IS<インフィニット・ストラトス> 願いの果てに真理在れ 作:月光花
今回はセシリア戦の後です。
では、どうぞ。
Side Out
「なるほど……一時的に殲機の出力を引き上げることで、エネルギー性質を持ったあらゆるものを対消滅させる能力か。そして、発動には自身のシールドエネルギーを消費する」
「確かに、シールドエネルギーを消費して能力を発動する輝装もあります。でも、織斑くんのはその中でも随分と尖った形ですね」
試合終了後、現在一夏は、ピットに戻って千冬、麻耶、箒を混ぜて自分の輝装と白式の詳細スペックについて話し合っていた。
頭にタオルを乗せて汗を拭う一夏の顔には、疲労の気配が強く出ている。
初めてのISを使用した戦闘なのだから無理もないが、一夏は面倒だと思うようなことはせず、千冬達に自分の知る情報を話す。
その末に分かったのが、先程の試合で一夏が敗者となった原因だ。
一夏の到達した輝装、
そして、もう1つ。
エネルギー性質を持つあらゆるものを打ち消す“対消滅機能”。
しかし、後者の能力は強力な故か、発動に自身のシールドエネルギーを消費してしまうという欠点が存在しており、これのせいで一夏は自爆した。
なんというか、あれだけ言葉を叩き付けておいて蓋を開ければ敗因が自爆とは、ずいぶんと間抜けな結末である。
つまるところ、一夏の乗る『白式』は他の機体に比べて、かなり攻撃特化な仕様なのだ。
「ミサイルの爆発をくらったのが痛かったな。アレが無かったらギリギリで勝てたと思うんだけど……出力上げたらすげぇ勢いで減るんだもんな、エネルギー」
バツが悪そうに頭を掻きながらそう言った一夏の顔は、何処か悔しそうだ。
しかし、千冬は一夏の心情を気にも留めずに言葉を続ける。
「たらればで何を言おうが結果は変わらん。初陣で輝装に至ったのは見事だが、お前の未熟が敗因となったのもまた然りだ。精進しろ」
「……分かりました」
千冬の威圧感すら感じる言葉によって意見を両断された一夏は渋々納得し、現在右腕の手首にガントレットの形で待機状態になっている白式に視線を向ける。
(ISの待機状態ってほとんどはアクセサリーとかだって聞いたんだけど、何でガントレットなのかね『
「えっと、今の『白式』は待機状態になってますけど、織斑くんが呼び出せばすぐに展開出来ます。ただし、色々と規則が伴うのでコレに目を通しておいてくださいね」
そう言って麻耶が手渡してきたのは、参考書と同等かそれ以上の厚みをした本だった。なんというか、机に置いたらドサッ! という音を立てそうだ。
適当なページを開いてみると、規則を記した文字が上から下までビッシリと書かれている。もちろん、裏表両方だ。
一夏は嫌気を通り越して、よくこんだけ考えて纏めたもんだな、と内心呆れた。
「とにかく、話は以上だ。今日はもう部屋に戻ってゆっくり休め」
「アレ? 俺とアドルフの試合は……?」
選手が3人いるのだから、必然的にそうなるはずだ。
「外傷が無かったとはいえ保健室に運ばれた人間を試合に出せるか。それに、アイツがリヴァイヴに装備させた武装をまた用意する時間は無い」
呆れたように溜め息を吐いた千冬の返答に納得し、一夏は安堵の息を吐く。
「了解ですっと……」
麻耶に渡された本を脇に抱え、一夏はタオルを頭に乗せたままピットを出て行く。
「お、おい ……待たんか一夏!」
それを追いかけるように千冬と麻耶に一礼した箒が続き、ピットの中には教師2人だけが残る形となった。
「それにしても、すごいですね織斑くんは。ISの初搭乗で輝装に到達する人なんて、世界中の
手に持ったタブレットに表示されているデータに目を通しながら一夏を褒める麻耶に対し、千冬は変わらず冷静な態度のままだ。
「それは確かに大したものだが、やはりまだ素人です。操縦技術で比較するのならクロスフォードの方が上でしょう。そういえば、アイツの容態は……?」
「さっき保健室から連絡があって、目を覚ましたそうです。体調面で特に問題は無いそうなので、今日はこのまま寮に戻ると」
「そうですか……では山田先生、後のことはお願いします」
引き継ぎを麻耶に任せ、千冬はピットを後にする。
通路をしばらく歩いて外に出ると、すでに日が沈みかけている薄暗い空が見えた。
ふと立ち止まった千冬は視線を持ち上げ、普段の厳しそうな目つきをさらに鋭くしてそこに広がる天空を睨み付ける。
「これも……お前達の望んだ展開か……?」
