IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ   作:月光花

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竜羽様、十一魂様、神隠しの主犯様から感想をいただきました。ありがとうございます。

今回は一夏VSセシリア。

思いのほか長くなりました。

では、どうぞ。


第6話 それでも、前へ……

  Side 一夏

 

 「織斑、そろそろ時間だ。準備はいいか」

 

「大丈夫です。いつでも行けます」

 

管制室から届いた千冬姉の通信に答え、俺は深く深呼吸をした。

 

アリーナの内部を移すモニターには、すでに上空で待機しているセシリアの姿が映っている。アドルフとの試合が終わってから30分の休憩を取ったので、その顔に疲労の色はあまり見られない。

 

アドルフをほとんど一方的に追い詰めた輝装はすでに展開されている。

 

続いて、俺は自身が身に纏うIS……機体名『 白式(びゃくしき)』を見下ろした。

 

アドルフの試合途中にピットに届けられ、少しでも時間を有効に使え、という千冬姉の指示で30分近く前から既に装着している。

 

機体の外見なのだが、これはもう“寂しい”と言うしか無い。

 

機体色は何者も汚すことを許さない無機質な白で統一され、装甲には特に目立った場所が無い。いかにも初期状態の機体、という感じである。

 

「大丈夫か、一夏。試合前だからと変に緊張するなよ」

 

ふと、すぐ傍で俺を見上げる箒が声を掛けてきた。どうやら、黙って周りを見ていたのが緊張していると思えたらしい。

 

「いや、緊張とかは無いんだ。むしろ、心も体も普段よりずっと落ち着いてる。アドルフのおかげだよ」

 

そう答えると、箒は眉を顰めて腕を組み、見るからに不機嫌な状態になった。

 

おいおい、嫌ってるのはもう分かってるけど、名前が出ただけでこれかよ。

 

「何故あの男の名前が出てくる。あんな無様な負け方をしたというのに」

 

「無様? お前、あの試合がそんな風に見えたのか?」

 

「違うと言うなら、見苦しい、だな。最後の蹴りの連撃は特にだ。通じないと分かっていてあそこまで足掻く意味が分からん」

 

何の迷いも無く。箒は腕を組んだままそう答えてきた。

 

確かに、アドルフは先程の試合でセシリアに負けた。

 

空中で身動きが取れなくなって、セシリアの撃ったでっかいレーザーに飲み込まれた。

 

だけど、地上に落ちたアドルフはISを装着したまま気を失っていて、現在は学園の保健室に運ばれている。千冬姉が言うには、外傷は一切無いらしいけど。

 

「そうか? ……少なくとも俺は、すごいって思えたぞ。それに、アイツのおかげで色々分かって、色々と決心もついたしな」

 

それだけ答えて、俺は身を翻してカタパルトへ向かう。

 

後ろで箒が何か言ったのをハイパーセンサーで理解出来たけど、あえて振り返らなかった。内容は大体想像が付くし、すぐに答えることになる。

 

カタパルトに両足を固定し、体を前屈みに倒して力を溜める。

 

「織斑一夏……『白式』、行きます!」

 

足元に溜められていた加速が一気に開放され、全身が加速を感じた。

 

ほぼ一瞬でピットから飛び出し、俺は上空で待つセシリアと同じ高さまで上昇する。

 

アドルフの時と同じように待ち構えていたセシリアは、俺と対峙して口を開いた。

 

「それがアナタの専用機ですか……見た所武器が無いようですが、まさか無手で私と戦うおつもりですの?」

 

「いや、武器はある。でも残念ながら……」

 

右手を振るって武装を 呼び出し(コール)すると、粒子変換によって出現したのは2メートル程の片刃の刀。

 

「……持ち前の武器はこれだけなんだよ」

 

俺自身驚かされたが、この白式に搭載されている武装は本当にこれだけなのだ。

 

