IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
今回はそれぞれの人間の戦闘後の話になります。
では、どうぞ。
Side アドルフ
深い水中から顔を出したように意識が浮上し、ゆっくりと瞼が開いた。
まず最初に目に映ったのは夕焼けに照らされた照明と天井、そしてオレを囲むように広げられている白いカーテンだった。
恐らく今のオレはベッドに寝ており、ぼんやりと天井を見上げているのだろう。
「あっ……起きた?」
簡単に現状を確認していると、オレの目覚めた気配を察した声が左から聞こえた。
そこには、身を乗り出しながらこちらを心配しながらも安堵するような目で見る更識の姿があった。
傍に置かれていた点滴のチューブと僅かに漂う薬品の匂い等から察するに、どうやらオレは医務室にいるらしい。
「オレは、どのくらい眠ってた?」
最後にハッキリと覚えているのは、背中を踏みつけられた状態から起き上がって機獣の胸部に
そこからは意識が朦朧として、ただ気絶しないようにしていただけで何も覚えていない。
「えっと……多分、5時間くらい。今の時間は午後6時の少し前」
「そうか……随分長く眠ってたんだな」
呟きながら視線を下に向けて体を少しだけ動かそうとするが、麻酔が効いているのか痛みどころか感覚そのものが感じられない。
経験上痛みには慣れているが、好き好んで苦痛を味わう趣味は無いので麻酔が切れた時に襲い掛かる痛みの酷さを考えるとかなり気が重くなる。
「先生が今日と明日は絶対安静だって言ってたよ。その後も一週間は極力運動を避けるようにって」
「そうか。痛みの感じから骨をやったのは分かってたが、その程度で済んだのは幸運だったのかもな」
本来なら折れた肋骨の完治には1ヶ月ほど掛かるものだが、ISの登場による技術革新を迎えた今の最先端医療ならば一週間ほどで治る。
恐らく頭部の傷も、包帯が取れる頃には綺麗に無くなっていることだろう。
「オレのIS……『エクリプス』はどうなった?」
「少し損傷が大きいから今は学園の施設で修理してる」
オレ以上にボロボロになっていた『エクリプス』も、どうやら問題無く直るようだ。
ひとまず、自分の現在の状態を確認し、オレは話の内容を本題に切り替える。
「……なあ、アイツはどうなった?」
その質問に、更識は俯きながら数秒沈黙する。
アイツ、という言葉が何も示しているのかは言うまでも無く更識も分かっているはずだ。
そして、更識は不安そうな表情を浮かべながらもオレの質問に答えてくれた。
「……私達が撤退した後、戦闘は数時間続いて所属不明機は撤退。すぐに索敵範囲外に離脱したみたい」
「……逃げた、か」
呟きながら、オレの心の中に渦巻いたのは安堵と落胆が混ざり合ったような、上手く言葉では表現出来ない気色の悪い感情だった。
怨敵であるあの機獣が自分の知らない所でまだやられていないことに喜びながらも、憎悪の対象が未だ生きていることに苛立っているような感じだ。
いずれにせよ、プラス方面の心境ではない。
「……ごめんなさい」
ふと、更識が俯きながら震える声で呟いた。
その言葉が何のことを差しているのか、察しは着く。
マトモに立つことすら出来ない状態で機獣と戦おうとしていたオレの意思を無視して撤退したことを謝っているのだろう。
優しい子だな、と素直に思う。
普通に考えれば更識が詫びる必要など微塵も無いというのに、オレの勝手な都合なんかを気にして謝っている。
「謝ることはない。お前がやったことは何も間違っていない」
「でも……」
「アイツを倒せなかったのはオレが弱かったからだ。そして、お前はそんなオレを助けてくれた……ありがとう、更識。お前のおかげで、オレは今も生きてる」
更識の目を見詰めて、嘘偽りない言葉を伝える。
あの機獣は憎い。この手で木端微塵に粉砕してやりたいと今でも思う。
だが、今のオレでは勝てない。事実、オレは半分の力も出していない機獣を相手に敗北し、更識が輝装に覚醒しなければあのまま呆気なく殺されていただろう。
