IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ   作:月光花

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namaZ様から感想をいただきました。ありがとうございます。

今回でようやく原作1巻分終了です。

既に話の流れは原作乖離も良い所だけど……先は長い。

では、どうぞ。


第20話 学園最強

  Side Out

 

 不意打ちのように登場した新たなISを前にして、先程まで破壊の暴威を撒き散らしていた機獣は不気味なまでに沈黙を貫いていた。

 

当たり前の話だが、機械というのは基本的に入力された命令を実行するものである。

 

この機獣の場合は恐らく様々な状況を想定し、その時に相対した問題をクリアする為に即座に最適な行動を取るというプログラムが組み込まれている。

 

ならば現在、機獣が新たに乱入して来た存在を前に沈黙を貫いているのは、動かないのではなく、下手に動けないというのが最適な行動だと判断したからではないだろうか。

 

「不思議ね」

 

だが、時間とは常に流れ続けるものであり、世界もまた同じ。

 

戦場を包み込んでいた沈黙を更識楯無の言葉が打ち破った。

 

特に感情を含んでいないように思える声なのに、アリーナ全体の空気が僅かに重くなったような気がする。

 

「今まで明るいものからドス黒いものまで、色んな感情を感じては分析して使い分けたりしてたけど、今の感情はちょっと新鮮だわ」

 

視線が自分を見上げる簪に向けられ、慈愛に満ちた微笑が浮かぶ。

 

「1つは自分の妹が大きな成長を遂げられたことへの喜び」

 

そこから動いた視線がアドルフを踏みつける機獣に向けられた瞬間、今度こそ間違い無く周囲の空気が凄まじい圧力に襲われた。

 

「もう一つは……その切っ掛けを作ってくれた恩人を傷つけた存在に対する怒り。この2つが同時に心の中に広がって混ざり合ってるの」

 

そう言うと楯無は軽く地を蹴って外縁部から飛び降り、アリーナの大地にふわりと着地する。

 

右手に握られているランスは未だ持ち上げられておらず、反対の何も握られていない左手が持ち上がって機獣を指差す。

 

「それで……アナタはいつまで私の恩人を踏みつけているの?」

 

一変した冷たい声と共に左手の指がピストルの形を作って軽く跳ねる。

 

普通なら子供の悪戯に見えるような動作……だが、その動作を全員が認識した瞬間、空気を貫くような音と共に機獣の胸部が爆発を起こした。

 

それも一度ではない。

 

二度、三度と……最初の爆発によって体が仰け反った瞬間に畳み掛けるように右腕、左肩が爆発に襲われる。

 

(これって……)

 

間近で見ていた簪の目は、その現象の正体を正確に捉えることが出来た。

 

『十六夜』のハイパーセンサーと輝装に覚醒を果たした簪の観察眼は、確かに爆発を起こした機獣の体から飛び散ったモノを見た。

 

(水……)

 

恐らく殲機によって生み出されたモノであろうその水が、機獣の体を()()()()爆発させていたのだ。

 

瞬間的な超加熱による水蒸気爆発か、機獣の体内を伝うエネルギー回路を熱暴走させたのか……いずれにせよ、体内からの爆発に防御など出来る筈も無く、機獣の体は為す術も無く弾け飛ぶ。

 

そして都合4度目の爆発によって機獣の右膝が吹き飛び、アドルフを抑え付けていた拘束が解かれる。

 

すぐに助けようと簪は動き出そうとする。

 

だが、それよりも早く……

 

「アぁぁァァ!!!」

 

……咆哮と共に血反吐を吐き出すアドルフが体を跳ね起こして 電磁加速銃(レールガン)を構えた。

 

その姿を見て驚愕に目を見開いたのは、簪だけではなかった。

 

つい先程この場に到着した楯無の目から見ても、アドルフはもう動けないと判断出来る程の重体だった。

 

そして実際、その読みは正しい。

 

アドルフの体は既に機獣の攻撃によってボロボロだ。ほんの少しでも体を動かすだけで凄まじい激痛に襲われている。

 

それでも今立ち上がって機獣に銃口を向けていられるのは、単純な意思の力によるもの。気合や根性と言った理屈抜きの力である。

 

負けてなるものか。自分の過去の全てを焼き払った怨敵を前に屈してなるものかと、嚇怒の激情を燃やしてアドルフは引き金を引き絞る。

 

