円環物語   作:ぶんた

3 / 27
その3

 演奏を終えた奏者がゆっくりと頭を下げると、客席は割れんばかりの拍手喝采!スタンディングオベーションの中、幕が下がっていく。

 舞台横に揺れる緑の髪を確認できたのは、魔法少女だからだろう。

 客席に明かりがともり、満足げな観客達が席を立つ。

 がらりと誰も居なくなった観客席。二人はまだ動かなかった。

 桃色の魔法少女が心配そうな顔でさやかを見やる。さやかは静かに微笑んでいた。

 

「……ありがとうね」

「え?」

「最期に、これを見せてくれたんでしょ?」

「うん……」

 

 さやかは前を向いたまま、言葉を続ける。

 

「恭介の演奏が聞けて。仁美と幸せそうなこともわかったし。思い残すことは、何もないよ」

「じゃあ、いこっか」

 

 さやかは遠慮がちに掛けられた声に頷き、桃色の魔法少女と劇場を後にした。

 

 

*****

 

 

 さやかは桃色の魔法少女をまじまじと観察する。

 泥のような闇に塗りつぶされそうなところを救ってくれた。とはいえ状況的に自分が死んだのは間違いなさそうだ。

 

「アンタさ。私のご先祖って感じでもないし、死神?卍解とかできる?」

「し、死神?!たしかに似たようなものかもだけど……」

 

 桃色の魔法少女はよっぽどショックだったのか、ドングリ眼を白黒させる。そのあまりの狼狽っぷりが可愛いやら、気の毒やら。さやかは吹き出してしまう。

 

「ははっ!ごめんごめん!じゃあ、なんて呼べばいいの?」

「初対面になるんだね。……私は鹿目まどか。まどかって呼んでね?さやかちゃん!」

 

 桃色の魔法少女は、はにかみながら、少し寂しそうに自己紹介をした。さやかは、そんなまどかをじっと見ながら、ゆっくりと思ったことを言ってみる。

 

「……私達、前に会ったことあるんじゃない?」

「えっ?!」

 

 驚愕に固まるまどかを、さやかはさらにじっと見つめる。

 

「なんかヘンだけど、そんな気がする。それにまどか。アンタ……言いたいことがいっぱいあるのに、いえないって顔してる。私、なんとなくわかっちゃうんだよねーそういうの」

 

 というか、この娘が感情ダダ漏れなんだけどさ。さやかは心の中で肩をすくめる。

 さやかの言葉に、まどかの大きな瞳は複雑な輝きに揺れ、キュッっと結ばれた小さな唇は小さく震えている。

 

「さやかちゃんはさ、そうやって私のことわかってくれて……。いっつも私のこと、助けてくれたんだよ」

 

 私がこの娘を?記憶にないなぁ。

 首を傾げるさやかを、まどかは寂しそうに見つめる。

 

「私ね。魔法少女の導き手になって、みんなの記憶から無くなっちゃたんだ。そうなる前は、さやかちゃんとは幼馴染で、いっぱい助けてもらったんだよ」

 

 ――そこまでの関係の相手に忘れられるって、そりゃきついわ。

 なんとか思い出してあげたい、思い出したいけど、だめそうなのがさやかにつらい。

 

「ねぇ。そのときの話、聞かせてよ。聞かせてくれるよね?」

 

 さやかははまどかに詰め寄った。

 

「え、うん。えーっと」

 

 さやかちゃんが魔女になっちゃうところは、隠したほうがいいのかな?まどかは眉をよせ、視線をさ迷わせた。

 

「……こら!またなんか考え込んでる!」

 

 さやかはそんなまどかを睨む。不器用そうなこの娘の反応から、言いにくいこともあるのかもしれない。でも。

 

「こら!考えすぎない!」

「ふぁ!」

 

 さやかに抱きしめられて、驚いたまどかが変な声を上げる。

 

「まどかは私の嫁だから!しょんぼりした嫁には元気注入じゃー!」

 

 そのままさやかは勢いよく、まどかをくすぐりはじめる!

 

「や、ちょっと、やめてぇ!」

「よいではないか、よいではないか!」

 

 まどかが悲鳴を上げるが、さやかはまったく容赦なし。

 

「くひゅん!うひゅっ!ぐすっ!あん!もうー!」

「まったく忙しい娘だよ。泣くか笑うかにしなさいよ」

 

 顔歪めて変な声を上げるまどかを、さやかは呆れたように見た。

 

「もう!じゃあ、くすぐるのやめてよー!」

 

 まどかの悲鳴が響くのだった。




さやかっぽさがでてるといいなって
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。