IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ   作:月光花

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お久しぶりです。リアルで色んなことが起こりまくって気が付けば3か月が過ぎてました。

izu様から感想を頂きました。ありがとうございます。

今回は一夏サイドのお話です。

では、どうぞ。


第22話 解けぬ疑問

  Side Out

 

 廊下で偶然出会った簪と一夏。

 

2人は、しばらく無言でお互いを見ていたが、このままこうしているわけにもいかないと考えて一夏が先に動き出した。

 

「えっと……んじゃあ、俺はこれで……」

 

「待って」

 

立ち去ろうとした一夏の背中を、意外なことに簪の声が呼び止めた。

 

「少し、話が有るの」

 

ハッキリとした意思を感じる声に振り返ってみると、一夏を見る簪の瞳からは先程の敵意も消え失せ、普段通りの物静かな目をしていた。

 

その目を見て、本当に自分と話がしたいのだと理解した一夏は短く頷いた。

 

2人は近くの自販機で適当な飲み物を買い、廊下に設置された長椅子に座る。

 

「知ってると思うけど、アナタ達と同じように私達も正体不明の黒いISに襲われた」

 

簪の言うことは、勿論一夏も把握している。

 

一夏と鈴の戦闘に乱入するように現れた黒いISと僅かな時間の差を置いて降下してきたもう1機のIS。

 

聞いた話では自分のISを回収しようとした簪が運悪くそのISと遭遇してしまい、簪を助けようとしたアドルフが戦闘を行ったそうだ。

 

最初は追い詰められたがアドルフが輝装に到達したことで撃破・無力化に成功した。

 

此処までは一夏も把握している。

 

だが、この後に何が起こったかは全く聞かされていない。

 

それを伝えると、簪は小さく頷いた後に周囲を一度見渡してから口を開いた。

 

「アドルフが黒いISを撃破した直後に、私達がいたアリーナに別の所属不明機(アンノウン)が現れた。アナタも姿を見ているはず」

 

「それって……あの機獣か?」

 

一夏が真っ先に脳裏に浮かんだ候補を口にすると、簪は無言で頷く。

 

よく見ると、俯き気味の顔には恐怖にも似たような暗い感情があった。

 

「アイツの強さは、色んな意味で異常だった。単純な膂力だけじゃなくて、戦いの中でアドルフの体術や私の殲機を『学習』して見せた」

 

「『学習』……戦いの中で『進化』してたってことか……」

 

「そう……でも、アドルフはボロボロになっても、引かなかった。血を吐いてでも、あの機獣と戦おうとしてた」

 

沈んだ視線で飲み物を見詰めながら、簪の脳裏には機獣と戦っていたアドルフの姿が浮かぶ。

 

アドルフと機獣の間に有る因縁を知らない簪にとって、あの時の様子は尋常ではなかった。

 

立って呼吸するだけでも痛みが走るほど体がボロボロなのに、機獣を睨み付ける眼光は一切の淀みも無く研ぎ澄まされていた。

 

「アドルフがやられそうになった時、私は彼が殺されると思って飛び出した。結果的に私は輝装に到達することが出来て助かったけど……今でもあの機獣の怖さは残ってる」

 

咆哮と共に撒き散らされる圧倒的な破壊衝動。

 

己以外の全てを殲滅すると言うような純粋で強烈な殺意。

 

まるで台風のように振り撒かれる理不尽にすら思う暴威。

 

その全てが未だに簪の脳裏に刻まれ、どうしようもない恐怖を感じさせる。

 

しかし、それも当然のこと。

 

輝装に到達して精神的な成長を遂げたとはいえ、元々は16歳の少女なのだ。恐怖心を完全に飼い慣らせるような悟りを開いたわけではない。

 

だから、簪はこの場で偶然にも会えた一夏に問いたいことが有った。

 

「教えてほしい。あの機獣が先に現れた貴方達のアリーナで有ったことを」

 

今すぐ立ち向かう勇気が無くとも、あの機獣について考え、備えることは出来る。

 

それが、簪が今の自分でもやれると考えたことだった。

 

