予想通りというか、予想通りでも唖然とするほどに彼女たちの普段は無骨だった。
「何だこりゃ。営倉か」
艦娘の部屋を覗いて先ず受けた印象がそれだった。
否、それしかなかった。
あまりにも衝撃的だったので提督は扉を開けて部屋を一目見た後、他の部屋も同じ感じなのかを先ず確認した。
(同じだった……。これは酷い)
艦娘に割り当てられた部屋は無機質な金属の壁が目立つ囲いの中に簡易ベッドと小さなユニットバスと洗濯機、そして小さな箪笥だけが配置されたそれはそれは簡素で寂しいものだった。
(まるでいつか見た汎用人形決戦兵器もののアニメに出てくるヒロインの部屋みたいだ)
提督はきょろきょろと部屋の中を見渡すが何処も目を引くものは何もなかった。
(本とかちょっとした小物くらいあるだろうと思っていたけどそれすらもないとは……ん)
外から見ただけではどれも同じであるが箪笥の中身は見ていないことに提督は気付いた。
中に何が収められているかなど判りきったことであったが、このような状況故にもしかしたらと確かめたい強い気持ちに提督は駆られた。
(下心は無いとはいえ罪悪感これキッツいな……)
憔悴した気分で心を決めた提督は箪笥の引き出しを順々に上から開けていく。
「……」
引き出しに入っていたのはやはり艦娘用の制服や寝間着、そして下着といったものだった。
(制服はともかく寝間着と下着これ……まさかもしかして)
何かに思い至った提督は他の部屋のタンスの中身も確認して回った。
「……」
(サイズは当然違う……違うよな? 流石に手に取ってはいないけど流石に違うだろ。まぁデザインも色も全部同じだった。全部白色で凄くシンプル)
これらの事実に提督は、少なくともこの鎮守府にいる艦娘に関しては軍からの統一された簡素な支給品のみしか充てがわれてないと結論した。
(んー……兵器としての側面を意識してるのかな。個性が育たないようにしているんだろうか。単純に前任者がその辺も矯正していたという可能性もあるし……)
悩んでも埒が明かなかったので、提督は海軍本部の問い合わせ先に艦娘に関する窓口がないか執務室に戻って調べる事にした。
「あ、提督。お早いお戻りですね。まだ演習は終わってませんよ」
「ん、そっか」
提督は大淀の方は向かずに短く相槌を打つと部屋に置かれた本棚を探し始めた。
「今度は何をされたいんですか?お教え頂けましたら手伝いますよ?」
「いやさ……」
大淀の気遣いに提督は有り難く飛びついた。
「ああ、それでしたら。この提督用の教本の中にあるかと」
「ああ、この橙色のやつ?」
「いえ、その横の青色のやつです。2番と表紙に書かれた」
「ああ、これね」
「そんな事を調べて一体何を確認するおつもりですか?」
「……ちょっと待ってね……。なんかそれっぽいの……。軍務……軍務か? いや……あっ、きっとこれだ」
「?」
怪訝な表情で提督が見ているページを大淀が覗き込むと彼の指がとある部署の連絡先を指しているのが判った。
「労務部艦娘課?」
「うん。きっとこれだ」
「そんな所に連絡をして一体何を……」
「……大淀ってここがどういう役割を持つ部署か知ってる?」
「いえ、詳しくは……。でも部署名から察するに私たち艦娘の服務規程に関して問合せができる窓口かと考えますが」
「俺としてはそこまで堅苦しくない事を祈るけどね。さて、電話……おっ、IP電話が使えるのか」
「……?」
また提督がよく解らない事を言い始めたので大淀は不満顔だ。
「どうしてこの人の口からはこうも妙な言葉が出てくるのだろうか」とでも言いたげな眼差しだった。
「あっ、もしもしお疲れ様です。私、○○鎮守府の提督を拝任しております……」
軍人らしいハキハキした言葉遣いというよりは、やたら
「はい……はい承知致しました。それでは後ほどお教え頂きましたフォームを使用しまして……。はい有難うございました。失礼いたしますー……」
カチャリと提督は受話器を置くと、彼は一度だけ「ふぅ」と息を吐いた。
