IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ   作:月光花

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水笛様、天羽風塵様から感想をいただきました。ありがとうございます。

ハイ、マジでお久しぶりです。本当に申し訳ない。

アカウントではおよそ10ヶ月ぶり、小説自体は1年以上間が空いてしまいました。

正直、忙しさと疲れで自分が小説投稿してたことさえ忘れかけてました。

忙しさが特に改善されたわけではありませんが、小説は少しずつ書いています。

出来ればまたお付き合いください。


今回はシャルルの事情についてのお話です。

自分的には原作よりも少しマシになった一夏がグチャグチャに曇ります。

では、どうぞ。



第31話 絡み付く陰謀

  Side 一夏

 

 「い……いち……か……?」

 

呆然としたような声で、目の前の女の子が俺の名前を呟く。

 

見間違いではないかと混乱する思考の一部が訴えるが、その肉体は明らかに男性とは違う。

 

肉付きや骨格は勿論、何よりその胸元にはおよそC~Dカップの豊かな膨らみが有る。

 

「あ……えっ、と……」

 

どうにか言葉を絞り出そうとしても、頭が混乱していて上手く喋れない。

 

「っ!?きゃあっ!?」

 

しかし、そんな俺の言葉を聞いた目の前の女子は即座に胸元を腕で隠し、シャワールームの扉を開けて逃げ込んだ。

 

その時の悲鳴とドアを閉める音によって俺も我に返り、混乱した思考が僅かに落ち着く。

 

『…………』

 

互いに言葉が出ず、扉一枚を隔てて重々しい沈黙が落ちる。

 

しかし、このまま何もしないのはマズイと直感的に理解し、どうにか言葉を絞り出す。

 

「……すまん……その……部屋で、待ってる……」

 

『…………うん』

 

会話になっているのか怪しいやりとりだが、数秒の沈黙の後に返事が聞こえた。

 

俺はそれ以上何も言わず、詰め替え用のボディーソープを置いて脱衣所を出た。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

「何がどうなってんだ……」

 

脱衣所を出てすぐに大きく息を吐き、乱れた呼吸をどうにか整えていく。

 

その途中、エアコンの効いた涼しげな風によってブルリと体が震え、自分の体がいつの間にか少量の汗を流していることに気付いた。

 

(我ながら動揺しまくってるな……とりあえず落ち着け……冷静に考えるんだ……)

 

自身の醜態を改めて自覚し、心臓に手を当ててゆっくり深呼吸をする。

 

回数を重ねるごとに乱れていた呼吸は落ち着き、酸素を多く取り込んで思考はクリアになる。

 

(まず整理しよう……あの女の子はほぼ間違いなくシャルルだ。

 声、身長や顔付きも同じだった。他の女子生徒が部屋を間違えたわけじゃない。他には……)

 

分かり切っていることでも1つ1つ確認して正確に現状を把握していく。

 

しかしその途中、シャワールームで見たシャルルの裸体を思い出す。

 

冷静になって考えて、俺は事故とはいえ女性の裸体をガン見していた事実にようやく気付いた。

 

瑞々しい肌や流れる金髪、美しく整ったボディーラインによって際立つ美乳を思い出して顔が赤面と共に熱くなるが、頭を振って現状把握を再開する。

 

(……イカン、イカン、シャルルには悪いが今は忘れろ。

 今は他に考えることが有るだろ)

 

まず、何故シャルルが女の子になっているのか。

 

その答えは単純、突然性別が変わるのは常識的に考えられない。つまり、シャルルは男装によって性別を偽っていただけで最初から女の子だった。

 

此処までは良い。

 

ならば次の疑問は、何故シャルルは普段男性のフリなどしているのかになるのだが……

 

(これ以上は本人に聞くしかないよなぁ……)

 

……結果的に、シャルルに話を聞かなければ情報不足で何も分からないという現状に落ち着く。

 

 

ガチャ

 

 

そんな時、脱衣所の扉が開く音が聞こえる。

 

普段から聞き慣れている筈の音なのに、俺は無意識にビクリと肩を震わせてしまった。

 

