IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
年末までに更新したかったんですが、タイミング悪く多忙に襲われてこうなってしまいました。
水笛様から感想をいただきました。ありがとうございます。
今回は一夏サイドのお話になります。
では、どうぞ。
Side 一夏
晴天が広がる第3アリーナの上空。
白式に搭乗したオレは空中を駆けていた。
最初は戦闘機並みの速度で空を飛ぶという感覚に戸惑っていたものだが、今ではもう慣れたもので恐怖心も無く落ち着いて操縦出来ている。
人間同じことを繰り返せば何でも慣れてしまう、と言うが、この場合はISの保護機能の働きが大きいのだろう。
そのおかげで、俺も今ではこのように何の不調も無く白式を乗り回せている。
だが、生憎と今はただ空を飛び回っているわけではない。
それを強制的に再認識させるように、ハイパーセンサーがロックオンの警告を伝える。
「っ……!」
その警告を脳が認識するのとほぼ同時に、オレは右手に握った雪片を振るっていた。
風切り音を鳴らした刀身は左上方から迫ってきた青色のレーザーを一瞬の抵抗の後に斬り裂いて霧散化させ、漂う粒子を刀身へと吸い寄せる。
そうして初撃を無力化することには成功したが、代わりに足を止められてしまった。
『甘いですわ!』
その失態を指摘するような鋭い声と共に上空から飛来した4基のビットがオレを包囲し、青色のレーザーが3発迫ってくる。
ヤバいと心中で叫ぶよりも早くオレは白式のウイングスラスターを展開してその場から離脱しようとするが、一瞬遅かった。
1基のビットから放たれたレーザーが俺の離脱先を塞ぎ、3発のレーザーは包囲するビットのミラーに着弾すると共に軌道を変えて3方向から俺に迫る。
3つの攻撃に対して俺の雪片は1本のみ、退路もたった今塞がれた。
結論、詰みである。
「あぁ、くそっ……やっちまった……」
ぼやくような呟きの直後、3方向から迫るレーザーが直撃。
衝撃と共にシールドエネルギーが激減し、俺は真っ直ぐ地に落ちていくのであった。
* * * * * * * * * * * * *
「……では、先程の試合についての反省点を述べていきましょう」
「おう、よろしく頼む」
場所は変わらず第3アリーナ。
地上に降りた俺と、さっきまで上空で戦っていたセシリアは待機状態となったISから表示されるデータを見て反省会を行っていた。
傍には地上で試合を観戦していた鈴、箒、シャルルも立っており、3人からも必要であれば意見を貰うつもりだ。
ちなみに言っておくと、さっきの勝負の結果は俺の惨敗で終わった。
3発のレーザーの直撃を受けてシールドエネルギーを大きく減らされ、戦闘不能にはならなかったが対消滅機能を使えば即自滅するところまで追い詰められた。
一発逆転の奥の手を封じられた俺はそのままセシリアの遠距離射撃によってジワジワと追い込まれて敗北したというわけだ。
「まず一夏さん、先程の試合における自分のミスは自覚していますか?」
「多分だけど、レーザーを斬り払って動きを止めたから、だよな」
「そうですわね。
射撃兵器を主に使う相手に対して足を止めるのは基本的に悪手。
特に一夏さんのような近接特化タイプは常に動き続けることを意識しなければいけません」
セシリアの言葉に頷きを返し、その意見を踏まえてどう動くべきだったのかを考える。
まず、『白式』に搭載されている武装は殲機である雪片のみ。
当たり前のことだが、刀とは斬る武器であり近付かなければ攻撃出来ない。
その為にはまず相手に近付かなければいけないのだが、これがまた難しい。
戦う相手も何も考えない間抜けというわけではない。
敵のタイプにもよるだろうが、セシリアのような遠距離主体のタイプは基本的に弾幕を張ったり迎撃を行って近付けないようにするだろう。
何故なら、一夏の輝装は
「……やっぱり、俺はまだ『白式』の機動性を使いこなせていないんだろうな」
「たしかにそうね。
ざっと見ただけでも、『白式』のスペックならもっと速く正確に動ける筈よ。
ISっていうのは使う人間の肉体の延長。
まずはその“新しい体”に慣れなきゃ始まらないわ」
「私も鈴さんと同意見です。
恐らく、今の一夏さんに最も求められているのは
自分の欠点を見詰める一夏の言葉に鈴も肯定し、セシリアがより具体的に纏める。
