艦これの進め方   作:sognathus

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演習で艦娘達が頑張る話
提督は空気です


28:奮闘

演習に提督が付いてくる事は珍しい事ではない。

参加が義務付けられているわけではないので来ない提督もいれば、積極的に参加するほど艦娘の教育に熱心な提督もいた。

この物語の主人公である提督に関しては、参加こそしたものの動機は後者のような熱のあるものではなかった。

艦娘に付いて来てと乞われたから来たという若干やる気の無さが感じられる受動的な動機だった。

 

 

「おい、あの艦娘達の指揮官ってあの男なのかな」

 

「あの艦娘……? ああ、いつも敗けてる練度の低い子達か」

 

「てっきり演習は艦娘に委任していると思ってたけど今日は来てるみたいだな」

 

 

提督は周りの目の幾つかが自分に向いているのを感じた。

決して不快な視線ではなかったが、それでも何となく自分が場違いな所に来た感じがして居心地が悪かった。

 

「なぁ、君ら普段どんなふうに戦ってるの? 何か凄く見られている気がするんだけど」

 

「それは提督が初めて演習場に来たからでしょ? 別に私達は普通に戦ってたよ」

 

「川内の言う通りだと思うけど、まぁ五十鈴達は演習相手の中でも最弱だからね。その艦隊の提督が来たから皆注目してるんじゃないかしら」

 

「俺はまだあの鎮守府に赴任して3日しか経っていないってーの!」

 

艦娘が弱い(成長が遅れていた)のは前任者のせいであって自分のせいではない。

寧ろ今自分はそんな色々泣きたくなる状況を少しでもマシにしようと地味に頑張っているというのに、他者に単に弱い艦隊と思われるのは提督としては気分が良いものではなかった。

 

「大丈夫。今回は司令官が来てくれたし一勝はできるかもしれないからね。僕頑張るよ!」

 

「皐月の言う通りね。今日は目標の相手以外には勝ちは譲ってあげるという気概で行きましょ。その代わり絶対目標(そいつ)には勝つわよ」

 

「ま、本来なら編成も相手によってその都度替えるものだしねぇ。手札が乏しい私達は常に全力を出せばいいのよぉ」

 

「頼もしい龍田(旗艦)ですね。では提督、皆に何か訓示をお願いします」

 

提督の同伴にいつもよりやる気を(みなぎ)らせる皐月、今日こそは一勝を取ると闘志を燃やす霞、そんな気が逸りがちな二人を上手く率いてくれそうな龍田(旗艦)

提督は加賀の言葉に頷いて皆の顔を一通り見てから珍しく真面目な顔で言った。

 

「頑張って」

 

「やっぱりそれ?!」

 

「はぁ……少しでも期待した五十鈴が馬鹿だったわ……」

 

「アンタ本当にもうちょっとマシな事言えないの?!」

 

「ま、まぁまぁいつもの司令官らしくていいじゃん。あはは……」

 

「にしたってもう少し……ねぇ……?」

 

「同感です」

 

最後の二人の冷たい視線に提督は思わずたじろぐも、目標以外にはどうしたって勝てる見込みがないのだからそんなに士気を上げてもと思うのだった。

だが確かに今回に限っては最後にしっかり奮闘する為に何かやる気を出すことを言っても良いかもしれない。

そう考えた提督は艦娘達を前にしてこう言った。

 

「分かったよ……。計画通りいったら俺からまたご褒美をあげよう」

 

「!」

 

『提督の褒美』

 

最近提督の下に来た加賀以外はその言葉に敏感に反応した。

故に加賀だけは怪訝な顔をして提督に尋ねた。

 

「提督、指揮官たる者が部下のやる気を褒美で釣り上げようなんてちょっと安易じゃないかしら?」

 

「まぁまぁ褒美って言ってもそんな大層なもんじゃないから。加賀もこれを見て判断してよ」

 

