IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
今回はアドルフサイドと、鈴の輝装の能力についてです。
では、どうぞ。
Side アドルフ
試合の最中に突如降り注いだビーム砲はアリーナのバリアを貫き、爆発と振動が響いた途端、周囲は様々な音を上げた。
最初に異常事態を知らせる警報が鳴り、次に観客席の女子生徒が悲鳴を上げ、その恐怖から守るように隔壁が全て降ろされる。
そうして、観客席の中は少々薄暗い赤色の光に照らされる。
天井のスピーカーから即刻退避のアナウンスが流れ、生徒たちは出入り口に殺到するも一向に生徒の数が減る様子が無かった。
出入り口付近に耳を澄ませてみると、ドアが開かないという叫び声が聞こえる。
隣に座っていた更識を見ると、不安そうに右へ左へと視線を彷徨わせている。
いくら代表候補生とはいえ、“こういう事態”には経験が無いのだろう。無理もないことだ。
(さて、どうしたものか……)
その反面、オレは“こういう事態”に対してはどういうわけか経験豊富なので、頭の方はしっかり落ち着いている。
普通なら『エクリプス』を展開してさっさと出入り口のドアをぶち破ればいいのだが、すぐ隣でオロオロと不安そうにしている更識を放置するのは少し忍びない。
「かんちゃ~ん、大丈夫~?」
そんな時、不安そうにしている更識へ声を掛ける女子生徒がいた。
おっとりとした細めのたれ目に黄色い人形が付いた髪ひもで左右に尻尾を作っている何処か独特の髪型。ニコニコと安心感を与えるような笑顔。
幸いなことに、同じクラスの人間なので名前はすぐに出てきた。
「本音……?」
「そうだよ~」
彼女、布仏 本音(のほとけ ほんね)はオレと同じく制服を改造したのか、袖を通し過ぎてブカブカになった制服と一緒に両腕を上下させる。
陽気な言動と雰囲気のおかげか、不安そうにしていた更識の様子が少し落ち着く。
「同じクラスの布仏だよな? 更識を頼んでも良いか?」
「私の事はのほほんでいいよー。かんちゃんのことは任せて、あどるー」
「…………分かった」
布仏が口にした呼称について詳しく問いただしたかったが、今はそれよりも優先することがあるのでそちらの集中する。
首に着けた純銀のチョーカーに手を当て、出てこいと頭の中で強く念じる。
すると、オレの全身を量子展開の白い輝きが包み込み、『エクリプス』の銀色の装甲が装着される。
全身の7割近くを覆う装甲は全体的に鋭利と流線を合わせたような形をしていて、全体的に機動性と重装甲を両立させたようなデザインをしている。
ウイングバインダーの形をした非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が低い駆動音を鳴らしてゆっくりと着地し、オレの顔の上半分に幾つかのヘッドパーツが装着されて目元を青色のバイザーが覆う。
制御を誤ってISのパワーで周りの生徒を死なせるわけにはいかないので、PICを一時的にカット。最低限のパワーアシストだけを使って出入り口へと歩行する。
というか、オレはまだこのISのスペックすら充分に把握していないのでそんな恐ろしい真似は出来そうにない。
ISを展開したオレの姿を見て、生徒達が波を割るように道を空ける。
そうしてドアの前に辿り着き、オレは右手を腰溜めに引き絞って貫手の構えを取る。
「ふっ……!」
短く息を吐き出すと共に突き出した右手がISのパワーアシストを伴って左右から閉まる扉のど真ん中をぶち抜き、大きな穴を空ける。
そして一歩後ろに下がり、穴を狙って腰の捻りを最低限にした蹴りを叩き込む。
扉は衝撃を吸収しきれず、バアァン!! と派手な音を立てて扉の向こうの壁際まで飛んで激突する。
扉が開いたことで、女子生徒達はオレにお礼を言いながら通路へ出ていく。
続いて他の扉へと移動し、こちらも同じやり方、または力尽くで扉をこじ開けたりなどして観客席の生徒達は次々と外に出ていく。
そして、最後の扉を破壊して作業が終了し、ISの展開を解除して着地する。
見ると、既に観客席にいた女子生徒達の殆どは退去している。その中で、深刻そうな顔でこちらに駆け寄ってくる布仏の姿が見えた。
「布仏、更識はどうした」
