入室の許可が下りたので大淀が部屋に入ると提督が机に突っ伏していた。
「て、提督? 大丈夫ですか?」
「うん……ああ……」
大淀の声に反応して顔を上げた提督は全然大丈夫そうに見えなかった。
その何故か疲弊しきったように見える表情からは、先日の電の件の時より調子が悪そうに見えた。
「提督、お辛いならご無理はなさらない方が良ろしいかと思いますが」
「うん……」
大淀の言葉に提督は一度目を伏せて頭をガシガシと掻くと、「よし」と椅子から立ち上がって言った。
「今日はちょっと休みにする。だから建造も開発も無し。午後の演習についてはまた後で報告をちょうだい」
「承知しました。お部屋で休まれますか?」
「いや、ちょっと海でも眺めながら外で煙草を吸ってるよ。大淀も今日は決めた回数の遠征の指示と報告関連の仕事以外は自由にしてて」
「夜の執務は明日に回しますか?」
「いや、それは流石にしない。次の日が大変になるだけだからね」
「では頃合いを見てお声をお掛けしますね」
「よろしくー」
提督はそう言うと早速煙草を咥えて外に出ていった。
「…………」
係船柱の上に座って煙草を咥えながらボーッと海を眺める提督。
彼は吸い殻の灰が自然に落ちるのに任せてただただ海を眺めて気分転換に努めていた。
(参ったなぁ……運営怖い。何かタガが外れてる感じがして怖い。数年もここに居れば価値観変わってるかもしれないけど、その時の自分が今のままでいられるのか分からないのも怖い)
「はぁ……」
「何かお悩みですか?」
背後から
提督が後ろを振り返るとそこには微笑みを称えて彼を見つめる白雪がいた。
「あれっ、俺はまだ君を建造……あっ」
言葉の途中で提督は思い出した。
白雪はゲームの方の初期の任務の達成報酬で貰える事を。
提督はこの事からある程度彼女がどうやってここへ来たかを想像して訊いた。
「本部からの報奨として来てくれたのかな?」
「あ、はい。司令官がお収めになった初期段階の成果に対する報奨として、本日より貴方の指揮下に加わるよう拝命仕りました特型駆逐艦白雪です」
「そっか。宜しくね」
「あ、はい宜しくお願いします」
差し出された手を白雪は握ろうとしたがそれは気のせいで実際に提督は言葉のみの挨拶で手は差し出してなかった。
自分の早とちりに恥ずかしそうな顔をする白雪を見て提督は慌てて握手を求めて手を差し出した。
「ごめんごめん。握手の習慣が馴染んでなくてね。無視する気はなかったんだ」
「あ、いえそんな! こちらこそ態々気を遣って頂いて……ありがとうございます。えへへ」
上官から親交の印として差し出された手を嬉しそうに握って握手を返す白雪。
彼女は自分の上官とのファーストコンタクトが早速良い感じに始まって純粋に喜んでいるようだった。
「司令官はこんなところで海を眺められて、どうされたんですか? 本日の業務は……?」
「ああうん、着任初日にこんな感じで悪いけど、今日はちょっと休むことにしたんだ」
「えっ、では今日は終日非番に?」
「いや、執務はちゃんとするよ? ただ今日に限っては建造とか開発はいいかなぁってね」
「……何かおありでした?」
提督の疲れた雰囲気と彼の若干覇気が足りない声から心情を察した白雪が気遣うように訊いた。
心の機微に鋭い聡い子だった。
「うんまぁ、鎮守府的には全く問題はないんだけど、ちょっと
「あ、そういう事でしたか。そうですよね。軍だと特に階級できっちり分けられてますから余計に緊張して気疲れしてしまいますよね」
「うん……まぁそうだね。白雪は俺に対してはそんなに気とか張らなくていいからね。俺は大体こんな感じだから」
「いえ、そういうわけには……。でもお話しし易い方だとは思います。私、それだけでも嬉しいです」
「そっか」
提督は白雪の良い子さに大分癒やされるのを感じた。
彼は
こんな事をまた霞や彼女の前で言うと機嫌を損ねてしまうだろうが、それでも提督はこうやって時折駆逐艦が見せてくれる無邪気さや笑顔には自然と感謝をしていた。
「白雪、せっかくここに来てくれたところで悪いんだけど、ここはあんまり備蓄的に余裕がなくてさ」
「なるほど。今は遠征を中心に資材と資源の備蓄に努めていらっしゃるんですね」
「うん、そう。あと加えて戦力や装備的にも心許ないというか弱小でさ」
「気にしないで下さい。これから頑張れば問題ありません」
「おおう……ありがとう。朝潮だ……」
「えっ、私は白雪ですけど?」
思わず漏れた純粋な感想にきょとんとした顔でそう返す白雪。
提督はそんな彼女の反応につい噴き出す。
「えっ、わ、私何か変な事を?」
「いや、ごめん。そうじゃない。けど、はぁ……うん。おかげで幾らか気分は良くなったよ」
「そ、そうですか? よく分かりませんでしたが、お役に立てたのなら幸いです」
「……よし、気が変わった。休憩はここまでにしてやっぱり建造も開発もしよう。白雪、付いて来てくれる? 他の仲間や
「あ、はい! ありがとうございます! お願いします!」
白雪は嬉しそうな顔で提督の後を付いて行った。
余談だが、やはり彼女が提督の鎮守府で一番驚愕し、感動したのは例の彼が建築した大浴場だった。
感想は仕事から帰った後にまとめてまた