だからこそ、更識には心から感謝している。
オレはまだ、強くなってアイツと再び戦うことが出来るのだから。
「……うん」
しばらく考え込んでから更識は頷き、それ以上は何も言わなくなった。
オレは部屋の空気を変えようと何か別の話題を探そうと視線を巡らせるが、ある物を見付けてしまい視線が固定される。
ベッドの傍に設置されたデスク。その上には、オレが普段付けている手袋が置かれている。
まさかと思い麻酔で動かない自分の体を見下ろしてみると、オレは薄い青色の病院服にも似た服を着ていた。
ちらりと更識を見ると、気まずそうに目を逸らされた。
(これは、腕を見られたか……)
よく考えてみれば医務室に運ばれるような負傷者がずっと同じ格好でベッドに寝かされているわけがないということに気付き、自分の間抜けぶりに呆れる。
オレとしては別に見られても何か問題が有るわけではないが、気を遣われて付き合い方を変えられるようなことはごめんだ。
「前にも言ったが、気にしないでくれ。同情で気を遣われる方がオレとしては嫌なんだ」
「う、うん……じゃあ、私も気にしないから、アドルフも部屋の中くらいは気にしないで手袋を外して?」
そう言った更識の提案に少し驚くが、少しだけ笑いが零れて分かったと返事を返す。
それからは10分くらい更識と雑談をして面会時間は終了し、オレだけが残された医務室は担当の教師が出ていくと共に灯りが消える。
月明かりだけが照らされる天井を見上げながら、オレは静かに頭を働かせて今回の襲撃についての情報を纏める。
今回の襲撃はあらゆる面から見ても不可解な点が多過ぎる。
なにより、このIS学園を今日襲撃した理由さえ皆目見当が付かない。
オレや織斑のような男性操縦者の拉致か抹殺が目的ならわざわざ 凰鈴音も同じ場所にいるようなタイミングで襲撃するのは不自然だ。
普通なら標的が単独でいる時を狙うはずだろう。
ならばIS学園への施設破壊や情報の奪取が目的かと問われれば、これもまた怪しい。
黒いISが降下して来たのは校舎から離れたアリーナ2ヶ所。
最初の1機目が陽動の役目を請け負っていたとしても、2機共アリーナに降下しては意味がない。アリーナは学園全体で見れば大して重要な施設ではないし、情報が目当てなら校舎内の施設を狙えば良いはずだ。
こうして見ると、やはり襲撃側の狙いが分からない。
これではまるで、
(まさか、な……そんなことをして何の得になる……)
浮かんだ考えを振り払い、軽く息を吐いて思考を落ち着ける。
すると、意識が睡魔に襲われ始めて瞼が重くなってくる。
どうせ明日もベッドから動けないのだし、今日はもう寝ることにするかと頭を枕に預ける。
ひとまず、一度ぐっすり眠ってから今後やることを考えるとしよう。
そう自分に言い聞かせ、オレは意識を睡魔に委ねた。
* * * * * * * * * * * * *
Side 一夏
「ということなので……クロスフォード君は大事を取って今日の授業をお休みします。一応言っておきますけど、怪我人なので面会は出来ませんよ。それと、先日の襲撃の被害に遭ったアリーナは崩落の危険が高いので絶対に近寄らないようにしてください」
黒いISの襲撃によって行事そのものが潰れたクラス代表
朝のホームルームを迎えた教室にて、山田先生が様々な連絡事項を伝えている。
黒いISとの戦闘が終了してピットに帰還し、千冬姉から今日はもう休めと言われて俺も鈴も大した会話も無くそれぞれの部屋に戻りシャワーを浴びて泥のように眠った。
思い出したように襲い掛かって来た疲労感のせいか、午後の3時くらいに少しだけ眠るつもりが目覚めたら翌日の朝になっていたのは驚いた。
何だかやたら機嫌が悪かった箒からは「情けないぞ!」と 言われて正直少しカチンと来たが、じゃあお前がやってみろなんてガキみたいなことを言うわけにもいかず、適当に流した。
というか、何でアイツはあんなに機嫌悪かったんだ? ホームルームの前に山田先生から昨日オレが寝てて伝えられなかったことが有るって言ってたけど、その件か?
