Fate/stay night[Limited Zero Over] 作:メカ好き
凜ファンの皆様、すみません
翌日の正午。屋上に二人の人影があった。間桐桜と遠坂凜だ。二人は遅くなると言う士郎より先に場所を確保していた。
「衛宮君に令呪の兆しが出たですって!?」
「声が大きいです」
「あ、いけない。・・・でも、そうなると衛宮君とはマスター同士の同盟となるわね。でも良かったの?彼の居ないときに勝手に私に言って」
「士郎さんには確認をとってあるので大丈夫です。ところで遠坂先輩、一つお聞きしたい事があるのですが」
「いいわ、秘伝に関わる事以外なら答えてあげる」
そう言う凜を桜は真っ直ぐ見据える。
「遠坂先輩はどうして魔術師を目指されたのですか?」
「・・・尊敬していた父の最後の言葉が魔術師としての物だった事が切っ掛けだったわ。今でも父から継いだ遠坂の名に恥じない魔術師を目指してる」
「・・・」
遠坂の言葉を聞き、桜の瞳から光が消えた。その瞳からは最早感情を伺うことが出来ない。
「つまり、故人である遠坂時臣さんの遺志を継いで魔術師となったと言う事ですか?」
「・・・そうよ」
凜の表情が僅かに険しくなる。実の妹が父を他人呼びしたのだ。三年前までは間桐との取り決めがあったが、今では間桐家が魔術師として事実上崩壊している。それでも死んだ父を他人として見ているのだから同じ父を持つ凜としては不愉快にもなるだろう。尊敬していたのなら尚更だ。
「そうですか。ふふふふ・・・」
「・・・間桐さん、何がそんなに可笑しいのかしら?」
だが、その尊敬していた人物が彼女に見せていた姿が幻想、はたまたほんの一面でしかなかったなら話は変わってくる。
「遠坂先輩、あなたは信用できません。士郎さんには私から伝えますから同盟は無かったことにして下さい」
「っ!?」
絶句する凜。しかし直ぐに立ち直り桜を睨み付ける。
「貴女に何の権利があってその言葉を口にしてるのかしら?」
「士郎さんは私の家族です。そんな家族の背中を遠坂時臣を尊敬すると宣う人に任せられません」
「・・・御父様を侮辱するの?」
「事実を言っているだけです。もしかして知らないのですか?でもそちらの方が問題ですね。何も知らない、知ろうともしなかった実力だけの魔術師に背中を預けるだなんて自殺行為です」
凜は聖杯戦争に参加する御三家のマスターにしては聖杯戦争に関して無知すぎた。前当主が10年前に死亡しているとはいえ、資料くらいは残っている。それを確認していないとすれば、少々桜と士郎と比べて聖杯戦争に対する認識が甘いと言わざるを得ない。
「遠坂先輩、先輩の父親は根源到達の為なら娘達と同い年の子供たちを何人も見殺しにするほど非道で、故意では無かったものの娘を地獄に落とした足元を疎かにする人なんですよ?」
「・・・どう言うことよ?」
「10年前の連続幼児誘拐事件。どうもキャスターとそのマスターの仕業だったそうなんですが、遠坂時臣は同盟者であるアサシンのマスターを通して所在まで把握していたそうです」
「え?」
「更にキャスターの所業を利用し、教会と結託して令呪を増やそうとしていたそうです。つまり、娘と同い年の子供の命を利用したんです。まあ、その企みは失敗に終わったそうですが」
「う、うそ、御父様が・・・」
凜の顔色が青を通り越して白になる。10年前の連続幼児誘拐事件の被害者には、当時の凜の親友であったコトネもいた。仲の良かった彼女を父親が見殺しにした事実は、凜の心に深く突き刺さる。
「しかも己の管理地で間桐臓硯が一般人を誘拐し己の血肉にしていた事を知らず、ろくに調べもせずに私を養子に出したんですよ?間桐の外道は冬木の外では割りと知られていた事実だそうですから調べて無いのは一目瞭然です。娘を養子に出す家の事くらい調べるのは普通だと思うんですけど、結局私は愛されてはいなかったんですね」
