IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
今回はセシリア戦。ようやくゼロニティ要素を出せました。
それと、誠に勝手ながら1話と3話のオリ主の過去の事件があった年を、10年前から6年前に変更しました。どうか、ご了承下さい。
では、どうぞ。
Side アドルフ
今日は何故かオレも含まれたクラス代表戦の日。
「なあ、箒……気のせいかもしれないんだが……」
「そうか。ならば気のせいだろう」
「誤魔化すな。ISのことを教える話はどうなった……」
織斑と篠ノ之が口論しており、それを横目で見るオレがいるのは、アリーナを使う選手が待機するピット。
オレと織斑はこの場所でISを装備してアリーナで試合を行うのだが、現在1つ重要な問題が発生している。主に織斑に関係する問題が。
織斑に用意された専用機が未だに届いていないのだ。何でも手続きや受け取りの承認などでごたついてるらしい。運ぶ物が物なのだから、仕方ないと言えば仕方ないの。
オレは専用機など無いので困らないが、オレの使うリヴァイヴも一緒に運ばれる予定なので待つしかない。
ちなみに、対戦相手であるオルコットはすでにISを装備してアリーナの上空に待機している。
「織斑くん!!クロスフォードくん!!」
ピットの中に大急ぎで入ってきた山田先生と、その少し後ろに織斑先生がいる。
しかし、いつも以上に慌てた山田先生は今にも転びそうなので見ていて不安になる。ISを装備している時はまるで別人なのだが。
「山田先生、まずは深呼吸して落ち着きましょう。はい、吸って~」
「え? あ、はい。すぅ~~はぁ~~すぅ~~はぁ~~」
「はい、そこで止めて」
「うっ」
織斑がそう言うと、山田先生は本当に息を止めた。その状態が数秒続き、山田先生の顔は徐々に赤くなっていく。
呼吸整えるには息を止める時間がどう見ても長過ぎるのだが、見た感じ止めるタイミングを外したようだ。
案の定、山田先生は涙目になりながら咳き込んだ。随分長く息を止めていたようなので背中を軽くさすってあげると、感謝された。
「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者が」
そして、織斑には出席簿という名の教育的指導が下され、呼び方に先生を付けなかったことでもう1発追加された。少しは学習しろ。
「えっと、織斑くんのISはこちらに移送中なんですけど、まだ少し時間がかかります。ですから……」
「先にクロスフォードがオルコットと試合を行う。それと時間が無いので、織斑はフォーマットとフィッテングはこのまま実戦で済ませろ」
「フォーマット? フィッティング?」
「初期化と調整だ。英単語の意味も分からんのかお前は」
首を傾げる織斑に溜め息を吐きながら教えてやると、重い音を立てながらピットの搬入口が開く。
目を向けた先にはオレの使うリヴァイヴが1機座している。
己が主を待つように装甲を解放し、ただ座しているリヴァイヴの装甲に軽く触れて、オレは装甲をよじ登って機体に体を預ける。
カシュッ! カシュッ! と空気が抜けるような音と共に装甲がオレの体に合わせるように閉じていく。そして、この機体が初めからオレのためにあるような一体感が走り、比喩でも錯覚でもなくオレの意識がISに『繋がる』。
瞬間、クリアな感覚が広がり、それが視界を中心に全身に行き渡る。各種のセンサーが感知し、報告してくる内容は、何度も見たことがあるかのように全て理解できる。
オレは片膝を着いて座していた体勢から体を起こし、両の手の平を開いたり閉じたりしながら調子を確かめる。
続いて、オレは両手を軽く左右に広げ、精神を集中する。
「何をしているクロスフォード。早くカタパルトに……」
「あの、織斑先生。実は、クロスフォードくんにはIS機能の行使にちょっと問題があるらしくて……」
「問題? 一体何です?」
山田先生の言う通り、放課後の特訓でオレにはIS運用の機能不全があることが分かった。人間で言う“障害者”のようなものらしい。しかも、これまた厄介な内容のものだった。
話して良いものかと視線を泳がせる山田先生に対し、オレは首だけを動かして無言で頷く。
「
「成る程。それで、1つの武装につき何秒掛かるんだ?」
「えっ!? そ、それはそのぉ~……「13秒です」」
質問に返答を渋った山田先生の代わりにオレが答え、織斑先生は驚愕を隠せない様子でオレの方を見た。背中を向けたままでは失礼だと思い、オレは取り出したアサルトカノン「ガルム」を右手に持って振り向く。
まあ、驚くのも無理はない。というか、当然の反応だろう。
熟練のIS乗りは武装を展開するまでの動作を0.5秒で行い、一般的な搭乗者でも2秒ほどでこなせる。この場合はオレが異常なのだ。
要するにオレは、ISの量子変換による武装の切り替えが実戦では使い物にならないのだ。だからこそ、こうして戦闘前に使用する武装を全て装備しておく必要がある。
