IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
今回はセシリア戦の続きです。
けっこう長くなってしまいした。
では、どうぞ。
Side Out
「現在のISコア、複合式心装永久機関は、人の心を武器に変える装置と言われています」
「心を、武器に変える?」
モニターを見ながら呟いた麻耶の言葉に、一夏は疑うような視線で問う。隣に立つ箒も、何も言わないまま耳を傾ける。
「オルコットさんの今の姿がまさにソレです。アレは『輝装』と呼ばれ、ISコアが搭乗者のエゴ……『こうありたい、こうなりたい』という気持ちが形を成した姿なんです」
「その性質上、輝装は扱う人間によって千差万別。オルコットのように武装が変化するものもあれば、何らかのシステムが追加されることもある。中には、輝装の覚醒と同時に量産機が専用機に作り変えられることもあるそうだ」
モニターに映ったセシリアは変貌した姿でビットとライフルを連射し、アドルフを一方的に追い込んでいく。
対してアドルフの乗るリヴァイヴはアリーナの上空を必死に飛び回り、あらゆる方向から襲い掛かるレーザーの雨を避け続ける。
時折直撃を受けそうになるが、左手に装備した大型のシールドによって全て防いでいる。
しかもそれだけでなく、回避と防御を繰り返しながら右手のガルムをぶっ放して、セシリアの操るビットを撃ち落とそうとしている。
「ほう……一週間であそこまで戦えるようになるとは、よく鍛え上げたものだな」
「いえ、私が教えたのは基本動作と飛行だけです。アドルフくんにもかなりの才能が有りますけど、彼にはソレを上回る学習と適応の能力が有るみたいです。射撃に関しては、経験、だそうです」
「努力を重ねることで確実に実力を伸ばせる人間、だな。世の中に広く知られる天才とは少し異なるが、伸び代次第でアイツは何処までも化けるだろうな」
だとしたら、Cランクの適正はつくずく惜しいなと千冬は内心で付け足す(恐らく、アドルフのCランク適正の理由は
天才は1を聞いて10を、100を、1000を知る。
だが、アドルフは“そういう”天才ではない。彼は確かに100や1000を生み出すスペックを持っているが、ソレを引き出す為に努力というプロセスを必要とする。
そしてアドルフの努力には、ほとんど
努力を重ねることで無駄を削り、確実に何処までも実力を伸ばす。ようは、努力次第で何でも出来るようになる。
言うなれば、努力の天才。
それが、アドルフ・クロスフォードの才覚の形だ。
そんなアドルフの放つ銃弾がビットの1つに確かに直撃したのだが、ビットは傷一つ付かず、逆に銃弾のほうが弾かれた。
「なんだ今の……確かに命中したのに……あのビット、そんなに頑丈なのか?」
「ただ単に強度の次元が違うだけだ。ISには
「つまり、通常の装備では輝装を使うIS操縦者にほとんどダメージを与えられないんです。その強さに釣り合うように習得も困難で、代表候補生の必須条件でもありますから」
千冬と麻耶の返答を聞き、一夏は理不尽を感じずにはいられなかった。
セシリアは最初から凄まじい手札を持っていた。だが、アドルフにはそんな手札もなく、攻撃を命中させようとほとんど通じない。
なんだその反則染みた差は。これでは出来レースも良い所ではないか。
そんな怒りを内心で抱く一夏を他所に、モニターの中のアドルフはアリーナの壁際に向かって飛行し、背中を壁に向けてミサイルを発射した。
恐らく、あらゆる方向から襲い掛かるセシリアの攻撃を抑え込む為だろう。壁と地面を使って背後と真下からの攻撃を防げば、回避と防御はかなり楽になる。
そして思った通り、ミサイル全弾をライフルで撃ち落としたセシリアがビットで攻撃を仕掛けても攻撃がまったく当たらない。もしくはシールドに防がれる。
このまま拮抗状態に陥るかと思われたが、セシリアは再び余裕の笑みを浮かべてライフルを構え、発射。だが、青いレーザーの向かう先はアドルフがいる場所から大きく右にズレている。
陽動か誤射の類だと一夏と箒には思えた。
だが、レーザーの向かう先に1つのビットが割り込んだ瞬間、予想は大きく裏切られた。
