IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
今回からようやく原作2巻の内容に入っていきます。
では、どうぞ。
Side アドルフ
月日は六月頭に差し掛かり、四季によって気温が大きく変化する日本は徐々に夏の暑さを感じさせている。
そんな中、本日のIS学園は日曜日により休み。
モノレールを利用してIS学園の外に外出する者もいれば、寮の部屋で骨を休める者、学園の施設を利用して鍛錬に励む者もいる。
そしてオレはどれに当て嵌まるのかというと、日用品を買う為の外出組である。
ロサンゼルスの空港でISの適性が有ると判明してから今日に至るまで学園の外へ自由に行動出来る許可が下りず、買い出しにさえ出掛けられなかったのだ。
今はモノレールから降りて近くのショッピングモールに入り、買い出しのリストを見ながら様々な店を見て回っている。
流石にそのまま素顔を晒して人通りを歩くわけにはいかないので、普段はヘアゴムで一纏めにしただけの白髪を三つ編みに変え、伊達眼鏡を掛けている。
簡単な変装だが、何もせず堂々と歩くよりはマシだろう。
一応今のところは誰にもバレてはいないので、問題は無いと判断して買い物を続けるとしよう。
「……3人……いや、4人か……?」
モール内を歩きながら、周りに聞こえないよう小さい声で呟く。
首を出来るだけ動かさずに視線だけをモールの一角に向けると、そこには十分程前に寄った店の出口でも見たスーツ姿の男性がいる。
普通に見れば目に止まることも無いが、広いショッピングモールの中でオレの行く先々に同じ人間がいるのは明らかに不自然なことだ。
まあ、一応理由は分かっているので慌てる必要は無いのだが。
(アレが織斑先生の言っていた監視兼護衛か。恐らく日本政府の人間だろうが)
外出許可を申請した際に織斑先生が教えてくれたが、今のオレには学園の外においても護衛という名目で密かに監視が付けられているらしい。
まあ、ISを動かすことの出来る男性操縦者なのだから当然の処置ではある。
ちなみに、オレと同様に外出許可を申請した織斑にも監視が付いているのだが、織斑本人はそのことを知らされていないらしい。
一応理由を訊いてみると……
「アイツの場合、監視が付いていることを意識し過ぎて逆に不自然な行動を取る可能性が高い。逆にお前の場合は、監視に気付いて追跡を振り切る可能性が有ったから話したんだ」
……ということだ。
確かに、織斑が監視の存在を知らされて普段通りに振る舞えるとは思えない。
オレも同様に、事前に何も知らされていなければ尾行を撒いて姿を消していただろう。
その辺の反応を予測して事前に手を打っておいたのは見事だが、生憎とオレも見ず知らずの誰かに監視されて良い気分にはなれない。
(さっさと買い物を済ませて戻るか……)
心中で呟きながら、オレは買い物リストを再確認して頭の中に叩き込み、歩き出した。
* * * * * * * * * * * * *
その後、リストに書いたモノの他にちょっとしたおまけを購入し、夕日が僅かに姿を見せかけている空を一瞥したオレは学園に続くモノレールへと足を運んだ。
中に乗り込むと、オレの他にも少なくない数の女子生徒が乗っている。
目に付いて騒がれるのはごめんなので、出来るだけ気配を殺して静かに車両の端の席へと移動し、息を潜めて座る。
このまま他の女子生徒の目に止まることなく学園に戻れれば幸いだ。
だが……
「よう、アドルフ! お前も今日外出してたのか」
……そう考えた矢先、嬉しそうにオレの名前を呼ぶ明るい声が全てをぶち壊してくれた。
視線を向けると、そこには笑顔を浮かべながら片手を上げてこっちへ歩いてくる織斑の姿が有った。
普段は他者に好印象を与える笑顔だが、今の状況では僅かな苛立ちと怒りがこみ上げてくるだけのものだった。
一瞬その笑顔に拳の一発でも叩き込んでやろうかと思ったが、疲れるだけだと考えて溜め息を吐きながらこみ上げた怒りを追い出す。
「お前は家に戻っていたのか?」
「おう。それと中学の友達とも会ってきた。お前は買い物か?」
「ああ、日用品で足りないものを幾つかな。他にも有るが、そっちは郵送で学園の部屋に送った」
傍に置かれた幾つかの袋に視線を向けながら、織斑はオレの隣に座る。
それに連れて周囲の女子生徒から向けられる視線が増えていくが、もはや気にしても仕方がない。
出来るだけ織斑との会話に集中して気を紛らわすことにしよう。