聞けば疑問を投げたように思える言葉だった。
しかし、そこに答える者は存在せず、そもそも千冬の纏う雰囲気は返答すら望んでいないと言うようだった。
千冬はそれからすぐに歩き出し、身に纏う雰囲気も普段のソレに戻る。
しかし、歩き続ける彼女の第六感は、何処かで自分を嗤う声を聞き取った。
* * * * * * * * * * * * *
セシリア・オルコットという人間の人生は、幼い頃から過酷だった。
不幸な事故によって両親は3年前に死んだ。憧れだった母も、母の顔をうかがってばかりで『情けない』とすら思えた父も、あっさりと帰らぬ人になった。
そんなセシリアに残されたのは、名家と名高いオルコット家の莫大な遺産。年端もいかない少女が引き継ぐには、あまりに手の余るものだった。
そして、それに群がるように現れたのは、金の匂いを嗅ぎ付けた醜い亡者共。
埋葬式にて、半数……いや8割以上が悲しんでる顔の下に欲望の色を濃く浮かばせている。
ハンカチを片手に肩を震わせているが、実際は喜びに肩を震わせているのだろう。大量の金を背負った鴨が生まれてくれたと。
そういう人間を知らなかったわけではない。
母から存在を聞かされ、気を付けるよう厳しく言われていたし、今までも何人か出会ったこともある。
だが、こんな形で認識の甘さを実感するとは思わなかった。否、出来れば一生こんな体験をしたくなかった。
それでも、話をするだけで、連中の腹の底がよく分かった。
「ご両親のことは残念でした。これからのオルコット家を支える為に、私にも手伝わせていただけないでしょうか」
──手伝うのは予算の運営だけでしょうに。
「ご両親には昔から大変お世話になっておりました。出来れば、その恩返しをさせていただきたく思います」
──私は両親からアナタのことを聞いたこともないし、話したこともない。
「何か必要なものはお有りですか? よろしければご助力致します」
両親の死を心から悼んでくれる者など、まったくいなかった。
ふと、こいつ等が両親を葬り去ったのではないかと考えたが、幸か不幸かそれは無かった。両親の巻き込まれた事故は越境鉄道の横転事故。死傷者は100を越えるほどだった。
なんて醜いのだろう。
なんて汚らしいのだろう。
連中に対する嫌悪感はもちろんあった。
だが、それ以上にそんな連中が自分に集まっているということ、自分が連中と同じ人だという事実に凄まじい吐き気を覚えた。
遺産を守る手段を得る為に、セシリアはあらゆる勉強をした。その中で見つけた1つの方法が、ISだった。
適正検査においてA+の判定を叩き出したセシリアは代表候補生への赴任を即断し、国家の後ろ盾を得てひとまず遺産を守る事が出来た。
そして第三世代兵器のBT兵器運用試験者に選抜され、稼動データと戦闘経験値を得る為にIS学園へとやって来た。
そんな中でセシリアは、己の決意を、輝装を掴み取ることが出来た。
天に輝くただ1つの明星となりたい。
それがセシリアの心からの願いだった。
誰の悪意も意に返さぬ孤高の高みへ、誰もが焦がれる栄光へ、そんな存在へと至る。
その願いに気付き、自覚し、強く願うまで多くの努力と時間を必要とした。
それなのに、セシリアは出会った。己の価値観を根底から覆す存在に。
今まで見たことのない、ハッキリとした己の意思を持った強い瞳をした男性。
名を、アドルフ・クロスフォードと……織斑一夏。
片や無駄と分かっていても揺るがず自分に挑み続け、片やISで初の実戦だというのに到達点の一つである輝装に至った。
興味を引かれた。それ以上に、知りたいと思った。
他者には無い無二の強さを持つ存在。形は違えど、それはまさに、セシリア・オルコットが憧れ、求め、追い続けていたものに他ならないのだから。
だが、何故だろうか。
アドルフと一夏、2人共興味を惹かれる存在なのは間違い無いのに、一夏のことを考えると、セシリアの胸の中に不可思議な感情が溢れる。
「織斑……一夏……」
名前を口にしてみると、それは一際強くなった。
甘く、熱く……さりとて切なく、嬉しくもある感情の奔流。
(これは……もしかして……)
一人惚けるように思考の海に沈むセシリアの顔は、何処か満たされていた。
* * * * * * * * * * * * *
Side アドルフ
試合が終わり、オレは更識と一緒に部屋に戻った。学食に行く気分ではなかったので、夕食を部屋の中のキッチンで済ませ、さっさとシャワーを浴びた。