その事実に、セシリアの眉がピクピクと不機嫌そうに震えた。まあ、ちゃんとした武装を用意して戦ったアドルフの次がこれじゃあ不満に思うのも仕方ない。

 

「先程の試合はアナタも見ていたはず。それでも戦いますの? 先に言っておきますが、私はもうあのようなミスは起こしませんわ」

 

手に持ったライフルを両手で持ち、いつでも発射出来るようにセーフティーが解除される。

 

「だろうな……でも、それでもだ……俺は戦うよ。けど、その前に俺、お前のことを少し誤解してたみたいだ」

 

「……どういう意味ですの?」

 

「俺、今日までお前のことを“必死に努力すれば勝てるかもしれない相手”って思ってた。だけど、さっきの試合を見て、先生達から殲機や輝装のことを聞いて、お前が“普通の努力を重ねた程度じゃ勝てない相手”だって分かった。知らなかったとはいえ、相手の実力を甘く見ていたんだ」

 

アドルフの試合を見て、輝装を扱える人間の強さがどれだけ秀でているかを思い知らされた。同時に、自分の考えがどれだけ甘かったのかを痛感した。

 

必死に努力すれば何とかなる、などと考えていた自分が恥ずかしく思えたが、同時に冷水をぶっかけられたように気持ちが落ち着きを取り戻した。

 

何とかなる筈が無い。重ねた努力やISの搭乗時間などよりも大きく、セシリアには輝装が……嘘偽り無き確かな覚悟があったのだから。

 

「アドルフのおかげで色んなことが分かって、色んなことに気付けた。お前がどれだけ強いのかってことも、このままじゃ勝てないのも……どうしたら勝てるのかっていうのも」

 

輝装を扱えない俺ではどうやってもセシリアには勝てない。そう、 今の(・・)俺では。

 

ならば、どうすればいいのか。

 

その答えは簡単だ。必要な条件は、さっきの試合を見て全部分かってる。

 

問題が有るとすれば、それは俺だ。俺のどう在りたくて、どうなりたいのかという決意。それを曝け出せるかどうかだ。

 

自分自身の心の中に問いかける。

 

 

お前()はどう在りたい?』

 

 

その問いに対して思い浮かんだのは、たった一人の家族である姉の姿。

 

俺は小さい時からあの強い背中に護られ、同時に追いかけていた。また同時に、それはとても難しくて、追い着くどころかその背中は遠くなる一方だった。

 

でも、気持ちは今も変わらない。

 

俺はあの背中に追いついて、並んで……千冬姉を護れるようになりたい。

 

 

(お前)はどうなりたい?』

 

 

強くなりたい。

 

走る為に……勝つ為に……追いつく為に……そして何より護る為に。

 

千冬姉だけじゃない。友達や仲間を、護りたいと思う全てを護る為に強くなりたい。

 

 

『弱い お前()に出来ると思うのか?』

 

 

自問自答には良い結果だけが訪れるわけではない。当然否定的な疑問も出てくる。

 

しかし、その疑問の前に俺の意思が揺らぐことは無い。

 

「そうだよな……」

 

だって、そうだろう。特撮ヒーローの主人公も言ってたじゃねぇか。

 

「弱くても、運が悪くても 、何も知らなくても、何もやらないことの言い訳にはならねぇんだからなぁ!!」

 

叫んだ、瞬間。

 

カチン。

 

俺の中で何かの歯車が噛み合い、何かが動き始めた。

 

『起動準備完了』

 

『白式』の内部から……正確には心臓の部分から硬質で無機的な 機械音声(システムボイス)が発せられ、俺は導かれるようにその言葉を口にした。

 

起動(ジェネレイト)!」

 

その瞬間、心臓の部分から凄まじいエネルギーが解き放たれ、目に映る景色の全てが置き去りにされたように停滞する。

 

そして、俺の心の中に、俺自身を映し出す扉が現れた。

 

明確な影も形も無い扉だ。しかし、俺は確かにその扉を認識出来る。

 

