艦これの進め方   作:sognathus

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提督が艦娘に対して一番気になっていたこと。


51:悪魔

『艦娘の寿命、ですか?』

 

鳳翔との飲み会の翌日、提督はまだ誰も来ない早朝に静かに執務室に入ると、運営に電話をしていた。

電話の用件は、提督がここに連れてこられてから艦娘のことでふと頭にに浮かび、どうしても気になっていた事だ。

提督の重い問い合わせの内容に対して運営の口調は以前と同じく明るく軽い調子だった。

提督はそんな運営の態度に若干の不気味さを感じながらも、こちらも前職で得た対話用の口調で運営に相対した。

 

「はい、ちょっと気になりまして。もし教えて頂けたらと思いまして」

 

『ええ、はい。それはもう、そのくらいの事でしたら全く問題無いですよ』

 

「あ、そうですか。はは、いやぁ助かります」

 

(そのくらい、か)

 

『いえいえー。あ、それで艦娘の寿命に関して、でしたよね?』

 

「あ、そうです。正確には艦娘は今の見た目の状態から歳を取るのか、または寿命はあるのか、ですね」

 

『なるほど分かりました。えー、ご質問の答えと致しましては、歳は取りません。そして寿命は一応設定されていませんね』

 

「あー、やっぱり取らない……と、設定、ですか」

 

『あ、気分を害されてしまいましたか? もしそうでしたら申し訳ないです。しかしこの世界を管理運営する私どもと致しましては、表現的には適切でして』

 

「ああ、まぁ解りますよ。艦娘の子たちもそちらが提供されている手前、まぁ……いろいろしてるんでしょうしね」

 

『○○さんのご理解に感謝致します』

 

ここまでの話は凡そほぼ提督の予想通りだった。

何となく前の世界で持っていた艦娘が歳を取らないという印象がここでも同じではないかというのも当たっていたし、寿命がないというのもそうだった。

ただ寿命に関する運営の受け答えには、もう少し人間的なものを期待していたのだが、まぁそれも予想の範囲内だった。

だがそれでも寿命に関する疑問は、この回答だけでは完全に満足したわけではなかったので、「もしよろしければ」と断って提督は続けた。

 

「精神面ではどうなのでしょう?」

 

『あ、それですね。私の方でも先にお話ししようと思っていたんですよ』

 

「先に?」

 

『はい。本当は以前お話しした時に一緒にお伝えした方が良い内容だったんですが、いやぁ、申し訳ないです。失念していました』

 

「あ、そうでしたか。いえ、では今教えて頂けたら」

 

『勿論です。あー、まずですね肉体の見た目に対して精神もなるべく安定するようにはしてありますが、正直に申しますとここの部分は確かな経年の影響があります』

 

「……先に答え合わせをするようですみませんが、それって駆逐艦の子とか、その……危うい感じがするのですが」

 

『お察しの通りです』

 

運営は提督の推察に感心したような声で言った。

 

『駆逐艦のような小型の艦娘は、一部の子を除いて経験から成熟する精神に対して肉体の変化の無さに軋轢のようなものを感じるようになることが多々あります』

 

「…………」

 

これも何となく予想していたが、僅かに持っていた救いがある回答への期待が敢え無く否定されたことによって、失望感から提督は一瞬反応することを忘れてしまった。

一方運営は、この時の提督の心中を受話器越しでは察することができなかったのか、構わず話を続けた。

 

『駆逐艦は初期はとにかく従順で素直な傾向の子が多いので提督の方も接し易いのですが、時が経つにつれ先程お話しした症状によって精神に異常をきたす可能性が高いです』

 

「その辺の対策としては……愛情、とかだったり?」

 

『そうですね。ケッコンは大きな助けになっているようです』

 

「でしょうね。しかしまぁそれはそれで何というか、環境的に調整が必要になるというか……」

 

『ええ、仰っしゃりたいことは解りますよ。特定の子だけへの寵愛が全体の不和に繋がってしまう要因になってしまう事も十分に考えられます』

 

「ハッハッハ……」

 