その為に、今は僅かでも情報が欲しい。あの機獣が何をしたのか、何を狙ったのかを。

 

「……分かった。けど、俺が話せることなんて大して無いぞ? あの機獣は黒いISをぶっ壊したらすぐにアリーナを離れたし、俺と鈴は追おうとしたけどすぐに千冬姉に止められたからな」

 

「……あの機獣は、周りの施設にも攻撃を加えなかったの?」

 

申し訳無さそうに一夏が自分の知ることを話すと、簪は一夏の予想とは裏腹に目を細めて深く考え込むように視線を下げる。

 

その動作はほんの数秒で終わり、持ち上がった視線が再び一夏と合わさる。

 

「……これはアドルフも言っていたことなんだけど。今回の事件は、敵の目的が不明瞭な上に被害も上手く出来過ぎてる気がする」

 

「出来過ぎ?」

 

「うん。完璧な奇襲が成功したのに学園の被害は2つのアリーナだけ。何より、戦った私達以外の生徒にも死人が出てない」

 

そう言われ、一夏も頭を働かせて考える。

 

確かに、2機の黒いISにしても機獣にしても、アリーナの上空から降下してくるまで誰も接近に気付くことが出来なかった。

 

加えて両者ともアリーナの強固なバリアを力尽くでぶち破るほどの怪物。

 

そんな存在が合わせて3体も現れたというのに、奴等は一夏達のようなIS操縦者にしか攻撃を行わなかった。

 

奇襲と同時に襲ったクラッキングによって隔壁が閉ざされて避難もマトモに進んでいなかったあの状況だ。一夏と鈴が戦った黒いISが大口径レーザーを観客席付近に乱射しただけで血の海が出来上がっただろう。

 

改めてその事実に気付き、一夏の背中に冷たい汗が流れ出すが、軽く頭を振るって思考を切り替える。

 

「……敵の動きが不自然だったっていうのは分かった。そうなると、あの黒いISと機獣って実は同じ奴の差し金だったんじゃないか?」

 

「断定は出来ないけど、可能性は有ると思う。機獣が黒いISを真っ先に攻撃したのも、口封じと考えれば納得出来る」

 

互いに思い当たることを口にし、情報を繋げて答えを導き出していく。

 

しかし、そうやって考えても、最終的には1つの疑問にぶつかって止まってしまう。

 

ずばり、今回の襲撃における敵の目的が全く分からないということ。

 

どれだけ頭を働かせてもそれが分からない。

 

正直、一夏も簪も完全にお手上げだった。

 

「……ダメだな。幾ら考えてもこれだって言えるような狙いが思い付かねぇ」

 

「うん……一先ず、今日はここまでにしよう? もう消灯時間も近いし」

 

簪にそう言われて一夏が近くに備え付けられていた時計を見ると、たしかに消灯時間が近い。

 

どうやら、軽く時間を潰すつもりが随分と話し込んでいたようだ。

 

これだけ時間が経てば流石に箒の荷物も纏め終わってるだろうと、一夏も頷いて立ち上がる。

 

簪も同じく立ち上がり、自室に戻ろうと歩き出す。

 

「あのさ……」

 

しかし、その背中を一夏が呼び止める。

 

振り返った簪は少し意外そうに首を傾げるが、一夏は言葉を続けた。

 

「こんなことを言うのは、もしかしたらすごい傲慢なのかもしれないけどさ……2人が襲われてた時、助けに行けなくて、ゴメンな」

 

そう言って頭を下げた一夏の姿を見て、簪は僅かに目を見開いて気まずそうに目を逸らす。

 

何故なら、最初に一夏が感じた僅かな敵意の理由がまさにそれだったのだから。

 

みっともない八つ当たりであることは当然理解している。

 

だが、血を吐きながら戦って今も医務室にいるアドルフのことを考えると、何の怪我も無く過ごしている一夏の姿を見て良い感情は湧いてこなかった。

 

一夏は自分の言い分を傲慢だと言ったが、簪からすれば口に出していないだけで自分の考えの方がよっぽど傲慢だと思える。

 

