このすばMemorial   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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これは、めぐみんによって綴られる、深い絆に結ばれた二人の出会いの記憶……


宿命のライバル (めぐみん)

 皺がない事を確認した後、新調したばかりのローブに腕を通す。

 そして身だしなみを整えたところで、鏡の前に立ってみた。

 ピッタリだ。

 着心地と言いデザインと言い、素晴らしい出来栄えだ。

 流石は、紅魔族随一と名高い服屋の店主が作っただけはある。

 しかし、数年ぶりに服を新調したとなると、こう色んなポーズをとってみたくなって。

 …………。

 はっ、いけないいけない。

 楽しくなって時間を忘れるところだった。

 これ以上は危険だと判断した私は、壁に立掛けて置いたカバンを手に持ち、玄関へと向かった。

「おや、めぐみん、もう出発するのか? 始業時間にはまだ随分早いだろ」

 どうやら私が靴を履く音を聞きつけたらしい、我が父ひょいざぶろーがシャバシャバに薄めたお粥を啜りながら玄関先に出て来た。

「ええ、折角の初登校ですし、一番乗りに入室して他の人達を見定めてやろうかと」

「おおっ、それはいい。お前は近所に同年代の友達がいなかったからな、この機に乗じてたくさん作ると良い。それにしても……」

 一言多いお父さんはそう言うと、私を頭の上から足元まで食い入るように眺めてきた。

「なんですか、セクハラですか? いくら実の娘だとは言え、女性を舐めるように見る物ではありませんよ」

「なっ⁉ ちち、違う、そんなつもりで見ていた訳ではない! だからそんな蔑んだ目を向けないでくれ、泣きそうになる!」

 身体を抱き寄せて白い目を向ける私に、お父さんは大慌てで否定してから一つ咳払いをして。

「制服、よく似合っているぞ。昔の母さんにそっくりだ。本当に……本当に立派になって……っ!」

「あなた、男性が人前で涙を流さないで下さい。娘達が見てると言うのに」

「そうは言うがな、母さん。ついこの間まであんなに小さかっためぐみんが、今ではこんなに制服が似合う美しい女性に育ったかと思うと……っ!」

 突如手で顔を覆い号泣するお父さんを、居間から出て来て窘める我が母ゆいゆい。

 そして……。

「しょうがない人ですね。めぐみん、よく似合ってるわよ。気を付けていってらっしゃいね。ほら、こめっこ、お姉ちゃんが学校に行くわよ。お見送りしましょうね」

 両親のやりとりをボーっと眺めていた、数年前に生まれた私とは年の離れた妹こめっこが、お母さんに促されて私の下にタタッと駆け寄って来た。

「ねーちゃ、いってらしゃい! お腹にたまるものおねがします!」

「こ、こめっこ、私は別に食料を買いに行く訳では……」

「おねがします!」

「……そうですね、帰りに何か買って来ましょうか。今日は記念すべき日ですし、お父さん達も許してくれるでしょう」

 無邪気に笑うこめっこを前に何も言えなくなってしまった。

 おい、両親達よ、目を逸らすんじゃない。

「そう言えば、服の採寸をしに行った時、宿題を出されたんじゃなかったかしら?」

「そうだ! 確か自己紹介を考えて行くんだったな。ちゃんと紅魔族に相応しい口上は考えたか?」

 露骨に話を逸らしてきた両親に呆れつつ、私はふっと不敵な笑みを零した。

「愚問ですね! 最高に格好良いものを用意してますよ。何なら今ここで見せてあげましょう!」

 調子が出て来た私は三人が見守る中、マントをバサッとたなびかせ――

 

 

「――我が名はめぐみん! 紅魔族随一の食材調達人にして、いつか最強の魔法を操る者!」

「おっ、初めての口上にしてはなかなかいいじゃないか。よろしくな、めぐみん」

 