迷い無く手を伸ばし、俺はその扉を 内側(・・)に押し開く。

 

『認証──汝が 希求(エゴ)を問う』

 

“声”が響く。開かれた扉の向こうに見えるのは、紛れも無い俺自身の姿。

 

「我、下天の道より強者の高みを目指すものなり。

この身が護りしは暖かな絆。この手が否定せしは冷たき絶望」

 

今まで普通に暮らしてきた俺が目指すのは、高く遠い道の先に立つ、あの強い背中。

 

そして、護りたいと願うのは俺の大切な絆。立ち向かうのはそれを侵す脅威。

 

自然と口にする言葉と共に解き放たれるエネルギーは強さを増し、素粒子の乱流となって俺を外界から遮断する。

 

「掲げるは不屈。懸けるは全て。

彼方の未来に至るを願い、暗き闇を断ち切らん」

 

簡単ではないだろう。挫けそうになることの方が多いだろう。

 

順調に進めるわけじゃない。1つの壁を越えるのに何十年も掛かるかもしれない。

 

だが、折れない。諦めない。

 

この身の全てを懸けて、俺は先へと進んでみせる。

 

「我は諦観を踏破せし(つるぎ)なり!」

 

だから寄越せ……目の前の壁を叩き斬る 俺だけの(・・・・)刃を!

 

『受諾──素粒子生成』

 

機械音声(システムボイス)の返答と共に、閃光が炸裂した。

 

輝装(きそう)展開開始』

 

耳に優しげな高周波音が届き、光の中で『白式』の姿が凄まじい速度で変化していく。やがて、全方位に放たれていた光は粒子へと変わり、俺の全身を隙間無く包み込む。

 

心装(しんそう)

 

その言葉を静かに口にすると共に、変化が起こる。

 

機体の装甲から工業的な凹凸が消え去り、表面が滑らかでシャープなデザインになる。

 

機体の装甲色が『純白』から『白』へと変わり、所々に青色のラインが走る。浮いているだけに感じた背部ユニットは大きさを増し、金色の推進ユニットを内部に備えたウイングスラスターへと変貌を遂げる。

 

そして、右手に握られたブレードが一際強い輝きを放ち、虚空を一閃すると共に生まれ変わった姿を現す。

 

2メートルに届く白色の刀身が反りのある太刀に近付き、長刀の姿をしている。続いて現れた白塗りの鞘は 非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に固定される。

 

今此処に、俺の決意は完成を成す。

 

 

「輝装・ 斬魔不撓(レイジング・ベルセルク)!」

 

 

右手に握る武装からズシリとした重さを感じ、俺の頭の中に輝装がもたらす『力』の情報が流れ込んでくる。

 

俺だけの武装──殲機の名称は《 雪片(ゆきひら)》。

 

「まさか……ありえませんわ! ISに乗って数分足らずで輝装に至るなど……!」

 

「アドルフの試合中もISに乗ってたんで実際は一時間くらいなんだが……まぁ、ようやくこれでこの機体は 俺専用(・・・)になったわけだ」

 

雪片を正眼に構え、左右のウイングスラスターが大きく広がる。

 

それに対し、セシリアは無理矢理動揺を払うようにライフルを構え、銃口の先端に青色のエネルギー光が点る。

 

「勝負と行こうぜ……セシリア・オルコット!」

 

「いいでしょう……その自惚れ、撃ち砕いて差し上げますわ! 織斑一夏!」

 

宣戦と共に動き出し、2つの決意がアリーナの上空にて激突した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side アドルフ

 

 何処からか流れ込んだ風に前髪を揺らされ、オレはゆっくりと瞼を開けた。

 

「知らん天井だ」

 

何処かお約束のような台詞を呟き、周辺に視線を巡らせる。

 

「……起きた?」

 

ふと、自分に語りかけてきた声に反応し、視線が下方に向く。

 

そこには、椅子に座りながら少々不安そうな顔をしている更識がいた。

 