「そ、それが……隣のアリーナのピットにかんちゃんのISが置いたままだから、取りに行くって~」
両手をブンブン振り回し、布仏は慌てながら説明する。
IS学園には此処と同じく複数のアリーナが存在し、そこには同じくISを収納するピットがある。学園が所有する練習機の他にも、修理や整備で一時的に預けている専用機などだ。
昨日のことを思い出してみると、確かに更識はオレの『エクリプス』のシステムの書き換えを手伝った帰りに自分の『打鉄』をピットに収納していた。
ISを預ける以上、セキュリティーの高さは折り紙つきだが、先程此処を襲撃したISはアリーナの遮断シールドを力尽くでぶち破った。
距離は決して近くはないが、戦闘に巻き込まれて破壊されない保障など、あのデタラメな破壊力の前では無いようなものだろう。
しかし、危険に巻き込まれる可能性は更識も同じことだ。
「ど、どうしよ~……」
「……布仏、お前は外に出てこのことを織斑先生か山田先生に伝えろ」
「え? でも、かんちゃんはどうするの?」
「オレが行く。そっちは頼むぞ」
それだけ言って、通り過ぎ様に布仏の肩を軽く叩いて走り出す。
幸い、雪崩れ込むように逃げていった女子生徒達の姿は通路には無く、記憶を頼りに隣のアリーナへの道を突っ走る。
進む先の隔壁が全て開いているが、恐らく更識がコードを解析して自力で開けたのだろう。確か今日は小型の端末を持ち歩いていたはずだ。
その技術と行動力は大したものだが……
「無事でいろよ……!」
心中に湧き上がる不安を拭い切れず、オレは呟きながら走る速度を上げた。
* * * * * * * * * * * * *
Side Out
それから少し時を遡り、隔壁に閉鎖されたアリーナの中では3機のISが睨み合いを続けていた。
横に並ぶ『白式』と『甲龍』と対するように、アリーナのシールドに穴を空けた爆心地の中心に立つ所属不明の黒い全身装甲(フルスキン)のIS。
誰も言葉を発することが無い沈黙の中、先に動き出したのは黒いISだった。
身の丈と同等の巨大な腕が持ち上がり、腕部に装備された大口径レーザーに凄まじい速度で光が集まり、すぐさま放たれる。
しかし、『白式』と『甲龍』は即座に左右へ離脱し、レーザー砲を難なく避ける。
2人とも、最初からあの黒いISを味方とは思っていない。故に、突然攻撃を仕掛けられようが驚くことではない。
横へと跳躍した『白式』が着地と同時にウイングスラスターを展開し、凄まじい加速力を味方に付けて腕部レーザーを放った直後の敵へと突撃する。
それを即座に感知した黒いISは片腕の砲門を構える。
『白式』も前方への加速を側面への旋回に移し、射線上から位置を変えようと移動先に思考を張り巡らせる。
しかし、次の瞬間……
バアァァン!!!
……炸裂音と共に、黒いISの巨体が顔面を起点にして右側に大きく仰け反った。
しかも、ソレは1回だけでなく、2回、3回と同じ音が鳴り響き、その度に黒いISの体が上下左右の各方向に仰け反る。
それを見ながら、一夏は黒いISの仰け反り方に何か見覚えを感じた。
(何だ……? まるで、殴られてるみたいな……)
そうだ。今の黒いISの姿は、まるで拳の連打によってタコ殴りにされている人間のようだった。
だが、黒いISは何に殴られている? 奴の体に触れているモノなど、1つとして存在しないというのに。
「ねえ、一夏。糸電話って知ってる?」
そんな時、いつの間にかすぐ近くまで飛んできた鈴がそんな質問を投げた。
その声は普段と変わらず、余裕そのものといった感じだ。しかも、先程まで一夏と打ち合っていた双天牙月も背中に納めている。
「は? 鈴、お前何を……」
「だから糸電話よ。糸電話。紙コップと適当な糸があれば作れるアレよ」
突拍子も無い質問のせいで何処か気が抜けてしまい、長刀の構えを解いて鈴のいる方向に顔を向ける。
そのせいで2人揃って動きが止まり、ただの的に等しい状態を見逃すまいと黒いISが両腕の砲門を構える。
だが……
「何勝手に動いてんのよ」
……静かに、鋭い威圧感を込めた鈴の声と共に、『甲龍』の右拳が振るわれた。
その瞬間、一夏の目が『白式』のハイパーセンサーを通して『視た』。
手の甲に埋め込まれた
(素粒子の線……いや、糸か……?)