「……連絡事項は以上です。では、本日の授業を始めます」
山田先生がそう言って締め括り、全員が参考書とノートを取り出して意識を切り替える。
俺も同じく参考書とノートを広げて視線を正面モニターに向ける。
だがそうする中で……
(そういえば、あの途中で現れた機獣……何でアイツのことを山田先生は何も言わなかったんだ? 正体不明って言うなら、アイツの方がよっぽど重要なのに……)
……そんな疑問が頭の中に浮かんだが、今考えても仕方がないことか、と即座に思考を打ち切って授業の内容に意識を傾ける。
授業の進行に遅れないようにと少し慌て気味にノートを取り始めた頃には、抱いた疑問のことはもう殆ど意識の中には残っていなかった。
同時に、この時教室の入り口近くにいた千冬姉がずっと俺に視線を向けていたことも、この時の俺は気付くことがなかった。
* * * * * * * * * * * * *
Side アドルフ
普段であれば授業を受けている時間帯の全てを医務室のベッドの上で過ごし、今の時間は既に放課後を過ぎて夕方を迎えようとしている。
室内に差し込んでくる夕焼けの光を見て大体の時間を認識し、オレは視線をベッドの横に移動させる。
そこには、椅子に座りながら待機状態のISから表示されたモニターを見詰めてキーボードを操作する更識の姿があった。
本来今のオレは面会謝絶で誰も病室に入れないはずなのだが、暇を持て余していたオレを見かねてか医務室の先生がルームメイトの更識だけ特別に入室を許可してくれた。
実際、更識が話し相手になってくれたのは有難かった。
午前中は予想していた通り麻酔が切れたことで体中の各所に激痛が走るわ、脂汗が出るわと少し大変であったが、午後に入ってからは暇で仕方がなかった。
何せ手元に暇を潰すモノが何一つ無く、昨日の襲撃について考え込んでも手持ちの情報が不足し過ぎているせいで“何も分からない”という結論しか出なかった為、時間が大量に余った。
そんなオレと他愛の無い話をしてくれていた簪は視線に気付いたのかこっちを見て首を傾げる。
「どうだ、上手くいきそうか?」
「うん。幾つか候補は絞れたから、後は実際に使ってみて確かめようと思う」
今更識がやっていたのは、輝装に到達したことで専用機として生まれ変わった『十六夜』の追加武装のリストアップと設計らしい。
輝装の発現によって使用出来る殲機は充分に強力な武装だが、ソレは他の武装が無力ということにはならない。
例えば殲機ではない武装でも、輝装に到達した操縦者が使用すれば輝鋼の強度が強化されて同じく輝装を使う相手にもダメージを与えることが出来るのだ。
その特徴を正しく理解しているからこそ、更識は従来の武装の中から『十六夜』に使えそうなモノを探してソレを使った改造を考えたのだ。
元々システム面にかなり強いこともあってか、どうやら作業は順調なようだ。
「もう夕方だ。そろそろ部屋に戻った方が良いぞ」
「あ、うん。アドルフは、明日から授業に出られるんだよね?」
「激しい運動とかは厳禁だがな。まあ、部屋に戻れるだけ有難い」
何分、此処で寝てるだけというのは退屈過ぎる。
内心で呟きながら医務室を出る更識の背中を見送り、オレはベッドに背中を預ける。
「明日からは普通に授業か……誰かにノートを借りないとな」
呟きながら予定を簡単に考え、明日からは学食の上手い飯が食えることに少し喜ぶ。
次第に瞼が重くなり始め、窓から差し込む夕焼けの淡い光を見ていたオレの意識はやがてゆっくりと微睡みに包まれた。
* * * * * * * * * * * * *
「お引っ越しです!」
「……は?」
放課後の特訓を終えて夕飯を食い、シャワーも浴びて後は寝るだけとなった頃に突然山田先生が部屋を訪れ、最初に笑顔で言い放った言葉がソレだった。
