あんまり数は見たことないけど、韓国映画とは異なるベクトルの凄まじいパワーを感じる。
これはそんな映画に新たに魅せられた女の子のお話。
またお前か(笑)
映画の上映が終わった後は恒例の感想会が艦娘たちの間で始まる。
「しかし活動がこんなに簡単に見られる上に色がついていて音まで聴けるなんて未だに驚いてしまいますね……」
「そうですか? 音声付きの活動なら内地にもあると思いますけど」
「それはそうだけど、ここまで映像の流れに沿った綺麗な音ではないでしょう?」
「ああ、まぁそれは確かに。それに……」
「色」
「加賀さんは今もそれに感動するんですね」
「図らずも高揚してしまいますね気分が」
「そうじゃないでしょう!!」
加賀と榛名がそんなことを喋っていると外野から唐突に批判の声が割って入ってきた。
声の主は映画に触れたことで何かが変わってしまった代表格の一人である羽黒であった。
彼女は二人がなかなか映画の内容には触れない事が気になってしまいつい口を挟んできたのだった。
羽黒は自分の介入に驚いた二人が意識と視線をこちらに向けたのを確認すると、自分の膝をパシパシ叩きながら彼女達に諭すように言った。
「お二人共そこはそうじゃないでしょう! いえ、色鮮やかな画と迫力のある音に感動するのは私も解りますよ? でもそれはいつでも言えるじゃないですか! ならどうするべきか、それは映画を観た後の様々な余韻について熱く語るべきなんじゃないですか?!」
「熱くというのは前提なのね」
「まぁ確かに思わず胸が熱くなったところは多々ありましたけど。榛名はどちらかというと各所に差し込まれた歌や踊りがとても楽しそうで良かったと思いました」
「ああ、確かに観ていたら唐突にそういうのが始まったりしたわね。私も最初は面食らって困惑したけど、何かこう途中から雰囲気に引き込まれてしまったのよね」
そういうと加賀はそんな各所のシーンを思い出したのか口元に手を近づけて少し笑う。
しかし羽黒はそんな二人の感想がお気に召さなかったらしく、まだ不満げな表情でそれもそうですけど、と自分の感想を言った。
「はぁ、解ってません! いえ、お二人の感想が誤っているというわけではありませんが、少なくともこの映画の見どころはそこではないでしょう!」
「というと?」
「あ、いいです。榛名解りましたから言わなくていいで……」
加賀は純粋に羽黒の意見に興味を持って、それに対して榛名は明らかに呆れた様子で半目になって羽黒の話を切ろうとしたが、彼女はそれを遮って言った。
「それはやっぱり登場人物(男だけ)の筋肉が隆起してそれを盛り上げる音楽が炸裂する場面、そして各所に吹いていた魅せるための『風』でしょう!!」
「…………」
「ちょっと何を言っているのか解らないわ」
蛮人を見るかのような冷たい目で羽黒を見る榛名と眉間に皺を寄せて困惑顔の加賀。
だが羽黒はそれにも構わず震えるほど拳を力強く握りしめて続ける。
「あの主人公が倒れようとする巨大な像を一人で縄を掴んで止めた場面を覚えてますか!?」
「ええ、覚えているわ。ちょっと現実離れしていて思わず失しょ……」
「良かったですよねあの場面! まるで救世主が現れたみたいな注目を主人公が集めたところ! なんか視線が最早信仰に近い感じがして、音楽の良さも相まって思わず私魅入っちゃいました!」
「……筋肉関係ないじゃないですか」
的確な榛名の指摘だったが羽黒はそれを意に介さず熱弁を続けた。
榛名のこめかみにぴくりと小さく青筋が浮かんだ。
「それに風ですよ風! 敵対した主人公のお兄さんが纏っていた布を風に任せて手放した場面も良かったですよね! あの自然に鍛えた感じの背筋の滑らかな出来には思わず息を呑んじゃいました!」
「ああ、あそこもなかなかだったわね。あんな大きな牛を男とは言え一人で組み伏せたところもちょ……」
羽黒が言っていたシーンを思い出して加賀は再び小さく笑いながら自分の感想を言おうとしたが、すっかり映画を観て興奮する気持ちが再燃した羽黒は止まらなかった。
今までの様子から察するに、どうやら加賀は今回鑑賞した映画は羽黒とは異なり、純粋に非現実的な展開に対してツッコミ的な側面から面白く感じたようだった。
「私、実は主人公さんよりお兄さんの方が好きなんですよね!」
「え? お兄さんって主人公の方と敵対していた悪い王様の方ですか?」
