IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
では、どうぞ。
時折、同じ夢を見ることがある。
内容はほとんど覚えてないし、精神的にもあまり良い夢ではない。
ただ覚えているものは、燃える炎。
目に映る全てを燃やし尽くし、消滅させる理不尽な力の顕現。
これが何時何処で見た光景なのかは知らない。
だが、1つだけ知っていることがある。
かつてオレは、この炎に“全て”を焼き尽くされた。
家も、家族も、名前も、今まで生きて刻んできた記憶さえもだ。
そして1人だけ助かったオレは、体の傷以外に心にも何処か欠陥が生まれていた。
それを敢えて口にするなら、1つ目は“目標に向かって努力する楽しさ”、2つ目は“力及ばずで挫折する絶望感”だろうか。
その欠陥の具体的な例は省くとして……孤児となったオレの精神は、過ぎ行く時と共に分不相応に成長していった。
成長したコツというか理由を言うなら、1つは記憶が消し飛んだ後遺症だろう。医者のお墨付きで、フラッシュバックだってさ。クソったれ。
ただ、オレの場合は急にテンションが落ちるタイプではなく、消え去った記憶の残滓が頭の中をチラリと横切り、その度に掻き毟るような頭痛と吐き気が襲い掛かってくる感じだ。
不定期に襲い掛かってくるフラッシュバックと激痛を体験し続ければ、徐々に亀裂を走らせるオレの精神は、砕けまいとそれに抵抗する。
そんな拮抗が続けばあら不思議……精神には徐々に余裕が出来上がり、大人びてるなんて評価を通り越して“イカれてるのか達観してるのか分からない”なんて友人に言われる始末だ。
悪気はねぇんだよ、うん。それは分かるけど……コレ絶対に褒めてねぇよ。つか、褒められていたとしたらむしろムカつくよ。
自慢じゃねぇが、今のオレって心の沸点調整出来んだぜ? 内心で腹立てても1ミリだって外には漏らさない。アレ? これって心の欠陥増えてね?
そんで、成長した理由の2つ目は簡単だ。どういうわけか、並みの一般人よりもちょっとブラックでバイオレンスな人生経験積んでしまい、社会での生き方・接し方に始まって荒事に対する“適切な対処法”まで身に染みさせた。
おっと、言っておくが人殺しとかの犯罪はしてないぞ? オレだって好きでこんな技術見につけたわけじゃねぇんだからな。
だからちゃんと友人だっているぞ。まあ、その中の何人かがカタギですかと問われれば、首を捻るのは間違い無いがな。
そんな経験と技術を積み重ねれば、場数と言う基盤が出来上がり、実感する実力が叩き上げた精神に余裕をもたらす。
ようするにだ……人間、何にでも慣れちまうもんなのだ。
ただまぁ……今回ばっかりは流石のオレも度肝を抜かれたがね。
* * * * * * * * * * * * *
――世の中には、不思議な事もある。
怪奇現象だったり、予想の付かない人生の転機だったり。ただまぁ、今回に限っては誰かが事前に教えてくれると嬉しかった、本当に。
なぜ今年16歳となったオレは、数ヶ月前までいたロサンゼルスから離れて白と黒の制服を着てこんなところに居るのだろう。
この現実に疑問を感じているのは、きっとオレだけではない。最後尾で窓際のオレとは反対の最前列の席に座っている“男”も同じはずだ。
(……ホント、何でこんなとこに居るんだ? オレ、何かしたか……?)