提督はもう笑うしかなかった。

正直言って艦娘のメンタルケアと自分自身の安全確保を常に意識させられることで、どれだけ精神が摩耗していくのか分かったものではなかった。

だがだからといって今あらゆる責任を放棄して逃げるつもりも……元より方法なんて浮かばなかったが、まだこの時の時点では良心がそれを咎めた。

要は何とか自分やゲームの事を知っている者にしか共感することは難しいこの綱渡り的な状態の均衡を、何とか維持していかなくてはならないのだ。

オタクやアニメ好きなら誰もが思うだろう。

可愛い女の子や男の子に囲まれた環境は最高だと。

しかしそれはよほど作り込まれた世界観や出来た性格を持つ登場人物がいないと成り立たないものだ。

提督は今それは痛いほど実感していた。

そりゃ彼だって頭空っぽ、阿呆となってそんな環境で日々を過ごせたら幸せだと思う。

だが実際そう上手く行くことなんて砂漠の砂の一粒くらいに可能性は低いだろう。

特に艦これのように公式の細かい設定がほぼ無く、その部分を殆どファンの想像力によって支えられている作品は、ただただ自分が頑張るしかないのだ。

 

『○○さん? ○○さん? どうかされましたか?』

 

「……っ」

 

どんどん膨らむ懸念に気が遠くなりかけていたところで、運営の心配する声で我に返った提督は、その日はそれ以上話をする気にはなれず「分かりました」と言葉短に最後にお礼だけ述べてから電話を切った。

 

 

「…………」

 

提督は机の引き出しから煙草とライターと灰皿を出すと無言で一服を始めた。

椅子の背もたれに深く体重を預けた提督は、天井で漂う自分の口から出た紫煙をぼーっと眺めながらただただ物思いに耽る。

これからどうしようか、どうしていったら良いのか。

艦娘が寿命がないからといってずっと此処で提督であり続けるとも考えられなかったし、それ以前に人間である自分の方が先に寿命で死ぬという点については何かあるのかなど、次々といろいろな悩みが浮かんできた。

否、実は自分の寿命については、もしかしたらと予想していたことがあったので、それは後日また運営に確かめる事にした。

しかしそれでもそれ以外の殆どのことで悩んでしまう事には変わりなかったので、結果的に精神を疲労した提督は再び喫煙しようと灰皿に置いていた煙草に手を伸ばした。

と、そんな時に扉を叩く音がした。

そんな些細事でも気が紛れたことを有り難く思った提督は、拒むこともなく入室を許可した。

入ってきたのは皐月だった。

彼女は部屋で一見寛いでいるように見える提督の顔を見るなり、途端に心配そうな顔になって彼の元に駆け寄ってきた。

 

「大丈夫? なんだかすっごく元気がない顔をしてるよ?」

 

「ん……?」

 

どうやら自分が部屋を訪れた子が用件を二の次にして心配をしてしまうくらい良くない顔をしているらしい事に気付いた提督は、その場を取り繕うように椅子に腰掛け直し、努めて平静を装って皐月に顔を向けた。

 

「ああ、ごめんよ。ちょっと考え事をね。で、どうかしたの?」

 

「謝ることなんてないよ。部屋が静かだったからちょっと気になって……」

 

「ああ、そうか……」

 

その時提督は、灰皿に置いていた煙草が再び咥える前にすっかり全て灰になっていた事に気付いた。

自分が思ったより長く物思いに耽っていたことを知った彼はバツが悪そうな顔で無精ひげを掻く、そんな自分を心配そうに見る皐月へ自然と手が動いた。

 

「司令官?」

 

ぽん、と軽く自分の頭に乗ってきた大きな手に一瞬驚いたものの、直ぐに目で「どうしたの?」と尋ねてくる皐月。

提督はそんな彼女のあどけない表情を見て無意識に頬を緩ませると、程なくして手を離して言った。

 

「まぁ……頑張るか」

 

「?」

 

提督の意図が全く掴めなかった皐月は、ただただ不思議そうに彼を見つめていた。

だが視線を自分から窓の外の風景に移して寛ぐ提督のその表情は、最初に見たときよりは明らかに良くなっているように見えた。




俺はお盆が好きです。
お盆の雰囲気が好きです。
一年で一番好きな期間かもしれない。
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