その顔はどことなく気疲れしているようにも見えたが、それと同時に何かの成果を出せたのか満足げな笑みも口元に浮かんでいた。
(あ、この人の笑った顔初めて見た)
大淀はそんな小さな驚きを胸に秘めつつ提督に訊いた。
「一体何を問合せされていたんです? 艦娘の私物がどうこうとか仰っていた気がしますが」
「ああ、うん」
提督は大淀の方に向き直ると質問に答える前に先に確認させて欲しい事があると大淀に言った。
「? 何でしょう?」
「大淀って何か欲しい物とかある?」
「え?」
「だから自分から何か欲しいとか考えた事ってある?」
「……? これは抜き打ちの評価面接ですか?」
「全然」
「では、日本海軍の勝利を常に望んでいます。と言っても意味はないんでしょうね」
「まぁそうだね」
「……」
「特に思い浮かばない、か」
大淀の悩ましげな様子に答え合わせをした。
「まぁあの部屋を見ればそれも納得だけどね」
「あの、提督……?」
「いや俺さっきさ、艦娘に職務に支障が出ない範囲で私物を収集したり所有する事は認められているのかを本部に訊いたんだよ」
「は、はぁ……」
「そしたら本部の人さ、当然それは認めているし、元々艦娘への給与がその権利を行使する為のものなのですが、まさか知らないんですかって俺を逆に叱ってきたんだよ」
「え、えぇ……?」
「前任者は大淀たちへの給与を全て自分の為に着服していたらしい。艦娘に行き渡っていたのは全部備品として本部に申請できる簡易な支給品だったわけさ」
「まぁそうだとしても私達は特に不自由はしてませんでしたけど……」
「不自由してなかっただけで何も楽しくはなかっただろう?」
「楽しい?」
「まぁ着服されていた分の給与返還もこれから申請するから、お金を貰ったら使いみちをいろいろ考えてみなよ」
「元々此処には使い道が無いと思うのですが……」
それを聞いた提督は「あ、そうか」と手をポンと叩くと。
大淀に手招きをして自分が使っているスマホを見せて用途や使い方を説明しようとしたのだが……。
「? この黒い板が何か?」
「え?」
大淀の言葉に驚いて自分が見ると普通に起動していた。
「いや、画面点いてるけど?」
「画面?」
大淀が覗き込もうとすると今度は提督の目の前で画面が確かにプツリと消えた。
「……」
(なんだこれ。大淀の干渉を拒絶している? もしくは艦娘自体……?)
「あ、あの……」
こうもあからさまだと大淀も自分に原因があると思ったらしい。
彼女は申し訳無さそうに提督になんと言ったら良いか言葉に困っているようだった。
「悪い。どうやら提督専用に支給された物についてはかなり高度なセキュリティ機能が搭載されているみたいだ。後で艦娘用のパソコンとかスマホは用意できないか調べてみるから、使い方とかはその時に」
「わ、分かりました。ありがとうございます……」
「取り敢えずそれらが用意できるまでは、俺が代わりに欲しい物があったら注文して取り寄せてあげるよ。って言っても欲しい物が思いつかないんだっけな」
「……すみません」
「いや、気にしなくていいよ。ま、趣味を持つきっかけになったらって事で全員分何か俺の方で少しでも気が利いたやつを用意してみるよ」
「あ、じゃあかかった費用についてはその貰えるはずだった全員のお給与から天引きしといて下さい」
「了解。ま、そんなに高い物は選ばないつもりだから大丈夫だよ」
艦娘たちへの同情心からここまでの配慮と提案をした提督であったが、実はこの時点で若干焦りにも似た後悔をしていた。
(年頃の女にウケる物なんて知らねーよ。変にシンプルなアクセサリ選んでもダサいとか思われるかもしれないし……。なんか適当な実用品で良いか)
提督は自分のスマホとパソコンから通信販売が利用可能である事を心の底から祈るのだった。
予告より遅くてスイマセンスイマセン……
何か親切な提督を書いているとむず痒い気持ちになって筆が止まってました