IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
では、どうぞ。
Side Out
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
『はい!』
千冬の声に1組と2組の生徒が一同に返事を返し、姿勢を正す。
単純な人数が多いのも有るが、授業の内容によるものか声に込められた気合は普段よりも確実に大きかった。
「まずは歩行や浮遊移動などの基本的な動きから始めてもらう。訓練機を用意したので、この機体を数人のグループで運用しろ」
そう言った千冬の背後には『打鉄』と『リヴァイヴ』が3機ずつ用意されており、少し離れた場所には『リヴァイヴ』を展開した麻耶が笑顔で立っている。
「こちらから1機を選んでくださいね。訓練用に調整された機体なのでスペックや操縦性に大きな違いは有りませんが、早い者勝ちですよ~」
「各グループは専用機持ちの6人が1人ずつリーダーを務めろ。では、行動開始だ」
千冬がそう言って手を叩くと、整列していた女子生徒達が一斉に動き出す。
だが、殆どの女子生徒は一夏、アドルフ、シャルルの男子3人の元へと詰め寄り、楽しそうな声を上げている。
「織斑君、一緒に頑張ろうよ!」
「私、デュノア君の操縦技術見てみたい!」
「アドルフ君、わからないところ教えて~」
次々と手を上げながら黄色い声で詰め寄る女子生徒。
突然の事態にシャルルは理解が追い着かずオロオロとしているが、一夏とアドルフはこんなことになるだろうと予想していたのか落ち着いて重い溜め息を吐いている。
そして、このような混沌とした状況を千冬が許す筈も無く、額に手を当てながら怒りを滲ませたような声を出す。
「訓練開始前にこのザマか馬鹿共め……専用機持ちは横一列に並んで他の生徒は出席番号順に各グループに入れ! 次にくだらん理由で授業を遅らせたらISを背負ってグラウンドを百周させるぞ!」
一喝する声が響き渡ると男子3人の元に集まっていた女子生徒達は即座に動き出し、横一列に並んだ専用機持ち6人の前に綺麗に並んだ。
その動きは訓練された軍隊を思わせる程で、グループ編成に費やされた時間は僅か2分とかからなかった。
「最初からそうしろ」
溜め息を吐きながらそう言った千冬。
専用機持ちの6人は用意された訓練機の元に歩き出し、特に揉めること無く機体を選んで各グループごとに集団を作った。
各班ごとに集まった女子は小声で話しているが、僅かにその内容が聞こえてくる。
「……よし、織斑君と同じ班になれたっ……」
「……デュノア君、もし分からないことが有ったら遠慮無く訊いてね! あ、ちなみに私はフリーだよ……」
「……アドルフ君か、あんまり喋ったことないしちょっと怖いけど、クールな感じがまた良いのよね……」
男子生徒3人のグループに入ることが出来た者は喜びを露にしてはしゃいでいる。
それに対し、セシリアや鈴、ラウラのグループに入った者達は落胆の様子を隠す気が無いように肩を落としていた。
そこからさらに分岐すると、鈴のグループに入った女子生徒は彼女から一夏の話を聞かせてもらおうと、セシリアのグループは優秀な者に教えてもらえることを素直に喜ぼうとそれぞれ気持ちを切り替えてやる気を出している。
そのどれにも当て嵌まらず、女子生徒の誰も口を開かない張り詰めた空気を形成しているのが残ったラウラのグループである。
周囲の生徒達に向けられた軽視の冷たい眼差し、教室での自己紹介からずっと閉ざされた口、全身から発せられる他者との交流を拒絶するオーラ。
流石に好奇心旺盛な女子高生でも話し掛ける勇気が出せないらしく、グループの全員が視線を俯くように沈めて黙り込んでいる。
そのグループの様子は周囲を見る余裕が有ったアドルフやセシリアが僅かに同情を覚える程だったが、2人も任されているグループが有るのでそちらに向かうしかなかった。
* * * * * * * * * * * * *
Side アドルフ
「それでは皆さん、各自ISに搭乗してください。午前中は簡単な歩行でも良いので、とりあえず“ISを動かす”ということを経験してください。各班長は装着の手伝いと歩行のサポートをお願いします」
