このすばMemorial   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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これは、ダクネスによって綴られる、掛替えのない友人との出会いの記憶……


女神様からの贈り物 (ダクネス)

「――なんであんたはモンスターの群れに突っ込んでいくんだ⁉ 危うく俺達まで巻き込まれるところだったじゃないか!」

 

 そう言って泣き叫ぶのは、覆面で顔を覆い巨大なハンマーを担いだ大柄な男。

 今回私を臨時パーティーに誘ってくれたガリルだ。

「しかし、危険なモンスターが群がっていたじゃないか。クルセイダーとして見逃す訳にもいかなかったんだ」

「その心意気は否定しないが、俺達は善意で討伐してるんじゃない、仕事で命張ってるんだ! 金にもならないのに、わざわざ危険に身をさらす必要なんかないんだ!」

 彼の言い分も理解は出来る。

 本来、冒険者とはそういうものだ。

 とは言え、あれだけのモンスターに囲まれ甚振られたらさぞや気持ちい、じゃない、街の人達にも被害が及ぶだろう。

 そう考えると体の抑止が効かなかったのだ。

 ガリルは頭をガシガシと掻きながら、

「なあ、あんたの防御力は大したもんだが、俺達のパーティーとは相性が良くないと思うんだ。だから悪いが、別のパーティーを探してくれ。ほら、これがあんたの分の報酬だ」

 そう言い残してギルドを出て行く彼らを、私は見送る事しか出来なかった。

 

「……また、一人になってしまった」

 

 これでパーティー入りを断られたのは何回目だろうか。

 父の反対を押し切って、念願のクルセイダーに就いたのが数週間前。

 それからは事ある毎に、臨時のパーティーに参加しているのだが、未だに仲間が作れない。

 原因は分かっている。

 私の攻撃が当たらないからだろう。

 前衛職にとってこれは致命的な欠陥だと自覚があるだけに、返す言葉もない。

 その分を巻き返そうと、率先して敵の攻撃を引き受けようともした。

 だが、その度ごとについ興奮して自制が効かなくなり。

 結果、周りに迷惑を掛けてしまうのだ。

 我ながら自分の性癖が情けない。

 内気な性格も相まって、他のメンバー達との会話もままならない状態だし、もしかしたらこのまま一生、仲間が出来ないんじゃ……。

「っ! ダメだな、こんな調子では本当に塞ぎ込んでしまいそうだ」

 精神的に追い詰められていくこの感覚も悪くはないが、手放しに喜べるものでもないし。

「……よしっ、こういう時こそ教会だ。今日もエリス様に、冒険仲間が出来るよう祈りに行こう」

 なけなしの気力を振奮い立たせ、ここ最近毎日通っているエリス教会へと私は足を向けた。

 

 

 ――エリス教会で祈りを捧げた帰り道。

 私は商人で賑わう繁華街を歩いていた。

「いらさいいらさい! 今日は粋のいい野菜がより取り見取りだよ、食べ頃だよ‼ おっと嬢ちゃん、そのトウモロコシは近づくと体当たりしてくるから気を付けなよ」

「新しい唐揚げが揚がったよ! サクッとした触感に中から溢れ出る濃厚な旨味! 噛めば噛む程いい声を上げる、ここでしか食べられない美味しい唐揚げはどうだい!」

「タイムセール始めるよ‼ 二千エリス以上お買い上げの方は一割引きだ! 鮮度が高くて、食べると頭がふわふわする魚を大量に買えるのは今だけ!」

 方々から商人達が、威勢のいい声を上げて客を呼び込み。

 夕食の準備をするべく、買い物に来た主婦達が品物を見定めていく。

 一見、何処にでもある日常の一場面だが……。

「やはり、街が活気づいているのは良い。民の元気な姿を見たら、鬱屈としていた気分が解されていく気がする」

 今日も街は平和だな。

 元々この街は犯罪率、特に男性による性犯罪が極めて低い。

 それ自体は喜ばしいのだが、その原因が未だに判明していないのが不気味だ。

 時々、私を獣のような目で見てくる男がいるし、欲情がない訳ではないと思うのだが……。

 

「よう、そこの姉ちゃん! そんなとこでぼさっとつっ立ってないで、焼き立てのこれでも食べないかい?」

 