「……大丈夫。()()、気にしてない」

 

「……そっか。それじゃ、おやすみ更識さん」

 

「うん。おやすみ、織斑くん」

 

簪の短い言葉の真意を理解し、一夏はそれ以上は訊かずにその場を離れた。

 

そのまま自分の部屋へと歩を進めながら、一夏は先程の簪の言葉を思い出しながら今回の事件について再び思考を巡らせる。

 

一夏は自分があまり頭の良い人間ではないと自覚しているが、今回の一件は一度話し合って分からなかったから忘れよう、などと言えるモノではない。

 

直接対峙したわけではないが、自分と鈴を止めた時の千冬の声からしてその脅威は充分に分かる。

 

その時……

 

「……あれ?」

 

……ふと、小さな違和感が脳裏を横切った。

 

(そういえば……あの時の千冬姉の口ぶり、まるであの機獣のことを既に知ってるような感じだったけど……流石に気のせいだよな……)

 

しかし、浮かび上がった疑問はすぐに一夏自身によって否定され、頭の中から消え去った。

 

ここ最近で一番頭を使って深く考え事をしたせいか、脳が疲れて思考が変な方向に空回りしているのかもしれない。

 

「さっさと寝るか……」

 

目の周りを揉み解しながら溜め息を吐き、程無くして自室に辿り着いた一夏は室内を軽く見渡す。

 

どうやら引越しは順調に終わったらしく、箒の私物は綺麗に片付いていた。

 

一先ず今日の問題は片付いたことに安堵し、一夏はベッドに腰を下ろす。

 

「ん? 何だこれ……」

 

そのまま横になって眠ろうとしたが、枕元に何か置かれていることに気付く。

 

手に取ってみると、現代日本でさえ目にする機会が殆ど存在しない丁寧に折り畳まれた本格的な和風の書状だった。この部屋にこんなものを置くのは、どう考えても箒しかいない。

 

「何時の時代の人間だよアイツは……携帯番号もアドレスも教えたろうが……」

 

自分の持っている携帯も使えないような機械音痴でもないだろうにと内心で呆れながら書状を開いて目を通す。

 

文字は流石に習字の筆や墨汁ではなく筆ペンを使ったようだが、少々達筆で書かれている。

 

『来月末にて行われる学年別個人トーナメントにて、もし私が優勝を勝ち取ったら大事な話が有る。首を洗って待っていろ』

 

……これは、一種の果たし状か何かだろうか。

 

最後尾の文章のインパンクトが強過ぎるせいで本気で箒に命を狙われているのではないかと一瞬疑ってしまうが、冷静に書状の内容を読み直す。

 

最初に書かれている学年別個人トーナメントについては一夏も聞いている。

 

今回開催されたクラス代表 対抗戦(リーグマッチ)とは違い、完全に自主参加の個人戦。対戦表が学年内で区切られている以外は組み合わせも特に制限が無いそうだ。

 

だが、一夏の知る限りでも今の1年生には輝装に到達した人間が5人はいる。

 

恐らくその辺を考慮して何らかの措置が行われるだろうと一夏は予測するが、どうやら本当に脳が疲れていたようで、急に襲い掛かって来た眠気と共に瞼が重くなる。

 

「ダメだ、眠い……考えが纏まらねぇや……」

 

今度こそベッドに倒れ込み、一夏はそのまま睡魔に身を委ねて眠りに落ちた。

 

……箒の書状に書かれていた“大事な話”について考えのを失念したまま。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

一先ず今回の話し合いで一夏と簪の間にあったギスギスした軋轢は多少マトモになりました。

まあ、一緒に話し合っても結局襲撃の目的は分からないのですが。

ちなみに原作1巻のラストで箒が行った宣戦布告と違い、書状やらなんやらを使ったのは完全に私の妄想の産物です。

もし原作の設定面で箒は書道は苦手だとか習ってねぇよ等の意見がある場合は教えてください。

次からようやく2巻の内容です。

では、また次回。
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