山田先生の言葉を合図に、各グループに分かれた生徒達が動き出した。
オレも同じように動き出し、借りてきた『リヴァイヴ』の前に集まる女子生徒達と向き合う。
「……さて、コッチも始めよう。まずはISに搭乗してもらって2、30メートル程度の歩行をやってもらう。山田先生が言ったように、まずは“動かす”ことを経験してくれ」
『は~いっ!』
オレの言葉に手を上げて返事を返し、女子生徒達は素早く順番を決めて最初の1人が進み出てきた。
入試で搭乗した経験もあってか、その子は少々戸惑いながらも座した『リヴァイヴ』に搭乗して立ち上がる。
姿勢が安定していることを確認し、オレも『エクリプス』を展開して傍に立つ。
「よし、そのままゆっくりで良いから歩いてみてくれ。転びそうになったら横から支える」
「う、うん」
緊張しながら頷き、女子生徒はゆっくりとだが1歩ずつ歩き出す。
オレもその横に付き添いながら転倒した時すぐに助けられるように待機する。
絶対防御が有るので仮に顔面から転倒しても怪我する可能性は皆無だが、搭乗者の精神面にその時の恐怖がトラウマとして刻まれる可能性は充分に有る。
だからこそ、初歩の歩行練習だと気を抜かずに目標の距離を歩き終えるまで目を光らせる。
「……よし、そこでゆっくり止まってくれ。両足を真っ直ぐ伸ばして直立した姿勢になったら深呼吸して肩の力を抜いた方が良い」
「は、はい~……「全身の力は抜くなよ」っはい!!」
肩を落として脱力しそうだった体がオレの言葉で再び直立し、女子生徒は言われた通り深呼吸して肩の力を抜いた。
その後、気持ちを落ち着けた女子生徒は『リヴァイヴ』の装着を解除して地面に降りる。
そのまま次の生徒に交代して同じような動きをやってもらおうとしたが、ここで1つ問題が発生した。
「あの……この状態だと手が届かなくて乗れないんだけど……」
「うぅ……ごめんなさい……」
最初に搭乗した生徒が『リヴァイヴ』を降りる際に機体を直立させたまま装着を解除してしまったのだ。
専用機の場合は待機状態から即座に展開して装着することが出来るが、この訓練機は直接乗り込んで装着しなければいけないのでこのままでは手が届かず乗り込めない。
オレも同じように失念していたことなので謝罪する女子生徒に気にするなと声を掛けて『エクリプス』を解除して直立するISの傍に立つ。
一応頭の中には解決する方法が幾つか有るのだが、他の班はどうなのだろうかと周囲を見渡してみた。
すると、恐らく同じ問題に遭遇したであろう織斑の班から黄色い悲鳴が聞こえてきた。
視線を向けると、『白式』を展開した織斑が女子生徒を横抱き……いわゆる「お姫様だっこ」でISに乗せているのが見えた。
それを見た次の瞬間、背後から無数の視線を感じた。
今振り返れば間違い無く女子生徒が期待するような目を向けてくることだろう。
だが、生憎とオレは黄色い悲鳴に囲まれながら女性を運ぶのは御免である。
(面倒な……)
溜め息を吐きそうになるのを堪え、オレは直立する訓練機に近付く。
そのまま軽い跳躍で膝部分の装甲を掴み、出っ張りの部分をパルクールのようによじ登っていく。
「よっ……と……」
直立したISの装甲をオレがスイスイ登っていく光景に周りの女子生徒が息を呑んでいるが、構わず『リヴァイヴ』を装着して膝を着かせる。
それを見た何人かの女子生徒が見るからに残念そうな顔をしていたが、別に悪いことをしたわけではないので授業を続ける。
「……さて、今のはオレも注意が足りなかった。次に搭乗する人は充分に気を付けてくれ。それと、いないとは思うがわざと同じようなミスをした場合はオレの指示に従う気が無いと判断して織斑先生に指導を任せるからそのつもりで」
そう言うと、残念そうな顔をしていた女子生徒は一瞬顔が青褪めてから即座に顔を引き締めた。やる気が有るのは良いことである。
無事問題が解決し、それからは特に何の問題も起こらず他の生徒も順調に訓練を終えていく。
だが、全員の訓練が終了すると何故か織斑先生と山田先生から通信で呼び出され、オレだけが2人の元へと歩いていく。