 クラス担任であるぷっちん先生の言葉を背に受けながら、私は自席へと戻った。

 きまった。

 我ながら会心の出来だ。

 これで、このクラス全員に私の名前が定着した事だろう。

「それじゃあ、最後に君だ。前に出て」

「は、はいいいっ‼」

 ホクホク顔な私が席に着くのを待って、先生が最後の生徒に声を掛けた。

 ああ、あの子が最後なのか。

 一番乗りで教室に入ったつもりだったのに、私よりも先に教室の隅で縮こまっていたので気になってはいたのだ。

 おっかなびっくり教卓の前に立ったその子は、顔を赤めながらモジモジして。

「わ、我が名はゆんゆん‼ ぞぞ、族長の娘にして、いづれはこの里の長と……お、長、と……うううっ!」

 折角の晴れ舞台だと言うのに途中で止めてしまい、顔を手で覆ってしまった。

 変わった子だ。

「ゆんゆんは口上の練習がまだまだ必要だな。これからしっかり励むように。それじゃあ、全員の自己紹介が終わったところで、今から知力を測定する為のテストを始める」

 落ち込んだ様子で変な子がトボトボと着席した後に、先生がテスト用紙を配布していく。

「ああ、やっちゃった……。家で何度も練習してたのに……」

 隣の席から何やらブツブツと独り言が。

 横目で見てみると、先程前で口上を盛大にとちっていたあの子が、頭を抱えて机に突っ伏していた。

 妙に気にかかる子だが、今はテストに集中しよう。

 これは後々の成績に関わり、引いてはスキルポーションの配布にも影響が出るのだ。

 手を抜く訳にはいかない。

 全員に用紙が回ったところで、担任は周りを見渡し。

「行き渡ったか、分かる問題だけ答えればいいからな。では、始め!」

 

 テスト開始――!

 

 

 テストを終えた私達は、今度は潜在魔力を測定するべく保健室に移動していた。

「――はい、さきべりーさんお疲れ様。大体平均位ね。それじゃあ次の人は……ゆんゆんさんね。そこに立って頂戴」

 リストから顔を上げた保健の先生に言われるままに、族長の娘がビクビクと前へと一歩踏み出した。

「はい、じっとしててね。……あら、凄い魔力量。これだけの魔力量を所持してる人は紅魔族の中でもなかなかいないわよ。流石は族長の娘さんね」

「ほ、本当ですか⁉ あ、ありがとうございます! そっか、私魔力量多いんだ……!」

 褒められた事が余程嬉しかったのか、頬を緩ませて後ろへ下がって行った。

 むう、随分とご機嫌だが一体どれだけの魔力量だったのだろうか。

「――お疲れ、ねりまきさん。なかなか悪くない数値よ。さてと、最後は……めぐみんさんね」

 おっと、漸く私の番の様だ。

 姿勢を正し、私はスッと先生の前まで歩み寄る。

 すると先生はこちらに手を翳し、魔力を測定する魔法が私を包み込んだ。

「まあ、凄い! 今までいろんな村の人に出会ってきたけど、その年でこれだけの魔力量を持った人は初めてよ!」

 先生の驚く声に、部屋にいた生徒達が歓声の声を上げてきた。

 ふむ、なかなかどうして悪い気はしない。

「確かめぐみんさんはひょいざぶろーさんの娘だったわよね。あの人もかなりの魔力量を持っていらっしゃるし、納得だわ。これから頑張りなさい、期待してるわ」

「ありがとうございます。ですが、いくら魔力量が多くても、研鑽を怠れば真の魔法使いとは言えません。なので、これから励もうかと思います」

 激励の言葉を送ってくれる保健の先生にそう答え、皆の視線を向けて来る中を、私は悠然と元の場所に戻った。

「さあ、これで測定は終わりです。教室に戻ったらさっき受けたテストが返却されるからお楽しみにね」

 もう返却されるのか。

 自信がない訳ではないが、意外と他の人もやるようなのだ、油断は出来ない。

 先生の言葉に、私達はぞろぞろと教室へと戻って行った――

 

 

 どうしよう。

 分かってはいたが困った事になった。

 

 今の時間は昼食休憩。

 既にテストは返却され、午前中の項目は全て終了している。

 そして、午後に控えるは体力測定。

 何が言いたいかと言えば……。

 

「お腹……空いた…………」

 

 周囲からは香ばしい香りが漂ってきて、空腹を刺激してくる。

 そしてクラスの皆は各々が持ってきたお弁当を広げ、席が隣の子や知り合いなどと団欒しているのだ。

 だと言うのに。

 きゅーっと、私のお腹が切なげに音を立てた。

 本当に、何故我が家はこんなにも貧乏なのだろうか。

 お父さんも、自分の趣味にひた走るのはいいが、せめて食い扶ち分ぐらいは稼いでもらいたい。

 このままでは私は疎か、まだ幼い妹までもが栄養失調になってしまう。

 何か打開策の一つでも思い付かない物だろうか。

 そんな事を一人頭の中でグルグルと考えていると、

 

「ね、ねえ、あの……、もしかして、お昼ご飯持ってくるの、忘れたの?」

 

