるようだったので、提督はそう結論した。

 

「…………」

 

生まれ変わっても戦う事に変わりはない存在。

生まれ変わっても敵が違うだけで環境は転生前に近い。

これでは転生というよりはやり直しに近いのではないか。

艦娘を不憫に思った提督はこの鎮守府(場所)だけでも彼女たちにとってマシな所にしようとこの時初めて自分の意思として決定した。

コインを使って大浴場なども作ったりしたが、それとて元々の動機はゲームの縛り(ルール)を多少でも逸脱できるのなら自分の考えが実現できるか試してみたいという考えからであった。

だが提督はここに来て漸く自主的に艦娘を慮るようになった。

これは今まで行動の指針にゲームを参考にしていたものに起きた明確な変化と言えた。

運営が見えない所で自分に向けてサムズアップをしているように思えるのが癪だったが、取り敢えず提督はこの鎮守府の()()()()計画の中に艦娘待遇向上を正式に加える事を決めたのだった。

 

(となると、運営からもらったこのコインでまた何か作ってみるかな。と言っても考えてるのは居酒屋とか喫茶店くらいだけど、それなら大浴場と比べれば普通の施設だから消費も少なくて済みそうだ)

 

提督がそんな事を考えていると、彼は自分の腕が誰かに掴まれて揺すられていることに気付いた。

どうやら物思いに耽りすぎて注意が散漫になっていたらしい。

彼が自分の腕を掴んでいる手から先を見ると、そこにはほんのり石鹸の香りと風呂上がりの体温を感じせる羽黒の顔があった。

走り込みを終えて汗を流してきたらしい彼女は、提督と目が合うとやっと自分に注意を向けてくれたことに嬉しそうにして言った。

 

「司令官さん、あの、私、また……」

 

そこから先のセリフの予想は容易だったので、提督は6回目の鑑賞を避ける為に先手を打った。

 

「羽黒、今回はあの映画の続きにしない?」

 

「えっ、あの映画の続編があるんですか?!」

 

腕を掴まれた状態でもそれなりに二人の距離は近かったのだが、提督の言葉に興奮した羽黒は更に顔を近付けて鼻息荒く彼に詰め寄った。

よく見たら髪がまだ半乾きで顔を近づけた時に水滴が数滴提督にかかった。

 

「羽黒、まだちゃんと髪が……」

 

「それより続きがあるんですか?!」

 

「うん、あるから取り敢えず髪を……」

 

「観たいです!」

 

「……観せてあげるから。取り敢えず髪をちゃんと乾かして、そしたら今度は違う作品の上映会をする事を他の子にも連絡を……」

 

「了解しました!」

 

勢いよく踵を返していった彼女の後ろ髪から再び水滴を浴びて先程より顔が濡れてしまった提督は、今後羽黒に観せる映画を少し考えた方が良いかもと思うのだった。

 

(姉妹の中で一番大人しい子がなんて変化を……。べ、別にこれに対してペナルティとかないよな……?)




今日のアプデ後に新しいイベントが……
まぁ俺は最初は様子見ですが
こうもイベントの度に鬱になるゲームは珍しい

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