するりとほむら宅に侵入したキュゥべえは、慣れた様子で奥へと進む。
そして薄暗い応接間に座るほむらを見つけた。コンビニで買ったのだろうか。小さなショートケーキ、とりの唐揚げ、カフェオレのペットボトルがテーブルの上に並んでいる。食事中だったのかもしれない。
俯き加減に下を向き、その目は半眼。伏せられた睫毛に覆われた瞳に光は無く、なにを見ているのかもよくわからない。
無表情に手に持ったプラスティックの小さなフォークでゆっくりと、ひたすらに、ケーキを突き刺していた。
ずいぶん長い間そうしているのだろう。ケーキは無残なことになっていた。
キュゥべえは赤い目を瞬かせてその様子を暫く眺めた後、ゆっくりとほむらに近寄る。
「やあ、ほむら。なにをしているんだい?」
「……キュゥべえ来てたのね。今日は何の日だか知ってる?」
「ああ。まあね」
「……メリークリスマス、キュゥべえ」
ほむらはキュゥべえに顔を向けるようなこともなく。相変わらずケーキを突き刺しながら、心ここにあらずの様子で受けこたえた。
「メリークリスマス、ほむら。それでケーキとチキンかい?」
「……ええ。そんなところよ」
「そうか。怪しい儀式ではなくてなによりだ。マミが魔法少女達とクリスマスパーティーをしているようだよ」
「……そうね」
「クリスマスを楽しみたければ、そっちにいってみてはどうだい?」
「……賑やかすぎるのは苦手なの」
ぷすり。ぷすり。
力なくケーキを突き刺し続けるほむらの様子に、キュゥべえは首を傾げた。
「君がその様子じゃ脳内フレンドまどかも心配するんじゃないかい?」
「……どうかしらね。クリスマスなのだもの。ほっておいて頂戴」
ほむらはケーキを刺し続ける。
「ほむら。君は入院生活が長かったらしいから、常識の欠如が多くあるけれど。クリスマスの楽しみ方もわかっていないようだ」
「…………」
「どれ、景気づけにぼくが歌でも歌ってあげようか?」
「!」
キュゥべえの言葉にほむらがびくりと反応した。俯き流れる黒髪に顔は隠れていたが、不気味に光る双眸と口角を上げた不吉に歪む笑顔がキュゥべえに向けられた。
「あら。折角だからおねがいしようかしら?」
「!」
ほむらの予想外の反応に、キュゥべえは目を瞬かせる。
「歌ってくれるんでしょ?おねがいねっていってるのよ」
「…………」
異様な圧を発しつつにじり寄るほむらに、キュゥべえは後ずさった。
「あなたたちは嘘は言わないのでしょ?なら、歌ってくれるわよね?」
ほむらはさぞ楽しそうに、にまりと微笑んだ。
「やれやれ、ほむら。君は図太くなったというか、性格が悪くなっていないかい?」
「そうね。すっかりあなたのお陰かもね」
「君が面と向かってお礼を言うとかどうしたんだい?なにか変なものを食べたのかな?でも、面倒くさいし迷惑だよ」
「そういうところだっていってるのよ」
そうしてほむらとキュゥべえがじりじりと睨み合っていた時、玄関のチャイムが鳴った。
「ほむらー、居る?」
尋ねつつもずかずか入り込んださやかは首を傾げ、長い青髪を揺らした。
「さやか。あなた、上条君のコンサートだったんじゃないの?」
「あ、うーん」
ほむらの問いにさやかは複雑そうな表情を浮かべ、頭の後ろを掻く。
「恭介は今日の主役だからね。忙しそうだったから帰ってきちゃった。でも演奏はすっごかったよー!」
目を閉じ頬を赤らめ、胸を抱き幸せオーラ全開にくねくねするさやかに、思わずほむらも呆れるように微笑む。
「それでキュゥべえ。哀れな様子で餌をつついている珍妙な生物ってなに?どこで拾ったのさ。どこのこ?」
「さやか。君の目の前にいるじゃないか」
「え?」
キュゥべえの答えに、さやかは目を瞬かせる。その前にいるのは……。
「え?ほむらのことなの?……ぷぷっ!」
「!」
そのやりとりを聞いていたほむらは怒りに震えつつ、ぎりぎりと音を立てるように首を回しキュゥべえに視線を向ける。
「ぼくは本当のことしかいっていないけど?」
その視線を受けてキュゥべえは平然といってのけた。
「言い方!言い方に問題があるのよ!あなたは!いつも!」
「適切に簡潔だと思うけど?わけがわからないよ」
「あはっ!あははははっ!ひーっ!」
睨み合うほむらとキュゥべえを、さやかは指さして大笑い。
ぴんぽーん!
その時、再びチャイムが鳴る。
「おーい!珍妙生物!またへこんでるんだって?肉餌持ってきたから元気だしな」
どうやら杏子も来訪したようだった。
「あら佐倉さん!暁美さんのとこに珍妙な生物が出現したのですって!ぜひとも撮影してムーかアンビリーバボー!に投稿しなきゃ!」
続けて浮ついたようなマミの声が響く。
「近所迷惑もいいところだよ。早いところ入ってもらった方がいいんじゃないのかい?」
キュゥべえの言葉にほむらは眉をよせ、特大のため息をひとつ。玄関を開けた。
「メリークリスマス。寒いからさっさと入って頂戴」
「めりくり!ほむら」
「メリークリスマス。暁美さん!」
家主は挨拶をかわし、客を招き入れた。
ほむらは扉を閉める前に視線を上げる。寒空に星が瞬いてた。吐く息が白い。
「ほむらー!」
自分を呼ぶ声にほむらは慌てて扉を閉め、友人たちの元に向かった。
――そしてその聖夜は、賑やかなものとなったのだった。
*****
円環世界。
「さて!今日はクリスマス!およばずながらイベントを準備したよ!」
まどかが魔法少女達に思念を飛ばし、魔法少女達に歓喜が広がる!
「まずは紹介するね。お友達のエリザベスさんです!」
「まどか様の友人、エリザベスと申します。以後、お見知りおきを」
まどかの横に立つ、銀色のショートカット、青いエレベーターガール然のエリザベスは深く頭を下げた。
「クリスマスといえば!とりのご馳走!そしてプレゼント!そこで、友人であるエリザベスさんの協力のもとに『ドキ☆ドキ!食うか食われるか!ご馳走チキンディナーパーティ!』を開催するよっ!」
「オーダー、承りました。コカトリス、カモン!」
エリザベスが立てた右手の指をパチリと鳴らす。
『けえぇえ!』
すると無数に現れたコカトリスが一斉に奇声を発した!
コカトリス。巨大な雄鶏に尻尾は蛇という姿。その吐く息は人間を石にするという危険な魔物だ。
「宴のはじまりだよっ!」
まどかの号令とともに、無数のコカトリスが円環世界に解き放たれた!
コカトリスらは魔法少女達を追い回す。怪我をしたりすることはないのだが、しこたまつつかれたり、石にされたりの大騒ぎ!
「盛り上がってる!みんな、はしゃいじゃって!」
「まさに究極の謝肉祭でございます!」
阿鼻叫喚の風景を前に、まどかとエリザベスはうっとりと微笑んだ。
「まーどーかー!この、邪神!」
さやかの怒号が響いた!
*****
その後。まどかはさやかに、めっちゃ怒られた。
メリークリスマス
皆さまの聖夜に幸あらんことを