体の各所を爆発によって欠損した機獣の胸部に至近距離から 電磁加速銃(レールガン)が撃ち込まれ、巨躯を貫通しても有り余る衝撃がそのまま遠くへと吹き飛ばした。

 

「ハァ……ハァ……げほっ!」

 

ざまぁみろと言うように肩で息をしながらアドルフは吹き飛んだ機獣を睨む。

 

だが、すぐに体の各所が激痛と共に悲鳴を上げ、こみ上げる吐き気と共に血が零れる。

 

再び膝から崩れ落ちそうになるが、倒れ伏すよりも早く駆け付けた簪が体を支える。

 

「驚いた。随分と無茶するのね、この子」

 

傍に着地した楯無は苦笑を零しながらアドルフの白髪を優しく撫でる。

 

それに反応してアドルフの脱力した頭が僅かに持ち上がるが、既に限界を迎えつつあるのか朧げな視界はハッキリと楯無の姿を捉えていない。

 

楯無は口元に僅かな微笑を浮かべ、身を翻して簪とアドルフを守るように立つ。

 

「行きなさい、簪ちゃん。アイツの相手は私がするわ」

 

「で、でも……!」

 

「色々と言いたいことが有るのは分かるわ。けど、彼の怪我は一刻も早い治療が必要よ」

 

「う、うん……それは……」

 

分かっている、と心中で頷きながら簪はアドルフに視線を落とす。

 

『エクリプス』の装甲は至る所が欠損し、アドルフの体も絶対防御を貫通した衝撃によってボロボロである。意識消失でISが展開解除されていないのが不思議なくらいだ。

 

だが、機獣の強さを身を以て体験した故かどうやっても安心が出来ず、拭い切れない不安が簪の足をその場に縫い留める。

 

「大丈夫よ、簪ちゃん」

 

俯く簪の肩に楯無の手が置かれ、視線が持ち上がる。

 

「今だけは信じて。私は負けない」

 

短い言葉と共に優しい笑顔が向けられる。

 

それだけで、不思議と簪は心の中にあった不安が軽くなったのが分かった。

 

同時に思い出す。目の前に立つ自分の姉が、このIS学園においてどのような地位に君臨しているかを。

 

IS学園、()()()()

 

その役職が意味することとはつまり、()()()()

 

「……分かった」

 

ハッキリと答えを返し、今度こそ簪はアドルフを支えながら踵を返す。

 

機獣の来襲によって砕け散ったアリーナのバリアを通り、そのまま外縁部を飛び越えてアリーナを出ようとする。

 

だがその途中……

 

「ゥウ……ぁア……!」

 

……肩を支えていたアドルフが消えかけている意識の中で僅かな呻き声を上げながら体を震わせた。

 

無意識によるものか、それともまだ僅かに意識が有るのか、いずれにせよ機獣への強力な怒りと憎しみが為せる業だろう。

 

その呻き声は当然簪にも聞こえていた。

 

「……ごめんね」

 

だが、簪は短い謝罪を呟いて足を止めることはしなかった。

 

もしかしたら後でアドルフに恨まれるかもしれない、という不安が一瞬だけ簪の心中を横切ったが、彼女は自分でも意外に思う程あっさりとその不安を振り払った。

 

上手く言えないが、今この時はこうすることが正しいはずだと、彼女の心には確信が有った。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「意外にあっさりと見逃してくれるのね」

 

簪とアドルフが離脱したアリーナの中で、唐突に楯無が呟いた。

 

その視線の先には、全身の損傷を完全に修復した機獣が静かに佇んでいた。

 

楯無が姿を現した時と同時に機獣は咆哮の1つも上げずにただその場に沈黙して立っている。

 

すると、短い電子音に続いて声が聞こえた。

 

『見逃シタワケデハナイ。追撃ヲ行ッタ場合トソウデナイ場合ノ損害ヲ比較シタダケダ。確カニ彼等ノ離脱ヲ阻止スルコトハ可能ダッタガ、ソノ為ニコチラガヤラレテハ本末転倒トイウモノダロウ?』

 

アドルフの時と特に変わらぬ口調で放たれた返答に、楯無は特に驚くことなく僅かに目を細めて機獣を見据えた。

 

「残念ね。もっと油断してくれていると思ったけど」

 

その口調には驚愕の気配が欠片も存在していない。

 

