演奏を終えた奏者がゆっくりと頭を下げると、客席は割れんばかりの拍手喝采!スタンディングオベーションの中、幕が下がっていく。
舞台横に揺れる緑の髪を確認できたのは、魔法少女だからだろう。
客席に明かりがともり、満足げな観客達が席を立つ。
がらりと誰も居なくなった観客席。二人はまだ動かなかった。
桃色の魔法少女が心配そうな顔でさやかを見やる。さやかは静かに微笑んでいた。
「……ありがとうね」
「え?」
「最期に、これを見せてくれたんでしょ?」
「うん……」
さやかは前を向いたまま、言葉を続ける。
「恭介の演奏が聞けて。仁美と幸せそうなこともわかったし。思い残すことは、何もないよ」
「じゃあ、いこっか」
さやかは遠慮がちに掛けられた声に頷き、桃色の魔法少女と劇場を後にした。
*****
さやかは桃色の魔法少女をまじまじと観察する。
泥のような闇に塗りつぶされそうなところを救ってくれた。とはいえ状況的に自分が死んだのは間違いなさそうだ。
「アンタさ。私のご先祖って感じでもないし、死神?卍解とかできる?」
「し、死神?!たしかに似たようなものかもだけど……」
桃色の魔法少女はよっぽどショックだったのか、ドングリ眼を白黒させる。そのあまりの狼狽っぷりが可愛いやら、気の毒やら。さやかは吹き出してしまう。
「ははっ!ごめんごめん!じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「初対面になるんだね。……私は鹿目まどか。まどかって呼んでね?さやかちゃん!」
桃色の魔法少女は、はにかみながら、少し寂しそうに自己紹介をした。さやかは、そんなまどかをじっと見ながら、ゆっくりと思ったことを言ってみる。
「……私達、前に会ったことあるんじゃない?」
「えっ?!」
驚愕に固まるまどかを、さやかはさらにじっと見つめる。
「なんかヘンだけど、そんな気がする。それにまどか。アンタ……言いたいことがいっぱいあるのに、いえないって顔してる。私、なんとなくわかっちゃうんだよねーそういうの」
というか、この娘が感情ダダ漏れなんだけどさ。さやかは心の中で肩をすくめる。
さやかの言葉に、まどかの大きな瞳は複雑な輝きに揺れ、キュッっと結ばれた小さな唇は小さく震えている。
「さやかちゃんはさ、そうやって私のことわかってくれて……。いっつも私のこと、助けてくれたんだよ」
私がこの娘を?記憶にないなぁ。
首を傾げるさやかを、まどかは寂しそうに見つめる。
「私ね。魔法少女の導き手になって、みんなの記憶から無くなっちゃたんだ。そうなる前は、さやかちゃんとは幼馴染で、いっぱい助けてもらったんだよ」
――そこまでの関係の相手に忘れられるって、そりゃきついわ。
なんとか思い出してあげたい、思い出したいけど、だめそうなのがさやかにつらい。
「ねぇ。そのときの話、聞かせてよ。聞かせてくれるよね?」
さやかははまどかに詰め寄った。
「え、うん。えーっと」
さやかちゃんが魔女になっちゃうところは、隠したほうがいいのかな?まどかは眉をよせ、視線をさ迷わせた。
「……こら!またなんか考え込んでる!」
さやかはそんなまどかを睨む。不器用そうなこの娘の反応から、言いにくいこともあるのかもしれない。でも。
「こら!考えすぎない!」
「ふぁ!」
さやかに抱きしめられて、驚いたまどかが変な声を上げる。
「まどかは私の嫁だから!しょんぼりした嫁には元気注入じゃー!」
そのままさやかは勢いよく、まどかをくすぐりはじめる!
「や、ちょっと、やめてぇ!」
「よいではないか、よいではないか!」
まどかが悲鳴を上げるが、さやかはまったく容赦なし。
「くひゅん!うひゅっ!ぐすっ!あん!もうー!」
「まったく忙しい娘だよ。泣くか笑うかにしなさいよ」
顔歪めて変な声を上げるまどかを、さやかは呆れたように見た。
「もう!じゃあ、くすぐるのやめてよー!」
まどかの悲鳴が響くのだった。
さやかっぽさがでてるといいなって