ライフルから放たれたレーザーがビットに……いや、正確に言うにはビットの背面に装着されたミラーに命中した次の瞬間、レーザーが右方向へ垂直に“曲がった”。
太陽光の光を鏡で反射させたようにレーザーの軌道が変わり、意表を突かれて防御も回避も間に合わなかったアドルフは右腹部に屈折したレーザーの直撃を受けた。
衝撃でアドルフの体は壁際から大きく離れてしまう。その隙をセシリアは逃さない。
セシリアのライフルから続いて放たれる2発、3発と続く攻撃、その全てがビット背面のミラーによって屈折を起こしてアドルフに迫る。
予想も付かない方向から迫る攻撃に対し、アドルフは直撃こそどうにか防いで見せたが、完全に壁際からアリーナの内側へと押し出された。
そして再開されたレーザーの雨による包囲射撃。ビットの反射攻撃を加えたことで先程よりも勢いが増しており、アドルフの逃げ道を完全に塞いでいる。
まるでレーザーの檻に閉じ込められたかのようだ。
「当たり前の結果とはいえ、ここまで一方的な展開になるとはな」
「当たり前? 箒、お前本気でそう思ってるのか?」
「無論だ。少々動きの基礎を身に付けたとしても、所詮は素人。経験と技量には未だ圧倒的な差がある。おまけに輝装が使えないのだ。あの男の勝てる要素が何処にある。このままジワジワと嬲り殺しにされるだけだ」
「それはどうだろうな」
未だ木刀の一件を引きずっているらしく、アドルフを見る目に嫌悪感を隠さない箒の言葉に対して、一夏よりも早く口を挟んだのは意外なことに千冬だった。
腕を組みながらモニターを見るその顔には目立った感情は無かったが、家族である一夏には、そこに秘められた僅かな期待の気配を感じられた。
「確かに輝装を使えないクロスフォードの勝率は圧倒的に低いだろう。だが、スペック差で次元が違うとはいえ扱うのは同じ人間だ。アイツ個人の技量次第で経験差などすぐ埋められる」
「で、ですが……あの男にそれほどの実力があるとは思えません! 射撃はそこそこ上手いようですが、適正がCランクの上に体術で劣っているなら……」
「そうでもないぞ。むしろ、アイツは体術の方が腕は上かもしれん」
箒の発言に少し対し、千冬は肩をすくめながら微笑を浮かべて返答した。
その場にいた全員がどういう意味なのかと視線で問いかけると、千冬は微笑を浮かべながら面白そうにモニターを見直す。
「私も事後報告の資料に目を通しただけだが、クロスフォードはロサンゼルスの空港でIS適正があると分かった時に相当抵抗したらしい。その後連れていかれたホテルでも暴れたそうだ」
一夏がISに触れたのは高校入試を行う多目的ホールの中だったが、アドルフはアメリカから旅立とうとした空港だった。
その際にISの適正が有ると判明したのだが、その後が少し厄介だった。
近くにいた政府の人間達は驚きながらもアドルフの身柄を確保しようとした。だが、突然黒スーツの男達に拘束されそうになれば、大小問わず誰でも抵抗する。
そしてこの時、政府の人間がとんでもないミスを犯してしまった。
実はこの時、空港にはアメリカに滞在している間アドルフを家に泊めてくれた優しい家族が見送りに来てくれていたのだ。
その人達はアドルフが強引に拘束されるのを見て憤慨。夫である男性が黒スーツの男達へ真っ先に抗議した。しかし、黒スーツの男達は事情を説明するどころか男性に軽い暴力を振るって黙らせた。
黒スーツの男達もまさか本当にISを動かせる男が見付かるとは思っておらず、内心では激しい動揺が渦巻いて冷静な判断力を失っていた。
だが、それがいけなかった。
抗議した男性が殴られた瞬間、アドルフは自分でも珍しいと自負するブチギレを起こし、全力で抵抗。暴力を振るった男はもちろん、自分を拘束しようとする黒スーツ達をひたすらボコボコにした。
高い身長の上に手足が長いアドルフだ。そこから放たれる蹴り技は筋肉質な大男の集団を凄まじい速度で血祭りに上げていった。
「半殺しにされた人数は空港で12人、ホテルで3人、全部で15人だ。これではどうやっても体術が苦手だとは言えまい」
千冬の口にした内容に他の全員が絶句する。
そしてその時、モニターに映る戦闘に変化が訪れた。
* * * * * * * * * * * * *
Side アドルフ