ここにきて羽黒の感想に虚を突かれた榛名が目を丸くして不思議そうに訊いた。
彼女の言った通り劇中の主人公の兄とは物語においては明確に主人公の敵として描かれた悪の王であった。
魅力的なキャラクターだったくらいならまだ理解できたかもしれないが、それを好きだと言い切った羽黒の心中が純粋に榛名は気になったのだ。
そんな榛名と問い掛けに羽黒は満面の笑みを浮かべて答えた。
「はいそうです! その悪い王様の方です!」
「……一体どうして主人公の方より好きなんです。あんなに主人公の方やそのご家族に対して酷いことしたのに」
「確かにその所業は決して好感が持てるものではありません。でも私は、そんなお兄さんの方のこう、弟を好ましく思ってない感情に対して素直なところとか、地味に地を這うようにしっかり悪役を全うしてるとか……」
「とか?」
「とか、なんです?」
ここまでなら二人にもまだ何とか少しは理解できた。
確かにここまでなら「うちの妹は……」とよく姉にため息をついて愚痴られる少しアレな羽黒らしい。
だからこそ彼女が悪役が好きだと言う最後の決め手となるところが加賀と榛名は気になった。
そんな二人の神妙な様子に気を良くしたのか、少しの間を設けた後に羽黒は目をキラキラさせながら言った。
「野蛮なところです!!」
「……」
「……」
羽黒の言葉に二人は絶句した。
その中でいち早く立ち直った加賀が頭痛に耐えるかのような仕草で片手で額を押さえながら羽黒に訊いた。
「ごめんなさい。一体どういう事かしら? 野蛮なところが好き、と聞こえたのだけど?」
「そうです野蛮なところです! もうなんなんですかあの敵にも味方にも容赦ないところ。戦い方や武器だってそうです。鈍器で殴ったり叩き潰したり杭を叩き飛ばして貫いたり……。主人公さんの鮮やかで高潔な戦いも良かったけど、私はお兄さんの容赦のないこれぞ実戦という感じが本当にす……」
「この野蛮人」
「は?」
冷たく鋭利な榛名の言葉が羽黒の話を断ち切った。
案の定羽黒はそれに直ぐに反応して剣呑な目で榛名を見る。
気の弱い艦娘がその視線を受けたら思わず目を逸らしそうな険がそれにはあった。
事実、その部屋にいた多くの者が彼女達から既に視線を逸らしていた。
「榛名さん、今何と言いましたか?」
「野蛮人と言ったんです。羽黒さん、前にも同じことを言った気がしますけど、やっぱり貴女のその感性は少し品がなさ過ぎる気がします」
「は? 品性? 命を懸けた戦いに品性を意識するなんてそれこそ私は榛名さん、貴女はちょっと幼稚だと思いますけど?」
「あっ、早とちりしないでくれませんか? 命のやり取りをする時にそういう余裕が持ち難いというのは私も解ってますから。私が言ってるのはですね羽黒さん。貴女はそれを別にしても普段から女性としてアレというか野蛮だと言ってるんです」
「うーん、それも早とちりだと思いますよ。私、確かに映画とか観た後だとつい熱くなっちゃう時ありますけど、別にそれ以外ではそれなりに落ち着いていると思いますよ?」
「え? ただ落ち着いているだけで開き直らないでもらえますか? 少なくとも女性らしい華が圧倒的にありません」
「は? 華? ああ、御洒落のことですか? まぁそれも解りますよ私も女なので。でも榛名さん、このご時世に御洒落がどうこう言うのは流石に世間知らずというか……」
「は?」
「え?」
段々最初の指摘から単なる口喧嘩になってきた事を注意する者はいなかった。
「大淀、手が出そうな雰囲気になったら鳳翔呼んでね」
「畏まりました。あの、ところで提督」
「ふん?」
「その……羽黒さんが言っていた御洒落の事なんですが……」
耳に入ってしまうと意識しないでいるのは難しかったのだろう。
気まずそうにそう言う大淀に提督は笑って答えた。
「いやまぁ、実戦に出る子以外はそんなに意識しなくていいんじゃないかな」
「そ、そうですか」
その言葉に大淀以外の艦娘はホッと小さく安堵の息を吐いた。
(目に見えない下着も御洒落の内に入るのかしら……?)
いつかの提督からの問いに下着を買ったったと即答した加賀だけは、一人そんなことをマイペースに考えていた。
設定とか登場人物の項はいらないかなって消して早速後悔。
消す前にどこまで艦むすが登場していたかせめてメモに控えるべきだった……。