円環物語   作:ぶんた

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その22

 ざざざざ。

 

 夜。激しく降り注ぐ雨。

 

「…………」

 

 長い髪を頭の左右で蝶の飾りで結い、黒い詰襟の上に蝶の羽を思わせる模様の白い羽織を纏ったその娘は、その手の刀で頸を斬られ倒れ伏した人物を見つめていた。

 そうしているうちに遺体は崩壊して雨に叩かれ塵となり、水に流されていく。

 

「やあ。君に提案があってきたのだけれど」

 

 突如掛けられた声。その主は少し離れた民家の屋根の上からだった。小動物のような小さな影。赤い目だけが煌々と輝いていた。

 

「君が望むならなんでもひとつ、その願いを叶えることができるよ?」

 

 ぴくり。

 

 雨に打たれていた娘の肩が震える。

 

「願いを、叶える?」

「ああ。僕と契約してくればね!」

「……なんでも?」

 

 娘はその言葉に目を見開き、呟いた。

 

「ああ、君の望むなんでもさ!」

「……!」

「だから、僕と契約して魔法少女になってよ!」

 

 その言葉に少女は息を呑む。

 

 ……望む願い?

 

 ああ、そんなもの。無限にあるに決まってる!あれもこれも、どれもそれも。そのたったひとつでも叶うのなら、なにを賭けてもいい!

 

「さあ。君はなにを望む?」

 

 ざざざざ。

 

 激しい雨音。暫しの後。

 

「なんでも叶ってしまうなんて、素敵よね?」

「?」

 

 娘の言葉を理解できないその白い小動物は赤い目を瞬かせ、首を傾げる。

 そうしているうちに、娘は集まってきた多くの人影に包囲されていた。

 村人だったのであろうそれらの肌は異様な緑色に染まり、光りのない眼で娘を認識し。ゆるゆると敵対者へとの行進を続け、その包囲の輪を小さくしていたのだった。

 

 一閃!

 

 娘の持つ桜色の刀によって、頸を落とされた村人が崩れ落ちた。

 襲い掛かる村人達の攻撃を娘は最小限の動きで躱し、次々とその頸を刎ね飛ばす!その様はゆらゆらと風に揺れる花ようだった。

 そうして。娘が全ての村人を斬り伏せ終わった時。のそりと巨体が現れた。

 

「あああ?鬼狩りかよ。俺の村人になにやらかしてるんだよ?」

 

 その人物の全身には緑色の腫瘍があり、その腫瘍からは絶えず緑色の胞子が吐き出されている。それを人に吸わせ、配下とするのがその怪人の異能のようだった。幸いなことにその胞子は降り注ぐ雨に流れ落ちているのだが。

 

「これはあなたの仕業ですか?」

「あああ?可哀そうな俺の村人を皆殺しにしたのは、おまえの仕業だろ?」

「!」

「俺はな。貧困に喘ぎ食うにも困り、ただただ死んでいくこいつらを食わなくてもいい体にして、助けてやったのさ」

 

 怪人は娘を侮蔑の視線で見下げる。

 

「ここ近隣の村は全てそんな有様よ。だから俺様はあの方から授かった力をつかってこうして救世を成しているっているのに、貴様らときたら……」

 

 ――ある村との連絡が途絶えた。それがはじまりであった。

 調査のためにその村に赴くものは誰も帰ってこず。さすがの異常事態と特殊な調査班が編成され、村の調査が開始される。

 調査班が目にしたもの。それは色鮮やかなカビに覆われた村だった。

 村人であったであろう人型は、緑色の肌に光のない眼でふらふらとさ迷っている。

 周りに生えるカビや、村人の体に付着したカビ。それらは不定期に胞子を撒き散らし、周りの山々をその毒に侵していた。

 どうやらこの異様なカビの発生が事件の原因のようだった。すでにいくつかの集落は浸食され、さらに広がりを見せ。

 そしてこの異常事態に対し、対怪異討伐組織の実力者である娘が遣わされたのだった。

 

 その娘はその鬼にゆっくりと視線を向ける。

 

「あなたは……」

「ああん?」

 

 娘は唇を噛み、続く言葉を飲み込んだ。その様子に怪人は首を傾げる。

 

「いえ。なんでもありません。私はあなたを討伐するため参りました」

「はあ?返り討ちよ!それになによりお前は、うまそうだ!喰らってやるよぅ!」

 

 怪人はこれ見よがしに舌なめずりをした後、娘に襲い掛かった!

 

 

*****

 

 

 ざざざざ……。

 

 時刻は朝に近くとも、雨は降り続いていため薄暗い。

 ひとり立つ娘は抜き身の刀を手に、雨に打たれ空を見上げていた。

 

「どうだろう?君にはぜひ、魔法少女になってもらいたいのだけれど」

 

 無言で立ち尽くす娘に、白い動物は声を掛けた。

 

「……でも。でも、私の願いはそうして叶えられるものじゃないの」

 

 娘は寂しそうに視線を落とす。

 

「このひとたちの悲しみを私は受け止めなくてはならないの。私はその罪を背負わなくてはならないの。だから。だから、そんな安易な手段で片づけることは許されないのよ」

 

 娘は表情なく、その言葉を呟く。

 

「ええっと。とても魅力的な提案でしたけど、ごめんなさい。だからそれは私には無用です。お引き取り願います」

 

 そして。娘は小さく返答したのだった。

 

「君はかなりの因果を抱えている。魔法少女になってくれればよかったのだけれど。残念だ」

 

 小動物は小さく答えた。

 

「ほんとうね。ほんとうにざんねん……」

 

 娘の小さな言葉は、その零れる涙を流す雨音にかき消された。




 なんとまたアッチとのクロス?
 ごめんなさい!
 アッチで使おうとしたネタなんですが、アッチにはアイツがいるからこうはならなそうでー。
 そこらへんわからんでもお楽しみいただけるようにしたつもりですが、どうでしょう?

 ところで。

「どんな願い事でもひとつ、叶えることができるよ!」

 この降ってわいた幸運?に、あなたならどうします? 
 4600万使い潰す?(ぉぃ
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