「あれが『トリャーガの塔』……」
目の前にそびえる巨大な塔。その周りにあるベースとなる街にキリト、アスナ、ユイは降り立った。
「うふふ。やっぱり、わくわくするね!」
「ああ」
新しいゲームをはじめる高揚感に、アスナとユイは満面の笑みだ。キリトはそんな二人が愛おしい。
「ユイちゃん!」
掛けられた声に振り向けば、ユイと同じ、小さな妖精の女の子だった。
「まどかちゃん!」
二人は手をつなぎ、空中でくるくると出会いを喜び合っている。
キリトとアスナはそんな二人をほっこりと眺めていた。
「まどかちゃん!こちらが私のパパとママ!」
「はじめまして。私、まどかっていいます。よろしくおねがいします!」
「はじめまして。よろしくな」
「よろしくね」
「ええと。あっちのゆっくりできる場所にいきましょう」
にこにことご機嫌なまどかが、ふわふわと先頭に飛ぶ。
「君は……」
「あ。ごめんなさい。私、ここではいろいろ制限があって、こんな感じでお話しすることしかできないんです」
「へー」
すまなそうに全身力無く萎れるまどかに、キリトとアスナは視線を合わせる。
「でも君はユイの友達なんだろ?全然問題ないよ」
キリトとアスナ、二人の微笑みに、まどかは目を見開く。
「ありがとうございます!」
感極まって頭を下げるまどかにユイが抱き着き、二人はその様を優しく見つめるのであった。
*****
「キリトくん!さやかちゃん!スイッチ!」
「おう!」「はい!」
アスナの絶妙なトスを受け、キリトとさやか答える。
「「スターバースト・ストリーム!」」
キリトとさやかは、巨大な黒い竜を挟む形で必殺の連撃を叩きこむ!
「!!!!!」
声にならない悲鳴が響き、階層主は息絶えた!
「やったー!」
階層主撃破に、プレイヤー全員が歓声を上げる!
*****
「やばい、やばいよ」
「なんなの?あれ、なんなの?」
「チート?円環様の影響?」
「いや。変な干渉はあるけど、ルール通りだよ。あれらが規格外すぎる!」
『トリャーガの塔』を管理する十人の魔法少女達、通称《十賢者》は顔を伏せていた。
事の始まりは、妖精を連れた黒髪と栗色の二人の魔法少女。
二人は参加するプレイヤーができるかを把握し、どう鍛えればいいか?どう闘うべきかを指導していく……。
そうして。
無理ゲーと名高い『トリャーガの塔』は、ぐんぐん踏破されているのだった!
「もう七十階層だよ?やばいって!」
「わかってるよ。でも、あんなのどうしようもないじゃん?」
管理者として難題を出す立場ではある。だが、ただの無理難題では駄目なのだ。かつてプレイヤーであった彼女らの理想は高い。
トライアンドエラーの果ての小さな手がかりから導き出される攻略法。その道のりが困難なほど、達成感は大きいはず!
自分達が課する高難易度のハードルをクリアされるのは、ぞくぞくする嬉しさもあるのだった!
「……拡張エリアを準備するしかない」
「!!」
開発筆頭の魔法少女の宣言に、戦慄が走った!
「正直私達だけじゃあれは無理。別特区のマスターと話はつけてるわ。協力してもらって特区をリンク。『トリャーガの塔』を中心に『ファイテン・ファンタジー』(略してFF)という世界を構築。まずは『エルリック地下大墳墓』を追加パックアップとして、追加シナリオ『ノウアスフィの開墾』を展開するわよ?」
「!!!!」
筆頭の宣言に、管理者達は息を呑む!
「な、なに?そのデスマーチ……」
「ううう。円環されたのに、ブラックすぎる!?」
「泣くな!泣くのは死んでからにしろ!」
「死んでますー!」
かつて魔法少女だった管理者達が、阿鼻叫喚の悲鳴を上げた!
*****
こうして……。特区領域は、謎のリンクで急拡大することになる。
まどかは干渉できないからと、挨拶以降積極的に接触しなかった。そのため、気づけなかったのだ。
「んーん?」
大きなあくびをして微睡むまどかが仰天するのは、すこし先のお話。
もろもろ参戦して、カルテットな惨状になるのかもしれません(笑)