――悠久の時。変化の少ない円環世界では、定期的に様々な催しものが行われていた。戦闘技能を競う武闘大会もその一つ。不動の女帝として巴マミが君臨していた。
「勝者!リリス!」
レフェリーであるサングラスに黒い背広の魔法少女が叫ぶ。
紫色のショートカットに赤い蝙蝠羽根の髪飾り。やはり背中に赤い蝙蝠羽根に赤いレオタードの恰好の小柄な少女が、盛り上がる観客に軽く手を振る。
「破竹の勢いで勝ち進む新参のリリス選手ッ!如何ですか?」
「そうだね。トップ集団に食い込むのは間違いなさそうだね」
顔に傷跡のあるシルクハットを被った進行役の少女に答えるのは、前下がりボブの黒髪。右目に眼帯、黒い装束という呉キリカだった。彼女自身そのトップ集団の一人ではある。
「キリカさん。彼女と対戦したとすると?」
「勿論、負けるつもりはないよ」
「なるほど……」
しかし。キリカは眉をよせる。あのリリスという娘、違和感がある。この場にいるのだから魔法少女のはずなのだけれど、そうでない気がする。そんなイレギュラーの侵入といった事態なら、円環様が対処してくれるはずだが……。
*****
「油断しすぎだよぉ?」
マミの耳元で二人のリリスが囁く。
「えっ!」
笑みを浮かべた二人のリリスは、間に挟んだマミに連撃を叩き込む!
――番狂わせに連勝したリリスはマミと対峙し、大技を決めたのだった!
「決まったーッ!リリス選手のルミナスイリュージョン!」
ルミナスイリュージョン。限定的に分身を出現し、本体と分身で相手をボコ殴る必殺技!大技を決めたリリスは、大ダメージを受けよろけるマミを見やる。
「まあ、あの程度で落ちるマミさんではありえないけどね」
静かに微笑む、キリカの視線の先。
「よっくもまあまあ、やりにもやってくれたわね」
マミの口角が不吉に歪む。
そして無数のリボンがリリスに伸び、繭のようにぐるぐるに抑え込む!
「そして、決まったーッ!ここからのティロ・フィナーレで安定の必勝だーッ!」
実況の少女が絶叫する!
しかし、隣のキリカは不穏な圧を感じていた。
「…………」
マミも当然それを察し、リボンの繭を観察する。
びりっ。びりり!
やはり。繭は四散する!
「うふっ!あんまり愉しそうなんだもの。我慢できなくなっちゃった!」
出てきた人物は緑色の長髪と、豊かな胸にくびれた腰、大きな臀部という凄まじいスタイルの女。赤い恰好は黒となり、陽気な眼差しは静かでしっとりしたものと変わっていた。
背中の黒い蝙蝠羽根を広げ、優雅に舞い降りた。髪が揺れる。
「なにいいーッ!リリス選手ではないッ!なにが起こっているーッ!!」
実況少女の絶叫が響く!
「ごめんなさいね。私はモリガン・アースランド」
「…………」
「そんなに怖い顔しないで。ね、愉しみましょ?」
最大限の警戒に睨みつけるマミに、モリガンはこぼれるような満面の笑みを浮かべた。
モリガン・アースランドは魔界に君臨する魔族三大貴族が一角、アースランド家家長であった。夢魔であるがゆえ、夢を通じてさまざまな精神世界に入り込むことができ、いつしかこの世界にも迷い込んだのだ。まどかとはすでに交友があり、度々この世界に訪れていた。
リリスは彼女が内に秘める、もう一つの人格だ。
「リリス選手ッ!まさかの第二形態だーッ!」
歓声が沸き起こり会場が盛り上がる!マミは不機嫌そうに眉をよせた。
「ふうん。ほんとにやってくれるわね。悪いんだけど、やられっぱなしは性に合わないの」
「うん?」
モリガンの愉しそうな視線を受け、マミは顔の横で右手の指を鳴らした。
すると、光り輝く無数のリボンがマミを包む!
光の収まったそこには、頭に王冠と白く長いヴェール。純白の装束に裏地の赤い白いマント。矢を模した光輪を背負ったマミがそこに居た。
「でたーッ!う、ウワサのホーリーマミさんだーッ!」
会場は更なる興奮に沸騰する!
ああ、マミさん。目立たれたのがそんなに悔しかったんだ……。キリカは肩をすくめた。
「じゃあ……」
「第二ラウンドといきましょう!」
黒い蝙蝠羽根を広げたモリガンと、光輪を背に白い衣装を揺らすマミは、嬉しそうに微笑み見つめあう。
――こうして。円環武闘大会史上、伝説の一戦が幕を開けたのだった!
*****
いままでにない激闘の末の決着に会場は爆発していた!
闘っていた二人は互いの健闘を称え、会場はそんな二人に惜しみない拍手を送る!
そこに桃色の人影が舞い降りた。
「モリガンさんになっちゃ駄目っていったよね?資格はく奪の反則負けです!」
「えええー!」
円環女神まどかの宣言に、会場は騒然とする!
「ええっ!ちょっと!まどかちゃん!それはないでしょ?」
「リリスちゃんならいいけど、モリガンさんは少女じゃないですよね?」
「そんなことないわよ!私もほら、少女なのよ?」
「そんなにいろいろ成長してて、よくいいますね……」
まどかはじっとりした視線を、モリガンの魅惑の肢体に向けた。
「あ、あらっ!この娘だって同じようなもんでしょ?」
「なっ!」
モリガンに抱き着かれたマミは驚きに目を丸くする。
「むむ!とにかくだめです!」
円環様は機嫌悪く宣言した!
――これがっ!後世まで語り継がれる円環武闘会での、伝説の無効試合であったっ!
毎回ファイトオチもなんなんで、けっこーかえてしまいマミた。
モリガンさんの解説を本文にいれました。