 と、突然横から屋台の主人が声を掛けて来た。

 いい香りが漂ってきて、程よく食欲を刺激してくるな。

 しかし……、

「すまない、これはなんという食べ物だ?」

「あれ、姉ちゃんこれを知らないのかい⁉ これは串焼きと言う食べ物だ。一本たったの百万エリス!」

「おっおい、それはいくら何でも高いのではないか? いや、もしかしてその肉はとても希少な物なのか?」

 驚く私を見た店主は、何を思ったのかとても真面目な顔になり。

「その通り。この肉はここら辺でしか捕れない、それはもう貴重なモンスターの肉なんだ。でも姉ちゃんは美人だし、ここは大おまけで三本で百万だ。どうだい?」

「うーん、三本で百万か。よほど貴重な物のようだし、それぐらいは仕方がない、のか?」

 このような食べ物は今まで見た事がないし、貴族ですら簡単には食せない幻の食材なのかもしれない。

「分かった、それを三本頂こう」

「毎度あり!」

 代金を支払うべく財布に手を触れた、その時。

 私の前を通り抜けようとした、銀髪の少年とぶつかってしまった。

「ああ、すまない。大丈夫か……あの?」

 私の声が聞こえなかったのか、彼は何も言わずにそのまま過ぎ去っていった。

 一体何だったのだろうか。

 少し気にはなるが、取りあえず店主に代金を払ってから考え……。

 あれ?

 

「財布が、ない……」

 

 さっきまでは確かにあったのに。

 現状を鑑みるに、考えられる結論は唯一つ。

 顔を上げ人混みの中を見渡してみたら、やたらと目立つ髪色のおかげで目的の人物は簡単に見つかった。

「おい、そこの銀髪の君、ちょっと待ってくれ!」

 張り気味に声をかけると、彼はビクッと身体を震わせ。

 こちらを振り返らずに大慌てで逃げ出した。

「あっ! こら待て!」

 くっ、なんて身の熟しだ。

 これだけの人垣があると言うのに、あんなにスイスイと通り抜けるだなんて。

 漸く人混みを抜けた頃には、既に彼とは結構な距離が空いていた。

 まずいな。

 これ以上距離をとられては追い付こうにも……ああっ、角を曲がってしまった!

 あの辺り一帯は住宅街だし、見つけ出すのは難しいか。

 これはもう警察に頼むしか……。

 

「ひゃああああっ!」

「なっ何事だ!?」

 

 彼が曲がった次の瞬間、甲高い悲鳴と共にガラガラッと何かが崩れ落ちる音がした。

 私も慌てて角を曲がり、

「おい、何があった……って、本当に何があったんだ?」

 思わず足を止めてしまった。

 目の前に広がるのは、盛大に散らばった大量の箱とその下で目を回す銀髪の少年。

 そして、その傍らでは一人の小さな女の子が、その少年を心配そうに眺めていたのだ。

「お、おい、大丈夫か?」

 ひとまず箱をどかしてやると、彼は手で頭を押さえながらフラフラと立ち上がり。

 …………いや。

 

「イタタタタッ、どうしてこうなるかな。あたしって運はいいはずなのに、何故かいつもこんな目に合うんだよね」

 

 じょ、女性だったのか。

 頬に小さな刀傷はあれど顔形は整っており、全体にすらりとした体型をしている。

 私とは対照的に、性格はサバサバとして明かる気。

 それでいて、とても清廉で可愛らしい少女だった。

 と、傍にいた小さな女の子が心配そうに彼女へ声を掛けた。

「ごめんなさい、私のせいだよね? 私が急に飛び出しちゃったから、それを避けて……」

「これぐらい平気だよ、普段から鍛えてるからね。こっちこそごめんね、怪我はない?」

「うん、私は平気。でも……」

 声を噤み、今にも泣き出しそうな女の子。

 それを慰めようとしてか、彼女はその子に目線を合わせ、

「あたしだって急に飛び込んできたんだからおあいこでしょ。ほら、暗くなってきたしもうおうちにおかえり。ね?」

 そう言って、女の子の頭を優しく撫でてあげた。

「うっ、うん、分かった。ありがとう!」

 彼女の言葉に、女の子はぱあっと顔を明るくし元気よく駆け出して行った。

「あんまり急ぐと今度はぶつかっちゃうよ!」

「大丈夫! バイバーイ、優しいお兄ちゃん! また会おうね!」

「うん、また……ってちょっと、あたし、お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんだからっ!」

 ちょっと涙目になりながら、女の子に向かって叫び返す銀髪の少女。

 その彼女は女の子の姿が見えなくなるまで見送った後に、チラッとこちらを伺ってきた。

 それに気が付き、私はジーッと見返してやる。

 すると彼女は諦めたかのように、はあーっと小さくため息を吐き、

「その……先ほどはお金を掏り取ってごめんなさい!」

 私の財布を突き出すと同時に、深々と頭を下げてきた。

「どうしてスリなんか働いたんだ? これはれっきとした犯罪だぞ」

「そっ、それは、その……」

 彼女はちょっと焦った様子で視線を泳がせながら、頬の傷をポリポリと掻き。

「えっと……じ、実は今日クエストで稼ぐつもりで、昨日有り金を全部エリス教会に寄付したんですけど。臨時パーティーを組むはずだった人達の都合で、急遽中止になっちゃって……。お陰で今日は一日何も食べられず……街中でお金持ちっぽい人がいたので、つい……」

