IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
では、どうぞ。
Side Out
時は少し遡り、場所は一夏と鈴の試合が行われたアリーナの内部。
突如乱入してきた黒いISとの戦闘が開始されて十数分経過したが、その戦況は戦闘が開始されてから今に至るまで、一夏と鈴が圧倒的に優位だった。
黒いISの左右の胸部に装着された小型のビームガトリングが空中を旋回する『白式』と『甲龍』を牽制するが、『白式』はその間を縫うように駆け抜けて距離を詰める。
迎撃しようと巨大な両腕が振るわれるが、すかさず『甲龍』の拳が虚空を殴り付け、素粒子のワイヤーを伝った衝撃波がこめかみを殴打し、動きを阻害する。
その隙を逃さずに一夏は真っ直ぐ距離を詰め、無理矢理に振り抜かれた巨大な右腕のストレートに右逆袈裟に振るった雪片をぶつけ、拳の軌道を右側に逸らす。
そのまま懐へ入り込んだ『白式』は黒いISの腹部に右脚で膝蹴りを打ち込み、前屈みに傾いた顔面を左手で横からぶん殴る。
鬱陶しいものを薙ぎ払うように黒いISの右腕が横薙ぎに振るわれるが、それが当たるよりも先に『白式』は急速後退して回避。
そして、打ち合わせでもしていたかのような完璧なタイミングで『甲龍』が入れ替わり、双天牙月が唐竹に振り下ろされるが、黒いISはそれを左腕で受け止める。
「いいの?……この距離、曲げるまでもないけど」
尋ねた鈴の声に続き、
だが、《龍砲》は発射までのウエイトが数秒だけ存在する。
その隙に黒いISは左腕を横に振り抜いて『甲龍』を引き離し、すぐに離脱しようと急上昇を開始して空へ逃れる。
普通に考えれば、射線上から離脱しても『
だが、鈴は手の甲に埋め込まれた
「……流石にこんだけ撃てば気付くか」
特に感情が籠らない声で呟き、鈴は小さく息を吐く。
一見、相手を一方的に叩きのめすことが出来る『
だが、長所と短所は表裏一体。この輝装にも確かな欠点が存在する。
それは射程範囲……否、効果範囲と言うべきだろうか。
『
だが、その素粒子のワイヤーは無限に伸びるわけではない。
その射程は最大でおよそ50~60メートルと、ISの戦闘においてのクロスレンジからミドルレンジに届く範囲だが、それ以上は届かない。
つまり、今の黒いISのように距離を取れば衝撃伝導の効果は及ばない。
だが、この欠点に気付かれることを鈴にとって特に問題ではない。
もちろん、気付かれないに越したことは無いが、衝撃伝導をくらった相手は基本的に距離を取る為、効果範囲の欠点に気付くことが多いのだ。
しかし同時に、それを上手く生かせば相手の行動先を誘導出来るということだ。
そしてこの場に置いて、鈴の狙いがまさにそれだった。
「はあぁぁぁ!!」
上空からウイングスラスターを広げた『白式』が真っ直ぐに落下し、膨大な質量と重力を味方に加えて雪片を振り上げる。
それに気付いた黒いISは即座に振り返って胸部のビームガトリングを連射して弾幕を張るが、雪片の刀身に触れた瞬間に全て霧散化し、吸収される。
止められない。
そう判断した黒いISは咄嗟に両腕をクロスして受け止めるが、ISのパワーアシストや膨大な質量の落下の力を加えた斬撃の威力と衝撃は想像以上で黒いISはガード越しに吹き飛ばされ、アリーナの地面に落下した。
「いただき~♪」
そこへ陽気な声でにやりと笑った鈴が充分にチャージを終えた《龍砲》を放ち、素粒子のワイヤーを通して黒いISを直撃する。
地面に落下した直後では黒いISも避けられず、頭上から背中にかけて襲い掛かった衝撃がその体を真下の地面に叩き付ける。
黒いISが作ったものと同等の爆発とクレーターが出来上がり、地面が揺れる。
仕返しだと言うように黒いISが両腕を持ち上げ、大口径レーザーの照準を空中の『甲龍』に向ける。
だが、それが放たれるよりも先に雪片を構えた『白式』がウイングスラスターを広げて突撃する。
それに気付いた黒いISは接近を許さんと右の巨腕だけを動かし、即座に『白式』に大口径レーザーの照準を合わせて放つ。
直撃すれば『白式』を飲み込んで消し飛ばす程の巨大なレーザーが迫る。
しかし、圧倒的な破壊力を宿した光の壁は……