言われた通りに向かうと、何故か教師2人が困り顔で溜め息をついていた。山田先生はともかく、織斑先生までもが露骨な困り顔とは珍しい。
そんな珍しいモノを見たせいか、徐々に嫌な予感がしてきた。
「班員への教導、ご苦労だった。悪いがもう1つ仕事を頼む」
「えっと……ボーデヴィッヒさんの班が遅れているようなので、そのフォローをお願いしたいんです。クロスフォード君は教え方に問題も無いようなので」
言われて視線をボーデヴィッヒの班に向けてみると、確かにひどい有り様だった。
班のリーダーであるボーデヴィッヒは最後に見た時と同じ位置に立ったまま腕を組んで仁王立ちしている。
それと対面する班員の方は、既に何人かが涙目の状態だ。
あの混沌とした状況にオレがフォローに入るのかと気が重くなるが、あのままでは班員の女子生徒達が不憫過ぎるので素直に従おう。
「フォローは構いませんが、ボーデヴィッヒの方はどうするんです? アレは教えるのが上手い下手以前の問題だと思いますが」
「……お前の方からちゃんと教導しろと言っておけ。従わない場合は構わずお前が変わって班員に教えろ」
「……は?」
だが、指示に従おうと決めた直後に予想もしない回答を聞いて思わず声が漏れた。
他人に教えようとして上手くいかなかったというならまだ良いが、ボーデヴィッヒの場合は恐らく何もしていない。
グループの指導を任された者の働きとしては論外も良い所だが、ソレを咎めるのはオレではなく教師の仕事だ。
そういう意味も込めて織斑先生の目を見てどうするのかと訊いたのだ。
だというのに、彼女はその役目をオレにやれと言った。しかも、従わなければ放っておいて訓練を進めろとも口にした。
「聞こえなかったか? さっさとボーデヴィッヒの元へ向かえ」
「フォローに入るのは了解しました。ですが、ボーデヴィッヒへの注意はお断りします。ソレは『教師』であるアナタの仕事だ。
軍隊の教官ならば規律と知識を叩き込むで充分だろう。
だが、此処はISの操縦者を育成することを専門とした『学校』で織斑先生は『教師』だ。未熟な倫理や道徳を教えるのも立派な仕事である。
だからこそ最後の言葉を強調して間髪入れずに言葉を返すと、織斑先生はギロリとオレを睨み付けた。
その凄まじい眼力から放たれる威圧感がオレの全身にビリビリと圧し掛かるが、何故か恐怖は感じなかった。
いや、理由はすぐに分かった。
目が違うのだ。
オレを睨み付けている目は黄色い悲鳴を上げて興奮した女子生徒を静かにさせる時の目ではなく、都合の悪いことを指摘されたことへの苛立ちからくるものだ。
今まで出会った人の何人かが似たような目をしたのをよく覚えている。
「……いい加減にしろ。今の時点で授業に大きな遅れが出ているんだ。これ以上この問題に時間を掛けさせるな」
「なら尚更アナタがボーデヴィッヒと話をして注意するべきでしょう。詳しい経緯は知りませんがボーデヴィッヒはアナタの言うことはマトモに聞くようですし」
「…………もう話すことは無い。早くフォローに向かえ」
織斑にやるように出席簿を叩き付けるわけでも反論を返すわけでもなく、織斑先生は数秒の沈黙を挟んでからそう言って顔を逸らし、強引に打ち切った。
オレは何1つ納得していないのでまだ言いたいことが有るのだが、今はこれ以上話しても無駄だと割り切ってボーデヴィッヒの班の元へ向かった。
涙目になって立ち尽くしていた女子生徒達の前を通ってボーデヴィッヒの隣に立つと、仁王立ちしたままオレに目を向けてきた。
「……ふん、貴様か。一体何の用だ?」
「お前の班が遅れているからフォローに入れと言われたんだ。それで? 何でお前は一向に指導を始めないんだ」
「はっ、指導だと? 何故私がそんなことをしなければならない」
念のため理由を訊いてみたが、予想の斜め上を行く言葉が嘲笑と共に返ってきた。
マトモな理由ではないと考えていたのである意味予想通りなのだが、ここまでやる気が無いことをアピールされると流石に溜め息が漏れてくる。
「お前が他の生徒よりも経験を積んでいるからだろう。代表候補生を除けば、他の生徒は殆どISの操縦経験が無いようだからな」
