やり直しを強制された鎮守府で初めて提督が迎えた戦艦は山城だった。
加賀に続いてまたもや狙い通りの成果を上げた事を大淀は讃えてくれたが、肝心の提督はというと
(これまた性格が面倒そうなのが来たな)
提督の最初の感想はこれだった。
加えて自分の過去の境遇に不幸というコンプレックスを持つ、やさぐれた面があるのも大きな特徴だ。
提督はこれを面倒と呼んだ。
「あの……何ですかその目は? あぁ、どうせ
「…………」
初っ端からこれであった。
これには提督の成果を讃えていた大淀の笑顔も引きつってしまう。
「あ、あの山城さん。別に提督はそんな事は……」
「じゃあなんでまだずっと黙ってるんですか。その理由は提督の目が如実に語っていると思うのだけど?」
「そ、そんな事……提督?」
大丈夫ですよねと目で訴える大淀には申し訳なかったが、提督はこの時点で未だに山城に対してどんな第一声を発したら良いか悩んでいた。
(とにかくあいつは何とか機嫌をとってこじらせないようにするのが大事だ。姉の不在を侘びつつ、自分が不幸だというテンションにも一定の配慮を……)
「面倒くさ」
「は?」
「あっ」
つい無意識に口から出てしまった提督の言葉を山城は聞き逃さなかった。
彼女は瞬時に不機嫌な顔になって半目で提督を睨み据えてきた。
「今面倒って言いましたよね?」
「…………」
「い・い・ま・し・た・よ・ね?」
「……言ったけど悪い意味じゃない」
「悪い意味じゃなかったらどう意味だったんですか?」
「それは……」
提督は頭をフル回転させた。
どうやってこのトラブルを丸く収めるか、どうやって山城が満足する答えを絞り出すか。
誰にでも言えることだが第一印象、ファーストコミュニケーションが今後の彼女との関係性を決めるのだ。
「な、なんか戦艦のメンテナンスって大変そうだなぁって」
「それが面倒だと?」
「うん、まぁ言葉は悪かったよ。で、でも大丈夫。
「お風呂?」
流石は女性。
生まれたばかりであっても温かい湯を浴びれるお風呂というワードには敏感に反応した。
提督はこの機を逃すまいと彼女に畳み掛けてきた。
「うん。ここにはとても大きな艦娘専用のお風呂があってね。湯種も様々あるしその効能にはきっと山城も満足すると思うよ」
「そ、そんな艦娘専用のお風呂なんてあるわけが……。私たちは兵器だし、大体提督がそんな配慮をするなんて非常識よ……」
口ではそう言っても山城は風呂に興味津々のようで、その目は泳いでいた。
効果はバツグンだ。
提督は大淀に目配せをして彼女に加勢を頼む。
賢い大淀さんは提督の意図を理解し頼もしい表情で頷くと山城に言った。
「大きなお風呂、大浴場があるのは本当ですよ。良かったら案内しますので先ずは見てみませんか?」
「…………行く」
数秒俯いて逡巡した後、山城はポツリとそう言った。
果たして山城は目の前に広がる巨大な浴場に目を奪われ、裸で楽しげにはしゃいでいた川内や皐月と言った賑やかな面々に早速絡まれるのだった。
「あれぇ? なんでお風呂で服なんて着てるのー?」
「あっ、これは本当にあるとは思わなくて……」
「じゃあ山城さんも早く脱衣所で服を脱いでおいでよ! すっごく気持ち良いんだよ。僕が案内してあげる! 僕のオススメのお風呂はねぇ……」
「はいはい。いきなり貴女達に任せたら山城さんが困っちゃうでしょ。ここは五十鈴達に任せなさい」
「そうよぉ? お姉さんに任せなさぁい」
「いや、それを言ったら一応軽巡の私もお姉さんじゃ……」
「
五十鈴、龍田に続いて湯けむりの中から現れたのは加賀と羽黒。
加賀は羽黒に頷くと川内を一時的に大人しくさせる為の特別トレーニングの実施を許可した。
「はい! 羽黒にお任せ下さい! さぁ川内さん、羽黒と今からそこの浴槽で潜水の訓練をしましょう! 上手く沈められたと油断した敵の背後に回って仕留める戦法を教えてさしあげます!」
「えっ、いや、ちょっ……」
「さぁ行きましょう!」
「いやぁァァァ……っ」
一糸纏わぬ姿で悠々と川内を脇に抱えた羽黒は再び湯けむりの中に入り、何処かへと姿を消していった。
「……という事がありました」
「ハハハ……」
ほこほこと湯上がりの煙を立ち上らせる山城からの報告に提督はカラ笑いをするしかなかった。
山城も口ではそんな呆れることがあったと言いつつも目は楽しげに笑っており、時折何を思い出したのか面白そうに噴き出したりした。
「まぁ楽しめたようで良かったよ」
「別に……そんなわけでも……なくはないけど……」
髪を弄りそっぽを向く山城。
提督はここが最後の極め処だと判断し、彼女にある物を見せた。
「? 提督、何ですか、これ?」
提督が見せたのはレディースファッション雑誌だった。
山城は表紙を飾る鮮やかなカラーの写真に写る綺麗な女性と鮮烈なファッションに早速目を奪われている。
「これは婦人用衣類の見本が載った目録だよ。山城、ちょっとこの本見てみてよ」
「…………!」
本を開いた山城は目を見張る。
雑誌の情報量が彼女に与えた衝撃は、それこそ口では言い表せない程のものだった。
夢中でページを捲る山城の横から提督は更に言った。
「どう? なかなか興味深いでしょ? その本に載っている服って実は買えるんだよ。山城も給金を貰ったら注文の仕方を……」
「提督、ちょっと静かにしていてもらえませんか?」
「アッハイ」
山城はこの後、数時間執務室に居座って雑誌を読み耽り、提督がもう遅いから今日は部屋に戻るよう声を掛けると、まだ読み足りないのか凄く恨めしそうな顔をした。
提督は元々その雑誌は山城にあげるつもりだったので、持って帰っても良いと言うと、今度は不満げな顔から一点、目を丸くしてまるで親に高い玩具を買ってもらう子供のように「本当? 本当?」と何度も確認してきたのだった。
メンテいつも通りに遅れてますね
だから予定時刻はいらないと……