このすばMemorial   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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これは、アクアによって綴られる、魔王打倒を目指す勇者との出会いの記憶……


勇者候補との邂逅 (アクア)

「まったく、休む間もなく次から次へと。最近日本じゃ若い時期に死ぬのが流行ってるのかしら? もしそうなら即刻撤廃して欲しいんですけどー、このままじゃ私の仕事が増える一方なんですけどー」

 

 休憩室で一息つこうとした所を駆り出され。

 私は死者を案内する部屋へと続く道を引き返しながら、不満を零していた。

「次はこの人ね。名前は、えーなになに……御剣響夜。うわー、すんごいキラキラネーム。ご両親はどういう意図でこんな痛い名前を付けたのかしら。私だったらゼルトマンとかって格好良い名前にするのだけれど。……職業は高校生。死因は……これもありきたりでつまらないわね」

 名前といい死因といい、ちょっとしたラノベの主人公をやってそうな人だ。

 もしかして何かのパクリだろうか。

 とにかく、この人が終わったら今日は上がっていいって言われたし、ちゃちゃっと終わらせて早く帰りましょう。

 美味しいお酒が私を待っているわ!

 

 

「――御剣響夜さん、ようこそ死後の世界へ。私は貴方を導く女神、アクア。貴方はつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、貴方の生は終わってしまったのです」

 

 お決まりの言葉を掛けながら、私は椅子に腰かける。

 向かいで項垂れているのは資料の写真にあった、正義感が強そうで女好きしそうな、爽やか風イケメンな優男。

 私の声に気が付いたらしい彼は、鬱屈そうな顔を上げ。

 そして瞬きするのも忘れて、こちらを凝視してきた。

 ここに来た人間が私を見たら、大体いつもこんな感じだ。

 神々しい私に釘付けになるのは仕方がないし、正直悪い気はしない。

 だけど、こうも毎度同じ反応をされると飽きてくるわね。

「貴方はご自分の死因を覚えていますか?」

 未だにガン見していた彼は、私の声を聞き慌てて姿勢を正した。

「えっ⁉ あっ……はい、ぼんやりとですが覚えています。部活があるから先に帰っていいと伝えておいたのに、わざわざ待っていてくれた先輩と幼馴染。それと突然の雨という事で、傘を届けに来てくれた義妹の三人と家に帰っていました。そしたら女の子が雨でスリップしたトラックに轢かれそうだったのを見かけて。咄嗟に彼女を守ろうと道路に飛び出したんですけど、気付いた時には三人が泣きながら僕にしがみついてて。だけど、何を言っているのか分からなかったので、聞き返そうとしたんです。ですがその時、丁度意識が薄れて行って……そして今に至ります」

 どの辺りがぼんやりなのかしら。

 というか、私は死因を覚えているのかを尋ねただけであって、あんたがイチャついたりハーレムを築いたりどうこうには興味ない。

「そっ、そうだ、あの子は⁉ 僕が助けようとしたあの子は無事なんですか?」

「生きてますよ。足に擦り傷ができたぐらいで命に別状はありません。貴方は、彼女の命を守り切れました」

 私からの報告にすっかり安堵したのか、彼は大きく息を吐き出し脱力した。

「よ、良かった。……僕の死は、無駄じゃなかった訳ですね」

 ああもう、変に時間かけないでよ。

 この後にもやる事がまだまだあるっていうのに。

 私は早く帰りたいの。

 お風呂に入ってお酒をクイッとやりたいの。

「さて、死んでしまった貴方にはいくつかの選択肢があります。ゼロから新たな人生を歩むか、天国的な所へ行ってお爺ちゃんみたいな暮らしをするかのどちらかです」

「お、お爺ちゃ? あの……、前者は何となく分かりますけど、天国的な所というのは?」

 顔を引き攣らせたイケメンと言うのは、それだけでも絵になるのね。

 世のお顔が残念な男達が僻むのも無理はないわ。

「ガッカリさせてしまうかもしれませんが、実は天国という所にはなんにもないんですよ。テレビは勿論、漫画やゲームだってない。なので、一生先人達と話をするか日向ぼっこでもして、悠久の時間を過ごすしかないんです」