室内に他の人間の気配は無く、壁際に映し出されたスクリーンの音がよく聞こえる。

 

「ここは……」

 

「IS学園の保健室……試合中に気絶して、運ばれたの。覚えてる?」

 

更識にそう言われて記憶を巡らさせてみると、頭の中を横切ったのはオルコットとの対決と、視界を覆い尽くす青い光。

 

だが、アレに飲み込まれる寸前、何かが起こったような……

 

「っ……!」

 

思い出そうとして、返ってきたのは鈍い頭痛だった。まるで、思い出すなと本能にはじき返されるように。

 

時折やってくるフラッシュバックの頭痛とは明らかに違う痛みだが、正直言ってこれ以上頭痛の元が増えるのは勘弁願う。

 

頭を軽く横に振るって頭痛を振り払い、体を起こして更識と向き合う。

 

目が覚めた時に誰かが傍にいるなど、一体何年ぶりのことだろうか。

 

「更識はどうしてここに?」

 

「ISを装備してたのに気絶するなんて、普通は無いから……心配に、なって……」

 

後半に連れて更識の声が小さくなり、顔が俯いていく。僅かだが、頬も赤い。

 

どうやら、本当に心配してくれたらしい。経験上だが、こういう時は詫びるのではなく、礼を言うべきだろう。

 

「ありがとうな、更識」

 

「ル、ルームメイトだから……当然の、こと……」

 

そうか、と視線を逸らした更識に答え、オレの視線は壁際のモニターに映る。

 

そこには、オレの試合の時と同様に輝装を纏ったオルコットと、明らかに量産機とは違った外見のISに乗る織斑の姿があった。

 

しかも、その手に握られている意匠の施された長刀や力強い波動を感じさせる装甲。あれはもしかして……

 

「殲機……アレが織斑の輝装か。というか、この短時間で輝装に届いたのか」

 

「うん……正直、異常としか言い様が無いレベル」

 

オレの呟きに答えた更識の声には僅かな敵意が宿っていたが、言ってることは間違っていない。輝装の到達に平均時間があるわけでは無いだろうが、こんなに早く出来ることではないだろう。

 

「見たところ武装は近接ブレード一本か……」

 

「多分、何か特殊な機能が有るんだと思う……それに、機体スペックもさっきまでとは格段に違うはず」

 

「機体面では、ほぼ対等の状況になったわけか。あとは操縦者次第だな……」

 

そこで会話は途切れ、オレと更識の意識はモニターの中の試合に集中した。

 

だが、本当のことを言えば、オレは試合よりも更識がモニターの中に向ける複雑な視線の正体の方が気になっていた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 動き出したのは、ほぼ同時だった。

 

セシリアの人差し指が絞られ、青色のレーザーが放たれる。対する一夏の武装はその手に握る長刀のみ。よって、出来ることは限られてしまう。

 

「はっ……!」

 

気合と共に雪片を一閃。

 

『点』で迫る攻撃を『線』の攻撃で迎え撃ち、雪片の刀身が青いレーザーに触れた。すると、レーザーは容易く両断され、青色の粒子となって霧散する。

 

しかも、それだけではない。霧散した粒子が雪片の刀身に吸い寄せられるように集まり、淡く小さな光を纏っていく。

 

セシリアには驚愕、一夏には己の力を確認した微笑が浮かぶ。

 

「エネルギーの無効化……いえ、違いますわね。刀身に触れたエネルギーを霧散化させて切断、そのまま己の糧として吸収する能力ですか」

 

口にしながら、セシリアは何とデタラメな能力だろうかと舌を巻いた。

 

同時に、嫌な汗を流しながらマズイと思った。アレは自分の輝装と相性が決して良くない。

 

光学兵器を文字通り斬り裂き、指向性の無い無秩序なエネルギーをそのまま取り込む 霧散化吸収能力(ミストアブソーブ)

 

適当なエネルギー研究の科学者を連れてくれば、涎が垂れるほど歓喜することだろう。

 