「先生……それだけだとよく分からないんで、出来れば説明をお願いします」
「あ、そうですね。織斑君は昨日休んでいましたから」
そう言って納得した山田先生は一度咳払いし、改めて説明してくれた。
どうやら、引っ越しするというのは箒の方らしく、山田先生が前から進めてくれていた手続きがようやく終了したそうだ。
通知は昨日の時点でしてくれていたらしいが、その時の俺は泥のように眠っていたので知らなかったというわけだ。
「……アレ? それじゃあ俺はこれからアドルフと同室になるんですか?」
「いえ、最終的にはそうするつもりですけど、アドルフ君の方の部屋は調整にまだ時間が掛かるので今は織斑君の部屋だけです」
「そう、ですか……」
俺の方とは違ってアドルフはルームメイトと揉めるようなことも無いらしいし、今はしばらく1人部屋を楽しめると考えよう。
アレ? そういえば箒のヤツって引っ越しの準備してるのか? 今日は朝から放課後まで殆ど一緒だったけど、そんな様子は見なかったぞ。
疑問を感じて視線を向けると、箒は何やら期待と不安が混じり合ったような複雑な表情で俺を見ていた。
「そういうことらしいけど……箒、お前ちゃんと荷物纏めてないだろ。服とか生活用品だけでも持っていって、残りは後で取りに来いよ」
「なっ!? い、一夏! お前はそれで良いのか!?」
「良いも悪いも無いだろ。何時までも年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりしてること自体が問題なんだから」
「そういうことではない!! えぇい! 何故分からん!」
苛立つように声を上げ、箒は俺を睨む。
そのキツイ視線に怯えた山田先生が俺の背後で怯えるのを感じ、ひとまず会話を繋げる。
「悪いけど、分からないモノは分からないんだよ。まさか、この部屋に残りたいって言うわけじゃないだろ?」
「えっ!? いや、ソレは……その……」
冗談半分で口にした言葉だったのだが、箒は予想外にも明らかな動揺を見せた。
頬を赤らめて視線を逸らす姿を見てマジか、と心中で驚くが、だからと言って“じゃあこのままで良いです”なんて通るわけもない。
とりあえず、此処は多少強引にでも話を進めよう。
「……とにかく、早く荷物纏めた方が良いぞ。着替えとの服とか見えられたくないだろうから、俺はしばらく外すよ」
「え? あ、おいっ! 一夏!」
箒の呼び止める声を振り切り、俺は足早に部屋を離れる。
無視するような反応を取った箒とあの場に残してしまった山田先生の両名には悪いと思うが、こうすれば箒も言われた通りにするしかないだろう。
まあ、後が怖いという気持ちも若干有るが、今はこうするのが一番だろう。
さて、箒の引っ越しが終わるまで俺は何をして時間を潰そうか。
「あ……」
「ん?」
背後から聞こえた声に振り向くと、所々にはねがある青色の髪の女の子が俺を見ていた。
殆どの女子生徒なら俺が物珍しい存在だというだけで片付くのだが、僅かながら面識のある目の前の女の子は少し違うようだ。
「織斑……一夏……」
「えっと、たしか……更識簪さん、だよな?」
負傷したアドルフの傍にいた彼女の名を思い出して口にしながら、俺は彼女の言葉の中に込められていた僅かな敵意を感じ取っていた。
ご覧いただきありがとうございます。
この作品の一夏は輝装に到達したことで人間的に成長を続けているので、ヒロインズの気持ちを察したり意見を述べたりもします。
まあ、急激に成長させて鈍感を失くすと違和感が強くなるので少しずつ変わっていくような形になると思います。
でも……原作ヒロイン達が嫉妬ですぐに手を上げるのをなんだかなぁ~と思ったのは私だけですかね?
では、また次回。