内心で重い溜め息を吐きながら、オレは窓の外に視線を向けた。
そこには太陽を浴びてキラキラと光る海と、憎ったらしい程綺麗に晴れている青空が見える。
まあ、それもそのはず。
何故ならここは、海に面した人工島の上に設立された全寮制の学校――『IS学園』なのだから。
「――アドルフくん……アドルフ・クロスフォードくん」
若干鬱になりながら外を見ていると、前の方からオレを呼ぶ声が聞こえてきた。
視線を移すと、緑髪のショートカットで黄色いワンピースを着たメガネの女性がいた。他に外見的特徴を述べると、1に小さい、2にデカイ。ロリ巨乳である。
この人はこのクラスの副担任の山田真耶さん。その隣に居る黒服スーツで黒髪ロングの女性、織斑千冬が担任である。
「失礼しました……何でしょうか?」
「あの……大丈夫ですか? 何処か虚ろな目でずっと外を見ていましたけど……」
「気にしないでください、現実から目を逸らしたくなっただけですので。えっと、自己紹介ですよね」
「はい、そうです」
そう言われて立ち上がると、クラス全員の視線が一瞬でオレに集中した。
無数の視線が自然と放つ威圧感に顔を顰めそうになるが、どうにか堪えて言葉を続ける。
「アドルフ・クロスフォードです。知ってると思いますが、何故かISを動かすことが出来たんでこの学園に入学することになりました。ですが、ISの操縦に関してはまったくのド素人です。それと、ISの他にも日本のことで分からないことがあれば、その時はよろしくお願いします」
そこまで言って座ろうとしたのだが、クラス中の人間が“他に何か無いの!?”とでも言うような視線を向けてきた。分かった。分かったからその光線でも出そうな輝く瞳をやめてくれ。
「趣味は読書全般と菓子作りを筆頭にした料理、ネットサーフィンも時々やります。趣味合いそうな人がいれば、気軽に話し掛けてください」
そう言って、今度こそ席に座る。
何だか、自己紹介するだけで随分と体力を削られたような気がするな。自己紹介には耳だけ傾けておいて、青空眺めて癒されよう。
それから続いた自己紹介は……“お”の所で女子達のソニックブームが響いたり、“せ”の所でやたらと長いスピーチがあったりと、何か大変そうだった。
オレは“お”の騒動が終わってからは終始空見上げてたんで知らんけど。
* * * * * * * * * * * * *
ここIS学園は、IS……正式名称、インフィニット・ストラトスと呼ばれる機動兵器の乗り手を育てる全寮制の学校だ。
インフィニット・ストラトスとは、今からおよそ10年程前に発表された宇宙での活動を目的とした超高性能のパワードスーツ。
ただ現在は宇宙開発ではなく、その使用目的は地上での救助活動や競技などに集中している。
だが、ISには凄まじい性能と共に致命的な欠陥が存在する。それは……女性にしか動かせないという事だ。
そう。女性にしか動かせないはずなのだ。
そのはずなのに、何故かオレはその女性しか動かせないISを動かすことが出来たのだ。
だからここに……このほぼ女性しかいないIS学校にほぼ強制的に入学させられたのだ。
だが、全世界の中に存在する例外は、何もオレ1人では無かった。というか、順番的にオレが“2人目”の例外なのだが。
そして、ISを操縦出来る“1人目”の男というのが、この1年1組の先頭に座っているもう1人の男、織斑一夏だ。
あの爽やかイケメン君がISを動かせるという事実が発覚し、全世界は驚愕と共に次の行動を開始した。
まあ、単純な話で“ISを動かせる男が1人いるんだから、他にもいるのではないか?”と考えたわけだ。
そう考えた各国の政府は即座に世界中全ての男性にISの適正検査を行い、アメリカの空港から新たな国に旅立とうとしたオレを巻き込んだ。
そしてISに触れた結果、オレは適正ランク「C」という通常より低い数値でありながらも確かにISを起動させた。
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オレとしては、この右も左も女性しかいない地獄ような環境で過ごしていく為、唯1人の同姓である織斑一夏は自然と興味が向く存在だ。
最初の休み時間に話しかけてみようと思ったのだが、目付きがやたら鋭いポニーテールの少女と共に何処かへ行ってしまった。
結果、女子の視線は全て教室に残されたオレに集中するわけで、いやキツイのなんの。マフィアに取り囲まれた経験が無ければ胃に穴が空きそうだ。
しかも、織斑のようにただ見詰めるだけでなく、所々でヒソヒソと話す声も聞こえる。
というか、見るだけでなく誰か話しかけてくれないだろうか。無言で見られるからオレも苦しいんだけど。
まあ、仕方ないか。同じ男子である織斑と比べても、オレの外見は少々変わっているしな。
まずは体の方だが、身長はおよそ185と高め。後頭部で一纏めにした白髪と青色の瞳……いや、友人が言うには濃い空色らしいが。ちなみに髪の色だが、これストレスとかではなく地毛である。少なくとも物心付いた頃からオレの髪はこの色だった。
え? 顔? そんな上等なモンじゃないぞ。男のオレから見ても明らかにイケメンの織斑と違い、高めに見積もってもせいぜい中の上が限界だろう。
んで、周りの女子生徒の注目を集めているのが多分オレの服装。
制服は正面以外の首元を隠すように襟が長く、裾も正面以外は膝に届くほど長い。デザインの例えを出すならアレだ、『魔法科高校の劣等生』。アレの第一高校の制服。
何でそんなの知ってるかって? オレ、読む本には国の境界なんて微塵も気にしねぇのよ。むしろ日本のマンガ・アニメ・ライトノベルは素晴らしいね。感動の文化だ。
ちなみに、この制服は校則違反ではない。この学校はどういうわけか制服がカスタマイズ自由なので、何の問題にもならない。
そんで極め付けは、多分オレの両手に装着された“黒い革手袋”だろう。
一応言っておくが、この服装も革手袋も理由があって付けてるんだからな? 中二病とかじゃないからね?