しかし、オレがエプロンを身に付けてパスタ料理を作り始めたら更識が目を丸くしていたが、そんなに意外だろうか。
生クリームを使わないカルボナーラとサラダの2品だけだったが、美味いという評価を頂けたので良しとしよう。
「……ん?」
そして、部屋のベッドに座りながら本を読んでいると、傍に置いておいたオレの携帯がメールの受信音を鳴らした。
内容に目を通してみると、少々気になることが書かれていた。
読んでいた本を閉じ、オレはバッグの中から愛用のノートPCを取り出す。
「……どうかしたの?」
突然読書を中断してPCを取り出したオレの行動を不思議に思ったのか、更識が首を傾げながら声を掛けてきた。
「まぁ、お前なら別に大丈夫か」
そう言いながら左手でパスワードを入力し、右手で更識を手招きする。
「あ、ホワイトグリント」
「ほう、知ってるとは意外だな。
デスクトップの絵で思わぬ知識が共有出来たが、今話すことはそこじゃない。
メールのリストを開き、一番上に届いている新着メールをクリック。
そして表示されたのは、所々に貼り付けられた幾つかの写真と、報告書のように整えられた無数の英語の文章。
それを見た更識は一瞬怯んでしまうが、自分の頭の中にある知識を駆使して必死に英文を和訳していく。だが、慣れていないのか時間が掛かってしまう。
「差出人はオレがガキの頃から世話になってる医者でな。書かれている内容を纏めると、6年前に事故があったオレの家の残骸から新しい情報が分かったらしい」
苦笑しながら内容を教えると、更識は少し驚いたような顔をする。
先程言った、お前なら別に大丈夫、という言葉の意味はこういうことだ。
画面をゆっくりと下に移動させると、炎によって激しく燃えて原型を失う程に炭化したテーブルや椅子、マグカップなどの写真が表示された。
「少々変わり者の医者でな。診察や治療以外にも、検死や鑑識のスキルも持ってる。んで、6年経った今でもオレの家に残った残骸を掻き集めて情報をくれる」
「でも、6年、でしょ? ……火災現場の残骸なら、炭化が酷いと思う」
「それはオレも思ったが、何でも無機物の炭化現象を留める装置があるらしい。詳細は機密があるんで教えられないそうだが」
オレの言葉に更識は驚きと疑問を混ぜ合わせたような表情を作る。
まあ、その気持ちは分かる。
ISの登場によって世界のテクノロジーの水準は飛躍的に高まったが、そんな装置が開発されたなんて話は聞いたことが無い。オレも聞いた時は存在を疑った。
だって、そうだろう。
もしそんな物が実在するなら、人間の死体だって腐食の問題を気にせずいつまでも保存出来る。それこそ、設備があれば死体をサイボーグに改造することも出来る。
「それで……今回は、何て言ってきたの?」
「えっと……テーブルやドアノブ、マグカップや皿など、日常生活で素手の接触が多い物を細かく調べた結果、僅かながら種類の違う指紋が4つ検出された……だとさ」
「4つ……?」
「1つはオレ、父親と母親の2つ、残る1つは不明だが……あの人が言うには、指紋の全体幅からして年はオレと同年代か1つ下の子供、性別は勘で女だそうだ」
「か、勘……?」
「医者が思考を放棄して勘に頼ったらお仕舞いだって話だな。まあ、もしその指紋の対象が女で、オレの姉か妹だったとしても……もう会えんさ」
小さな溜め息を1つ吐いてノートPCを閉じる。
隣にいる更識が小さく声を漏らすが、オレは普段通りの口調で気にするなと声を掛ける。口数こそ多くないが、やはりコイツも根は良い奴なのだろう。
(実際、気にしてどうする……今さら記憶に無い家族が1人増えたところで、死んでいるのに変わりは無いだろう)
『本当に?』
心の中で、そんな声が聞こえたような気がした。
ああ、本当だとも。そんなものは最初からいなかったのだ。
今になって家族など…………淡い期待をさせないでくれ。
心の中で自己解決を行い、窓の外に広がる夜空を見る。
死んだ人間が天に召されるというなら、オレの家族も、あそこにいるのだろうか。
らしくもないことを考えてすぐ眠気を感じ、オレは早々にベッドへ体を預けるのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
今回は一夏の輝装についてと、セシリアの過去とオリ主の身元事情についてでした。
次からはオリ主も色々と活躍する予定です。
では、また次回。