艦これの進め方   作:sognathus

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宴会の最後の話にして3日目最後の話。


40:誤解

「ぶふぁっ?!」

 

不意にかけられた沈んだ声に、提督は思わず口に含んだ豆腐を噴きこぼしそうになったのをすんでのところで口を覆って止めた。

 

「ふぁみひお?!」(訳:山城?!)

 

そう、声を掛けてきたのは山城だった。

彼女はいつの間にか提督の背後に立っており、自分に驚いてしどろもどろの提督を気にする様子もなく、ただ彼が食べようとしていた湯豆腐を見つめていた。

 

(そんな……。流石に俺が椅子に座る時はいなかったはず。……もしかして、朝からずっとソファに座っていたのか?!)

 

考えてみれば確かに山城は今日建造されてから特に何をするわけでもなく、こちらからも何か指示をした覚えもなかった。

だがだからといってまさか彼女が今の今までずっと執務室のソファーに腰掛けていたとは流石に提督も予想などしていたはずもなかった。

 

「ねぇ……もしかしてずっと執務室(ここ)に居たり?」

 

「……そうだけど?」

 

「山城は宴会には行かないのかな?」

 

「宴会……。ああ、そういえばそんな事言ってましたね。ボーッとしてました」

 

「あ……あ、そう。じゃあ、山城も食堂に行ってきなよ。皆美味しい食事を楽しんでるよ」

 

「? 提督は行かないの?」

 

「あー……俺はぁ……」

 

よもや宴会の幹事であるのに加えて艦隊の指揮官たる者が、単なる我儘で実は宴会を抜け出してきたなどと正直に答えるのも気が引けて、提督は山城の問いに対する答えに窮す。

そんな提督を山城は怪訝な表情で見ていたが、やがて彼はぼそぼそと喉の奥から言葉を絞り出すように言った。

 

「提督?」

 

「……ごめんなさい。実は一人でゆっくり食べたくて、さ……」

 

ただ純粋に疑問を投げかける山城の視線を虚言で躱す気にはなれなかった提督はあっさり観念して白状した。

良いか悪いかで言えば先ず間違いなく褒められないことをしたのだ。

いくらこの世界が現実とは異なる世界とはいっても、社会に出た大人としての体裁は保たないといけないし示さなければならない。

パソコン越しでは単なるゲームであっても此処では艦娘たちの提督という確かな責任を負ったれっきとした仕事なのだ。

いつになっても、理由はどうあれ、故意に過ちを犯した後にそれを指摘されると後悔の念しか生まれない。

提督はそんなで現実(リアル)での経験を思い出し、自分に対して苦虫を嚙み潰したよう気持ちになった。

そんな提督に対して山城は、単純に彼の楽しみを邪魔してしまったという単純な罪の意識から咎める事もなく言うのだった。

 

「えっ、そうだったんですか。あっ……ごめんなさい。お邪魔してしまいましたね」

 

「いや、待って」

 

てっきり山城に呆れられるなり失望されるなりの反応をされると思っていた提督は、俯いて気まずそうに退出しようとした彼女を慌てて止める。

 

「はい?」

 

「まぁ、ほら。もう目的の物(豆腐)自体は確保したわけだし、いつでもゆっくり晩酌はできるからさ。俺も戻ろうかなって」

 

「え? あ……あぁそう、なんですか? えっと……じゃあ一緒に行き……ます?」

 

「うん、そうしようか。まぁここでバラバラに行く意味もないしね。よし、じゃあ行こう」

 

「……はい」

 

前に出て自分を伴って進む提督の背中を山城は嬉しそうに見ていた。

 

 

「あっ、司令官」

 

朝潮が執務室へ向かって廊下を歩いていると丁度向かい側から目的の人(提督)が歩いてくるのが見えて彼女は走り寄る。

提督は何故かぎこちない笑みを浮かべて走ってくる朝潮に手を振って応じた。

 

「やぁ」

 

「司令官どうかされたんですか? 突然お鍋を持って席を離れられたと聞いたので朝潮、気になってしまいまして……」

 

「ああ、ごめん。それはさ……」

 

「ん?」

 

提督がここでも正直に白状しようと口を開きかけたところで朝潮は彼の後ろにあるもう一つの影に気付いた。

 

「山城さん?」

 

「……」

 

朝潮に声を掛けられた山城は答えない。

だが彼女の事を拒んでいる感じではなく、どちらかというとどう反応するのが正解か悩んでいる様子だった。

 

「ん?」

 

そこで朝潮はまたある事に気付いた。

提督の後ろにいた山城が彼の服の裾を掴んでいたのだ。

それを見て朝潮は合点がいったとばかりに左の掌をポンと右の手で叩くと尊敬に輝くキラキラとした瞳で提督を見つめながら言った。

 

「ああ、なるほど」

 

「は?」

 

「え?」

 

突然なにやら一人納得し始めた朝潮に提督と山城は声を重ねる。

 

「司令官は、まだ鎮守府(ここ)に配属されたばかりで馴染めないでいた山城さんを気遣って彼女を迎えに行っていたんですね!」

 

「え? あ、うん。そう……結果的にはそうなっているだけなんだけどね。俺も山城がきっかけで宴会に戻る事にしたわけなんだけど……」

 

「そんなに謙遜されなくても朝潮は司令官が私達を気遣ってくださっている事……解ってます。司令官は本当に優しい方ですね」

 

「えぇ? いやぁ……そんなでもないよ。ハハハ……」

 

朝潮の微妙に外れた推察に提督が頭を掻きながら乾いた声で笑っていると、朝潮の後方からまた誰か近付いてくる足音がした。

 

「あ、提督! と、朝潮ちゃん? に山城さんも。えっと、これは……?」

 

「あー……」

 

現れた大淀に提督が口を開こうとしたところで再び朝潮が手を挙げて説明を買って出た。

 

「司令官、ここは朝潮にお任せ下さい」

 

「あ、うん……。オネガイシマス」

 

提督は勝手に自分に都合が良い展開にしてくれる朝潮に後ろめたい気持ちになりつつも純粋に感謝した。




ギリギリの投稿となりました。
次はどんな日常の話になるのかな。

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