「そういえば……アドルフはどういう経緯でISが動かせるって分かったんだ? 前に千冬姉が空港で色々有ったって言ってたけど、それ以上は分からなくてさ」
周りから向けられる視線に気付いて落ち着かないのか、それとも単純に話す話題を探しただけなのかは分からないが、織斑がふと質問を投げてきた。
そういえば、空港でISの適性が分かった時の騒ぎを誰かに話したことは無かった。
別に守秘義務は無いので喋っても構わないのだが、誰かに訊かれたわけでもないし自分から口に出すようなことでもない。
加えて、訊く人によってはオレの素性に興味を向けられる可能性も有る。
だが……
(コイツにそこまでの勘繰りが出来るとは思えんな)
……数秒思考を巡らせた結果、そう判断して空港であった出来事を話した。
それを聞いた織斑の反応は、オレが半殺しにした奴等に対する怒りだったり、ホテルでも暴れたオレへの呆れだったりと色々だったが、悪いものではなかったと思う。
他にも幾つか他愛の無い話をしていると、徐々にIS学園の校舎が近付いてきた。
「そうだ。会ったら訊こうと思ってたんだけど、アドルフは何か聞いてるか? 今月の学年別個人トーナメントのこと……」
学年別個人トーナメント。
今織斑が口にした通り、今月中に開催されるこの行事はIS学園に所属する生徒の全員が強制参加となる大規模行事だ。
行事内容は文字通り学年別のIS対決トーナメント戦である。期間は一週間。
一学年ごとに所属する生徒が約百二十名。これだけの人数でトーナメント戦をやるというのだから、一週間も期間を必要とするのは仕方が無い。
ただ、やることが同じでも行事目的は学年ごとに異なる。
一年生は現時点までの浅い訓練段階での先天的才能評価、二年生は一年間の訓練をした上での成長能力評価、三年生はより具体的な実戦能力評価となる。
加えてこの行事はIS関連の企業のスカウトマンや各国のVIPが試合を見に来ることもあるので、生徒の進路を左右する重要なアピールポイントでもある。
当然オレ達もその行事に参加することになるのだが、織斑が尋ねていることが何かはオレも予想出来る。
「大会のレギュレーションについてならオレも知らんぞ。まあ、このまま何も無いなんてことは有り得んだろう」
「だよな。俺達が本気でやったら、殆どの生徒と勝負にならないし」
織斑が口にした言葉は自惚れでも何でも無い。紛うこと無き事実だ。
オレと織斑だけでなく、輝装を展開したISは通常兵器では殆どダメージを受けない。
通常形態のISで戦ってもただの出来レースで終わってしまうのは、オルコットとの戦いでソレを経験したオレがよく知っている。
「オレ達が心配しなくても学園側が考えるさ。正しい能力評価が行えなくて政府から文句を言われたくはないだろうしな」
「そっか……そうだな」
織斑はひとまず納得したような声で呟き、この話題についてそれ以上は触れなかった。
それから軽い雑談をしている内にIS学園に到着し、オレと織斑はモノレールを降りてすぐに寮へと向かい、途中で分かれた。
自室の前に到着し、念のため扉を数回ノックして更識の返事を確認してから部屋に入る。
寝間着とも違うラフな格好で座っていた更識にただいまと声を掛け、両手の手袋を外してから上着に着ていた薄手のジャケットだけを脱いでクローゼットに仕舞う。
更識に言われてから、オレは部屋の中で普段隠している両手を気にせず晒している。
薄い火傷と傷跡が走る両手を見て更識も最初は少し戸惑っていたようだが、今では特に気にもせず受け入れてくれている。
正直、部屋の中だけでも手袋を外して過ごせるのは以前よりもかなり気が楽だ。
「更識、ショッピングモールで美味そうなチョコを買ったんだが、食べるか?」
「っ……! うん、食べる……!」
ピクリと反応した更識の顔が持ち上がり、嬉しそうな声でコクコクと頷く。
どうやら喜んでもらえたようだと理解し、オレは傍に置いておいた紙袋をテーブルの上に置き、紅茶を淹れる為にキッチンへと立つ。
此処で紅茶を淹れるのも随分慣れてきたなと思いながら、普段通りの手順で紅茶を作り、ティーセット一式をトレイに乗せてテーブルに運ぶ。
雑談をしながら菓子を食べ、時折淹れた紅茶を飲む。
そんな中、部屋の中に差し込んだ夕日の光に気付いて窓の外に視線を向ける。
目に入り込んできた夕日の光に一瞬目を細めるが、すぐに慣れて大きな雲も無い晴れ晴れとした綺麗な夕焼け空が目に映る。