「邪魔だ」
……青色の輝きを纏った長刀の斬撃によって真っ二つに両断される。
その正体はエネルギーの性質を持つものを比類なく対消滅させる
まるで紙風船でも斬り裂いたように雪片を振り抜き、左右に割れた光の波の中を『白式』は真っ直ぐに駆け抜ける。
レーザー砲を避けるでもなく正面から文字通りに斬り裂かれたことで黒いISは急いで左腕のレーザー砲を向けるが・・・・
「遅い」
唐竹に振るわれた雪片の一閃がすれ違い様にその巨腕を肘先から斬り落とした。
エネルギーの対消滅機能によって無効化されるのは何も光学兵器に限った話ではなく、ISのシールドエネルギー・・・・絶対防御も例外ではない。
装甲の内部に隠れた搭乗者の肉体が傷付かない場所を斬り裂き、黒いISの左腕が重い音を立てて地面に落ちる。
しかし、黒いISと『白式』は動きを止めず、弾かれたように背後を振り向く。
黒いISは後ろへ振り向きながら腰の捻りを加えた鉄拳を振り下ろし、『白式』は振り下ろした刀身を横に倒して振り向きながら右斬り上げを放つ。
「っ……!」
斬撃と拳撃が一瞬だけ衝突し、両者がすれ違う。
数秒の間を挟み、音を立てて地面に落ちたのは・・・・黒いISの右腕だった。
「鈴」
「はいはい」
大きくも小さくも無い声で一夏が名前を呼ぶと、鈴は何もかも分かっているとでも言うような口調で返答し、《龍砲》が放たれる。
すぐさま素粒子のワイヤーを伝って軌道を変えた衝撃砲が黒いISの両肩を直撃し、押し潰すような衝撃がその体を地面に叩き伏せた。
その背中を踏みつけ、一夏は雪片の刀身を黒いISの搭乗者の首筋に当てる。
「動くな」
ほぼ零距離。この状況ではどうやっても一夏の方が速く動ける。
勝敗が決したからか、黒いISも動きを止めた。一応警戒の視線は外さず、鈴は千冬に通信チャンネルを繋げる。
「織斑先生、敵ISを無力化しました」
『ご苦労だった。もうすぐ3年生がその場に到着する。合流したらその場は任せ、お前達は下がれ。一応、周囲への警戒を怠るな』
「了解です」
通信を閉じて一夏に視線を向けると、視線を動かさずに無言で頷いた。
「しっかしコイツ……最後までダンマリを決め込んだわね」
「それなんだけどさ、鈴……コイツ、本当に人間が乗ってると思うか?」
その言葉に、鈴は眉を顰めて黒いISの搭乗者を一瞥する。
両腕を斬り落とされて立ち上がることも難しくなったせいか、搭乗者はピクリとも動かずに地面に倒れ伏している。
戦闘中も苦悶の声1つ上げず、今も変わらず無言。
一夏の質問を訊いたからか、今はその様子が酷く不気味に感じる。
まるで、人の機能を真似ただけの人形を見ているような気分だ。
だが、鈴は頭を軽く振って疑問を振り払い、思考を切り替える。
「此処でアタシ達が気にしても仕方ないことよ。それをハッキリさせる為にも、今はコイツが何処かに逃げないように……ん?」
その時、2人のISが『ALERT』と書かれた表示を展開した。
即座に周囲の索敵を開始すると、新しい反応が接近していた。
「何この速度……敵の増援? 上空から真っ直ぐに……」
そこまで言ったところで、アリーナの上空・・・・黒いISのレーザー砲によって開いた穴を通って何かが飛来した。
着陸の衝撃がアリーナ全体を揺らし、巨大な土煙が立ち上る。
そして、その中から現れたのは……
「■■■AAAA■■■■■AA!!!!!!!!!!」
……凄まじい威圧感を纏った赤銅色の機獣だった。
その姿形は人間を模倣したものだと分かる。だが、人間として欠かしていけない要素が致命的なまでに欠落した・・・・まるで鉄塊を人の形に削り出しただけの亡霊のような存在感があった。
しかし、そんなものでありながらも感じるただ一つの意思・・・・いや、もしかしたらソレしか持ち得ていないのやもしれない圧倒的な破壊衝動が一夏と鈴の意識に突き刺さる。
「何だ……アイツは……」
どうにか絞り出したような声で呟いた一夏の言葉に鈴は返答を返せなかった。
正直な言葉を返すなら、こっちが訊きたい、と大声で言ってしまいそうだ。
赤銅色の装甲を纏う体は鋭利と流線を合わせた形で、全体的に機動性と重装甲を両立させた猛禽類のようなフォルムをしている。