幾ら輝装に覚醒して専用機を得ようと、一夏やアドルフの操縦経験は素人に毛が生えた程度でセシリア達には遠く及ばない。
まずはISを動かす、という感覚そのものを肉体の芯に至るまで深く馴染ませる必要が有るというわけだ。
だが、同じく反省会に同席していた箒は一夏が剣以外のことを優先するのに納得出来ないというように声を上げた。
「それでも攻撃が当たらなければ意味が無いだろう。
『白式』の性能を使いこなすことは必要だが、『
「たしかに一夏の戦い方を考えれば何時かは必要になるかもね。
けど、少なくとも今はダメね」
「ッ……何故だ!」
鈴の反対に箒は声を荒げるが、不足した説明を補足するようにシャルルが割り込んだ。
「まだ基礎が出来上がってない一夏に変な癖を覚えさせない為だよ。
『
下手に乱発したら相手にすぐ見切られてエネルギー切れが早くなるだけだよ」
要点を分かりやすく押さえた説明に反論も出なくなり、箒は黙るしかなかった。
そのまま訓練に映るのかと思われたが、何かを思い付いたシャルルが手を上げた。
「そういえばさ……さっきの戦いを見て思ったんだけど、もしかして一夏って射撃武器を使った経験が無いんじゃない?」
「おう、その通りだ。
『白式』の扱える武装はこの刀一本だけだ」
ISは基本的に様々な装備を量子変換によって運用する。
初期段階を除く装備は全て
IS操縦者はこの
しかし、当然ながらその容量は無限ではなく、輝装によって何らかのシステムが発現した場合もこの
だからなのか、一夏の『白式』には殲機である雪片以外の通常武装を装備する容量の“空き”というものが殆ど無い。
エネルギーの性質を持つモノには絶対的な優位を誇る“霧散化吸収”と“対消滅”。
この強力な能力の代償と考えれば他の武装が使えないのも分かるが、此処まで近接戦闘以外の選択肢を排除した特化型は少々珍しいのではないだろうか。
「だったらさ、まずは一夏に射撃武器の特性を説明した方が良いんじゃない?
実戦で使えなくても、感覚を知っておくのは大事だよ」
シャルルの提案を聞き、一夏達は数秒だけ考え込んだ後に顔を合わせて頷く。
「ではシャルルさん、此方はお願い出来ますか?
私は終わるまで自主練でもしようと思います」
「あ、んじゃアタシも付き合うわ。
あんまり多人数で見てても意味無いしね。
箒、アンタはどうすんの?」
「私は……」
鈴に問いを投げられた箒は顔を沈めて考え込むが、持ち上がった視線が一夏から傍に鎮座している『打鉄』へと移動した瞬間に答えは決まった。
「……私も訓練に混ぜてもらおう。
輝装は使えないが、格闘戦ならば負けはしない」
「へぇ、言うじゃない。
それじゃあ、お手並み拝見といきましょうか」
絶対的な自信を含んだ箒の言葉に鈴はニヤリと笑みを浮かべ、一瞬で『甲龍』を展開して右手に連結状態の双天牙月を量子変換する。
そのまま少し離れた位置に飛び去っていく鈴の後に続くように『打鉄』を身に纏った箒が立ち上がり、軽い跳躍と共に飛行する。
セシリアも『ブルー・ティアーズ』を身に纏ってすぐに無駄の無い加速で急上昇し、アリーナの上空でシュミレーターを操作してレーザーライフルを取り出す。
全員が特訓を始めたのを見届け、一夏も『白式』を身に纏ってシャルルと向き合う。
「……すまんな、シャルル。
いきなり付き合わせちまって悪いが、よろしく頼む」
一夏は自分の未熟さに付き合わせることを申し訳なさそうに詫びるが、シャルルは不満の気配など欠片も見せない晴れやかな笑みを浮かべる。
「こちらこそだよ、一夏。
それじゃあ、早速始めていこうか」
そう言って量子変換の光を纏ったシャルルは自身の専用機を身に纏った。
装甲色は明るいオレンジ色で全身のフォルムは『白式』と比較するとかなり細身でシャープな形に纏まっている。
だが、その外見から非力な印象は一切感じられず、逆に
『白式』のハイパーセンサーが目の前のISを認識し、コアネットワークを通じて簡単な情報をスクリーンに表示する。
「これがシャルルの専用機か。
機体名は……『コスモス』」
「うん、輝装に到達した時にリヴァイブをベースにして生まれ変わったんだ。
外見はあんまり変わらなかったんだけど、中身は別物だよ。
基本的な性能は勿論、拡張領域は元々の倍近く増えたんだ」
「倍って……そりゃすごいな。
ちょっとした武器庫みたいなもんだろ」