山田先生が言うには、ISの機能行使に不全を抱える搭乗者は他にもいるらしいが、治療法や解決策は特に無い。コレは言葉を選ばずとも欠点以外の何者でもないな。
「だ、大丈夫です! 今日までの特訓でアドルフ君は基本動作を完璧に覚えていますし、射撃だって上手でしたよ。だから、頑張ってくださいね!」
「はい。では、そろそろ行きます」
武装の展開を終えて、オレはカタパルトへと歩いていく。
右手に持つアサルトカノンの他に、左手には機体全体の7割近くを隠すほどの大型シールド、左右の背中部分には4連装のミサイルポッド、そして両足の爪先から膝まで覆われた追加装甲が装着されている。
「アドルフ、頑張れよ!」
後ろからそう言った織斑に対し、オレは軽く左手を上げておう、と答える。
カタパルトに乗せた両足が固定され、姿勢を少し前屈みに倒す。
「アドルフ・クロスフォード……リヴァイヴ、出るぞ!」
そのまま身体を前に倒しながら『飛ぶ』と強く意識すると、背中にある4枚の多方向加速推進翼が大きく開く。
すると、次の瞬間にオレは鋭く加速し、アリーナへと飛び立った。上には青い空が広がり、下にはグラウンドが見える。
そのまま大体高度100メートルほど飛び上がって上昇し、同じように上昇して待機していたオルコットと正面から対峙する。
「あら、逃げずに来ましたのね」
オルコットのISは青い装甲と4枚のフィン・アーマーを纏った英国騎士のような外見をしており、目の前に表示された画面にはブルー・ティアーズという名前が表示されている。
即座にハイパーセンサーが探知、検索、表示してきた情報に意識の8割を傾ける。
英国騎士のような雰囲気を持った機体が右手に持っている2メートル以上の重火器。表示された検索結果には、六七口径特殊レーザーライフル、『スターライトmkⅢ』とある。
ISは宇宙空間での運用を前提に開発されていて、
それによってISは常時浮遊が可能なので、搭載してある武装が自分の全長以上、または全長と同等の大きさを持つ武装を使うのは珍しくない。
(ここまでは分かる。それにあのフィン・アーマーの正体もな……)
ISの映像資料室や閲覧可能な入試の戦闘記録に目を通しておいたので、オルコットのISの性能は大体把握している。
知っていると知らないでは大きく違いが出るのだから、これぐらいは当然だ。
(最も厄介なのは此処から先……情報がまったく見付からなかった“本気”の姿だ)
互いに離れた距離は200メートルほど。互いに持つ武器は遠距離兵器だが、射程は恐らく向こうが上だ。つまりこの距離はオルコットの領域。
常識的に考えれば狙撃手は近距離に入り込めばそれで終わりだが、それで終わるなら代表候補生はやってないだろう。それに、まずは近付けるかどうかだ。
「そういえば、アナタには訊きたいことがありましたの」
試合開始の鐘が既に鳴っているというのに、セシリアは腰に当てていた左手を持ち上げ、人差し指をオレに向けた。こう、ビシッ!って感じで。
というか、右手のドデカイ銃はぶら下げたままかよ。実際余裕なんだろうが、もしもの時にどうするつもりだ? アレってどう見ても片手で撃てる代物じゃないだろ。
「何故、専用機の開発をお断りしましたの? 専用機の所持がどれだけ魅力的であるかは知っているでしょうに。まさかとは思いますが、量産機でも私に勝てるという余裕ですの?」
そう言ったオルコットの目が細まり、ハイパーセンサーが敵操縦者の射撃体勢への移行とセーフティーの解除を知らせる。
どうやら、保身に走ったオレの行動が知らない所でコイツに不快感を与えていたらしい。
「自意識過剰も良い所だが、まずは余裕という方を否定しよう。オレのISの搭乗時間は現時点でも20~30時間程度、お前の方は詳しく知らないが、200~300時間はあるはずだ。単純な数字で比較しても10倍の差がある。加えて、お前はすでに代表候補生という立場で実力を示している。オレの状況は余裕どころか虐めに近いな」
少し長く喋ってしまったが、目の前のエリート様は具体的な数字と適度な褒め言葉を混ぜなければ誤解して怒りを撒き散らすはた迷惑な性格だ。嫌みも混ぜるならこれくらいがちょうどいい。
そして、言葉を吐きながら視線を右手のヴェントに移してセーフティーの解除と弾数の確認。続いて両背中の4連ミサイルポッドも発射準備を終える。
当然、この情報はセシリアにも見えている。だが、オレ達は互いに動かない。
「くっ!……相変わらず皮肉が抜けない男ですわね。この前も今も、もう少し礼儀を弁えた発言は出来ませんの? まったく、親の顔が見てみたいものですわ!」
不覚にも、その言葉にオレの体はピクリと反応してしまった。
同時に、頭の中を一瞬だけ掻き毟るような激痛が走り、目に映る世界が反転する。
(あぁ、くそ……こんな時に……)
雲が流れる青空から一変し、瞳の中に映るのは地獄のような炎が充満して燃え盛る家。