恐らく、アレはISのシールドエネルギーにも干渉出来るはず。シールドエネルギーを霧散化されれば最悪、絶対防御が作動して一撃で撃墜されてしまう。

 

「くっ・・・・・!」

 

気を引き締めると共に始める射撃の 円舞曲(ワルツ)。だが、本来の姿となった『白式』は先程とは比べ物にならない程の機動力を発揮し、降り注ぐ射撃の全てを回避する。

 

「なんて速さ・・・・・!」

 

必死に敵を照準に捉え、引き金を引くセシリア。その顔にはもう余裕の色はない。

 

だが、この変化はセシリアにとって驚きではあるが、動揺は無かった。

 

セシリア自身も知っていることだが、輝装展開によって起こる現象は強力な武装や機能の追加だけではない。

 

搭乗者の五感を元にした感知能力、対応の為に動く肉体の神経伝達速度など……様々な能力がそれ以前の状態よりも強化・上昇されているのだ。

 

そして、本人は自覚していないが、織斑一夏という存在に秘められた凄まじい才覚が加わることで、振るわれる斬撃の鋭さは並みの速度域を逸脱する。

 

その変化を色濃く理解しているセシリアは後退を続けながら4基のビットを射出。アドルフを一方的に追い詰めた多方向からの反射攻撃が一夏を襲う。

 

しかし、あらゆる方向から襲う射撃に対して一夏は速度を緩めずに上下左右と縦横無尽に、射撃と射撃の間を縫うように飛翔する。

 

「そっちか・・・・・!」

 

右斜め上から放たれた射撃を軽い急上昇で回避し、一夏は射撃が来た反対方向……左後方へと左手に持ち替えた雪片を左薙ぎに一閃。

 

刀を振るった方向に一夏は目を向けず、左手に伝わった金属を両断する手応えから命中を確信する。ほんの1秒後、その方向から1つの爆発が起こる。

 

爆発したのは、セシリアが射出したビットの内の1つ。

 

「くっ! やはり……!」

 

ビットを利用した射撃に潜む法則性。

 

それは先程の試合でアドルフが指摘している。試合の状況を最初から最後まで見ていた一夏がそれを利用しないわけはない。

 

現在、セシリアの複雑極まる射撃を回避出来るのは、アドルフが指摘した情報によるところが大きい。事前情報無しで容易に対処出来る攻撃ではないのだ。

 

「しかし、それだけで……!」

 

だが、それで全ての攻撃が避けられるわけでもない。

 

一夏がセシリアの射撃の法則性を知っていると同時に、セシリアにも一夏がアドルフと同じ動きをすると分かっている。

 

 

そして何より、代表候補生が その程度で(・・・・・)無力化されるわけがない。

 

 

ライフルから一発のレーザーが放たれ、2基のビットの背面ミラーを通して一夏の頭上から迫る。それを察知した一夏は急速後退で弾道から逃れる。

 

だが、その回避先を読んでいたセシリアのライフルが第2射を放つ。ロックオン警報と発砲音、そしてハイパーセンサーによって捉えた姿に反応し、一夏は反射的に動いた。

 

しかし、次の瞬間に『白式』の左腕に衝撃が走り、シールドエネルギーが確かに減少した。

 

言うまでも無く、『白式』の左腕にダメージを与えたのはセシリアのレーザー。だが、一夏が思考を巡らせた内容はそちらではなく……

 

(死角を狙わなかった……? しかも、反射の中に直線の攻撃を混ぜてきた……)

 

セシリアの考えたことは至極単純だ。

 

一夏が反射攻撃に対してアドルフの指摘した通りに警戒と回避を行うなら、それをさらに逆手に取って“回避先を誘導すればいい”。

 

つまり、一夏は射撃の着弾点を予測出来るが、セシリアはその回避先を予測出来るのだ。

 

それに加え、先程と違って反射射撃の中には直線の射撃も混ざっている。そこまで大きな変化は無いだろうが、弾道の予測がさらに難しくなった。

 