ハイパーセンサーによって全方位に向けられた視界の中を青色のレーザーが絶えず飛び交う中、オレは回避と防御を続けながら思考を回し続ける。
眼前のビットから放たれたレーザーが右側面の別のビットに着弾し、背面のミラーによって弾道が屈折する。
だが、それだけでは終わらず、レーザーはオレのすぐ傍を通過。その先にあった別のビットに着弾して再び屈折、最初とは正反対の背後から攻撃が迫る。
オレは攻撃と背中と間に左腕のシールドを割り込ませてレーザーを防ぎ、両背中のミサイルをオルコットへ発射してすぐに加速。ビットの包囲網から抜け出す。
だが、オルコットへと迫った6発のミサイルはビットを通して複雑に乱反射したレーザーにあっという間に撃ち落され、ビットが即座にアドルフを包囲する。
それぞれのビットからレーザーが放たれるが、オレは加速しながらシールドを構えて右へとローリング。前方と背後から放たれたレーザーを回避する。
そして後ろへ振り向きながら右手のガルムをオルコットに向ける。対するオルコットも、手に持つライフルをオレと向けている。だが、互いにトリガーは引かない。
銃口を向け合ったまま睨み合うオレとオルコットの距離は約100メートル。試合開始から彼此30分以上撃ち合っているが、オレが縮められた距離はこの100メートルだけ。
「輝装を纏った私を相手に此処まで耐えるとは……褒めて差し上げますわ。ですが、既に実感したでしょう。超えることも叶わない力の差を」
「そんなものは最初から理解していると言ったろう。オレが知りたかったのは、お前の力の詳細だ。この30分を耐えたおかげで、情報は充分得られた」
オレの言葉にオルコットはピクリと反応し、銃口が僅かにブレる。
「そのイギリス製のBT兵器だが、どうにも移動や攻撃の度に命令を送らなきゃ動かんらしいな。さっきから“連続射撃”はあるが“同時射撃”が一度も無い。ビットは1基ずつしか撃てない上に、ライフルも意識の大半を制御に回してるせいで使えない」
すらすらと続く発言により、オルコットの顔が険しくなる。
今何も言わずに黙り込むのは無言の肯定に等しいが、正しい答えを的確に述べられた動揺から言い返す言葉が見つからないらしい。
その沈黙と様子から、オレの推察が間違っていないと確信するが、実はこの時点でもう1つ見抜いていることがあった。
このビットは放たれたレーザーを起点に背面のミラーによって連続かつ複雑に軌道を変え、あらゆる方向から攻撃を仕掛けてくる。だが、この攻撃にはある法則性が潜んでいる。
「レーザーを屈折させて攻撃の軌道を複雑に変えているようだが、この攻撃は基本的に
その言葉に、オルコットの顔が今度こそ驚愕に染まった。
ISはハイパーセンサーによってほぼ全方位を視界に接続出来る。
だが、それは操縦者である人間が常時、全方位を見ているわけではない。真上、真下はもちろん、後方などの“普段の死角”を情報として脳で処理しているだけだ。
そして、オルコットのビットによる射撃は、脳が情報を処理するためのコンマ数秒を要するその“普段の死角”を的確に狙っている。
つまりこのビットは、オレの視線や動作によって攻撃の位置を誘導できる。
それなら後は簡単だ。どれだけ屈折を繰り返して弾道を複雑にしようが、着弾点さえ分かってしまえば回避も防御も出来る。
「正直、驚きましたわ。この短時間で私の輝装と《ブルー・ティアーズ》の特性を見抜くとは……ですが……!」
オルコットとオレのトリガーが同時に引かれ、互いの射撃が交差する。
しかし、オレが狙うのはオルコット自身ではなく、その手に握られたライフルの銃身。輝装を纏っているので傷つけることは出来ない。
しかし、強靭な鎧を纏っても衝撃まで完全に殺すことは出来ない。
着弾の反動によってライフルの銃身が僅かに反れ、弾道がオレから外れた瞬間に加速。チャンスを逃さずオルコットへと距離を詰める。
「一度に撃てるレーザーが一発“だけ”とは限りませんわよ!」
オルコットのライフルの銃身に追加された装甲が発光し、銃口に一段と強い青い光が収束する。
瞬間、銃口から“4条の”青い光が放たれ、その全てがオレへと迫る。咄嗟にシールドを構えて体を捻ったので回避出来たが、通り過ぎたレーザーは全てビットによって屈折する。
(拡散攻撃によって同時射撃を可能にしたか……だが……っ!)