「そんなことは分かっている。何故そんな素人集団にこの私が指導をしてやらなければならないのかと言っているのだ」
蔑みを宿した目で周りの女子生徒を一瞥してからオレを見るボーデヴィッヒの目には悪ふざけのような“遊び”の気配は無い。
本気でコイツは今の自分の行動を正当なものだと信じている。
「お前が『生徒』だからだ。本国じゃどうだったのか知らんが、少なくともこの学園では今のように生徒は基本的に教師の指示に従って授業を進行するものだ」
オレがそう言うと、ボーデヴィッヒは呆れたように息を吐いて肩を落とす。
悪いが、盛大に溜め息を吐きたいのはコッチの方である。
「くだらんな。ISをファッションか何かと勘違いしているような連中を鍛えるなど時間の無駄だ」
「生憎とお前の意見はどうでもいい。今の問題はお前が指示に従わないせいで授業の進行が遅れているということだ。織斑先生にお前のことで文句を言っても取り合ってもらえなかったから……」
「貴様、今何と言った?」
オレの言葉をボーデヴィッヒが今までよりも一段と冷たい声色で遮り、一瞬の突風と共に彼女の
部分展開。
ISの部分展開。腕部、脚部、兵装などの一部分の装甲だけを展開して装着する技能である。
ISの展開に時間が掛かるオレには使いどころが殆ど無いが、普通の操縦者が利用すれば素早く武装や装甲を展開することが出来る。
ボーデヴィッヒの突然の行動に周りの女子生徒達は短い悲鳴を上げる中、オレはゆっくりと振り向いて彼女に視線を合わせる。
特に感情を宿さなかった赤色の瞳の中には明確な怒りを宿しており、今にも首元に添えた手に力を込めてオレの首をへし折りそうである。
「異を唱えただと? 貴様如きが教官に……あのお方に異を唱えたと、そう言ったのか……!」
自分の中の神聖な何かを汚されたように声を荒げて詰め寄ってくる。
正しく命の危機なのだが、オレは落ち着いてボーデヴィッヒの目を見つめ返して視線を逸らさない。
反対に、心の中は今にも爆発しそうな怒りが暴れ回っているが。
やれと言われたことをやらないで他人に迷惑を掛けているくせに今度は自分の身勝手を棚に上げて怒りを撒き散らす。
ふざけているにも程がある。どこまで傍迷惑なんだこのチビは。
「言ったとも。だがオレのやったことに怒りを抱くのは正直筋違いも良い所だし、そもそもの原因は他ならぬお前に有るぞ」
オレの言葉に、首筋に添えられた冷たい装甲を纏う手が僅かに震える。
「このまま力尽くでオレを黙らせるか? 言っておくが、止めはせんが抵抗はするぞ。お前が持ち上げる教官殿がとことん迷惑する形でな」
一瞬の動揺に畳み掛けるように言葉を重ねる。
すると、最後の部分が効いたのかボーデヴィッヒの手がゆっくりと離れた。
代わりにオレのことを怒りと不安が混じったような目で睨んでくるが、気にせずその横を通って他の班員の元へと歩く。
「本当に申し訳ない、時間を取らせた。全員揃って居残りはごめんだろうから早速始めよう」
ボーデヴィッヒに向ける関心は既に心の中に無く、オレはこちらを不安そうに見ていた女子生徒達に軽く頭を下げてから改めて指導を再開した。
ボーデヴィッヒは結局何もせずにオレを睨み付けていたが、気にするだけ無駄だと割り切って無視を決め込む。
そんなボーデヴィッヒの姿を離れた位置から織斑先生が複雑な表情で見詰めていたのに気付いたが、先程の対応から期待しても無駄だろうと判断して同じく無視した。
それから、他の班よりもスタートが遅かったせいで少し急ぎ気味になってしまったが、どうにか班員の指導を時間内に終えて居残りを回避することに成功した。
ご覧いただきありがとうございます。
この作品でのラウラは既に輝装の段階に到達しているので人格の根っこが原作よりも少し強くなっています。
故に、原作での転校初期の頃に見せた傲慢さと千冬への憧れがより強くなっています。
まあ、周りには完全に迷惑な形ですが。
授業でのISの指導については完全に私の想像から来ていますが、原作での様子から考えても素直に授業を進めていたとは考えられないんですよね。
では、また次回。
よいお年を。