提督にはまだまだやった方が良い事がたくさんある。
装備の開発をした結果、全ての艦娘のスロットこそ埋まらなかったが、それでも装備枠が1つだけ空いている者が二人までに留まるという悪くないものだった。
「わぁ、主砲2つに魚雷まで……。ありがとうなのです! 司令官さん!」
「あー……うん」
真っ当な装備を渡されて喜ぶ電を見る提督のこの時の気持ちは正直微妙だった。
(見た目は子供だけど武器を貰ってこういう反応をする辺りやっぱり艦娘だよな)
「司令官さん? どうかしたのですか?」
よほど複雑な表情をしていたのだろう。
提督のことが気になった電が彼に声をかけてくれた。
「ん、いや。特に何もないよ」
提督はそう短く返すと不意に今自分の前に集まっていた艦娘達に向けて言葉を発した。
「艦隊、整列」
「!」
短い一言だったが、たったそれだけで電以外にも和気あいあいの雰囲気を出していた艦隊達はビシリと気を付けの姿勢で整列して見せた。
大淀がそれを認めて先ず口を開いた。
「今から提督がこれより臨む演習に向けての訓示を述べられます。全員、傾聴」
大淀が視線で合図をくれたので提督はそれに対して頷き返すと、一人一人の目を見ながら言った。
「まぁ勝てないのは確実だけど、演習をやれば強くなれるから頑張って」
「…………えっ、それだけ?!」
あまりにも短く、士気の上がりようのない訓示に川内が先ず反応した。
「そう、それだけ。それ以外俺からは特には……無いなぁ」
「いや、もっとこう……五十鈴達のやる気を出してくれるような言葉とかないの?」
「出して貰ったところでそんなに演習で全力を出されてもな……。前任者は勝たないと許さないとか言ってたの?」
「うん……。それで敗けて帰ってくると凄く怒られたんだ……」
暗い表情で当時を語る皐月の雰囲気に取り込まれたのか、その横で羽黒が早速泣きそうな顔になっていた。
提督は取り敢えず羽黒を宥めるように言った。
「いや大丈夫。俺は怒らないから。というか今どき演習で勝てなかったくらいで怒るなんて……」
「え?」と、電が「こいつは何を言ってるんだ」というような驚きに目を見開いた表情で提督を見た。
提督も流石に今のは軽率な発言だったと思い直して咳払いをして適当に誤魔化すと話を続けた。
「コホン。まぁどうしても勝てないなら仕方ないだろう? それを一方的に叱るなんてのは……無意味だろう、本当に……。前任者は本当にそんな感じだったの? 無能にしたってテンプレ過ぎてちょっと信じられない印象なんだけど」
「すみません。先程のお話の後半部分に聞き慣れない語句が使われていて仰っている意味がよく解らなかったのですが」
提督の話を聞いていて何故か頭痛がしてきた大淀が彼の横から口を挟んできた。
「ああえっと、すまない。つまり俺は君らが勝とうが敗けようが演習ならそんなに気にしないって事だよ。頑張って敗けたら怒るより俺はその奮闘を称えて反省会でもした方が絶対に有意義だと思う」
「司令官さん……」
怒らないという言葉とそれに代わる提督の考えに共感したのか、羽黒は今度は嬉しそうな顔をして提督を見ていた。
「俺は筋が通ってない怒り方はしないつもりだよ」
「ふーん……」
「おい川内。なんだその目は」
「別にー? そうやって今度は柔らかい態度を見せて私たちに取り入ろうとしてるんじゃないかなぁって、ね」
「せ……!」
上官に対しての不躾な言葉に真面目な五十鈴が注意をしようとしたが、それより早く提督の方が反応した。
「え? いや、それは無いよ?」
「……何か切り返し早くなかった? そうあっさり否定されるとそれはそれで複雑なんだけど……」
「もし取り入りたくても俺にはやらないといけない事が多過ぎて大変なんだよ……。ストレスで禿げそう。いや、もう禿げても気にしないけど。俺は純粋に前任者に対するヘイトが今ヤバいね」
「あ、あはは……。やっぱり僕も大淀が言っていたようにちょっと司令官が言っている事の意味が解らないな」
「まぁとにかく演習頑張ってねってことさ。はい解散解散。いってらっしゃいっ」
提督は手をパンパン叩いて執務室から艦娘を演習へ送り出すと、退出せずに傍らに控えていた大淀に向けて言った。
「じゃ、演習の結果だけ後で報告ちょうだい。終わったらあの子達を入浴でもさせといてね」
「提督は今から何をなさるつもりですか?」
「まだ昼まで時間あるからなぁ……。あっ、そうだ前に話した部屋の様子。君らの部屋の様子が見たい」
「ああ、そういえばそんな事言ってましたね。ではこれをどうぞ。全室対応の鍵です」
「ん? 俺一人で見に行ってもいいの?」
「構いませんけど? 私も先程受けましたご指示に対する準備とかもありますし」
「……あ、そう」
女性であるにもかかわらず自らのプライベート空間に、しかも自分以外の仲間に対しても責任を感じた様子もなく提督一人で視察に行っても構わないという淡白な反応をする大淀。
提督はそんな彼女の反応に自分が抱いていたある予想が現実味を帯びてきた事に渋い顔をするのだった。
一日に2回も投稿というのは本当に久しぶり。
文字数は少ないけど。