軽い急上昇に続いて急加速を行い、前方を螺旋回転するように突っ込んでレーザーを避ける。何発か僅かに掠ったせいでシールドエネルギーが減るが、直撃よりはマシだ。
「狙いが雑になったな……これなら多少の被弾を覚悟して突っ込めば問題無い」
「いえ、これで仕留められないのは分かっていました。ですが……無理な回避を行えば体勢は大きく崩れるものですわ」
そう言ったオルコットの顔は焦りや狼狽などではなく、してやった、という感じの笑顔だ。それを目にした瞬間、背筋に寒気が走る。
オルコットの腰部から広がるスカート状のアーマー。その突起が外れ、本来の役割を与えられたことで動き出した。
「おあいにく様、この《ブルー・ティアーズ》は
その正体は5番、6番目のビット。それには先程のような射撃用の機構は見当たらず、撃ち出されたのはレーザーではなく、ミサイルだった。
互いの距離はおよそ20メートル。回避しようとしても逃げ切れない。直撃すればシールドエネルギーを根こそぎ持っていかれるだろう。
だが、それに対してオレは……
「
……ニヤリと笑みを浮かべながら、左手に持っていた大型シールドを投げ付けた。
「え?…………ちょっ……!」
瞳に映る光景に一瞬呆然となり、オルコットの顔が認識と共に青褪める。
オルコットの腰からは既にミサイルが発射されており、オレの投げ付けたシールドはその目の前にある。突然発生した障害物をミサイルが避けられるはずもない。
「オレの攻撃が効かなくても、
直後、ミサイルの弾頭がシールドに衝突し、大爆発が起こった。
至近距離にいたオルコットは当然飲み込まれ、その全身は黒煙に包まれて見えなくなる。
だが、オレは構わず6発のミサイルを発射。ガルムを連射しながら黒煙に突っ込む。
すると、黒煙の中から拡散した青色のレーザーが飛び出し、ミサイルを全て迎撃した。思ったとおりオルコットは健在のようだ。
よく見ると、先程まで傷1つ無かった装甲には爆発のダメージが刻まれており、所々に亀裂や火花が走っている。
「やってくれましたわね!!」
しかもかなりお怒りのようで、スコープ越しに見るオレを睨んでいる。
だが、此処はオレの距離だ。
「ふっ……!」
右足を後ろに軽く引き、反動を付けて前方へと蹴り上げる。狙うのは、オルコットが狙いを定めるライフルの重心。
バァン!! という衝突音が響き、オルコットのライフルの銃口が真上に跳ね上がる。
だが、銃身には相変わらず傷一つ付かず、蹴りを打ち込んだオレの右脚の方が痛みを訴えてくる。チラリと目を向けてみると、脚部に取り付けた追加装甲に小さな皹が見えた。
(打ち込んだコッチの装甲が悲鳴を上げるとはな……文字通り、次元が違うわけだ)
だが、そんなことはとっくに分かりきっている。
蹴り上げた右足をそのまま振り下ろしてオルコットの左肩を踵落としで叩き、引き戻した右足と入れ替えるように放たれた左足のハイキックが右脇腹に叩き込まれる。
PICによって浮遊している今の状態は、常に空中に足を付けているようなもの。ならば、生身で蹴りを放つ時と要領は同じだ。
記憶を失ってから今に至るまで、この蹴り技はオレの身を護る為の主武装だ。故に、生半可な鍛え方はしていない。コレに関してはかなりの自信がある。
「ぐっ!……無駄だと……分からないのですか……っ!」
「お前こそいい加減に覚えろ。ただ理解するだけでは、オレは止まらん」
蹴り穿つように真っ直ぐ放つ右足の蹴りに対し、オルコットは手に持ったライフルを盾にして受け止めた。この超至近距離においてスナイパーライフルなど、使い物にならない。