まるで聞こえてくる声の主に心当たりがあるかのように奇妙な会話が続く。

 

『流石ニソコマデ楽観的ナ思考回路ハ持チ合ワセテイナイ。敵対関係ニ有ルカラト言ッテ他者ノ能力評価ガ曇ルナド愚昧モ良イ所ダ。贔屓ノ一切無ク、キミハコチラヲ倒スノニ充分ナ強サヲ有シテイル』

 

「そう思うなら逃げたらいかが? ただでさえ簪ちゃん相手に油断して心臓1つ失くしてるのに」

 

小馬鹿にするような口調で楯無は右手に持つランスを持ち上げ、機獣の胸部に矛先を向ける。

 

その奥に見えるのは、圧倒的な強さを振り撒く機獣の動力源。ハイパーセンサ―を通して返ってくる反応の数は、2つだけだった。

 

だが……

 

『問題無イ』

 

……機獣の内部に納められた魔の心臓は、あまりにもあっさりと息を吹き返した。

 

胸部装甲の中央奥に3つ並んで搭載された動力源。未だ輝きが失われていない2つが数秒間の激しい駆動音を鳴らし、機獣の全身から大量の素粒子が放出される。

 

その放出された素粒子は即座に機獣の体内……より正確には胸部装甲の深部に吸収され、たしかに機能が停止したはずの動力源が何度かの点滅の後に輝きを取り戻した。

 

「■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!」

 

自身の体に行き渡る活力が元に戻ったことを歓喜するかのように機獣は咆哮を上げる。

 

その咆哮は物理的な力をも孕んで周囲に衝撃波を拡散させるが、対峙する楯無は飛び散る瓦礫や破片を気にもせずに機獣を見ている。

 

『イササカ卑怯ニモ思エルガ、キミヲ相手ニスルナラコレクライハ妥当ダロウ』

 

右手に握る機構鉄槌の刃が騒音を鳴らしながら輝きを放ち、機獣の義眼が楯無を補足する。

 

『ダガ、確カニアレハ我ナガラ恥ズベキ失態ダッタ。彼女ニハ然シタル興味モ無カッタノダガ、アレ程ノ力ヲ見セテクレルトハ……良イ意味デ誤算ダッタ』

 

「当然よ、私の自慢の妹なんだから」

 

今まで特に感情の起伏を感じさせなかった音声の中に、初めて感情の気配が現れる。

 

自らの失態を恥じるような羞恥心と、それを塗り潰すように続いて湧き上がった歓喜。

 

その声の中に偽りの気配は無く、間違いなくこの声の主は自分の戦力である機獣を一度撃破して見せた簪の実力を褒め称えている。

 

『ソレト先程ノ質問ニ答エルガ、逃ゲハセンヨ。何ヨリ、()()()()()()()?』

 

()()()()

 

そんな会話を引き金に、今まで欠片も気配を感じさせなかった威圧感がアリーナ全体を押し潰すように広がった。

 

最初に楯無が機獣を見た時よりもさらに強大な威圧感。

 

それを察知してか、声の主は何処か楽しそうな声を上げる。

 

『ナルホド……アノ2人ヲ逃ガシタノハ、()()()()()()()()()、カナ?』

 

次の瞬間、楯無の左腕が跳ね上がると共に一瞬だけ風切り音が聞こえ、機獣の左半身が“ズレ”を起こした。

 

見ると、振り抜かれた楯無の左手にはワイヤーで連結された刃を蛇のような軌道で飛ばす蛇腹剣、ラスティー・ネイルが握られている。

 

「殺すわ、アナタ」

 

底冷えするような冷たさを帯びた楯無の声。同時にその身から発せられる威圧感は時を刻むごとに増大していく。

 

『ナラバコレ以上ノ介入ハ無粋ダナ。存分ニ見セテクレ』

 

そう言って、声の主の気配が完全に途切れ、機獣が再び暴虐と殺戮の波動を纏う。

 

同時に楯無の唇が僅かに震え、“その言葉”が紡がれる。

 

 

展開(エヴォルブ)――!」

 

 

数十秒後、戦場となったアリーナが一瞬の閃光と共に崩壊した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 アドルフと簪が戦場から離脱した数時間後。

 

IS学園内部に設置された警備管制室にて、千冬は腕を組みながら部屋の中央に立って正面モニターを睨み付けるように見ていた。

 