だが、一夏の取れる手段は回避だけではない。右手に握る 雪片(彼だけの刃)が決してそれを容認しない。

 

「ふっ……!」

 

振るわれた雪片が虚空を薙ぎ、一夏に迫っていたレーザーが霧散。漂うエネルギーの残滓が刀身に吸い込まれていく。

 

結局のところ、一夏とセシリアの攻防は“どれだけ敵の行動を先読み出来るか”によって優劣を決することになるのだ。

 

一夏とセシリアの視線が数秒交わり、白式のウイングスラスターとブルー・ティアーズのビットが一際強い駆動音を響かせる。

 

「「……ッ!!」」

 

再び同時に動き出し、青色の光弾が降り注ぐ空を白式が凄まじい速度で飛翔する。

 

レーザーの檻を飛び出そうと加速し、雪片を振るい、一夏はセシリアの喉元に迫ろうと確実に距離を詰めていく。

 

しかし、セシリアとて何もしていないわけではない。『白式』の速度の前に直撃こそ出来ないが、雪片の刀身が届かぬ角度から確実にレーザーを掠らせている。

 

だが、この削り合いに勝利したのは、一夏だった。

 

「ここだ……!」

 

軌道を考えない強引な加速でレーザーの包囲網を食い破り、一気にセシリアへ肉迫する。

 

ビットの攻撃を振り切ったことで飛行の軌道は直進となり、接近する速度は上昇する。

 

「何か忘れていませんこと……?」

 

だが、セシリアは慌てることなく一夏に照準を合わせ、微笑を浮かべる。

 

『ブルー・ティアーズ』の腰部から広がるスカート状のアーマーが稼動し、ミサイルの弾頭が『白式』へと向けられる。

 

ブルーティアーズ(コレ)は4機だけではありませんのよ!」

 

2発のミサイルが噴射煙の尾を描きながら『白式』へと迫る。

 

当然それは一夏も予想していた。

 

だが、引くわけにはいかない。後退しても勝機などないのだから。

 

「分かってんだよぉ!!」

 

ウイングスラスターの展開に続き、決断と共にさらに加速。放たれたミサイルを瞬間的に凌駕する速度で突撃し、雪片を振るった。

 

その斬撃は2つのミサイルを横半分に綺麗に両断し、爆発の衝撃を歯を食いしばって耐えながら、一夏は速度を殺さずにセシリアへと迫る。

 

(届くか……!)

 

一瞬、己の勝利を前にしたような達成感が一夏の脳裏を掠める。

 

しかし、直後に一夏の視界に映ったのは、それを一時の淡い希望だと言うように迫る青い光の壁……否、自分へと伸びて迫る光の柱だった。

 

その正体は、アドルフにトドメを差した攻撃。拡散射撃をビットの反射機能を利用し、破壊力を一点に集めた集束射撃だ。

 

しかも、注ぎ込まれる出力はアドルフの時よりもさらに上だ。

 

「あなたの能力は確かに厄介ですわ……しかし、一瞬で霧散化出来ない出力の攻撃ならばどうですか!」

 

ライフルの銃身に追加された装甲が発光する。光を放つソレは、セシリアの意思に呼応して力を増した素粒子の輝き。

 

IS1機をまるごと飲み込む青い光柱がさらに太くなり、『白式』へと迫る。

 

もはや回避の間に合う距離ではない。直撃すれば間違いなく負ける。

 

だが……それでも……

 

 

「退かねぇ!!」

 

 

……前へ踏み出し、雪片を唐竹に振り下ろした。

 

そして、雪片の刀身がセシリアの放ったレーザーと衝突し、『白式』の装甲を通して一夏の両腕に凄まじい衝撃が襲い掛かる。

 

「ぐっ……!」

 

その衝撃によって振り下ろした長刀は押し返され、『白式』の加速も徐々に小さくなっていく。

 

