3日目午後の演習の結果による艦娘の上昇したレベルを確認して提督は1-3への出撃を決めた。
「製油所地帯沿岸への出撃ですね」
「うん。出撃するのは軽巡の三人と羽黒、駆逐艦は霞と朝潮」
「承知しました。直ぐに伝えてきます」
提督は去りゆく大淀の背中を見つめながら改めて頭の中で今口にした出撃メンバーについて考えた。
(平均レベルは16、その内、改になっているのが羽黒と川内と霞。開発した電探はまだ3つだから丁度良いと言えば良いな)
程なくして提督の前に指示を受けた艦娘が揃って整列した。
提督は椅子から立ち上がると普段より真剣さをやや感じさせる硬い声で話し始めた。
「こ――」
「待ちに待った夜戦だね!」
「川内ちゃ~ん?」
「ご、ごめん……」
「こほん、あー、先ず注意しないといけない点を伝えます。今から出撃する海域を支配する主力艦隊には戦艦がいる」
戦艦という言葉を聞いてゴクリと唾を飲み込む駆逐艦達、片や軽巡達と羽黒は戦意に瞳を燃やした。
特にすっかり夜戦好きという
提督はそんな彼女達のアクティブさに苦笑しながら話を続けようとしたが、そこで霞が手を挙げて質問を求めた。
「はい、どうぞ」
「どうして戦艦が出るって知ってるの?」
当然の疑問だった。
前の出撃もそうだったが(その時は遭遇する敵の編成に対する言及はなかったが)提督は、彼女達が進撃する先で遭遇する敵の編成を予め知っているような雰囲気があった。
霞はそれを改めて実感し、当然の疑問として提督にその答えを求めたのだ。
提督はそんな霞に対して「うーん」と回答に困った様子で頭を掻きながら絞り出すように一言。
「まぁ
「経験? ク……司令官は他の所で提督をしていたの?」
「此処ではないけどね」
「?」
曖昧な返事に首を傾げる艦娘達。
だがそんな答えでありながらも彼の声質からは何かを偽っているような感じもない。
流石にゲームでと言うわけにはいかなかった提督としては、それが彼女達に自分の経験を表現として伝えられる限界だった。
「戦艦が出るのなら私が役に立てると思うんだけど……」
部屋のソファーに腰掛けてファッション雑誌を読んでいた山城が本から目だけをチラリと見せてさり気なく
提督は山城に顔を向けるとすまなそうに言った。
「あー、気持ちは凄く嬉しいんだけど
「……そう」
別に気落ちも不満も感じさせる様子はなかった。
山城は提督の口から聞いた『まだ』という言葉に彼が自分の存在を軽んじていない事を感じ、それ以上は何も言わずに再び雑誌に目を戻した。
「えっと、なんだっけな……。あ、そう、戦艦が出るんだけど恐らく日が出ている間に決着を付けるのは難しいと思う」
「つまり夜戦で勝負をかけるわけね」
提督は五十鈴の言葉に頷く。
「その通り。現状火力不足は否めないからね。だからその戦艦がいる主力艦隊にまで辿り着けるかも正直微妙な所ではあるんだけど。でも辿り着いて夜戦にまでもつれ込む事ができれば結構勝率は高いと思う」
「朝潮は司令官の采配を信じます!」
「私もです! 必ずその戦艦を仕留めてみせます!」
仕留めるという羽黒らしくない言葉にやや気圧されているようだったが、霞も小さく溜息を一つ吐くと言った。
「……分かったわ。信じてあげる」
「有難う。こんな事を言うと士気が下がるかもだけど、
「……なるほどねぇ。提督が辿り着けるか微妙と言っていたのをちょっと納得したわぁ」
「主力を捕捉するまでの道中もそれなりにキツイかもという事ね?」
「五十鈴、また正解! うん、だからほどほどに頑張ってね」
「はい! 大破しても必ず……!」
「いや、羽黒ちゃん。大破したら夜戦できないから……」
流石に川内でもそこは突っ込んだ。
「では、提督からのお話は以上で宜しいですか」
大淀の確認にもう少しで「そうだ」と頷きかけたところで提督は何かを思い付いたらしく、彼女を軽く手で制して言った。
「あ、ごめん。最後に一つ」
「? 何よ?」
提督は首を傾げる霞と他の艦娘達を軽く一瞥するとこんな事を言った。
「今日、この出撃任務が完遂できたら宴会をしよう」
「は……? 宴……会……?」
予想外の言葉にポカンとした顔をする霞。
見れば他の面子も意味は知っていても馴染みがない言葉のようで、提督のこの提案にどう反応したら良いのか困惑しているようだった。
「提督、宴会ってあの宴会ですか? 皆で集まって食事をしたりお酒を飲んだりする……」
「そうそれ」
大淀の窺うような質問に提督は大きく頷いた。
「せっかく初めて戦艦を倒すかもしれないんだからさ。それを達成したらちょっとお祝いをしよう」
「はぁ……まぁ……。提督がしたいならいい……けど……?」
川内の意見を求める視線に彼女以外の艦娘達もばらつきはあったが全員が頷いて同意した。
やはり宴会というものに馴染みが無い様子で艦娘達の反応は微妙だ。
しかしおかげで提督は珍しく自発的に、単に食堂で食事をするのとは違う、宴会の楽しさを教えてやりたいという気持ちを強くした。
「まぁ宴会に関しては今は頭の片隅に置いておくくらいでいいよ。それじゃまぁ……」
提督は大淀をチラリと見る。
視線を受けた大淀はその意を酌んで出撃する艦娘達に言った。
「提督に敬礼っ」
「うん、頑張ってね」
乱れなく綺麗に自分に敬礼する艦娘達を見ながら提督は心の中でステージ攻略を祈った。
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