両肩と背中に装着されたスラスターと各所の関節が駆動音を鳴らし、ズシン、ズシンと重い足音を響かせながら昆虫のような無機質な義眼が淡く光る。
その義眼を一夏と鈴が目にした瞬間、2人の肉体に怖気が走る。
まるで眉間に向けられた銃口の中を覗いたような、突き付けられた刃物の先端を見詰めたような、死の恐怖を間近に感じた。
その直後、機獣は地を蹴って凄まじい速度で真っ直ぐ2人に迫る。
「GAAAA■■■■■AA!!!!!!!!!!」
「っ!……一夏、離れて!!」
迫る機獣を見た瞬間、コレは止められない、と直感で理解した鈴は叫ぶように一夏に声を飛ばし、2人は同時に左右の空へ飛び退く。
逃れたどちらかを追って来ると予想し、2人は機獣の動きに備えて警戒する。
だが、機獣はそんな2人の警戒を意にも返さぬと言うように視線すら向けず、地面に倒れ伏す黒いISへと向かっていった。
「なに……!?」
意外な声を上げた一夏の視線の先で、機獣は鋭い爪を備えた左手を叩き付けるように黒いISの搭乗者の頭を掴んで持ち上げる。
そして、貫手の構えを取った機獣の右手が・・・・絶対防御による抵抗を紙のように突破し、搭乗者の肉体諸共ISのボディを真っ直ぐ貫いた。
「「なっ……!!」」
2人の驚愕を他所に機獣が右手を引き抜くと、その手には淡い輝きを放つ球体が握られていた。
(アレって……ISのコア……?)
資料でしか見たことはないが、その形状は鈴の記憶にあるものと一致する。
機獣がそのコアを握り締めると、コアの内部から放たれる淡い光が徐々に弱まり、その光は手の平を通って機獣に吸収されていく。
そして、光の全てを吸収し、機獣は機能を停止したコアを握り潰した。
そこまでやって、ようやく機獣の
一夏と鈴が武器を構えて警戒し、機獣はゆっくりと全身に力を巡らせる。
((来る……!))
仕掛けてくると2人の直感が確信し、緊張が最大に達する。
しかし、今確かに動き出そうとしていた機獣は突然動きをピタリと止め、僅かな躊躇いも無く視線を2人から外した。
(何だ……? 何処を見て……)
「あっ……!」
その先に何があるのかと一夏が視線を追おうとするが、鈴の呟きを聞いて視線を戻す。
見ると、機獣が膝を僅かに折って脚に力を溜め、凄まじい跳躍力でアリーナのバリアを飛び越えて姿を消した。
「……ホント何なのよ、アイツ……!」
「分かんねぇけど……放置するわけにもいかないだろ。急いで追って……」
苛立ちの声を上げる鈴と同じく一夏も戸惑いを隠せなかったが、あの機獣が危険な存在であるのは間違いない。
一刻も早く止めなければと一夏が機獣を追い掛けようとしたその時……
『追うな!!』
突然通信が開き、怒鳴り声のように大きく、聞く者を萎縮させるように鋭い千冬の声が一夏と鈴の動きを止めた。
「けど千冬姉、このままじゃアイツが……!」
『問題無い。行き先は分かっているし、ヤツを捕らえるなら向こうの方が都合が良い。強力な増援が向かっているからな』
「強力な増援……?」
『とにかくお前達は戻れ。もう出来ることは無い』
そう言って、千冬からの通信は切れた。
戻れと言われた以上、無視するわけにはいかない。一夏と鈴は踵を返してピットへと戻っていく。
ひとまずの危機が去ったことで緊張が解けたせいか2人の体には重い疲労感が漂い、気が付けば動きも鈍くなっている。
(アイツ……ホント何者だったんだ……?)
肩で息をしながらも、一夏の視線は機獣の行き先を不安そうに見詰めていた。
* * * * * * * * * * * * *
そして時は今に至り、アリーナに降り立った機獣はアドルフと対峙する。
突然出現した機獣はもちろん、外壁に倒れる黒いISの双方を警戒しながらアドルフは両手の武装を握り締めて警戒する。
「GAAA■■■AAAA■■■■■!!!!!!!!!!」
しかし、機獣は様子見の時間など置かずに咆哮を上げて土煙を突き破り、アドルフのいある方向へ真っ直ぐに突撃してくる。
「ッ……!」
アドルフは即座に跳躍してその場から離脱し、迎撃しようと電子加速銃を構える。
だが、アドルフは照準と同時に強い違和感を感じ、すぐにその正体を理解する。
(コイツ……オレを見ていない……?)