「は、はあ。それはまたなんとも夢のない話で……。そうですか、その二つのうちどちらかですか……」

 一見優男に見える彼でも、この身も蓋もない二つの選択肢では直には選べないらしい。

 と言うか、今月のノルマがピンチなのでそうであってくれないと私が困る。

 こんないかにも単純そうなカモ、みすみす見逃してやるもんですか。

「しかし、命を賭して一人の少女の命を救った勇敢な貴方には、もう一つ選択肢が与えられます」

「……ここは素直に天国へ行くべきだろうか…………でも、今回みたいにまた誰かの命を救えるかもしれないし、生まれ変わった方が……。えっ? まだ選択肢があるんですか?」

 変質者みたいにブツブツと何か呟いていた彼はそれを聞き、あからさまに興味を示してきた。

 かかったわ!

「ええ、これは貴方のような選ばれし勇者だけに送られる特別な処遇なんです」

「選ばれし、勇者……っ!」

 いいわよいいわよ、その調子でもっとこっちに来なさい。

 自分に自信あり気な人は、チョロッと特別扱いしてやれば簡単に落ちるって漫画に描いてあったけど、本当みたいね。

 ここでダメ押しに足でも組み替えてやれば……。

 

「分かりました、その話お引き受けします! 女神である貴方がそこまで言ってくれてるんです。僕は必ず、その過分なご期待に応えてみせます!」

 

 するまでもなかったわ。

「貴方ならばそう言ってくださると信じていました。私の判断に狂いはなかったようです」

「ええ、任せてください。貴方に選ばれた勇者として、恥ずかしくない振る舞いをすると誓います!」

 このチョロさ、私の人を見る目は今日も絶好調だ。

 でも、ここまで従順だと張合いが無くてつまらないわね。

 せめて、もうちょっとくらい悩んでもいいんじゃないかしら。

「ですが無理をなさらなくても良いのですよ。あくまで三つ目の選択肢としてご提案しているだけなので。私達は貴方の決断を尊重します」

 苦笑しそうなのを押し隠しつつ、私は念の為に確認を取ってみたのだが。

「まさか僕の身を心配して頂けるだなんて、なんて慈悲深い御方でしょう! お気遣いには感謝します。しかし、それが僕に与えられた使命だというのなら、最後まで全うする所存です!」

 別に心配などしていないけど、この人は満足そうだしそっとしておいてあげよう。

「女神様、早速ではあるのですが三つ目の選択肢の概要をお聞かせ頂けませんか? どんな試練でも耐え抜く覚悟ではありますが、今一度決意を固めておきたいので」

「貴方がそうおっしゃるのは当然です。これは貴方だけでなく、多くの方々の人生に大きく関わる事ですからね」

 そして私の給料にも大きく響く事案だ。

「それでは本題に移るとしましょう。貴方にお願いしたいのは、とある世界にいる魔王の討伐です――」

 既にやる気に満ちてるし必要ない気もするが、親切な私は簡単な造りの彼に、懇切丁寧な説明をしてあげる事にした。

「現在その世界は、長く続いた平和が魔王の軍勢によって脅かされています。人々が築き上げてきた生活は魔物に蹂躙され、魔王軍の無慈悲な略奪と殺戮に皆さん怯えて暮らしているんです。現地の方々も懸命に抗ってはいますが、魔王軍の勢力は絶大で。このままでは人類が崩壊しかねないのが現状です」

 本当は上の人から小芝居っぽくやれって言われていたが、この人の前ではやりたくない。

 何というか、生暖かい視線を送られようものなら、反射的に聖なるグーを叩き込んでしまう自信があるもの。

「そこで貴方には選ばれし勇者の一人として魔王を倒し、この世界に再び平穏をもたらして欲しいのです」

 今更だけど、この口調ってば本当に疲れるわね。

 そもそも私はエリートな女神な訳だし、普段通り喋ってもいいんじゃないかしら。

 と、私の説明をじっと黙って聞いていた彼はその場にすっと立ち上がり、胸に手を当てて爽やかな笑顔を浮かべた。

「分かりました。知らない世界とは言え、多くの人々が苦しんでいると聞いてしまった以上、他人事と切り捨ててしまう訳にはいきません。微力ではありますが、僕なんかでよければ喜んで力をお貸しします」

