Fate/stay night[Limited Zero Over] 作:メカ好き
士郎がアーチャーに最初の一太刀を受け止められた丁度その時、一組のマスターとサーヴァントが戦場を目視できる少し離れた場所に到着した。マスターである遠坂凜はバレない様に魔術を使い戦場の声を拾う。
『・・・貴様、本当に衛宮士郎か?』
『ようやく口を開いたかと思ったら、失礼な奴だな。オレは衛宮士郎だ。それ以上でも、それ以下でもない!』
「うそ、何でアイツが?」
「知り合いか?」
「ええ、同じ学校の同級生よ」
主従が言葉を交わしている間にも、戦闘は進んでいく。
「・・・嘘でしょ、サーヴァントと互角に斬り合ってる?」
「むしろあの翔び回ってる邪魔な剣が無けりゃ、坊主の方が圧倒してるだろうよ。にしても、現代にあれほどの剣士がいるとはな。純粋な剣技でアイツと同等となると、生前を含めて少なくともオレは見たことがねえ」
「・・・アイルランドの大英雄であるあなたが見た事ない程の剣技ですって?どんだけよ、アイツ・・・」
そして士郎の切り札を見た瞬間、凜はとうとう爆発した。
「宝具の真名解放ですって!?有り得ないわよ!」
「だが、奴の刀から感じたあの剣気は間違いなくフェルグスのカラドボルグだ。くそ、どうなってやがる?」
そして、士郎が口にした内容がアーチャーの反応と相まって、凜にある決断をさせた。
「行くわよ、ランサー。アイツには聞きたいことが山ほど出来たわ」
「おうよ、オレもカラドボルグの事を聞き出さなけりゃならねえからな」
こうして赤と青の主従が戦場に降り立った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの後、アーチャーは直ぐ様撤退した。今思えば現実的な考えから来る戦略的な撤退に、どこか英雄らしさが欠ける印象を抱いたが、あの時はそれどころではなかった。遠坂は色々と問い詰めて来るし、ランサーは闘気を滾らせて獰猛な笑みを浮かべて挑発してくるしで大変だった。何とかオレの家で説明する事で話が決着し、遠坂達を連れて帰宅したは良いものの次の問題が勃発した。
家の居間にて、オレは上座に座り客人である遠坂は座卓を挟んで反対側に座っている。(ランサーは外で見張りをしている)しかし、この場の空気の支配者はどちらでもない。
「お茶が入りました」
そう言って桜が台所から湯飲みの乗ったお盆を手に居間に入ってくる。オレと遠坂の前にお茶の入った湯飲みを置くと立ち上がった。
「では、私は失礼します」
「桜、桜にも関係がある話なんだ。悪いけど、話に加わってくれないか?」
「?・・・分かりました」
桜は一瞬返事が遅れたものの、話に同席してくれる様だ。オレの隣に座った彼女は一度も遠坂と目を合わせようとしない。二人が実の姉妹で、桜が間桐家に養子に出されたのは知っている。しかし、桜を縛る魔術師としての間桐はもう存在しない。だが、この二人の関係は未だに修復されていない。桜が遠坂を拒絶しているのだ。一度桜が遠坂の頬を張り走り去る現場を偶然目撃した事があった。何があったか話して貰えてない。遠坂が桜を気にかけているのは知っているだけに、今の二人の現状は見ていて苦しくなる。だが、これは二人の問題だ。オレに出来るのは、ただ二人を信じて見守る事だけしかない。
閑話休題
「まず遠坂、聖杯戦争が始まるのは確かなのか?」
「え?・・・どういう、事なんですか?だってまだ・・・」
「そうね、まだ前回の聖杯戦争から十年しか経っていない。でも事実私に令呪が宿り、ランサーを召喚したわ。残りの一騎が召喚されたら、聖杯戦争が始まる」
遠坂はそこで言葉を切るとオレに鋭い視線を向ける。
「でも、その景品たる聖杯が悪に染まっているだとか、冬木の大火災以上の地獄が始まるとか聞いた以上貴方を問正さなきゃいけないの。アーチャーの言葉からデタラメだとは思えない。私は聖杯戦争に参加したマスターである前に冬木のセカンドオーナーなんだから」
そう言う遠坂の真っ直ぐな目を見て、思わず笑みが溢れてしまう。
「・・・何が可笑しいわけ?」
「いや、何も可笑しくないさ。ただ、遠坂はやっぱり良いヤツだなって」
「ふん、煽てたって何も出ないわよ」
「そうじゃない。ただ、オレは遠坂のそう言うところが好きだぞ」
「な!?」
急に赤面し出す遠坂。しかし、それを気にする余裕は右耳に走った激痛により直ぐに失われた。
「ッ!?イタイタイタイタイ」
「士郎さん、私言ってますよね?軽々しくそう言うことを言っちゃいけないって」
「べ、別に軽々しく言った訳じゃ・・・」
「そうですか。でもそれはもっと駄目ですね」
「な、なんでさーーーーーー!?」
別に異性として下心がある訳じゃ無いんだから良いだろ!?
