話はたくさん頭に浮かぶけど、形にするのは即面倒というね。
「知ってますよ」
「……」
やっぱり最初に相談したのは大淀だった。
彼女は提督の話を聞いている途中で直ぐにその内容を察し、更に既に知識として持っていることも明かした。
提督はその事に一瞬驚いたものの、よく考えれば知っていても不思議ではない気もしたので、動揺はそれほど態度には出なかった。
「あぁ、知ってたんだ」
「えぇ、自分たちの特性を知っているのは当然です」
「それってセックス……いや、まぐわい? で人の寿命が伸びるっていうこともその特性として知っている?」
「実は、幼い艦ほど寿命が無いという事を含めてその知識が乏しい……気がするというのが私の印象です」
「おお、なるほど?」
「提督は寿命で死にたくないんですか?」
「ん……ん」
唐突ではあったが、彼女らしくも感じたそんな不意の大淀の問いに提督も直ぐには言葉が出なかった。
その問いは彼にしてみれば『セックスしてでも今のまま生きていたいですか』という大淀に持ちかけた相談の本質を突くものであったからだ。
提督を見る大淀の表情は真面目で、その瞳は真っ直ぐに彼の目を見つめていた。
一見、彼女から嫌悪感や忌避感といったネガティブな雰囲気は感じなかった。
その様子はただただ純粋に提督の反応を待つ出来る部下、同僚といった感じだ。
だからこそ提督は焦ることなく落ち着いて自分がその時思っていることを話すことができた。
「結論を言えばまぁ自分だけ老いて先に死ぬのは嫌だよ。まぁかといって寿命を伸ばすために艦娘とまぐわうという手法には、あくまで俺の中の常識や倫理観的に……
「引いてる?」
提督の言葉に大淀は怪訝そうに眉を顰める。
その反応を見て提督は、最初は自分の考えが理解し難いのかと思ったが、直ぐに自分がさっき使った「引いてる」という表現が今いる世界の時代に合わないかもと察した。
ちゃんと言葉を作れば理解できるだろうが、よくよく考えてみれば昭和初期っぽい雰囲気の世界にに「引いている」という表現はあまり使われていない、もしくは合っていないかもと考えればそんな気もした。
「あー……えっと、違和感を拭えない、かな?」
「あ、はい」
「男だからっていうのか、まぁ艦娘は女性型だけど、人間なら性別関係なく性欲はほぼ持っているものだからまぐわうのが嫌っていうのはよほど無い。けどさ、それが何を達成するために必要な手段となると、なんでやねんってね」
「は、はぁ……」
「いやまぁ、結果としてヤレば寿命は伸びるんだろう、少なくとも此処では。うん、それにはもう何も文句言わないことにした。納得、納得した。でもだからってよしヤルかって考えには……ねぇ?」
「提督は、
「ん? うーん、まぁ……それもあるし、それに加えてほら、大淀なら解るでしょ? 例えば寿命を伸ばす為とはいえ肉体関係を持つってのは、特定の子か同意の上なら誰とでも、のどっちがマシだと思う? どっちが安定した鎮守府の運営ができると思う?」
「……」
提督の期待通り大淀は提督の懸念を即理解した。
彼は人間として、人の形をしているとはいえ基本人外の
そして自分も人の枠から外れることにも……。
大淀は言葉を発する合間にファイルを僅かに力を込めて持ち直し少し過去の事を思い出していた。
(前の提督はそんな気遣い……いや、それどころかそんな不安を見せることすらなかった。でも今私の前にいる人はまた違う。人間は……男は大方そうかもって思ってたけど、流石にそんなに単純なものじゃないのね)
大淀は一度目を閉じて小さく息を吐くと、再び最初に彼に問いかけたように真面目な顔で彼を真っ直ぐ見据えて言った。
「提督、ご懸念は理解しました。その上で私個人の意思表明を致します」
「うん」
「私大淀は、必要として頂ければ提督をお支え致します」
「……うん、有難う」
『支える』という言葉に替えて提督の助力になると言ってくれた大淀の申し出を提督は素直に有り難く思った。
まぁだからといって、これから遠慮なくという考えになったわけではないが、それでも気分としては喉の奥に引っ掛かっていた小さな小骨が一つ取れた気分になった。
提督は話はこれで終わりとばかりに固まった身体を解すように一度大きく伸びをすると、そのままくるりと椅子を回転させて窓の外の景色を観ながら言った。
「さて、どうなるかねぇ……」
「それは
何故か無意識に穏やかな笑みが浮かんでいた大淀は姿勢を正してそう言った。
何か(個人的に)最終回みたいな雰囲気ですね。
もうこれで終わりでも良いかとも。