ビットによるレーザー攻撃も、こんな状態では制御どころではない。ミサイルもこの至近距離で撃てば先程の二の舞だろう。
だがオレの打ち込む蹴りは実際はオルコットにダメージを与えられず、脚部の追加装甲は打ち込むたびに亀裂が入る。オレの体にもシールドエネルギーを貫通した衝撃によって痛みが走る。
右足、左足、体を捻って再び右足と、絶え間無く連続で蹴りを打ち込む。返ってくる手応えは何れも鋼を叩く弾かれた手応え。まるで城壁が目の前にあるようだ。
本音を言えば、さっきのミサイルの爆発で沈んでもらうのがオレの賭けだった。だが、もう同じ手は通じず、こちらの攻撃も届かない。
もうオレの勝機は微塵も残っていないだろう。
だが、止まらない。それこそ無駄で終わってしまう。
真下から上へと突き上げるように放った左足の蹴りでオルコットのライフルを強引に上へズラし、がら空きになった胴体へ右の回し蹴りを打ち込む。
だが、やはりダメージは与えられず、オルコットの体はビクともしない。脚部の追加装甲も既にボロボロと化しており、もはや有って無いような壊れ具合だ。
ならば頭にぶち込めばどうだ。
そう考えて右足を引き戻すが、突然全身を支えていた浮力が消失し、真下へ落下する。視線を走らせると、右側の多方向推進翼が1枚レーザーに撃ち抜かれている。
恐らく、1機だけに制御を絞ったビットに撃ち抜かれたのだ。
(くそっ! ……こんな時につまらんミスを……!)
己の失態を悔いながらどうにか機体を立て直そうとするが、右側のスラスター制御が完全に死んでしまったらしく、落下を止めることすら出来ない。
「どうやら決着のようですわね。しかし、この私に土を着けたのは事実。その実力を評価して、私の最大火力で沈めて差し上げますわ」
地に落ちていくオレを見下ろしながらライフルを構えるオルコットの下に4つのビットが全て集まり、ライフルの銃口に重なる。ビットはそのまま筒を作るように回転を始め、銃口の先端に青い光が収束する。
トリガーが引かれると、発射された拡散レーザーは銃口を覆っていたビットのミラーによって強制的に中央へと集まり、1本の巨大なレーザーとなった。
視界を覆うように迫る青い光の柱。直撃すればオレのシールドエネルギーは完全に底を付き、消え去ることだろう。
だが逃げようとしても、機体は思うように空を飛べない。
負ける。
初めから勝機などほとんど無かったからか、頭の中で冷静にその事実を認識する。
だが、このまま終わるのは納得出来ない。勝ち目が薄くても、それは決して負けても良い理由にはならないのだから。
では、どうすればいいか。
いや、考えるまでもない。答え自体は最初から出ている。試合を開始した時点で段階が違うのだから、オレも
それは決意。それは覚悟。それは、
オレはどう在りたくて、どうなりたいのか。それを曝け出すことだ。
そう考えた時、脳裏を横切ったのはフラッシュバックで散々目にした地獄の炎。あの炎に文字通り全てを焼き尽くされ、オレという存在は一度死に、“今の”オレが始まった。
真っ白になったオレは世界に対してひたすらに足掻いた。もう失うのは、奪われるのは、いやだった。目覚めたら何もかも失っていたあの時の虚無感をまた味わうなど死んでもごめんだった。
だから、空っぽでも進んでみようと思った。
どうせ、後ろには何も無いのだ。ならば、前に進んで真っ白の自分を少しでも良い色に変えてみたい……変わりたいと思った。