「そ、そうか……。それは災難だったな」

 どうしよう、怒るに怒れなくなってしまった。

 勿論犯罪は駄目だが、寄付をしたせいで無一文になったというのが何とも。

 先ほど少女にも誠実な対応を取っていたし、根っからの悪人という訳でもないのだろう。

「分かった、今回は見逃してやろう。だが、以後絶対にこんな事はするなよ」

「はっ、はい、約束します。ありがとうございます! はあー、良かった。追い付かれた時はどうなる事かとひやひやしたよ」

 お咎めがなかった事で気が緩んだのか、額の汗を拭う彼女の腹から大きな音が鳴った。

 そんな彼女を見ていたら、自然と笑いが込み上げてきて。

「あっ、あははは、いやーお恥ずかしい!」

「フフフッ、しょうがないさ。今日一日何も食べていないのだろう。これも何かの縁だ、今から一緒に夕食でも食べに行かないか? お前の分の代金は私が払おう」

「えっ、いいの⁉ やった、ありがとう! それじゃあさ、あたしが最近見つけたお店に行かない? 雰囲気のあるお洒落なお店なんだけど、あそこの料理がまた絶品なんだよ!」

「それは興味深いな。では、そこへ行ってみるとするか」

 無邪気に喜ぶ彼女を見ていると、何だか私まで楽しい気分になってくる。

「おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。あたしはクリス。見ての通りの盗賊だよ。お姉さんのお名前は?」

「私の名はダクネス、クルセイダーを生業としている者だ。よろしく頼むぞ、クリス」

「こちらこそよろしくだよ、ダクネス」

 そう言って、私達は握手をしながら笑い合った。

 

 

 クリスに連れられたのは、繁華街の裏にある小さな料理店。

 隠れ家の様な落ち着いた雰囲気のある店で、料理もなかなか美味だった。

 なんでもこの店の店主はエリス教徒らしく、エリス様のご加護もあってかそこそこ繁盛しているそうな。

 そして、今ではすっかり打ち解けた私達は現在、食後の紅茶に舌鼓を打っていた。

「――クリスはエリス教徒だったのか。エリス様の信者が盗賊をやっているというのは、何だか不思議な感覚だな。プリーストやクルセイダーになろうとは思わなかったのか?」

「あたしはプリーストって柄じゃないし、クルセイダーになるには筋力や耐久力のステータスが足りなくてさ。それに、盗賊って響きだけを聞けば、信仰心を持っていないように聞こえるかもしれないけど、実際は信仰深い人も結構いるんだよ」

 苦笑を浮かべ、紅茶を一口含んだクリスは言葉を繋ぎ、

「それにあたしはこの職業、結構気に入ってるんだよ。なんせ自由なイメージのある冒険者の中でも、一番自由に生きてるって感じがするからね。おまけに、便利なスキルは盛りだくさんだし!」

「更に言えば、盗賊職はダンジョンでは必須な割に、目立たない仕事が多いから成り手が少ない。需要もさぞ多いだろう」

「おー、言われてみればそう通りだ。冒険者を目指す人なんかは、なんやかんや言っても目立ちたがり屋が多いもんね。まあ、あたしの本当の理由は別にあるんだけど……」

 最後の方はぼそぼそと呟いていて聞き取れなかったが、私が聞き返す前にクリスは机にクターッとうつ伏せになり。

「はあ、明日からどうしよ。臨時パーティーが組めればいいんだけど、そうそう募集してないしなー」

「普段は誰かとパーティーを組んでいないのか?」

「うん。あたし、ちょっと野暮用で頻繁にいろんなとこへ移動するから、一人の方が都合よくってさ」

 どうして一介の盗賊が、一人で各所を飛び回らねばいけないのだろうか。

「かといって、盗賊職一人じゃ討伐クエストなんかは危なくてさ。昔は一人で行く事もあったんだけど、最近魔王軍の残兵にこの傷をつけられちゃってね、流石に自粛する事にしたんだ。お陰で益々男の子と間違えられるようになっちゃったし……」