提督はそう言うとポケットから妙な形をした金属を取り出した。

艦娘達は顔を寄せてそれを注視したが誰もそれがどういう目的で使用する物なのか想像できなかった。

またキラキラした物が出るかもとちょっと期待していた皐月がちょっと残念そうな顔をして言った。

 

「ねぇ司令官。それはなぁに?」

 

「これはパズル……知恵の輪と言ったらいいかな。これ、上手く弄れば幾つかのパーツに分かれるんだよ」

 

「えっ、これが……?」

 

「ちょっとやってみる?」

 

提督は持っていたパズルの1つを霞に渡した。

彼女はそれを暫く弄くり回していたが、確かに独立するパーツ同士が接触して鳴らすカチャカチャという音がするものの、なかなか外れそうで外れなかった。

 

「むぅ……」

 

「他に違う形のやつもあるから、もし演習に勝てたら皆に一種類ずつあげるよ」

 

「なるほど……こういう趣向のものならまぁいいでしょう」

 

「いや、加賀さん? 外れないからって形を歪めるのは駄目だからね?」

 

霞から譲り受けたパズルを同じく外すことができずについ苛立って手に力が入りそうになっていたのを川内が慌てて止める。

見れば他の艦娘も次は自分が挑戦したいという目でそのパズルを見つめていた。

提督はそこでいつものように手を叩いて自分に注意を向けさせると最後にこう言った。

 

「はい皆、続きがしたかったら頑張っておいで。まぁ勝てなくても怒りはしないから、そんなに気負わずに、ね」

 

緩い送り出しの言葉だったが勝てばアレが貰える。

艦娘達はパズル獲得を胸に闘志を燃やして演習に臨むのだった。

 

 

「くっ、あの弱小艦隊、今回はやけに動きがいいな。旗艦も練度は低いが回避に徹しているせいでこちらの弾がなかなか当たらない……!」

 

試合を観戦する相手提督は悔しそうな声を出す。

提督の艦隊は予想通り強豪に対してはいつも通り連敗したが、対策を練った最後の相手にだけは上手く立ち回っていた。

初手の航空戦は加賀と駆逐艦が奮闘したもののやはり装備の性能差は大きく、航空優勢も取ることは出来なかった。

だが何とか劣勢にはならず拮抗状態にはする事ができ、そこから旗艦の龍田がよく奮闘してくれた。

 

「……っ、まだよ。まだ凌いで……みせるっ」

 

予想通り旗艦の龍田に攻撃が集中して彼女はあっという間に中破にまで追い込まれた。

だがそこから彼女は驚異の粘りを見せ、仲間の援護もあって何とか全員が夜戦まで行くことが出来た。

 

 

「加賀さん……お疲れ様」

 

待ちに待った夜戦に対する戦意の高揚に目を爛々と輝かせる川内が加賀にお礼を言った。

夜戦ができない加賀はここからは攻撃を行う事はできない。

だからこその奮闘した龍田より優先した川内の感謝の言葉だった。

だが加賀はそんな川内に対して鋭い目をして言った。

 

「馬鹿言わないで下さい。戦うことはできなくても私はまだ中破すらしてないわ。壁としての役割なら任せなさい」

 

「流石一航戦の加賀さんねぇ」

 

旗艦として昼戦を耐え抜き、煤だらけの中破状態になりながらも加賀の言葉に薄く笑みを浮かべる龍田。

彼女は今、川内と同じく本領を発揮できる夜戦に自分も参加できた事に昂ぶっていた。

そんな二人の横では五十鈴が少し気圧され気味に笑っていた。

 

「あ、あはは……。これは演習だからね? 程々にね?」

 

(こ、怖い……)

 

(怖いよ……)

 

五十鈴の後ろでは駆逐艦二人が震えていた。

 

 

「味方に怖がられているよ……」

 

そんな様子を提督は観戦席から少し呆れた顔で眺めていた。




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