それが……それこそが、オレの……
無意識の内に左胸に、心臓に力が集中していく。そこへ螺旋を描くように流れていく不可視の力の本流に、オレの意思が混ざり込む。
視界が眩い光と共に一変し、目の前に
明確な影や形は無い。だが、確かにそこに在ると断言出来る2つの扉。
それは縦一列に並んでおり、目の前にある扉からは懐かしさや誇らしさ、他にも安心感などの正の感情を感じた。逆にその先の扉からは憎悪、醜悪、軽蔑などの負の感情を感じる。
いや、ハッキリ言おう。2枚目の扉には正直触れたくなかった。触れられないわけではないが、オレの心が激しい嫌悪感を訴えてくる。
しかし、どちらの扉も凄まじい威圧感を放っており、強い意志の力を感じた。
オレは迷わず手を伸ばし、目の前にある扉を開こうと前へ……
『待ちたまえ』
……進もうとした瞬間、その“声”が聞こえた。
オレの中に響くその声は、何故か強く意識を掻き乱し、不快感を与え、扉の先へと進もうとした意思を完全に封殺する。何だコレは、何故ただの声に此処までの威圧感が宿る。
『素晴らしい。一度目の覚醒で輝装だけでなく、次なる段階への扉まで見出すとは。単純な才覚も劣らぬが、精神性においては“彼”を上回っている。遺伝というのは恐ろしくもあり、また素晴らしくもあるな』
まるでこちらを値踏みしているような言葉は、オレに向けられているのか一人で語っているのか分からない。
徐々に薄れていくオレの意識を他所に、“声”は続く。
『最初は黙して見ているつもりだった。君ならば間違い無く輝装に至れると確信……いや、信じていた、と言っておこう。だが、コレを見せられては話は別だ。確かに君ならば覚醒と共に輝装を手にし、次なる段階に至れるかもしれない』
卑下と賞賛が交じり合ったような口調の言葉は後半に連れて期待を帯びたようになった。だが、ノイズまみれで消える寸前のオレの意識はその内容のほとんどを聞き取れない。
『らしくないと自覚はしているのだがね。さらにその先へ至るには、その『器』では少々心許ない。やはり、然るべき才覚を持つ者には然るべき刃が必要だろう。逆もまた然りだ。その限界を超えてこそ、とも思うが、此処は確実な方法を取ろう』
もうダメだ。まったく聞こえない。
数ミリくらいしか開かない瞼のせいで視界には暗闇しか見えず、音に関しては言わずもがな。グチャグチャになった意識がそれを認識出来ない。
『心配することは無い。君は近い内に、相応しい力を秘めた『器』を見つける。その為に、この敗北を受け入れてくれ。大丈夫だとも。君ならば
そこまで言うと、今日は此処で仕舞いだ、と告げるようにオレの意識は暗闇の中から強制的に追い出されていく。
暗闇の中を追い出され、光を取り戻したオレの視界に映ったのは、視界を覆う青い光柱。
「…………クソが」
何故か口にしたそんな言葉を最後に、オレの意識は全身を襲う衝撃と共に途絶えた。
ご覧いただきありがとうございます。
オリ主の輝装展開を期待していた方がいたらごめんなさい。まだ出せませんでした。
今回はオリ主が必死に足掻き、ノーマルでもやれることはあるんだぜ、ということをアピールしてもらいました。
あと、分かる人には分かるオリ主の異常な初期ステータスを。
最後に聞こえた“声”の正体。これも分かる人には分かりますよね。というか、自分で書いておいて何だけど、あの人生まれ変わってもこんなことしなさそうだな。
次回は一夏の番です。こっちの戦闘は多分1話、長くても2話で終わると思います。
では、また次回。