艦これの進め方   作:sognathus

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タイトル詐欺
話のメインは大淀


33:建造3日目

「あ、今回は空母を狙わないんですか?」

 

今までと違う資材の配分に気付いた大淀が提督に尋ねる。

 

「うん。さっきの謎の襲撃が怖かったから戦艦も一人くらい欲しいなってね」

 

「ではこれは戦艦が生まれる可能性が高い配分なんですね」

 

「そういう事」

 

この少し前、提督は何処からともなく放たれた砲撃に肝を冷やすという事態に遭った。

 

索敵をしたものの敵の姿は結局確認できず、本当に近くにいたのかすらも判らなかった。

砲弾の着弾地点は判っていたので潜水艦でもいれば、海底に沈んだそれからもしかしたら敵の種類くらいは特定できるかもしれないと大淀は言ってくれたが、残念ながら提督の鎮守府にはまだ潜水艦はいなかった。

 

(まぁレベルは低くても大きな戦艦がいるという安心感はやっぱり欲しい)

 

という考えの下、急遽決まった戦艦建造計画であった。

 

「配分は燃料400弾薬100鋼材600ボーキサイト30。うーん鋼材の消費が痛い。これ一回すると残りはどうなる?」

 

「鋼材以外はギリギリ4桁ですかね」

 

「ぐっ、まぁ今回はボーキを節約できたと思うことにしよう。んじゃ、建造っと」

 

建造までにかかる時間を確認するとなかなか良い時間だった。

まず間違いなく生まれるのは戦艦だったので提督はその事に満足すると、時間まで執務に励むことにした。

3日目ともなると既に書類作業は更に効率化が進み、プリンタと使い方を覚えた大淀が自分用に買ったノートパソコンを使って書類を作成する事までできるようになっていた。

 

「お、良い感じだね」

 

大淀が見本として刷った書類の出来を見て提督は満足そうに頷いた。

その反応に大淀もまんざらでもなさそうな顔で微笑み、他に修正が必要な箇所はないか尋ねたが、一見そんな所は見当たらないほどの完成度だった。

 

「いや、原本と比べても格段に綺麗で見易いからこれでいいよ。このフォーム保存しといて」

 

「分かりました。では今日はこれを使って遠征や午後の演習の報告書を作るだけですね」

 

「うん。でも大淀、本当にタイピングも書類作成ソフトの使い方覚えるのも早かったね。いや、おかげで大助かりだけどさ」

 

「提督が仰っていた通り私は事務処理の適性があるみたいです。タイピングも文字配列を覚えれば楽でしたが……」

 

大淀はそこでとある事に一時だけ苦労した事を思い出して苦笑した。

 

「日本語のローマ字入力は少しだけ手こずりましたけどね」

 

「別にかな文字入力でも良かったんだけど? 慣れればそっちの方が格段に入力は早そうだし」

 

「いえ、指がきーとっぷの配列を覚えれば入力は確かに楽でした。かな文字入力に関しても確かに仰る通りだと思いますので、何れはできるようになるつもりです」

 

「頼もしい」

 

「ふふ、ありがとうございます。あっ」

 

提督と話している時に大淀は彼が持っている印刷されたばかりの書類に気になる箇所を見つけた。

彼女は無意識に提督に近付き、彼の後ろからその箇所を指で示すのだが……。

 

(……近いな)

 

自分の椅子の背もたれの上を持ち空いた片方の手の指で気になる箇所について意見をしてきた大淀の姿勢は、実際密着一歩手前と言えるほどに距離が近かった。

下手に動けば肩越しに大淀の胸が当たる気がしたので提督も迂闊に動けなかった。

 

(まぁ歯医者の検診とかでも似たような事がよくあるけど、それとこれでは頻度に差があるからなぁ……)

 

提督がそんな人が羨ましがりそうな贅沢な悩み事をしている時だった。

 

(ん?)

 

提督は大淀から明らかに人工的な、しかし決して不快ではない甘い香りがする事に気付いた。

 

(香水……?)

 

「提督? あの、聞いてますか?」

 

書類の方ではなく時折自分の顔を怪訝な表情で見る提督が気になって大淀は聞いた。

提督は大淀に申し訳無さそうにしながらも何かが気になっている様子で、明らかに彼女の話に注意を傾ける事ができていなかった。

結局彼は故意と思われる大きな咳払いを1つして一時的に大淀の話を中断させると、今度はしっかり彼女の顔を見据えて言った。

 

「ごめん大淀、1つだけ訊いていい?」

 

「? はい、なんでしょう?」

 

「もしかして香水使ってる?」

 

「!」

 

提督の言葉に思わず手に持っていたファイルを胸に押し付けるようにして後ずさりした大淀の反応から察するに、彼女は香水をつけていた事をすっかり忘れていたようだった。

顔を真っ赤にした大淀は口元をファイルで隠しながら、蚊が鳴くような小さな声で一言「すみません……」と言った。

恐らく自分が色気づいた事を初めて異性に指摘されたことに対する恥ずかしさ、そしてまだ出撃任務に参加できる状況になっていないとはいえ、実際に今外で頑張っている仲間たちを差し置いてそんな事をしていた自分に罪悪感からくる羞恥心を覚えたのであろう。

見ると大淀はすっかり落ち込み、しゃがみ込んで抱えた膝に押し付けた顔からは涙まで滲ませていた。

提督は提督でこれで通算二度目となる大淀を泣かせてしまった事態に慌てふためいて必死に励ますのだった。

 

「えっ、ごめん?! なんか無神経だった?! いや、大淀は悪くないから! 何が悪くないのかはよく分からないけど、取り敢えず落ち着いて。ね?!」

 

結局その状態から大淀が立ち直るまでに30分程かかったのだった。




今日からイベントですね
ふふっ……怠い

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