今まで数え切れないほど見てきたこの光景に対し、オレの考えることは“ああ、またか……”程度のもので、フラッシュバックは数秒で収まる。
瞳に映る景色が元の戻り、オレは深呼吸して頭痛と吐き気を意識の外に追いやる。
「……そうだな。オレも、出来ることなら見てみたいもんだよ」
「……何か言い返すかと思えば、出てくる言葉がそれですか? ……やれやれ、これでは訓練に付き合わされた山田先生があまりにも報われませんわね」
オルコットのその発言にオレは再び反応した。
だが、今度は無意識にではなく、明らかに気に入らないという感情があった。
オレが下に見られるならまだ良い、両親のことを悪く言われるのも慣れている。だが、オレを通して他の誰かを……ましてや何日も訓練に付き合ってくれた山田先生を悪く言われるのは我慢ならない。
「気が変わった……どうにか、お前を負かしたくなった」
「あら、突然何を言い出すかと思えば。先程自分が不利だと言っておきながら、心の中では代表候補生の実力を軽く見ているのでは?」
「何度も言わせるな阿呆が。実力差は理解してる……だが、それでもだ」
そこで会話は途切れ、オレとオルコットは無言で睨み合う。
だが、それは長く続かず、オルコットは軽く息を吐きながら一度目を伏せる。
「良いでしょう。ならば、その実力差を骨の髄まで刻み込んであげますわ!」
確かな敵を宿した言葉を投げてセシリアはゆっくりと空に向かって上昇。
そして力を溜めるように瞼を閉ざし、深く息を吸い込んだオルコットは目を開くと共に“その言葉”を口にした。
「
その瞬間、確かにアリーナ全体の空気が震えた。
『認証──汝が
重なるかのように突如として響き渡ったのは、硬質で無機的な“声”。それと共に大きくなって聞こえて来るのは、音叉に似たような共鳴音。
オルコットの言葉を
だが、今はそんなことを気にしている状況ではない。
“アレ”を使ってくることは分かっていたが、改めて理解した。
“アレ”はマズイ。明確な形状もスペックも何1つとして知らないが、オレの直感と危機感が使わせてはいけないと必死に叫んでいる。
「我は天に煌く青き星なり」
命無き問い掛けに対し、噛み締めるように放たれたオルコットの言葉は、詠唱というよりは宣誓に近いものだった。
「振り払うわ眼下に
セシリア・オルコットはこう生きて、こう在りたいと望む存在だという宣言と確認。
「夜空の奏でし旋律と共に
「っ……!」
それを悠長に聞いているつもりは毛頭無い。
加速するイメージを描いて突き進み、1秒でも早くオルコットを確実な射程内に留める。
右手のガルムでは命中までまだ少し遠い。ならばと意識を両背中のミサイルポッドに移し、ロックオンの完了と同時に全弾を発射する。
だが、オルコットは微塵も同様を見せず、余裕の笑みすら浮かべながらオレを見た。
「この身に受け継ぐ誇りを胸に、我は天に遍く明星とならん」
その言葉を最後に、オルコットの
『受諾──素粒子生成』
タイムリミットだとオレに知らせるように、命無き
放たれた8発のミサイルが命中するまで、あと3秒。
『
だが、それはオルコットにとって問題では無い……いや、そもそも脅威として捉えてすらいなかったのだろう。
「
その言葉を口にした瞬間、オレは無意識にそのことを理解した。
同時に、オルコットの『ブルー・ティアーズ』から目も眩むばかりの閃光が放たれ、やがて集束したその光はオルコットとISの手足や装甲を走り、定着していく。
そして白く輝く光……素粒子が形を為す。
次の瞬間、オレの放った8発のミサイルが全て、ほぼ同時に爆発。舞い上がる黒煙の中から、“傷1つ無い”オルコットが現れる。
「
そこにいたのは、星の輝きを宿した銃騎士。
オルコットの周囲には先端に銃口、背面にミラーを装着したビットが4基浮遊している。アレがフィン・アーマーの正体なのだが、普段よりも一段と強力に変貌している。
ISそのものにも、両腕部とスカート状のアーマー部分に流麗な装甲が追加されている。
しかも、変貌を遂げた部分はそれだけではない。右手に握られていた『スターライトmkⅢ』も銃身全体に滑らかな装甲が装着されている。
「それが新たなISコア『
「その通りですわ。さあ、踊りなさい。私、セシリア=オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
その言葉を号令とするように、浮遊する4基のビットとライフルの銃口が青い光を宿しながら一斉にオレへと向けられる。
どうにか回避しようと、オレは舌打ちしながら後方に急速後退する。
次の瞬間、天より降り注ぐ無数の青い光が、オレの視界とアリーナの上空を蹂躙した。
ご覧いただきありがとうございます。
やった! ようやく出来た起動(ジェネレイト)! ずっとこれがやりたかった!
セシリア戦は前半後半に分けてやりたいと思います。
では、また次回。