お父さん、お母さん、お元気ですか?
現在、魔王の娘が大軍を率いて里を襲撃していると聞きました。
陰ながら二人の無事を祈っています――
「ちょっと、どこにいるの?」
「隠れてもすぐ分かるんだからね!」
私もお手伝いに行きたいところですが、先約が入っているのでどうしても行けないです。
ごめんなさい――
「いないわね。そっちの細道は?」
「こっちもいないわ。この一角から離れたのかも」
ふにふらさんとどどんこさんはこめっこちゃんを連れて、無事アクセルの街に到着しました。
里の援軍に行けない分、こめっこちゃんのことは任せておいて下さいと、めぐみんのご両親に伝えておいてください――
「「出てきなさい、ゆんゆん‼」」
私は今、かつてないピンチに陥っています。
でも心配しないでください、何とか生き延びてみせますから!
その手紙が届いたのは、良く晴れた日の朝だった。
「ちょ、ちょっと、嘘でしょおおおお!」
差出人はふにふらさんとどどんこさん。
今日こめっこちゃんをアクセルの街に連れて行くから、私の男友達に会わせろとのこと。
「どど、どうしよう⁉ 前の手紙でつい男友達がいるって書いちゃったけど。正直言って、あの二人を友達だとはあんまり紹介したくない、というか絶対にしたくない!」
もし紹介したら、絶対に男の趣味悪いって思われてしまうだろう。
それ以前に、あんなのが友達というのはいくら私でも恥ずかしい。
「……よし、逃げちゃおう」
折角遊びに来てくれるって話だけど、偶々偶然私がいないのだとしたら、それはしょうがないわよね。
本当に、本当に残念だけど、背に腹は代えられない。
早速私が数日間外泊できるよう準備を始めようとした時、借りている部屋のドアがノックされた。
「ゆんゆーん、いる?」
「遊びに来てあげたよー」
「何で私の部屋知ってるの⁉」
聞こえてくる二人の声に、思わずビクッと身体を震わせた。
「いや、考えてみれば当たり前よね。差出人住所を確認すれば一目瞭然なんだし。ふにふらさんにどどんこさん、本当に来てくれたんだ。嬉しい……。って、そうじゃなくて!」
どうしよう、このまま部屋に上げたら、間違いなく男友達に会わせろという話になる。
それだけは何としてでも避けないと。
仕方ない、心苦しいけどここは居留守を……。
「あれ、鍵空いてるわね」
しまった‼
いつ何時友達が来ても入れるように、日中は鍵を開けておく習慣が裏目にでちゃった。
このまま中に入られたら、間違いなく見つかってしまう。
かといって、今から慌ててドアに鍵をかけても足音でバレちゃうし。
早くも絶体絶命の境地に陥った私が部屋でワタワタしている間にも、二人がドアを開けてこちらに向かってくる音が聞こえてくる。
そして廊下と居間を隔てるドアが開けられ。
「ゆんゆーん、勝手に上がらせてもらったわよー。あれ、いない」
「おかしいわね、部屋の様子はついさっきまでここにいたって感じなんだけど。買い出しにでも行ったのかな?」
二人が部屋をきょろきょろと見回すのを、私は息を潜めて眺めていた。
――壁とドアに挟まれるような形で。
ドアの造りが玄関側から居間の方に押し開けるタイプだから、何とか二人の死角に入れたけど、振り返られたら一発でバレちゃう。
二人が部屋の奥を見ているうちに外に出ないと。
そう決意した私は細心の注意を払いつつ玄関の方へ向かい。
「鍵を掛けずに出かけるなんて不用心ね。でも、良いとこ住んでるわね。私も一人暮らししてみた……、あれ? これって……。あの子、まだこんな本読んでるの? 『植物にだって心はある』、『優しい安楽少女の育て方』……。今度来るとき、もっと真面な本でもあげようかな」
「……そ、それがいいかも。あれ、ここにしまってあるのは、えっ、ちょっ⁉ ゆんゆんったら、こんなに大人っぽい下着を穿いてるの⁉ ここ、こんなに攻め攻めのパンツを持ってるだなんて、まさか本当に男が……⁉」
後方を確認せずに大慌てでその場から逃げ出した。
「違うのに! あの下着はめぐみんとの勝負で負けた時に、無理やり買わされただけなのに! あの本だって、ただ友達の作り方を研究してただけなのに‼」
ああ、益々二人に合わす顔がなくなっちゃった。
ギルドまで逃げてきた私が、いつもの席で頭を抱えていると、
「見得を張って余計なことを口走った結果であろう、自業自得だ。頭のおかしい紅魔の娘に無理やり買わされたと言いつつも、内心では理想の男に出会ったときには穿いてもいいかなと満更でもない娘よ」
「そそ、そんなこと考えていないですから! 誤解を招くようなことを言わないで下さいよ、ってバニルさん⁉ いつの間にいたんですか?」
バニルさんが隣に腰かけていた。
「汝が頭を抱えて妄想に耽っている間である。そろそろ相談屋の営業時間なのでな。ところで、大きな悩みを抱くむっつり娘よ」
「辞めて下さい! わ、私、むっつりなんかじゃ無いですから!」
不名誉な呼び名をつけられた私が抗議しようと立ち上がり、
「貴様を悩ます娘達がギルドに入ってきたと忠告してやろうと思ったのだが、大声を上げてよかったのか?」
「はいっ⁉」
言われるままに、入口の方をばっと振り向くと。
「ねえ、今ゆんