艦これの進め方   作:sognathus

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羽黒が降伏した深海棲艦を連れてきました


37:霞

提督は、とある戦闘結果に頭を捻っていた。

 

(特別勝利ってなんだ?)

 

運良く1-3攻略に成功したのは間違いないが、こんな名称の勝利結果は当然提督は見た事がなかった。

大淀にも意見を求めたが彼女もこんな勝利判定は識らないとの事だった。

 

「S勝利とか、勝利判定を示すランクもないなこれ」

 

「私も他の鎮守府のものも含めた過去の戦闘結果事例を少し調べてみましたが、このような名称の勝利判定は確認できませんでした」

 

「でも一応これは羽黒達が挙げた戦果が間違いなく受理された結果なんだよね?」

 

「戦果報告は提督が此処に着任されるまでは基本的に自己申告制でしたので……。まぁ碌な成果を挙げられていなかったのでその形式自体あまり意味を成していませんでしたが」

 

「ふーん……」

 

提督は執務室の壁際に置かれた本棚ほどの大きさの巨大な機械をちらりと見た。

それは出撃した艦娘の信号を探知し状況を把握する為の所謂レーダーの機能を持ち、更には無線通信や戦闘結果を今提督が手にしている短冊状の紙に印刷する機能まで備えた、それはそれは便利で高価そうな機械であった。

 

「前の提督はこれは使わなかったの?」

 

「これは前任者が此処を去られて提督がこちらにいらっしゃるまでの間に海軍本部から送られてきた物でして」

 

「なるほど」

 

提督は短い言葉で理解を示しながら内心では「多分送ってきたのは海軍本部ではなく『運営』だろな」と思った。

 

「まぁこれ以上考えても埒が明かないか。艦隊が無事に帰って来たら取り敢えずはそれで今は御の字ということ……」

 

 

「司令官さん! 羽黒以下6名、只今出撃任務より帰投致しました!」

 

とても大変な任務をやり遂げた後とは思えない、活力が溢れて余りありそうな元気な声とともに艦隊が丁度戻ってきた。

提督は最初こそ「入室するときは先ずはノックをしなさい」と、注意をしてから羽黒達の健闘を称える話をするつもりだったのだが、部屋に入ってきた彼女達を見てそんな考えも彼方へと消えてしまった。

それは大淀も同じ……とは言い難く、彼女の場合はそれ以上に口から漏れそうになった悲鳴をなんとか口を押さえて我慢するほどに、驚きに目を見開いていた。

何故二人がそんな唖然とした雰囲気や顔をしていたのかというと、それは羽黒達と一緒に部屋に入ってきた()()()ゲストが原因だった。

 

「し、深海棲艦?!」

 

「…………」

 

そう、羽黒達の後に付いて最後に入ってきたのは深海棲艦の戦艦ル級であった。

その鎮守府に居る誰よりも背が高い長身で立派な体躯、加えて冷たい印象を与える切れ長な目とそれを際立たせている艷やかな長い黒髪、これら全てが相まって提督と大淀に圧倒的な存在感と威圧感を与えていた。

 

「何黙ってるんですか。司令官さんに失礼ですよ?」

 

「スッ、スミマセン!」

 

しかしそんなル級を恐れること無く、逆に剣呑な目で彼女を嗜める羽黒。

ル級は彼女の言葉にビクリと震えて目尻に涙を滲ませると「スミマセン、深海棲艦ノ戦艦ル級デス」と丁寧に挨拶をした。

提督はここまでの流れで何となく現場で起こったことを察した。

見れば龍田はいつも通り見慣れた微笑みを湛えていたが、川内の不満そうな顔は恐らく夜戦ができなかったからだろう。

日没前に戻ってきたのでそれは容易に察する事ができた。

しかしそれ以外は……。

 

(五十鈴も朝潮も霞も青い顔をしているな)

 

現場で何か恐ろしいものを見たのだろう。

果たしてそれはなんだったのか、原因は一人だけ意気軒昂な羽黒にあるのは間違いなかった。

 

「えーと、先ずは皆お疲れ様」

 

「はっ、光栄です! 司令官さんの的確なご指示のおかげでこんな大成果を挙げることができました!」

 

「ん、大成果っていうのは……」

 

「はい! ご覧の通り、敵主力艦隊を降伏させる事に成功しました!」

 

「へぇ……」

 

その時提督は羽黒の艤装の妙な損傷に気付いた。

彼女の艤装の砲身は通常の使い方からは想像し難い妙な曲線や凹みが発生しており、その様はまともな砲雷撃戦で出来たものとは思えなかった。

加えて羽黒の隣で自分を見て青ざめている大淀より更に青ざめてすすり泣いているル級。

彼女の額には大きなコブが出来ており、更に敵でありながらその端正な顔には、殴られた事によってできたと思われる生々しい痣が他にもいくつが確認できた。

 

(こりゃまたとんでもなく泥臭い戦いをしてきたもんだ)

 

提督は心の中で壮絶な体験をしたであろうル級に密かに同情し、取り敢えず戦闘経過の報告を受けることにした。

 

 

「……なるほど。取り敢えず羽黒」

 

「は!」

 

「君は先ず入渠して。その後……多分明石から話があるだろうから速やかに工廠に行くように。その後にまた少し話そう」

 

「? はい、分かりました……」

 

羽黒は提督からうんと褒めてもらえると期待していたのだが、意外にも彼の反応は淡白であった。

その事に彼女は内心落ち込んだものの、入渠を勧められた後に話があるとの事だったので、提督が自分を気遣って先ずは負傷を癒やすように言ってくれたのだと直ぐに思い直した。

ただその言葉の中で羽黒は、工廠に行くようにも言われていた事をもののついで程度の軽い用だと浮かれた頭で考えてしまっていた。

この事を彼女は後に深く反省し後悔することになるのだが、それはまだ当然知る由もなかった。

 

 

「さて……」

 

羽黒が退出したのを見届けると、提督は残りのメンバーに目を向けた。

 

「んじゃ、改めてお疲れ様。えーと、そういえば今回は特に頑張った子がいたんだっけ?」

 

羽黒以外の出撃メンバーは、提督のこの言葉にそれぞれの頭の上に疑問符を浮かべた。

彼女達の共通の認識ではそれに該当するのは旗艦でもあり、こうして敵を降伏させるに至る活躍をした羽黒しかいなかったのだが、提督がその事には言及せずに他の功労者に関して大淀に問いかけたからだ。

だがその問いかけを受けた大淀は提督の意図を理解しているらしく、特に戸惑う様子もなく戦果の記録を確認して答えた。

 

「そうですね……記録では霞ちゃんが最も戦果を積み重ねています」

 

「えっ、わ、私!?」

 

自分の名前が挙がるなんて思いもしてなかった霞は信じられないと言った顔をして驚いていた。

実は彼女は艦隊が敵主力と会敵する前の時点で中破の状態となっていた。

それは耐久力が低い駆逐艦(彼女)が敵の攻撃を受けた結果ではあったのだが、その結果の中に彼女が仲間を護り、それと同時に敵の隙を見逃さずに反撃も行うなどよく奮戦したという経緯があった。

それが記録として確かに残っていた故に、今回霞が艦隊で一番の功労者(MVP)として選ばれる事になったのだ。

 

「ん、そっか。霞」

 

大淀の回答に頷いた提督は霞に目を向けて彼女を呼んだ。

名前を呼ばれた霞は一瞬ビクリと緊張した様子を見せたものの、直ぐに自分を落ち着けて若干強張った表情をしながらも一歩提督の前に進み出た。

その時、提督以外の者はまた彼が何か褒美として特別な物を与えてくれるのではないかと予想していた。

だが、この時提督はそんな彼女達の予想に対して良い意味で全く異なる事をした。

 

「ん……」

 

提督は自分の前に来た霞の顔を先ずは一目見た。

彼女はただ提督が何をするのかをじっと待っており、その顔に浮かんでいた表情も真面目なものだったのだが、彼はそんな霞の瞳に微かにだがとある直感を持った。

それは、彼がかつていた世界で就いていた仕事の一場面で小さな子どもと触れる事があった時の事だ。

その時彼は仕事として依頼人宅を訪問して機材の状態の確認を行っていた。

特に可もなく不可もない内容だったので順調に依頼が果たせそうだったそんな時。

 

『?』

 

彼は何かが自分の服の袖を引いている事に気付き、その方に顔を向けると、そこには明らかに自分が描いた絵を褒めて欲しいという期待を持った顔をした無邪気な子供がいた。

彼は子供の親に一応目で確認だけして頷いて貰うと「上手だね」という言葉とともにその子供の頭を撫でてあげた。

その時その子供は、本当に嬉しそうな顔をしていた。

提督はそんな記憶の中の子供が自分に向けた眼差しと同じ『期待』を霞の瞳の中にも僅かに感じたのだ。

故に彼は、この時は特に何かをあげるわけでもなく、あの時と同じ様に自然に霞の頭に掌を乗せてこう言った。

 

「頑張ったね」

 

「…………ぁ」

 

頭に乗った提督の手の重さに一度は虚を突かれて俯いてしまった霞だったが、彼の言葉を聞いて直ぐに顔を上げた。

そこにはただ純粋に自分を褒めてくれている一人の指揮官の顔があった。

その顔を見た霞は、裡から込み上げてくる表現し難い感情の波を堪え切れなくなり、ついに大声で滂沱の如く涙を流して泣くのだった。




イベントは結局、甲甲丙丙で終わりました
最後は丁にしたら良かった……

次は降伏した敵の扱いや宴会の話になるかも

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