何の調整もされていない訓練機でも5~8種類の武装を搭載出来ることを考えれば、シャルルのISがどれだけ破格の拡張性を持っているのかは一目瞭然だろう。
「そうだね。
殆どが実弾兵装だけど、15近くは積んでるかな。
それじゃあ、まずはコレを使って」
そう言ってシャルルは翳した右手に55口径アサルトライフル「ヴェント」を量子変換させて一夏に手渡す。
一夏は
生まれて初めて“銃”という物に触れるが、ISの保護機能が働いているのか忌避感や過度な緊張などは感じられない。
「これってシャルルの武装だけど、俺にも使えのか?」
「ちょっと待ってね……うん、大丈夫。
今、一夏と『白式』を武装が使えるように
ISの武装は基本的に所有者本人にしか使用出来ないようにロックが掛かっている。
だが、今シャルルがやったように所有者本人が許可を出せばその武装を拾い上げて即座に使うということも出来るのだ。
問題無く使えることを確認した一夏は手に持ったライフルの銃身を持ち上げて構えを取る。
映画で見た形を真似てみると、苦笑したシャルルが一夏の背後に移動して構えを誘導する。
「撃つまで引き金に指は触れないで。
しっかりとグリップを握って、ストックを肩に当てて固定する。
反動が有るから重心は少し前に倒すくらいが良いよ」
シャルルの指示に耳を傾けながら一夏は細かく構えを調整していく。
やがて構えが整ったのを確認し、シャルルが端末を操作して50メートル程離れた位置に射撃訓練用の仮想標的を3つ出現させる。
「まずはアレを撃ってみて。
火薬を使った実弾銃だから反動が有るけど、殆どはISが相殺してくれるから大丈夫だよ。
慌てずに、引き金はゆっくりと引いてね」
「わかった、やってみる…………アレ? サイトが出ないぞ」
ISは基本的に高速移動しながら射撃を行うので照準を付ける際もハイパーセンサーとの連携が必須である。
しかし、射撃武器を構えた際に表示される筈のターゲットサイトがどれだけ待っても『白式』には表示されない。
予想外の事態に一夏は構えを解いて首を傾げるが、白塗りの鞘に納められた雪片を視界に入れた瞬間に1つの仮説が思い浮かんだ。
「まさか……
「あ~、普通は考えられないけど……これだけ近距離特化の機体なら有り得るかもね。
じゃあ一夏、しょうがないから目測で狙ってみよう」
「ハァ、それしかないか……分かった」
次から次へと判明する『白式』の尖り過ぎた仕様に一夏は溜め息を漏らす。
だが、もはや変えようの無いことに文句を言っても始まらないと気持ちを切り替えて一夏は先程教えてもらった形でライフルを構える。
ハイパーセンサーを通したターゲットサイトは表示されないので、銃本体に取り付けられた金属製の照準器……アイアンサイトで標的に狙いを付ける。
銃身が上下左右に小刻みに動き、照準を整えたところでピタリと静止する。
「…………撃つぞ」
一夏が合図するように静かな声で呟き、ゆっくりと引き金に掛けた指を引き絞る。
バアンッ!!!
「うおっ!?」
直後に火薬の炸裂音が鳴り響き、伝わる反動も合わさって一夏は驚きの声を上げる。
初めて銃を撃つという体験で心臓はバクバクと暴れているが、剣を振るっている時とは全く違う感覚を確かに肌で感じることが出来た。
「どう?」
「ああ、確かにこの感覚は知っておくべきだ。
銃ってのは、俺の思ってた以上に厄介な武器だったんだな」
第3者が聞けば当たり前だろうと言われそうな言葉が一夏の口から漏れる。
だが、その当然の言葉に傍にいたシャルルは満足そうに頷いた。
「その通りだよ。
頭の中で銃弾は速いモノだと分かっていても、実際に撃たれる弾丸は面積が小さいからどうやっても捉えにくい。
だから軌道予測が合えば高い確率で命中させられるし、外れても相手を牽制出来る。
例え適当にばら撒かれたような射撃でも、一夏みたいな近接タイプは無意識にプレッシャーを感じてしまうんだ」
「思いっきり前に踏み込んでたつもりでも、実際は心の中でブレーキが掛かってたわけか。
だから俺の速さに慣れてきたセシリア相手にあそこまで一方的にやられた」
自分自身に教え込むように口にした言葉は、一夏の頭の中でカチリと合わさる。
今までの自分に足りなかったモノ、改善すべきものモノを自覚したことで強くなる為の道筋がより明確になり、高揚感がこみ上げてくる。
傍で見ていたシャルルも一夏が何を掴んだのを察したのか微笑を浮かべる。
「一夏、せっかくだからもう少し撃ってみたら?