とりあえず、愛用のウォークマンを取り出して音楽を聴きながら手元にある小説を読む。出来れば本は静かに読みたいのだが、今の状況ではこれでちょうど良い。
幸い休憩時間には終わりがあるので、周りの女子生徒達は10分ほど経過してそれぞれの教室と席に戻っていった。
(こんなのが毎日続くのは流石に勘弁だな……どうにかしないと)
オレは小さく溜め息を吐きながら音楽を止め、次の授業の準備に取り掛かった。
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「―――であるからして、ISを運用するには基本的に国家の認証が必要なわけです。そして、その枠内を逸脱したISの運用を行った場合は、刑法に基づいて罰せられます」
現在は2時間目。
黒板の前に表示させた3つの空中スクリーンを使いながら、IS運用における原則や刑法について説明している山田先生は何処か生き生きとしている。その右には腕を組んで沈黙を守る織斑先生。
オレを含めた生徒達はそれぞれ山田先生の話を聞きながらノートを取っている。一応聞き逃さずノートを取っているが、授業の内容自体は簡単だ。
まあ、普通に聞けば頭を捻るどころの話ではないだろうが、参考書に目を通しておいたおかげで問題は無い。
だが、ここで織斑一夏がやってくれた。
なんと、学園から支給される参考書を古い電話帳と間違えて捨ててしまったらしい。そこへ、教育的指導の名の下に織斑先生の持つ出席簿が振り下ろされ、まるでハンマーで打ち付けたような音が響いた。とても鋭い打ち込みである。
「必読と書いてあったろうが、馬鹿者め。しかもアレは学校からの支給品だぞ」
「……はい、すいません」
どう見ても織斑に問題が有るので反論も無く、織斑は申し訳無さそうに席に座る。
というか織斑、失礼承知で言うが、バカなんじゃないだろうか。電話帳と参考書では見間違えるのも難しそうだが。
だが、自業自得とはいえ参考書無しでこの先授業を受けるのは無茶を通り越して時間の無駄だ。仕方ない。
「織斑先生、再発行に時間が掛かるなら、織斑にオレの参考書を貸しますが」
「お前の分はどうするつもりだ?」
「すでにコピーは取ってありますし、内容もほぼ全て覚えています」
さも当然のように答えたオレの言葉に、クラス中の生徒が驚きで目を見開き、ざわめきが起こる。
いや、なんで驚いてる生徒がこんなにいるんだ?あれって必読のはずだろ。
というか、普通覚えるだろ。ISの知識なんて学びたくても学べないんだから。オレなんて知的好奇心を大いに刺激されて何回も読み直したぞ。
「覚えただと?あの量をか?」
「政府のおかげで数週間ホテルに缶詰めでしたんで……暇潰すのにちょうどよかったですよ」
自然と吐き捨てるような口調になってしまったが、勘弁してほしい。こちとらIS適正が有ると判明してからこの学園に来るまでほとんど監禁状態だったのだ。
四六時中見張られ、行動の一つ一つに制限を付けられ、微塵も愛想が無い黒スーツの男達にスケジュールを管理させる日々。本気で暴れてやろうかと思ったのも一度や二度の話ではない。つか暴れてやった。2、3人半殺しにしてやった。
「わかった……織斑、クロスフォードに感謝することだな。それと、参考書の内容は全て一週間以内に覚えろ」
「えぇっ!? いや……千冬姉、さすがにあの厚さを1週間は無理……」
再び鋭い打ち込みと共に出席簿が振り下ろされる。聞こえる音に比べて外傷が無いのが素晴らしい。さりげない所で達人の技見せてんな、あの人。
「織斑先生だ。これは参考書を捨てたお前の責任だ。自分でどうにかしろ」
「……はい、わかりました」
ぐぅの音も出ない様子で再び座り直す織斑。
あぁ、それと言い忘れていたが、どうも織斑一夏と担任の織斑千冬は姉弟なんだそうだ。普通こんな偶然ありえんのか?