心臓の鼓動が再び激しくなるのを感じながら振り返ると、ここ数日の間で何度も見た紺と白の色に分かれたジャージを着たシャルルが立っていた。

 

しかし、今までと違って後頭部に纏められていた髪は解かれており、今まで俺が気付いていなかった緊張が消えたのか体全体の雰囲気が普段よりも楽なものになっている。

 

加えて、服の内側から胸元を押し上げる双丘が先程の光景は見間違いではないと告げている。

 

「お待たせ……上がったよ……」

 

「……おう」

 

覚悟を決めた俺は、改めて目の前の女子と目を合わせた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 お互いのベッドに腰掛け、俺とシャルルは向き合うように座り込む。

 

緑茶の入ったカップを手に持ちながら数分無言の時が流れるが、このままずっと黙り込んでいるわけにはいかないので俺の方から声を掛ける。

 

「それで……何で男のフリなんてしてたんだ?」

 

「……そうだね。もうバレたんだし、ちゃんと話すよ……」

 

疲れたような笑みを浮かべ、視線を合わせたシャルルは俺の疑問に答えた。

 

「男のフリをしていたのは……実家の父親からそうしろって命令されたからなんだ……」

 

「実家……フランスのデュノア社か。

 けど、何でそんなこと……それに自分の子に命令なんて……」

 

「仕方ないんだよ。あの人にとって僕は、愛人の子だから」

 

淡々と告げられた事実に、俺は思わず絶句してしまった。

 

愛人の子という言葉の意味が分からないほど、俺も馬鹿ではない。

 

「家に引き取られたのは、お母さんが亡くなった2年前。

 父の部下がやって来てね。その後色々な検査を受けてISの適正が高いことが分かって、非公式だけどデュノア社のテストパイロットになったんだ」

 

話を続けるシャルルの顔色は、お世辞にも良いとは言えなかった。

 

だが、本来言いたくも無いことを健気に話してくれている勇気を止めるのは逆に失礼だと感じ、俺は黙ってシャルルの言葉に耳を傾ける。

 

「父と……アルベール・デュノアと直接会ったのは2回。会話は数回かな。

 一度だけ本邸に呼ばれた時は本妻の人にいきなり殴られてさ。

 『泥棒猫の娘が!』なんてさ……現実で聞くことになるなんて思わなかったよ」

 

無理矢理貼り付けたような愛想笑いを浮かべるシャルルの声は、酷く乾いていた。

 

だが、その姿に同情や憐憫を向けるのは絶対にダメだと思った。

 

結果、見ているだけで伝わる痛々しさに俺は言葉を発せず、行き場の無い怒りを胸の内に留める。

 

「そして此処からが本題……僕が転入することになった理由なんだけど、引き取られてから少し経った頃にデュノア社が経営危機に陥ったんだ」

 

「経営危機? でも、デュノア社ってリヴァイブの開発メーカーだろ。

 量産機のシェアでも第3位だって授業で聞いたけど……」

 

「うん、それは合ってるよ。

 けど、どれだけ量産機としての評価が高くても、結局リヴァイブは第2世代なんだよ。

 『イグニッション・プラン』から除名されたフランスが他国とのアドバンテージを得る為にも、今何よりも求められているのは第3世代の開発なんだ」

 

現代においてISの存在は国防の要だ。

 

そのISの性能や開発が他国よりも劣るということは、国の軍事力や国防の脆弱さを周囲に晒しているに等しいのだろう。

 

「複合式心装永久機関や殲機なんていうブレイクスルーが起きて、当初は予想もしなかった大量のデータが手に入ったことに小躍りしたみたいだけど、根本的な問題は今も解決してない。

 輝装到達時に誕生する専用機のスペックはベースとなった機体のスペックを基にしている事が分かったからね」

 

その情報は、俺も最近の授業で聞いた覚えが有る。

 

輝装の覚醒と同時に搭乗していたISが専用機に作り替えられる際、そのスペックは覚醒前のISのスペックが高いほど高性能なモノとなる。

 