その景色を見ながら、普段よりも落ち着いている自分の心を何処か懐かしいと感じた。
(そういえば……この学園に来てから本当に落ち着いて休むことが出来たのって、今日が初めてなのか……)
思えば、ISを動かせることが判明してから、休む間も無く様々な出来事が有った。
そんな経験をして今に至り、ようやく今の暮らしが落ち着いたんだな、ということを改めて理解し、疲れた心を落ち着かせた。
しかし、どういうわけかその落ち着いた日々はたった数時間で木端微塵に砕け散ることになるのだった。
* * * * * * * * * * * * *
Side Out
翌日、月曜日を迎えたIS学園は普段通り多くの学生が廊下を歩き、自分の教室へと足を運んでいた。
それはアドルフと一夏も同様であり、ようやく慣れつつある周囲からの視線を極力気にしないようにして教室へと入る。
教室に入ってきた2人の姿を見て、クラスメイト達がおはようと声を掛け、一夏とアドルフもそれぞれ挨拶を返す。
そのまま2人はそれぞれの席に着こうとするが、先程まで談笑していた2、3人の女子生徒がカタログを片手に声を掛けた。
「ねぇ、織斑君とクロスフォードのISスーツって何処の企業のやつなの?」
「ISスーツ? あぁ、たしか特注品だって聞いたな。男性用のスーツなんて無かったからどっかのラボが作ったらしいけど」
「イングリット社のストレートアームモデルだな。外見を少し弄っただけで基本性能は大した違いも無いらしいが」
「ちなみに、ISスーツには操縦者の動きを各部位に伝達する他にも優れた耐久性能が備わっており、小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることが出来ますよ」
最近勉強して学習した内容を思い出しながら口にした一夏の情報をアドルフが捕捉すると、さらに詳細な情報を口にしながら麻耶がやってきた。
初日から授業内容が殆ど分からないと口にしていた一夏がちゃんと勉強していることが嬉しいのか、嬉しそうに微笑んでいる。
麻耶が口にした情報を聞き、何人かの女子生徒がへぇ~と関心の声を上げて再びカタログに目を通そうとするが……
「諸君、おはよう」
……麻耶の背後に続くように教室に入って来た千冬の一声で、生徒全員が凄まじい速さで席に着いた。
もはや教師としての威厳と言うよりは恐怖政治に近いものを感じるが、今日も何の問題も無くホームルームが開始される。
「さて、今日から訓練機とはいえ実際にISを使用した本格的な実戦訓練を開始する。各人くれぐれも気を引き締めるように。発注したデザインのISスーツが届くまでは学校指定の物を使うことになるから、決して忘れるなよ」
学校指定のISスーツの見た目はタンクトップとスパッツをくっつけただけといった感じのかなりシンプルなデザインだ。
一夏やアドルフのようなイレギュラーを除き、他のIS乗りは自分のスタイルを早い段階で確立させるという目的で様々なデザインの中から自分好みのISスーツを選択する。
たとえ専用機を入手出来なくても、搭乗者のモチベーションを良好な状態に維持することは大きな意味を持っているからだ。
「では山田先生、他の連絡事項をお願いします」
「あ、はい。わかりました」
必要な連絡事項を伝え終えた千冬と麻耶と交代し、教卓に立つ。
そのまま普段と大して変わりの無い連絡事項が告げられると思われたが、何故か麻耶は躊躇と不安が混ざったような表情で発言を躊躇っていた。
その様子にクラスの全員が僅かに首を傾げるが、麻耶はすぐに口を開く。
「ええと、ですね……本日はなんと転校生を紹介します! しかも2名ですよ!」
『えええええっ!?』
「「…………は?」」
意を決したように麻耶の口から飛び出した転校生の紹介にクラスの女子生徒達が揃って驚愕の声を上げる。
ただ、一夏とアドルフはこんな時期に、しかも2人揃って同じクラスにやってくる転校生の存在に唖然としたような声を出していた。
そんなクラスの反応を他所に、麻耶が廊下の方へ入って来てくださ~いと声を掛けると、すぐに教室のドアが開いた。
「失礼します」
「…………」
片や短い返事を、片や無言で入室して来た転校生2人は教卓の前に立つ。
だが、その姿を見た生徒は全員が声を失って沈黙している。
何故なら転校生の1人が……男性だったのだから。
* * * * * * * * * * * * *
「シャルル・デュノアです。僕と同じ境遇の方がいると聞いて、この度フランスから転校してきました。色々と不慣れなことも多いと思いますが、よろしくお願いします」