 うわー、この自信に満ちた顔、輝かんばかりの眼。

 これ、自分が女神に選ばれた勇者だって本気で信じちゃってるタイプの人だわ。

 本当はここに来る人全員に言ってるんですって教えてあげたら、一体どんな反応を見せてくれるのかしら。

「それでは正式にお引き受けくださるという事ですね? 神々を代表してお礼を申し上げます」

「この程度の事でしたら、引き受けて当然ですよ。本来僕の人生はここで終わっていたはずなのに、もう一度やり直せるチャンスを頂けるのです。寧ろ率先してやらせて頂きたいです」

 何でこんなもって回った言い方ばっかりするのかしら。

 どうしよう、妙にむかむかしてきたんですけど。

「あの、少しお聞きしてもよろしいですか?」

「何でしょう?」

「ご存じの通り、僕は何処にでもいる普通の高校生でしたので、本物の戦闘などという物は経験した事がありません。そんな僕でも魔王と渡り合う事は出来るのでしょうか?」

 何を当たり前の事を、そんなの……。

「現状のままでは、とてもではありませんが太刀打ち出来ないでしょう。魔王当人はおろか、はじまりの街周辺に生息するモンスター相手でも殺されかねません」

「そうですか、やはり魔王までの道のりは遠く険しいようですね。ですが、その程度の逆境になど、僕は決して屈しません。過酷な世界でどれだけ理不尽な運命に見紛おうと、生き抜いてみせます!」

「……それは頼もしい限りですね」

 ……ここまでくると一種の才能なのかもしれない。

「もう一つお伺いしたいのですが。その世界に送られたら初めに、僕は何をすればいいのですか? やはりモンスターと戦うための装備を整える事でしょうか?」

「その辺に関しては心配無用です。と言うのも、異世界に旅立つことを決意してくださった方には一つだけ、好きな物を持っていく権利が与えられるのです。それは特殊能力だったり、とんでもない才能だったり。強力な武器でさえも私達から提供いたします」

 顔に笑みを浮かべた私は手元に一冊のカタログを取り寄せ、それを彼に手渡した。

「さあ、選びなさい。貴方に一つだけ、何者にも負けない力を授けてあげましょう」

 慎重な手つきでカタログを受け取った彼は、それをパラパラと捲り始めた。

 今まで見てきた感じだと、どうせこの人は勿体ぶって特典選びにも時間が掛かるのだろう。

 その間は暇なわけだし、日本から取り寄せたお菓子でも……。

「アクア様、この『魔剣グラム』を頂く事は出来るでしょうか? お恥ずかしい話、武器の類で使った経験があるのは竹刀ぐらいでして。だったら剣を頂くのが一番いいのではないかと」

 どうしてこういう時に限って素早いのよ、少しは空気を読んで欲しいわ。

 彼が見せてきたのは、神器級アイテムである『魔剣グラム』。

 確か石やら鉄やらを豆腐みたいにスパッと切り裂ける、北欧神話に出てくる伝説の剣だとかそんな感じだったと思う。

 というか、なんでこの人は私が聞きもしないのにちょこちょこ変な情報を教えてくるのだろう。

 もしかして構ってちゃんなのだろうか。

「承りました、それでは貴方には『魔剣グラム』を差し上げましょう。手続きをしますので、少々お待ちください」

「手続き、ですか?」

 どうやらあんぽんたんだったらしい彼は、私にそんな疑問を投げかけてきた。

「この手の装備品は、悪用されると非常に危険な物が多いんです。なので、持ち主にしか本来の力が扱えない様に調整する必要があるんですよ。万が一紛失したり、心の穢れた小心者なコソ泥に奪われたりしたら大事ですからね」

 私の言葉に、彼は感心した様に目を見開いた。

「そこまで想定なされているんですか。確かに、格下だと思っていた相手に不意を突かれる、なんて間抜けな人がいるかもしれませんものね」

「その通りです。外面を取り繕っている人など数知れませんから、しっかりと相手の内面を見定めなければいけませんよ。胸を誤魔化して信者を募る不埒な女神もいる事ですから」