打鉄やリヴァイブのような変わり映えしない量産機よりも、セシリアや鈴のように最初から改造を受けた特注機の方が覚醒後でも高い性能を発揮するということだ。

 

「50と100のモノにそれぞれ1000を足しても元々の差は埋まらない。

 結局振り出しの問題に戻っちまうわけか」

 

「そういうこと。そんなわけでデュノア社も第3世代の開発に取り組んでいたんだけど、元々第2世代も最後発の企業だからね。データも時間も圧倒的に不足しているせいで殲機から得た技術が有っても中々形にならなかったんだ。その結果政府からの予算も大幅にカット。

 次のトライアルで選ばれなければIS開発の許可も剥奪されることになったんだ」

 

どれだけ過去に大きな業績を果たそうとも、今求められる結果を出せないのなら所詮それまで。

 

デュノア社が出来ないのであれば他の企業に金を回して結果を出させる。

 

一見残酷にも見えるが、政府や企業の運営は遊びでは無い。その残酷さを求められる程の多くの金が動いているのだから。

 

「……デュノア社の現状は大体分かった。

 つまり、シャルルが男のフリをしてまでこの学園に来たのは……」

 

ここまで多くの情報を貰えば、俺の頭でも大体の察しはつく。

 

だが、それでもシャルルは自分の口からその先の理由を話してくれた。

 

「……1つは世間の注目を集めるための広告塔。

 それと、同じ男性なら既に現れた特異ケース2人と接触しやすい。

 つまり、一夏とクロスフォード君の機体データを盗んでこいって言われてるんだよ僕は」

 

苛立ちと罪悪感を混ぜ合わせたような声を出すシャルルの顔には先程とは一転して疲労の気配が漂い、逸らされた瞳の中は僅かに澱んでいる。

 

やりたくもないことを命令した父親のことを考えているのか、そんな父親の言うことを聞かなければいけない自分に嫌気が差しているのか。

 

「……これで、僕の事情は大体話せたかな。

 結局一夏にバレちゃったけど、何だか全部話せてスッキリしたよ」

 

「スッキリって……シャルルは、この後どうするんだよ……」

 

まるで何もかも諦めるようなシャルルの微笑みに嫌な予感を感じて質問を投げると、彼女は特に表情を変えずに言葉を返した。

 

「本国に呼び戻されるのは間違いないけど、その後は僕も分かんないや。

 デュノア社は……多分潰れるか他の企業の傘下に入るだろうけど、僕にはどうでもいいかな。

 結果が出る頃には裁判所か留置所に拘束されてるだろうし」

 

「……は? 裁判所に留置所?

 それに……拘束って、何で……」

 

シャルルの言っていることが理解出来ず、上手く言葉が出てこない。

 

そんな俺の様子を見て、シャルルは申し訳なさそうに苦笑する。

 

「ごめんね、言ってなかったよ。

 僕も詳しく聞かされてる訳じゃ無いけど、僕をこの学園に『男』として入学させる為の偽造工作には多分デュノア社だけじゃなくフランス政府も関わってる。

 けどそんな事実を国は認められないから、僕は罪をなすり付けられて切り捨てられる」

 

自分がこの先どうなるのかを淡々と答えるシャルルとは対照的に、嫌な予感が的中した俺は頭が軽く混乱して全身から嫌な汗が流れ出す。

 

思わず額に手を当てて俯く俺と苦笑を浮かべているシャルル。

 

第3者から見れば崖っぷちに立っているのは俺の方だが、現実は違う。

 

頭の出来が良い方ではないが、シャルルの言っていることの意味は分かるつもりだ。

 

纏めると、シャルルは俺とアドルフの機体データを盗む為にIS学園に偽装書類で転入した。

 

しかし、スパイ行為は勿論のこと公文書偽造は立派な犯罪。そして、今回の件で重要なのはこの犯罪行為にデュノア社とフランス国家が関与していること。

 

罪の重さに関係無く、国の不祥事が明るみに出れば外部の敵に弱みを握られることになる。

 

そうなれば今シャルルが言ったように、黒幕は全ての罪をなすり付けて彼女を捨て駒にする。

 