「そ、そうか……」

「ねえ、今あたしの身体をチラッと見てなかった?」

「み、見てない」

 何気に先ほど少女に間違えられたのを引き摺っているのだろうか。

 ……私も初めは男だと思っていた事は絶対に黙っておこう。

「とにかく、しばらくはこの街に滞在しようと思ってるし、食い扶持だけでも稼がないといけないんだけど。この時期だと一人でこなせるクエストなんか発注されないんだよね。あーあ、せめてもう一人前衛職がいたらなあ」

 そう言って私の方をチラッと見てくるクリス。

 もしかして、私をそれとなく誘ってくれているのだろうか。

 少し調子が良い気がしないことも無いが、これは同時にチャンスでもある。

 話してみたらこの子はとても心優しいし、私みたいな多少癖のあるクルセイダーでも仲間にしてくれるかもしれない。

 それに私も、そろそろ正式なパーティーを組んでみたい。

「あっ、あの、クリス。それなら……」

 と、そこで言葉に詰まってしまった。

 どうやら想像以上に、今まで断られ続けていたのが堪えていたらしい。

 また拒絶されるのではないか。

 仮にこの場では大丈夫でも、すぐに取り消しにされるのではないか。

 そんな考えが脳裏を過り、あと一歩が踏み出せない。

 まったく。

 私はクルセイダーだと言うのに、仲間を募る度胸すらないとは。

 口をパクパクするだけでそれ以上言えず顔を俯かせかけた、その時。

 正面から暖かい視線を感じた。

 はっと顔を上げた先では、とても優し気な表情を浮かべて微笑むクリスの姿が。

 先ほどまでのサバサバした感じが鳴りを潜め、今は相手に心からの安心を与える抱擁感を漂わせていた。

 例えるならばそう。

 記憶にはないお母様に、抱きしめられるような。

 それでいて、女神様に優しく見守られているような……。

 どれだけそうしていただろう。

 呆然とクリスの顔を見ている間に、心の蟠りはすっかり消えており。

 

「それなら、私とパーティーを組んでみないか?」

 

 気付いた時には、言いたかった言葉がすっと口を突いていた。

 ……どうしよう、今更だがクリスは受けてくれるのだろうか。

 一抹の不安を残しながら恐る恐るクリスの表情を伺う。

 しかしそんな私とは裏腹に、クリスはにっこりと笑い。

「いいの、だったらお願いするよ。むしろあたしからお願いしようかと思ってたところなんだ。それじゃ、早速明日の昼から討伐クエストに付き合ってくれない? さっき二人でやるのに丁度よさげなクエストが張り出されてたんだよね」

「あ、ああ、分かった」

 動揺が収まらない私に構わず、クリスは席から立ち上がった。

「それじゃあ、明日からよろしく! 頼りにしてるからね、あたしの新しい友達! ごちそうさまでした、っと。それじゃあ、明日ギルドで待ってるから忘れずに来てよ。またね!」

 呆然とした私をそのままに、言いたい放題言い残したクリスは手を振りながら、店を出ていってしまった――

 

 

 すっかり日が暮れて街に灯がともり始める中、私は屋敷へと向かっていた。

 

「友達……、またね、か……。フフッ!」

 

 まさかこんな形で冒険仲間が出来るだなんて思いもよらなかった。

 毎日エリス様に祈りを捧げた甲斐があったという物だ。

 本当に、本当に嬉しい。

 今思い返しても、凄く胸が暖かくなる。

 こんな感情、しばらく味わっていなかったな。

 エリス様、心より、心より感謝申し上げます。

 家に帰ったら、早速お父様に報告しよう。

 ずっと気にかけて下さっていたからな、きっと一緒になって喜んで下さるだろう。

 

 初めてできた友人と明日どうやって過ごそうかと思いを巡らせながら、私は夜道をいつもよりゆっくりと歩い出した。




【次回予告】
 ど、どうだっただろうか、自分の話をするというのは少し恥ずかしいな。でもあの時、クリスと仲間になれて本当によかった。クリスとエリス様に、心からの感謝を。
 次回はアイリス様にこのバトンを渡そうと思う。私も知らない王城での私生活について話して下さるそうだ。当初はお呼びを掛けていなかったのだが、この短編集の存在を知られたらどうしてもやりたいと目を輝かされて断れず……。ま、まあ、楽しみにしておいてくれ! (by ダスティネス・フォード・ララティーナ)

 この素晴らしい読者様に祝福を!
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