霧散化による切断能力も確かに発動しているが、このままではセシリアの思惑通り、無効化よりも先に攻撃に飲み込まれてしまう。

 

勝利を確信したセシリアが微笑を浮かべる。

 

だが、その笑みを否定するかのように、視界の中で小さな光が灯る。

 

『白式』の手に握られた雪片の刀身が力強い青色の輝きを放つ。

 

すると、押し負けていた雪片の刀身が前へと進み、光を切り開いていく。

 

「そんな……まさか……!」

 

驚愕によってセシリアの瞳が大きく見開かれる。

 

ありえない。織斑一夏の持つ能力は最大出力において自分を上回っているのか。

 

そんな考えが脳裏を横切った時、セシリアは妙な違和感を感じた。

 

雪片と激突したレーザーの出力が、先程までとは比べ物にならない速度で減衰していく。斬り裂かれているというより、何かに打ち消されているようだ。

 

違う。これは違う。

 

これは霧散化によるものではない。もっと別の……

 

「霧散化と吸収だけではない……? いえ、これは……」

 

──まさか……!

 

セシリアの言ったことは間違っていない。

 

霧散化吸収能力(ミストアブソーブ)は確かに一夏の輝装が持つ能力だ。

 

しかしながら、この能力には……まだ、()がある。

 

殲機の出力を高めることで昇華を果たし、真価を発揮した力の正体は……

 

「エネルギーの、対消滅機能……!」

 

吸収という過程を放棄し、霧散化の能力を昇華させた能力。それはエネルギー性質を持つものを比類無く打ち消し、消滅させる力。

 

ならば、今目の前で起こっている攻防の結果は分かり切っている。

 

「うおおああァァッッ!!!」

 

魂に呼応するような叫びと共に雪片が 振り抜かれる(・・・・・・)

 

直後、セシリアと一夏、両者の眼前で輝く青い光の柱が……斬れた。

 

「あ……」

 

その時、セシリアの唇が僅かに震え、小さな声が漏れた。

 

その瞳に映るのは、左右に分かたれたレーザーの光の奥で雪片を振り抜いた一夏の姿。そして、迷いの無い力強い瞳。

 

先程は気付かなかったが、アドルフも同じような眼をしていた気がする。

 

それはセシリアが今まで見たことが無かったものであり……同時に、心の隅でずっと“見たい”と願っていたものでもある。

 

だからこそ、そんな一夏の姿は、セシリアの心にとても強く刻み付けられた。

 

見惚れていた、と言うのは少し違うかもしれない。

 

だが、気が付けば雪片を右薙ぎに振るわんと力を溜める一夏が目の前にいた。

 

青い光を纏った刃が『ブルー・ティアーズ』の装甲を斬り裂こうと迫る。

 

しかし、その寸前で……

 

『試合終了。勝者────セシリア・オルコット』

 

……決着を知らせるブザーがアリーナに響いた。

 

「……え?」

 

「ああ……ダメか」

 

理解できないと表情で語るセシリアに対し、何処か空元気のような声で呟く一夏。

 

(いや……普通、逆じゃありませんの?)

 

互いの表情の不一致にもはや混乱しつつあるセシリア。

 

だが、そんな疑問も何処吹く風と言うように、2人の試合は此処に終了した。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

勝てると思った? 残念、やっぱ自滅でした。

何となくですけど、セシリア戦の一夏って自滅で負けるのが自然な気がする。

改めて思いましたけど、心装の名前と詠唱って、考えるの楽しいけど難しいです。

そのキャラの「こうなりたい」とか「自分はこんな感情や一面を持っている」とかを想像するのはいいんですが……

それを詠唱に纏めて示すのと、名前にするのが難題です。

実を言えば、今回の一夏の輝装も、かなり頭を捻りながら書きました。おまけに、鈴に関しては『決意(エゴ)』の形すら浮かんでません。

私も“黄昏の疾走者”さんのように、活動報告で心装のアンケートやろうかな?

では、また次回。
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