「……いいのか、それで」

 

思わず、シャルルの両肩を掴んでそんな言葉を口にしていた。

 

良いわけが無い。こんな理不尽な目に遭って誰が納得出来るというんだ。

 

だが、頭では分かりきっているのに訊かずにはいられなかった。

 

「え……?」

 

「親だから……国の命令だからってスパイなんかやらされて……こんな、道具みたいに……」

 

上手く話せず、途切れ途切れに言葉を口にする。

 

多分、今の俺は相当に酷い顔をしているだろう。

 

そんな俺の様子を見たシャルルは僅かに目を見開くが、ゆっくりと持ち上げた両手を俺の手に添えて嬉しそうに微笑む。

 

「ありがとう、一夏。嘘をついていた僕のために悲しんでくれて。

 でも、仕方がないんだ。

 最初から、僕には選択する権利が無いんだよ」

 

そう言ったシャルルの笑みは、一転して諦観と憔悴が混ざり合ったように酷く痛々しかった。

 

ソレを見た俺の心の中には行き場の無い怒りがこみ上げ、彼女にそんな顔をさせる存在がどうしようもなく憎いと思えた。

 

同時に、苦しんでいる友人に対して何も出来ない自分の無力さにも苛立ちが募る。

 

「でも、ずいぶんと気にしてくれるんだね。知り合ってまだ数日の関係なのに」

 

「……日数なんて重要じゃないだろ。

 それに、クソみたいな親に人生を振り回される気持ちは俺にも少し分かる」

 

「……え?」

 

再びベッドに座りながらそう言うと、シャルルはキョトンとした顔でこちらを見る。

 

そう言えば、シャルルの話ばかり聞いて俺のことは何も言っていなかったのを思い出した。

 

「俺と千冬姉は両親に捨てられたんだよ。

 顔は覚えてないし、今更会いたいとも思わないけど……千冬姉には随分苦労させちまった」

 

「あ……だから『両親不在』って……」

 

事前に読んだ資料の内容でも思い出したのかシャルルは申し訳なさそうな顔で俯くが、気にしなくて良いとすぐさま声を掛ける。

 

実際、俺は実の親のついて殆ど関心が無いのだ。

 

俺にとっての家族は千冬姉だけだし、顔も知らず最初からいなかった存在など気にもならない。

 

「今は俺よりシャルルのことだろ……解決策はすぐには見付からないけど、時間は稼げるはずだ」

 

「え?」

 

「入学してすぐの頃に山田先生から言われたんだよ。特記事項には必ず目を通しておけって。

 その中に使えるヤツが有ったんだ」

 

 

特記事項二二、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。

 

 

暗記した内容が自分でも驚く程スラスラと頭に浮かび、その内容をシャルルに説明する。

 

情けない話だが、俺にはシャルルの問題を即座に解決出来る方法が見付けられない。

 

だが、それでも……諦めてシャルルを見捨てるなんて選択を俺はしたくなかった。

 

「こいつを使えば少なくとも3年は時間が稼げる。

 今はまだ何も無いけど、その間に解決策を探す事は出来るはずだ」

 

「……優しいんだね、一夏は」

 

その時の俺は、果たしてどんな表情をしていたのだろう。

 

未だ頭の中の混乱は消えず、消して顔色は良くなかった。

 

しかし、そんな俺の顔を見詰めたシャルルは、尊い何かを見るように小さく微笑んでいた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

全体的に飛ばし気味かつ短めになりましたが今回はここで切りました。

少しネタバレになりますが、次回からはオリ主も関わります。

まあ、一夏だけじゃどれだけ考えても案なんて出てきませんからね。

個人的には原作一夏の「考えてみてくれ」って台詞見て「は?」ってなりました。いやお前ソレ実質丸投げじゃねぇか、何を考えるんだよ豚箱に入る決心かよ。

こういうこと考えた場合ってタグにキャラ改悪とか付けた方が良いのかな?

オリ主側の問題が発展するのは多分次の次辺りです。

では、また次回。







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