「なんてあくどい手法を取るんだ、その女神様は。もっとアクア様のようなご聡明な方を見習って欲しいところです」

 あら、さっきまでは自分に酔った唯の痛い人かと思っていたけど、案外いいところもあるかも。

 こんな事なら、アクシズ教に入るよう説いておけばよかったわ。

 そうこうしている間に、天使から手続きが完了したという思念が送られてきた。

 さてと、もうひと踏ん張りね。

 がんばれ私。

「準備が整った様です。それではこれより転生作業に移るので、その場を動かないでください。今から貴方に魔剣を渡します。それに付属して膂力が向上しますから、現地に着いたら確認してください。そして、この鎧はサービスです」

 私の指パッチンにより、彼の学生服の上には蒼く鮮やかに輝く鎧が装着される。

 そして何もなかった空間から、一本の剣が彼の手元までゆっくりと落ちてきた。

「さあ、その魔剣グラムと共に旅立ちなさい。選ばれし勇者よ」

 彼は魔剣をしっかり握り絞めると、転生用の魔法陣の上で私を真っすぐ見てきた。

「女神様、必ず僕が魔王を打ち倒し、世界を救ってみせます!」

 無駄に格好良く言おうとしくれてるけど、そんな宣言私にされても困るんですけど。

 ぶっちゃけ、私には関係ないからどっちでもいいんですけど。

「はい、期待してますよ」

 よし、転生用の門が開いたわね。

 それじゃあ、いつものセリフを。

 上方へ浮かび上がっていく彼に向けて、私は手を大きく開いた。

 

「さあ、勇者よ! 願わくば数多の勇者候補の中から、貴方が魔王を打ち倒す事を祈っています。さすれば神々からの贈り物として、どんな願いでも叶えて差し上げましょう!」

 

「ほ、本当ですか⁉ で、でしたら、もし僕が魔王を討伐した曙には、貴方と……」

「さあ、旅立ちなさい!」

「ああの、もうちょっと喋ら――」

 何か言いかけてたような気もするが、こんな時に言う事なんか大した話じゃないだろう。

 役目を果たした転生の門が閉まった後には、再び精悍とした部屋へと戻っていた。

「うーん、やっと終わったわね。今回の人は本当にチョロくて助かったわ。なんか私を見る目が真剣過ぎてちょっと怖かったけど、もう二度と会う事はないだろうし別にいいわよね、あの……、あの…………。あれ、名前なんだっけ?」

 痛い名前だって事は覚えてるんだけど、すっかり忘れちゃったわ。

 でも会ってる時間は短いし、今までもたくさん送ってきたんだから、覚えられなくてもしょうがないわよね。

「そう考えてみると、この仕事も何だか寂しいものね。とは言っても、天界にいる以上、死者の案内以外の仕事と言えば、人間の観察や星とか生命の創造と破壊ぐらいだし、それよりかはなんぼかマシよね」

 仮に私が人間の名前を覚えるとしたら、その人がよほど面白い死に方をするか。

 若しくは、私を下界に引きずり込むぐらいのものでしょうね。

 まあ、そんな恐れ多くて馬鹿な事をする人はいないだろうから、私が下界で暮らすなんてあり得ないけど。

「……でも」

 でももし、私を天界から連れ出す人が現れたら……。

 その人と一緒に、異世界で冒険とかする事になったら……。

 

「……それはそれで楽しいかもしれないわね!」

 

 そんなあるはずもない未来を思い描きながら、不思議と上機嫌に私は部屋を後にした。

 

 その時の私はまだ知る由もなかった。

 まさかあんな些細な理由で、私をこの天界から連れ出す人がいる事を。

 労働の喜びに目覚め、モンスターに捕食される恐怖を味わう事を。

 

 そして。

 そんな理不尽な世界でその人と共に生きていく事が、幸せだと思うようになる事を。

 

 私があの素晴らしい世界に旅立つのは、もう少し先の話だ。




【次回予告】
 どうよこの私の女神っぷりは! 私の素晴らしさに惚れちゃったそこのあなた、今すぐアクシズ教に入信を!
 次の当番はめぐみんよ! 魔法学園時代の懐かしい話をしてくれるらしいわ。みんな、絶対読んでね! そして、評価や感想をバンバン送って、Twitterとかでも呟いて拡散して頂戴。そうしたらまたファンが増えて三期がやってくるかも……ってごめんなさい、調子に乗ったのは謝るから、通報しようとしないでええええ! (by アクア)

 この素晴らしい読者様に祝福を!
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