 誰かが横から控えめに声を掛けてきた。

 気だるげに視線を向けた先に居たのは、心配そうに、それでいて緊張のせいか挙動不審な動きをするクラスメイト。

 名前は確か……。

「えっと、にゃんにゃんでしたっけ?」

「ゆんゆんよ! そんな猫みたいな変な名前に変えないで!」

 立ち上がって大声を上げたせいで視線が集まり、ゆんゆんは恥ずかしそうに椅子へと座り直した。

「急に大声を上げる物ではありませんよ。ただでさえあなたは口上を恥ずかしがる変わった子なのですから、これ以上目立たないよう心掛けた方が良いのでは?」

「変⁉ 私って変なの? いや、でもだって、あんな大勢の前でポーズを決めながら名乗り上げるなんて恥ずかしいじゃない」

 やっぱりこの子は変わり者だ。

「って、そうじゃないわ。めぐみんさん、ご飯食べてないけど、持ってくるの忘れちゃったの?」

「そうではありません、もともとないんですよ」

「えっ、それってどういう意味?」

 本当に意味が分からないらしく、キョトンとした表情を浮かべるゆんゆん。

「だから、私は初めから昼食を持参していないんです。用意もされてませんし、そもそも作れるだけの食材がありません」

「……なんか、ごめんなさい」

 そうやって素直に謝られたら、それはそれで私の立つ瀬がないのだが。

「あ、あの……もし、もしよかったらですけど。私のお弁当、半分食べませんか?」

「本当ですか⁉」

「ちょっ、急に顔を近付けないで下さい! ほ、本当です、本当ですから! だからそんなに興奮しないで!」

 おっといけない。

 私とした事が、あまりに魅力的な誘いに思わず食い気味になってしまった。

 これでは、冷静沈着な私のイメージが入学早々崩れてしまう。

「お誘いは嬉しいですが、私達は今日初めて会ったばかりです。そんな人にいきなり恵んでもらうのもどうかと思いますので、謹んで辞退させて頂きます」

「今更冷静さを取り繕っても遅いと思いますよ。ああっ、ごめんなさい! 初めて会った人に私はなんて失礼な事を!」

 そう言って、ゆんゆんはごめんなさいと何度も頭を下げてきた。

 別に初対面だろうと、この程度の軽口なら構わないのではないだろうか。

「そんなに謝らなくても大丈夫ですよ。私の事は気にせず、あなたは食事を続けて下さい」

「あっ……、は、はい。分かりました」

 私の言葉に、少し寂し気な顔をしたゆんゆんは暫くこちらをチラチラと見てきた。

 なぜだろう、私の内で何かが擡げかかってきた気が。

 危うい考えが過ったのを誤魔化す為にも、私はふいッと窓へと視線を逸らした。

 それを見届けたらしいゆんゆんは、はあっと小さく溜息を吐き、いただきますと呟いて食事を始め……。

「……あ、あの。あんまりジッと見ないでもらえませんか? 凄く食べ辛いんですが」

「お構いなく」

「……その…………やっぱり、半分食べませんか?」

 そう言ってゆんゆんは私に、小綺麗におかずが納められた弁当箱を見せてきた。

 流石は族長の娘、使われている食材も質の良い物ばかりでとても食欲をそそって来て……。

 はっ、いけないいけない。

 無意識の内に手が弁当箱へと延びていた。

 おのれ、なんという強力な魔力。

 この私がこうもあっさり篭絡しかけるとは。

 だが考えてみたら、折角ゆんゆんがこうも親切にしてくれているのだ。

 人の親切心をこれ以上無碍にするのもどうかと思う。

 ならば、ここは素直に厚意に甘えても良いのではないだろうか。

 いやしかし、無条件に受け取ってしまえば、私は食べ物如きで釣られるチョロい女だと示してしまう事に。

 ああっ、一体どうすれば……。

 

「では、一つ勝負をしませんか?」

「えっ、勝負?」

 

 ビシッと指を突き出した私の言葉に、ゆんゆんは少し戸惑いを見せた。

「ええ、勝負です。私が勝ったらあなたのお弁当を半分頂きます。もし負けた場合は、あなたのお願いを一つ聞く。これでどうですか?」

「え、えっと、別に勝負なんかしなくても、半分ぐらいならあげてもいいんだけど」

「それではまるで私があなたから弁当を巻き上げてるみたいじゃないですか。ですが、勝負を受け入れてくれたら、私は心置きなくあなたから食料を分けてもらえるのです。なので、勝負しましょう!」