そう告げた転校生の1人、シャルルはにこりと微笑みながら一礼する。
礼儀正しい立ち振る舞いと男女共に魅力を感じる中世的な整った容姿。
黄金と呼べる程に濃い金髪を首の後ろで丁寧に束ね、瞳はアメジストを思わせる紫色。
体の体格は華奢に思えるほど細いが、シュッと伸びた両足がその体格のバランスを絶妙に保っているおかげで弱々しいという感じは微塵も無い。
感じた印象を一言で表すなら、恐らく『貴公子』というのが最も合っているだろう。
そして、眩しい笑顔と共に挨拶をした転校生を迎えたのは……
『きゃああああああっ!!!』
……窓ガラスを振動させる程の歓喜の叫びだった。
「うわっ……!」
「男子! 3人目の男子よ!」
「しかも美形! 織斑君やクロスフォード君とも違ったタイプ!」
普通の学校ならすぐさま他のクラスや学年から苦情を殺到するような大音量で騒ぐ女子生徒。その凄まじい反応にシャルルは思わず驚愕の声を上げる。
ちなみに、一夏とアドルフは入学式に似たような体験をしているので、同じことが起きるかもしれないと予想して耳を手で覆っていた。
このまましばらく興奮が収まらないかと思われたが、千冬が鬱陶しそうに溜め息を吐きながら何度か手を叩くことで興奮の波はすぐに収まった。
「み、皆さん、落ち着いてくださいね。まだ自己紹介は終わってませんから」
麻耶が宥めるような口調でそう言うと、クラスの視線はもう1人の転校生に集中する。
だが、こちらはこちらでかなり異端と呼べる見た目をしていた。
「…………」
シャルルを太陽に例えるなら、教室に入った時から終始無言を貫くもう1人の転校生はまるで暗闇に浮かぶ月のようだった。
背丈は同年代の女性と比較しても一回り小柄だが、端麗な容姿と重なって逆に人形のような美しさを放っている。
腰に届くまで伸びた豊かな銀髪は手入れの気配が無くとも輝くような艶を持ち、興味という熱を殆ど宿さぬ冷たい視線で生徒達を見る右の瞳の色はルビーのような赤色。
もう片方の左目には黒眼帯が付けられており、全身から漂う鋭い気配と合わさって物々しい雰囲気を漂わせている。
シャルルと同じく感じた印象を言葉で表すなら、こちらは『軍人』である。
「…………」
「ハァ……挨拶をしろ、ラウラ」
入室してから変わらず転校生は無言を貫いていたが、その様子を見かねた千冬が溜め息を吐きながら声を掛ける。
すると……
「はい、教官」
……先程までの無言が嘘のように、殆ど間を置かずに佇まいを直して素直に返事を返した。
まるで待ち望んでいたものを与えられたその反応に対し、千冬は苦々しいとでも言うような表情を浮かべて再び溜め息を吐いた。
「その呼び方はやめろ。もう私は教官ではないし、此処ではお前もただの一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そう答えながら背筋を伸ばし、再び体の向きを生徒達に向ける。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
ただ一言。
自分の名前を口にしただけで少女、ラウラは再び口を閉ざしてしまった。
「あ、あの……以上、ですか?」
「以上だ」
口元を引き攣らせながら出来るだけの笑顔を浮かべた麻耶の言葉に即答し、ラウラはそれ以上の発言を打ち切った。
もう一度ラウラが教室を見回すと、最前列に座る一夏と視線が合わさった。
その瞬間、今まで何の変化も宿さなかったラウラの顔に明らかな怒りの感情が浮かぶ。
「!……貴様が」
まるで怨敵を前にしたような声を出しながらラウラは一夏へと歩を進め……
バシンッ!
……その頬を無駄の無い平手打ちで思いっきり殴った。
「私は貴様を認めない。貴様があの人の弟であるなど、断じて認めるものか」
殴られた一夏は勿論、クラス全体が突然暴力を振るってそう吐き捨てたラウラの行動に理解が追い付かず呆然とする。
だが、ただ一人だけ……窓際の席に座るアドルフは終始口を閉じたまま鋭い視線でシャルルを見詰めていた。
ご覧いただきありがとうございます。
ちょっとした日常パートと転校生の紹介でした。
今になって思うと、正規軍人でしかも少佐階級のラウラがIS学園に来たのって何故なんだろうか
やっぱり男性操縦者の一夏と接触させる為なんですかね?
それとも各国のISのデータを取る為とか?
次回は多分授業回です。
では、また次回。