今回はそうでない話
「え? 俺に指揮をして欲しい?」
そろそろ午前の演習に行く頃かという時、皐月は突然そんな事を提督に言った。
「うん! 僕達演習では今のところ一度も勝った事ないでしょ? だから司令官に指揮をして欲しいっていうか、助言をして欲しいなって」
「なるほど。指揮……指揮ねぇ……」
リアルの演習は、各地域に設けられた専用の施設に参加を希望する艦隊が集まって艦娘同士の模擬戦を行うというもので、印象的にはスポーツに近かった。
艦娘は演習専用の砲弾や魚雷を貸し与えられ、それを使って模擬戦を行う。
仕組みは謎だが(恐らく妖精技術)砲撃音や発射音は実戦さながらで、被弾すると煤が付く。
この煤は受けたダメージの度合いによって着弾した時の濃淡が調整され、それが一定以上の濃さとなると戦闘不能とみなされる。
流れとしては日中の海戦を想定した模擬戦を一定時間行い、終了時にまだ行動可能と判定された者が相対した両方の艦隊で残っていれば、夜戦用の場所に移動してそこで決着をつけるというものだ。
先程スポーツに近いと述べたのは、演習での提督の役割がサッカーや野球の監督に近いと彼が感じたからだ。
「装備についてもある程度指示してきたし、編成は今はどうにもならないからなぁ……。俺が一緒に付いていった所であまり変わらないと思うけど」
「そ・れ・で・も! 一緒に来たら何か閃くかもしれないでしょ?」
結局提督は服を掴んで同行をせがむ皐月に根負けして一緒に付いていく事になった。
「クズ……あんた、今日は一緒に来るのね」
提督が艦橋からボーッと海原を眺めていると霞が声をかけてきた。
因みに今彼は駆逐艦霞の実体に他の艦娘と一緒に乗って演習場に向かっていた。
この世界の艦娘は人の姿と本来の姿である軍艦の2つの姿になる事ができる。
今霞は人の姿をしているが実体も同時に出している時は艦娘としての能力は発揮できない。
その代わり全て彼女一人の意思でこの艦の操艦が可能だ。
「まぁ実際に演習を見てみるのもいいかなってね」
「ふーん……来たからにはちゃんと私達の勝ちに寄与しなさいよ?」
「まぁやれるだけはやってみるけど……」
提督はポケットから演習相手の一覧を取り出すと、それを眺めて改めて考えた。
(うーん、やっぱり今回も勝ちは薄い。まぁそれでもこの中でマシな結果になりそうなのは……)
提督はリストの一番下の艦隊の編成を見た。
【艦隊指揮官】○○大佐
【編成一覧】利根改:練度63/瑞鶴改:練度65/迅鯨改:練度56/松改:64/木曾改:練度53/妙高改:練度50
(まぁここかな。編成がちょっと気になるけど、単純に成長を見込んでの事かもしれないか。うーん、何とか昼戦を何人か耐え抜ければ夜戦で……)
「提督……」
今回切ることを決めた最大の切り札にして演習の結果も左右する要が現れた。
「おっ、今日は頼むね」
「承知しました」
艦首が割った波の飛沫を浴びても動じずに提督を見つめる女性、加賀である。
彼女は本来なら演習であっても鎮守府の蓄え的な事情からまだ活躍は控えて欲しいところであったが、一度くらい勝って皆の士気を上げるのも一興という提督の判断の下、急遽参加が決まった。
「艦載機の準備はできた?」
「はい。ご指示通りできるだけ戦闘機のみを配備して余った枠には機銃を装備しました」
「うん、今回勝ちを狙う相手は初手の航空戦でどれだけ戦力を低下させられるかが肝だからね。後は……龍田」
「はぁい」
提督の前にはいつの間にか演習メンバーが全員集まっていた。
その中から名前を呼ばれた龍田は静かに微笑みながら提督の次の言葉を待った。
「龍田は旗艦を宜しく。演習では旗艦を負かせるかが大きく勝敗の判定に影響するから多分相手が優先的に狙ってくるかも知れない。今回はそれを利用しようと思う」
「なるほどねぇ。つまり私は皆の戦力温存のための囮ってことねぇ」
「その通り。先ず駆逐艦二人の機銃掃射と加賀の戦闘機で何とか初手の航空戦で相手の航空戦力を削いでもらって、次は龍田の出番ってわけ」
「任せてぇ。狙ってきたらなるべく耐え凌いでみせるわぁ」
「宜しくお願いします。今回は最終的に夜戦にまで持ち込むのが最重要。それまでに加賀以外の面子、特に主砲を主武器としている軽巡組がどれだけ残るかが鍵だね」
「じゃあなるべく僕と霞と加賀さんは昼戦では軽巡組を庇わないとね」
「そういう事」
本来なら旗艦に据えるのは耐久力がある加賀や回避能力が高い駆逐艦の方が良いと言えた。
しかしそこで敢えてその場ではどっちつかずの軽巡を起用する事で相手の注意を引くのが提督の最初の狙いだった。
後は前述した通り提督は夜戦で勝ちを狙うつもりだった。
(ゲームではランダムでしか庇う行動は発生しなかったけど、リアルではこうやってちゃんと指示できるのが強みだな)
提督は一通り今回の作戦について説明を終えると手をパンパンと叩いて、皆の視線を改めて自分に向けさせた。
「さ、それじゃあ(夜戦前提の)演習に行きますよー。皆準備はいいかな?」
彼の言葉通り艦はもう直ぐ演習場がある陸に着こうとしていた。
艦娘達は提督の言葉に気合の入った掛け声で応え、溢れるやる気を提督に見せた。
感想の返信は次の投稿の時とします
次は演習の話、もしくは結果の話になると思います