「ち、違う!御父様は・・・」
「遠坂先輩」
凜の父を弁護する言葉は、桜の感情を感じさせない声と底無しの闇を思わせる雰囲気に遮られた。
「私、処女じゃないんです。間桐家に入ったその日から、蟲や間桐の親族に凌辱され続けてきたんです」
「・・・」
凜は声すらも出せない。ショックが大きすぎたのだ。そんな彼女に構わず桜は続けた。
「身体中に蟲を植え付けられ、誰にも助けを請えないそんな日々。でも、それも三年前に終わりました。私は士郎さんに救われたんです」
─見てください─
そう言って桜はエンジェルリングが輝く程綺麗な自分の黒髪を撫でた。
「士郎さんが元に戻してくれたんです。お陰で体調不良も無くなって、いつも元気に過ごせています。毎晩トラウマで一人で寝れない私と添い寝もしてくれます。性的な事は一切無く、そういった劣情も向けずにいてくれます」
ちょっと不満そうで、それでいて幸せそうな表情でそう言う桜。だがそれも、一転する。
「それなのに遠坂先輩は何なんですか?間桐家が無くなった途端に接触して来て、士郎さんの家に居候している事を問い詰めてきて。私の事が心配?ならなんで私が絶望の底に居るとき助けてくれなかったんですか?士郎さんは、初対面なのに異常に気付いて手を差し伸べてくれましたよ?私を地獄から引き上げてくれましたよ?」
「・・・」
反論すら出来ない。事実、桜が苦しんでいた事に凜は気が付かなかった。前回頬を張られた理由をようやく理解する。
「奪われず、汚されず、綺麗な遠坂先輩。それがいけないとは言いませんけど、200年にもおよぶ魔術師達の業、その負の遺産に立ち向かうには覚悟が足りなさすぎる」
「ならあんたはどうなんだ、嬢ちゃん?」
そう言って凜の傍らに現れたランサーに、怖じ気もせず向き直る桜。
「おまえさんはどんな覚悟を持って聖杯戦争に望む?戦う術の無いあんたの覚悟はなんだ?」
「・・・私の覚悟は、生きる覚悟です」
「生きる覚悟だと?」
「ええ、そうです」
怪訝な表情を作るランサーに頷き桜は続ける。
「私は士郎さんになんと言われようとも、あの家で士郎さんの帰りを待ちます。士郎さんが帰ってきたら「お帰りなさい」と言って暖かい食事と一緒に迎えるんです。出かける時は「いってらっしゃい」と言って玄関先で見送るんです。勿論、襲撃される危険性も分かっています。でも、士郎さんには帰ってくる場所が必要なんです。家族が待っている帰る場所が。じゃないと、士郎さんは戻ってこれなくなるところまで行っちゃいますから・・・」
「なるほど、それだと死んじまったんじゃ意味がない。だからこその生きる覚悟か」
「桜・・・」
桜の言葉に、凜は名前を呟くだけでなにも言えない。一方ランサーは、上機嫌な笑顔を浮かべていた。
「これほどの覚悟を持つとは、嬢ちゃんはイイ女だぜ。あの坊主も果報者だな」
「ありがとうございます」
「取り敢えず同盟は不戦協定と情報交換のみにするってのはどうだ?」
「ちょっ、ランサー!何を勝手に・・・」
「凜、今のおまえが戦場に立つなんざ危なっかしすぎる。同盟なんざもっての他だ。まずは自分を見つめ直せ。じゃねえとおまえの持つ誇りすらも失うぞ」
「それは・・・」
凜は自覚しているようで言葉が続かず、少しして頷いた。
「と言うわけで嬢ちゃん、坊主に伝言を頼むぜ」
「分かりました」
こうして本人の居ないところで同盟の詳細が決まった。
本作品では桜は士郎に依存していると同時に、一番の理解者でもあります。故に今の凜では士郎を無用な危険に晒すと考え、自分のトラウマを抉ると言う自傷行為をしてでも凜の心を折りに掛かりました。
と言うわけで今回はここまでです。