マガジン1本撃ち尽くしちゃって良いよ」
「おう、ありがとう。
せっかくだからそうさせてもらうよ」
シャルルの厚意に礼を返し、一夏は再びライフルを構える。
二度目ということもあって先程よりも落ち着いた様子で2発目、3発目を放つ。
今度は全身に伝わる反動に驚くこともなく、放たれた弾丸は仮想標的に着弾した。
標的の中央部分からは大分外れた位置に命中しているので射撃の精度はお世辞にも高くはないが、そんなことは最初から分かっているとでも言うように一夏は黙々と撃ち続ける。
同時に、こうした射撃武器を相手にどうやって距離を詰めるべきかを考える。
「あ、一夏腕が下がってきてるよ。
銃身は常に目の高さまで上げて、視線の延長線上に置くようにして」
「分かった」
時折傍で見ているシャルルの指導に従いながら一夏は少しずつ拙い弾道を修正していく。
僅かに角度がズレただけで弾丸は狙った位置から大きく外れるが、使っている銃の感覚を覚え始めたのか着弾点が少しずつ中央に近付いていく。
そして、15発を撃ってマガジンに1発だけが残る。
(これでラストか……)
せめて1発だけでも中央に命中させようと一夏は深呼吸する。
数秒間の照準を終えた銃身がピタリと固定され、引き金に指が掛けられる。
バアンッ!!!
引き金が絞られて炸裂音と共に弾丸が発射される。
かなり深く集中したおかげか、一夏の照準は標的の中央付近を捉えていた。
そのコースをなぞった弾丸は狙い通りに標的の中央へと直進する。
しかし……
ドオオォン!!!
……着弾の寸前に大砲を撃ったような炸裂音が鳴り響き、仮想標的が粉々に砕けた。
「っ……!?」
炸裂音が鳴り響いた瞬間に一夏は反射的に動き出し、構えていたライフルを放って即座に雪片を抜刀する。
一夏だけでなく、傍にいたシャルルや離れた位置にいる鈴とセシリアも武器を構えた。
音が聞こえてきた方向にハイパーセンサ―を使って視界を向けると、アリーナのピットに1機の黒いISが立っていた。
四肢を覆う装甲は無駄を削ぎ落したシャープなデザインだが、装甲の間を走る赤色のラインの存在が加わることで近付くのを躊躇う重厚感を纏っている。
背後の
シャルルの時と同様に『白式』のハイパーセンサーがコアネットワークを通じて簡単な情報がスクリーンに表示される。
ドイツ製第3世代型IS、機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』
その情報を目にした瞬間、一夏は目の前のISの搭乗者が誰なのかを直感的に理解する。
何せその人物とは、数日前に最悪な初対面を体験したのだから。
「ラウラ……ボーデヴィッヒ」
「探したぞ、織斑一夏」
一夏が呟いた名前と共に見上げた先には、侮蔑と怒りを混ぜ込んだような目で自身を見つめる赤色の瞳が見えた。
ご覧いただきありがとうございます。
シャルルの専用機の名前は輝装に覚醒したのに原作通りだと違和感有ると思ってちょっと未来の方から持ってきました。
ただ、外見の方は変わってません。ただ名前が違うだけです。
ちなみに、名前の別候補としてビュグロス、ポタンシエル等が調べ物してて浮かび上がりましたが、シャルルの事情を一切出してない状況でこのチョイスは捻くれ過ぎてると思ってやめました。
ちなみに、花言葉は簡単に言うと……
ビュグロスは嘘、誤り。
ポタンシエルは家族愛、あなたの評価が欲しい。
……です。
新しい年も変わらず亀更新になりそうですが、少しずつでも完結を目指していくのでお付き合い頂ければ幸いです。
では、また次回。
そしてよいお年を~。