オレも女子生徒達の黄色い悲鳴に耳を塞ぎながら思い出したが、織斑千冬といえば、第一回モンド・グロッソの優勝者。
ブリュンヒルデの名と共に『世界最強』の称号を手にした人ではないか。後でダメ元でサイン貰えるか訊いてみよう。
しかし、その『世界最強』が担任を務める学校って……改めてとんでもない場所に来たんだな、オレと織斑は。
そんなことを考えながら、オレは参考書を片手に持ちながら立ち上がり、織斑の肩に手を置いた。
「悪いな、わざわざ貸してもらって」
「気にするな。さっきも言ったが、コピーも取ってあるし内容もほとんど頭の中に入ってるから好きなだけ使ってくれて構わない。全部覚えるのは難しくても、最低限授業に遅れないよう努力したほうがいい」
コピーを取って内容も覚えているのだが、流石にあの量を一週間では無理だ。それこそ完全記憶能力でも無い限りな。
参考書を捨てたのは確かに織斑が悪いが、だからと言って担任が何もしないのはおかしいだろ。何の助言も無しにやれと言われて出来ると思うのはよほどの脳筋か天才だけだ。
そこまで考えたところで、オレは体を仰け反らせた。
数瞬後、オレの頭があった場所をブォン! と音を立てながら出席簿が通過する。
何故かそれを見た織斑が信じられないモノを見たような目をしているが、今はそれどころじゃない。
「ほう、避けるとはな。だが、教師の与える罰を拒むなバカ者め」
「お断りします。そもそも、体罰を与えられるようなことをした覚えはありませんが」
「失礼なことを考えていただろう」
何処か自信ありげにそう言う織斑先生。
驚いたことに、この人の懲罰は確認を取れない他人の思考に対しても適用されるらしい。
何この人、常識と価値観がすでに暴君を通り越してるよ。
と考えながら体を仰け反らせ、再び振るわれた出席簿を回避する。今度は2連撃だったが、もう大体の速度は“覚えた”。
「避けるなと言ったぞバカ者」
「断ると言いました。オレはマゾヒストではないので」
残念ながらメンタル面で色々と“ぶっ壊れている”が、そういう趣味は無い。痛いのヤダ、これ普通。
すると、織斑先生は一旦諦めたように息を吐き、さっきの場所に戻った。
「1つ言っておく。お前達は、自分が『望んで此処にいるわけではない』と思っているな?」
突然、織斑先生がそんなことを言い出した。織斑はその言葉に明らかに反応した。いや、思っているな? とかキメ顔っぽく言われましても。何当たり前のこと訊いてくれてるんだこの人。
「望む、望まないに関わらず、人は集団の中で生きていかなければならない。それすら放棄したいと言うなら、まずは人間であることを辞めるんだな」
随分と辛辣な言葉を言い切ったもんだが、それを聞いた織斑は何かを決意したように顔を引き締めていた。
対してオレは、織斑よりも自分の立場と状況を理解している自信があるので特に心に響かなった。というか、心の中で若干の苛立ちを感じている。
正論ではあるんだろうが、人の心情も知らずに好き勝手言ってくれたもんだ。
こっちの意思をほとんど聞かずに身柄を拘束し、何処かのホテルにぶち込まれ、黒スーツの男共に四六時中見張られ、最後には女だらけの学園に強制入学と来た。こんな待遇されて不満の1つも抱くなってのが無理だろ。
『望む、望まないに関わらず、人は集団の中で生きていかなければならない』だと? 笑わせるな。オレと織斑の自由を奪ったのは、他ならぬその集団……『社会』だろう。
まあ、そんなことを思っても、同時に“こうするしかなかった”というのもオレは理解している。詳しい説明は口にすると萎えるんで省くが、この学園に来なければオレと織斑はとてつもない“不幸”に出会ってただろうからな。
悪いのは織斑先生ではないのだろう。突き詰めれば皆が皆、自分に都合の悪い事態になるのを避けようとした結果だ。無意識に世界中が歯車と時計の関係になったわけだ。
(やれやれ……誰かに八つ当たりでも出来れば万々歳だが、深く考えれば考えるほど怒りが消えていきやがる。メンドくせぇ~)
ならば深く考えるのやめろ、と思うのが自然だが、それは生憎と無理だ。記憶が消し飛んでから10年近く掛けて作られたオレの心は、そう簡単に思考を放棄出来ない。
とりあえず内心で溜め息を吐きながら、オレも織斑に参考書を渡して自分の席に戻った。
最初の授業でコレか、先行きが不安過ぎるな。
ご覧いただきありがとうございます。
未だにゼロインフィニティの要素どころかISすら出せません。
オリ主に至っては一夏とのエンカウントが殆ど無いようなもの。オリ主も外見くらいしか紹介していませんしね。
あ、もしオリ主のメンタル面で何か思い当たる人がいたら、今は気にせんでください。うん、本当に。心の中に仕舞ってください。
原作メンバーとも徐々に関わらせていきたいと思います。
では、また次回。