本能のままに飛び掛かったようにしか見えない突進だが、その義眼にはアドルフへの興味が欠片も存在していなかった。
実際、機獣は飛び退いたアドルフに目を向けず、真っ直ぐに黒いISへと向かった。
そしてそのまま、突進の勢いを全て乗せて左手を突き出し、黒いISのボディを真っ直ぐに貫く。
アドルフは知らないが、機獣は再びISコアをボディの内部から引き抜き、コアの内部から放たれる淡い輝きの光を全て吸収して握り潰す。
そこまでやると、機獣は右手をゆっくりと掲げ、右手に素粒子の光を集める。
ほんの数秒で弾けた光の中から姿を現したのは、何とも巨大で奇妙な武器だった。
中央を占める大部分は縦長の鉄槌のような形状をしており、先端部には鮫の歯のような小ぶりのような刃が無数に並んでいる。
片方の上部には長い筒状の砲身が固定され、側面と手元近くには複雑な機構を思わせる様々なユニットが取り付けられている。
機獣はその機構鉄槌を片手で軽々と振り回し、その先端を地面に力無く倒れ伏す黒いISへと向けて……
ボオオォォォォォン!!!
……一切の容赦も無く上部に取り付けられた大口径キャノン砲の爆炎を至近距離から叩き込んだ。
範囲は劣るが、恐らく1発の破壊力は黒いISのグレネードランチャーを上回る大火力の爆発が弾け飛び、タダでさえボロボロだった黒いISの装甲が容易く消滅する。
しかも、その火砲は1発だけに留まらず連射、連射、連射……黒いISの装甲が砕け散る音と即座にソレを掻き消す爆音が鳴り響く。
「AAAAA■■■!!!!!AAA■■■■■!!!!!!!!!!」
やがてキャノン砲の連射が止まり、機獣は黒いISを完全に
あまりにも圧倒的で、あまりにも理不尽な殺戮。
天に昇る巨大な爆炎の柱を背に佇み咆哮を上げる機獣の姿を前にして、アドルフの肉体に凄まじい怖気が走る。
それと同時に、彼の頭の中を掻き毟るような激痛が襲う。
「ぐッ……!」
苦痛の声が僅かに漏れ、アドルフはその場に片膝をついてしまう。
痛みの正体は分かっている。今まで何度も経験しているフラッシュバックによるものだ。だが、アドルフが気になっているのは……
(何故、このタイミングで……! しかもこれは……いつもより痛みが……)
もうこの時の痛みは完全に慣れてしまったはずなのに、アドルフの頭の中を襲う頭痛はいつもより強く、吐き気も凄まじい。
そして、目に映る視界が反転し、一面に広がるのは地獄の炎が燃え盛る世界。
此処まではいつも通りの光景だった。
その中でアドルフはふと、この幻覚にも今までと違う所を見つけた。
今までは見えなかった炎の奥……そこに見えたのは、大きく鋭利な人型の影。
より強い炎を背にしているせいか、その全身は濃い影に包まれていて具体的な姿がまったく分からない。
ただ、その中で1つ、黒い影の中で光る機械的な光を放つ眼が自分を捉えて……
「…………ッ!!」
そこで、アドルフの視界は元に戻った。
まるで夢の中から弾き出されたような感覚で意識が正常に戻り、元に戻った視界の中で左右を軽く見渡す。
『エクリプス』のバイザーからハイパーセンサ―を通して見える世界は完全に元に戻っている。
周囲を囲むアリーナの外壁、前方には咆哮を終えて爆炎を背にこちらをゆっくりと振り向く機獣の姿があった。
そして、頭部に取り付けられた昆虫のような義眼がアドルフを捉えた瞬間……
(あっ……)
……ノイズのような音がアドルフの頭の中を横切り、フラッシュバックの中で見た光景が一瞬だけ普段の視界と重なった。
それによって、アドルフの脳内にある考えが浮かぶ。
この機獣の姿を見た瞬間、今まで何の変化も無かったフラッシュバックの映像の中に変化が現れた。
つまりは、
「お前なのか……?」
視界が俯き、か細い呟きがアドルフの口から漏れる。
「お前が、やったのか……?」
両手に掛かる力が増し、肩が小刻みに震える。
『エクリプス』の装甲の各所が、背中のウイングバインダーがゆっくりと展開して駆動音を鳴らし、出力を上昇させていく。
そして、バイザー越しに強烈な殺意を宿した目と共に、右手の電子加速銃と左手のシールドがゆっくりと持ち上がる。
「GAAAAA■■■!!!!!
「お前が……あの日オレの全てを奪ったのかァァアッ!!!!!」
直後、機獣の咆哮とアドルフの激昂が重なり、両者は必然と激突した。
ご覧いただきありがとうございます。
というわけで、アドルフの方はブチ切れて第2ラウンドに突入です。
ゼロインの原作知ってる人は分かると思います……はい、普通に無理ゲーですww
では、また次回。