 胸を張る私を見てオドオドと逡巡した後に、ゆんゆんはこくりと首を縦に振った。

「わ、分かりました。めぐみんさんがそれでいいって言うのなら。それで、何で勝負すればいいんですか?」

 よし、乗ってきた。

「ここは学生らしく、テストの点数で勝負しましょう。先程の知能テストを同時に見せ合い、スコアの高かった方の勝ち。これでどうですか?」

「えっ、そんなのでいいんですか? でも私、結構高かったですよ。それでも、大丈夫ですか? なんでしたら別の勝負でもいいですよ?」

 こ、この子は、さらっと自慢ですか。

 どれだけ自分の知能に自信があるんでしょう。

「構いませんよ。では、早速始めましょう。ほら、解答用紙を出して下さい」

「は、はい。わかりました」

 カバンの中からお互いの用紙を取り出した私達は、それを机の上に伏せた。

「では、せーので開けましょう」

「わ、わかりました」

「「せーの!」」

 バンッと、二人同時に表を向けた。

 ゆんゆんが174。

 そして……。

「ひゃ、192⁉」

「どうです?」

 私の圧勝である。

「えっ、ちょ、これ本当⁉ 紅魔族の平均が150ぐらい、歴代記録の最高点が188だって言うのに、それを超えてるって言うの⁉」

「ちょ、おち、落ち着いて下さい! さっきから煩いですよ」

 と言うか、歴代記録を塗り替えてしまったのか。

 やはり、私は神に選ばれし者なのだろうか。

「わあ、凄いなー。こんなに頭が良い人が同級生だなんて、凄く光栄です」

 そう言って、ゆんゆんは私に尊敬の眼差しを向けてきてた。

 …………。

「と、とにかく私の勝ちです。では約束通り、あなたのお昼を半分貰いますね」

「あっ、そうだったわ。はい、どうぞ。先に食べていいですよ」

 妙に気恥ずかしくなってしまった私に、弁当箱を差し出してくるゆんゆん。

 それを受け取った私は、しっかりと手を合わせておかずを口に運んだ。

「っ! おいしいです! こんなしっかりとした固形物は久しぶりに食べました!」

「ちょっと反応に困る感想だけど、めぐみんさんに喜んでもらえて良かったです」

 哀れみの目線を向けてきたゆんゆんに少しイラっときた。

 だが現状、私はお昼を貰っている身分だ、あんまりぐちぐち言うのは止めておこう。

 食事をとれた喜びに、私はガツガツと弁当を平らげて行き……。

「め、めぐみんさん。それ以上食べられると私の分がなくなるし、そろそろ返してもらえませんか? あの、めぐみんさん?」

 おっといけない、数週間ぶりの真面な食事に箸が進みすぎてしまった。

 私はゆんゆんにお弁当を返しながら、

「ご馳走様でした、とっても美味しかったですよ。また機会があったら食べたいぐらいです」

「そ、そう? めぐみんさんがよかったら、また作ってきますよ?」

「いえ、流石にそこまでしてもらうのは悪いので、遠慮しておきます」

「言ってる割に血の涙を流してる気がするんですけど、大丈夫ですかめぐみんさん?」

 …………。

「そのめぐみんさんと言うのは止めてもらえませんか? 同級生ですし、堅苦しいのは抜きで行きましょう」

「ええっ? で、でで、でも、それなら、一体なんて呼べば……?」

「普通にめぐみんでいいですよ。私もあなたの事はゆんゆんって呼びますから」

 私の言葉に、ゆんゆんは目を見開いた。

「いいんですか⁉ それって、なんだかと、とも…………だち……みたいじゃ…………」

「今なんて言ったんですか? もう少し大きめの声でお願いします」

「な、ななな何でもないです! で、では。こ、コホン! め、めぐ……めぐみんっ‼」

「たかが呼び捨てにどれだけ気合を入れてるんですか」

「だ、だって……」

 煮え切らないゆんゆんに私は溜息を零し、それからふっと微笑んだ。

 

「まあ、これからお願いしますね、ゆんゆん」

「っ! は、はい。じゃない、うん! これから一緒に頑張ろうね、めぐみん!」

 

 そう言って心底嬉しそうに笑いかけてきた。

 

 これから始まる学園生活は、退屈しないですみそうだ。




【次回予告】
 ゆんゆんの事はどうでもいいのですが、私が昔から選ばれし大魔導士であることを公に出来たので満足です。これを読んで私に感銘を受けた人は、共に爆裂道を歩みましょう!
 次の語り手はダクネスです。どうやらクリスと初めて会った日の話をしてくれるそうなのです。どうやってあの不器用なダクネスが、優秀な盗賊であるクリスとパーティーを組めたのか、個人的にずっと気になっていたので今から楽しみです。それでは最後にこの言葉でしめましょう。『エクスプロー』(強制カット) (by めぐみん)

 この素晴らしい読者様に祝福を!
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