そして一秒と間を置かず、再び響いた炸裂音と共に黒いISが仰け反る。
「知ってると思うけど、アレって音……まあ、空気の振動が張った糸を通して反対側のコップの底を振動させてるからなのよね」
日本の義務教育を経験した者であれば、誰でも理科や化学の授業で実験をしたことがあるだろう。玩具であると同時に、音の実体が振動であることを示す代表的な教材だ。
一夏も鈴も、同じく学校の授業で体験したことがある。
「糸の他にも針金とかバネを使うやつもあるらしいんだけど、原理は同じ。片側から振動を与えれば糸を伝って反対側に響く」
鈴がそう言うと、試合開始前より一回り大きくなった甲龍の
「だったら、こうも考えられない? 張力を支えるだけの頑丈さと振動が伝わりやすい材質を持ったモノを使えば、衝撃波でも同じことが出来るって」
僅かな発光と共に不可視の衝撃が砲弾として放たれる。
だが、その衝撃波は真っ直ぐ飛んでいくわけではなく、先程と同じく何かを伝うように凄まじい速度で空中を走る。
その行き先は鈴の敵意が向かう先……すなわち黒いISである。
先程までのものよりも一際大きい炸裂音が響き、何度も仰け反りを繰り返していた黒いISの体が後方に大きく“吹き飛んだ”。
そこへすかさず放たれる衝撃砲の第2射。
再び衝撃波が意思を宿したように虚空を走り、吹き飛んでいた黒いISの体が今度は真下の地面に叩き付けられる。
発射角度と着弾点がまるで一致しない不可視の攻撃。
これが鈴の輝装、『
「衝撃の伝導……?」
「正確には振動よ。アタシしかマトモに知覚出来ない素粒子のワイヤーを伝って衝撃砲や打撃の衝撃を殆ど殺さず、一瞬の強い振動として打ち込むの。まあ、ワイヤー自体に大した威力は無いけどね」
それでも、衝撃を伝えるワイヤーはハイパーセンサーを使っても発見出来ないほどのステルス性能を持っている。
それだけでも充分に恐ろしいことだろう。何せ、攻撃を打ち込むワイヤーが自分に取り付いているかどうかすら気付くのが難しいのだ。
いつの間にかタコ殴りにされていたなんてこともおかしくはない。いや、例え気付けたとしても衝撃砲から放たれる砲弾も、その軌道も共に不可視。
一夏の輝装、
「あの黒い奴が何しに来たかは知らないけど……とりあえず、ボコボコにして自分が一体誰の邪魔をしてしまったのか、思い知らせてやるわ」
全身から怒りのオーラを発し、鈴は背中の双天牙月を引き抜いて連結させ、黒いISへと突っ込んでいく。
見ると、黒いISが土煙の中からゆっくりと起き上がっている。かなりの衝撃で地面に叩き付けられたというのに、装甲が少し損傷しているだけで動くのは問題無さそうだ。
それを見た一夏も再び気を引き締めて長刀を構えるが……少し、ほんの少しだけ黒いISの姿に違和感を覚えた。
姿と言っても、それは見た目の話ではない。その
(アレだけ右やら左やらと色んな方向から殴られたってのに、何でピンピンしてんだ?)
先程の連打の1発分の衝撃から考えて、あれだけの打撃を連続で……しかも顔面に打ち込まれれば、ダメージはともかく脳が盛大にシェイクされて平衡感覚が滅茶苦茶になるはずだ。
ISのエネルギーシールドも、バイタルの調整機能も万能ではない。
黒いISの仰け反り方から見て、頭が激しく動いていたのは間違い無い。そして、頭が激しく動けば脳が揺れる。
ソレを僅か数秒で回復させるのは、幾らISでも不可能だ。
なのに、あの黒いISは重心を全くぶらさずに平然と立ち上がった。
まるで、脳が……否、
(……まさか、な)
頭を軽く振るって自分の考えを打ち切り、一夏は戦闘へと思考を切り替える。
今自分の考えたことが当たっていようが外れていようが、あの黒いISをどうにかしなければいけないのは変わらない。
そう考えることで自分を納得させ、一夏は『白式』のウイングスラスターを展開させて黒いISへと突っ込んでいった。
ご覧いただきありがとうございます。
というわけで、鈴の輝装は離れていてもぶん殴ることの出来る透明パンチでした。
まあ、この輝装の本質は、遠くの敵を殴る。というのではなく、離れていても繋がっている、手が届く、というものですが。
攻撃の例えやイメージを挙げるなら……分かる人が限定的ですが、『鋼殻のレギオス』に出る『蛇流(じゃりゅう)』という技です。
仕組みはほぼ同じです。
次回はアドルフの方になります。
では、また次回。