「はいはい、そこまでにしなさい。話が進まないでしょ」
「あ・・・・・・すみません」
「良いわよ、コイツが悪いんだし」
落ち込む桜を遠坂が慰める。釈然としないが、どうもこのやり取りで二人の間の空気が少し柔らかくなった気がする。これを切っ掛けに和解できたら幸いだ。
「さあ、衛宮君。貴方は一体聖杯の何を知っているの?」
「そうだな。まず、遠坂は聖杯戦争の儀式メカニズムを知っているか?」
「・・・まさか、衛宮君は知ってるの?」
「ああ、親父から聞いてな」
「貴方のお父さんって何者よ?」
「衛宮切嗣、魔術師殺しと呼ばれた魔術使いで前回の聖杯戦争でアインツベルンのマスターとして参加した男だ」
「・・・な、な、なんですってーーーーーーー!?」
大声を上げた遠坂は、オレに掴み掛からんとばかりに身を乗り出す。
「落ち着け遠坂、話が進まない!」
「うるさいうるさい!第一何でそんな魔術師が申請もなく・・・」
「遠坂先輩」
居間に静かな声が響き渡る。遠坂は口を閉じ、油の切れたブリキのごとき動きで顔を向ける。そこには普段通りの笑みなのに、何故か凄みを感じさせる桜がいた。
「質問は、士郎さんの話を聞いた後にしましょう」
「はい」
遠坂が大人しく成ったところでオレは聖杯戦争のメカニズムと裏の目的を話した。
「サーヴァントの魂を使った根源への到達。それがこの聖杯戦争の真の目的・・・」
「ああ。そして問題になるのが、大聖杯が混沌・悪の属性になってしまっていることだ。親父はそれに気が付いて聖杯を破壊しようとして失敗。消滅せず流れ落ちた泥のような呪詛があの大火災を引き起こした。冬木中央公園の有り様はその呪詛も原因の一つだ」
オレ自身、全く親父を憎む事が無かったとは言えない。だがあの結果は親父が望んだ物ではないし、むしろ止めようとしていた。それに、今こうしていられるのは親父のお陰だ。
「オレはあの大火災で、全てを失った。大切な人達を守れなかった。もう二度と聖杯で犠牲になる人達を出さないためにも、オレはこの戦争を止めるぞ遠坂」
例えお前が敵になっても。
「・・・何か勘違いしている様だけど、私たちは別に聖杯欲しさにこの戦争に参加している訳ではないわ。ランサーは死力を尽くし、強者と戦う為、私は勝つ為。貰えるなら、聖杯も貰っていこうと思っただけ。でも、それで関係の無い一般人が大勢死ぬのなら話は別よ」
「遠坂・・・」
「・・・」
遠坂は照れからなのか頬を赤く染めてそっぽを向く。
「だから、協力してあげるわ」
「・・・ありがとう、遠坂」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
遠坂達が帰った後、オレの右手の甲に令呪の兆しが出た。