そこへ、ヘッドホンタイプの通信機を付けた麻耶が安堵の息を吐きながら近付く。

 

「織斑先生、連絡が有りました。クロスフォード君の容態は安定したそうです。後は医務室の方に運んで休ませると」

 

「そうか。自室で待機している更識妹にも教えてやれ。心配しているだろうからな」

 

千冬の指示に麻耶は分かりました、と微笑みながら了解して部屋を出る。

 

それを見届けた千冬は視線は再び鋭さを取り戻し、モニターを睨み付ける。麻耶がいなくなったことで、眼の中には明確な怒りが渦巻いていた。

 

「なんてザマだ……!」

 

吐き捨てるように呟きながら、拳を強く握る。

 

懸念しているのはもちろん今回の騒動の件。

 

みすみす侵入を許した上にシステムを掌握され、守らなければならない生徒を命の危険に晒してしまった。

 

その間、自分は安全な管制室に退避して指示を出していただけだ。

 

その結果何人かが輝装に至ることが出来た? 大きな一歩を踏み出して成長すること出来た?

 

馬鹿を言うな。

 

アドルフと簪が今も生きているのは奇跡にも等しいことだ。

 

極限状態によって追い詰められたとはいえ、あの2人が輝装に至ることが出来たのは紛れも無く彼等自身の潜在的な強さによるもの。

 

しかしソレを差し置いても彼等が死亡する可能性は楽観的に見ても8割は有っただろう。それだけあの機獣の強さは圧倒的なものだった。

 

楯無が間に合わなければ、間違い無く2人は殺されていた。

 

アドルフと簪の覚醒や楯無の救援……他の様々な要因が絡んだ結果が、今回の『奇跡』なのだろう。

 

「っ……!」

 

そう考えて、千冬の怒りが再び勢いを増していく。

 

たしかに、今回の騒動で人命が失われるような被害は無かった。

 

完全にこちらの不意を突いて襲撃されたというのに、輝装到達者2人を圧倒するほどの力を持つ機獣が現れたというのに、だ。

 

冷静になって、完全な第3者の視点で見れば、分かる者はこんな疑問を抱くだろう。

 

 

出来過ぎではないか?と。

 

 

まるで最初から最後までの展開を誰かが考えていたかのようだ、と。

 

 

そんな時、通信の受信を知らせる短い電子音が室内に響いた。

 

我に返った千冬が即座に端末を操作して通信を繋げると、正面モニターに『SOUND ONLY』と表示された通信モニターが表示される。

 

「報告しろ、更識」

 

『織斑先生……申し訳、ありません。目標を、仕留めきれず……ロスト、ました』

 

ノイズが酷く、聞こえる声も激しい疲労感を含んでいたが、内容はちゃんと聞こえた。

 

つまり、あの機獣は既にIS学園を離脱して何処かへ姿を消したということだ。

 

「そうか……よくやってくれた。あの化け物を撤退させただけでも上出来だ」

 

『はい……ありがとう、ございます……』

 

「ところで更識、何故モニターをオフにしている。通信装置の不調か?」

 

その問いに対し、僅かな沈黙の時間が流れる。

 

それは明らかに、返答の言葉に迷って生まれたものだった。

 

『……いえ、ダメージを受けましたが、モニターに異常は、有りません……ただ、自分の姿を、()()()()()()んです……』

 

「……わかった。現在そのアリーナには誰も近付けない。どうにかして今送った座標まで移動してくれ」

 

『了解……通信、終わります』

 

そう言ってモニターが閉じられ、千冬は大きな溜め息を吐く。

 

たった1日の間で多くのことが起こり過ぎたせいか、流石に精神的な疲労が重くなってくる。

 

「とりあえず、戦場となったアリーナはもう使えんな」

 

呟きながら、千冬はヘッドホンタイプの通信機を装着してスイッチを入れる。

 

学園を襲った脅威そのものは消えたが、この混乱が収束するのはまだ少し先のようだった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

会話の中のカタカナ文が読みにくい場合は意見をください。数が多ければ普通の文に修正します。

というわけで、学園に侵入した不審者は生徒会長が直々に追い出してくれました。

ちなみに、戦場となったアリーナに近付けない、というのはそのままの意味で、近付いたら命の危険に襲われるということです。

もちろん、IS操縦者も含めて。

では、また次回。
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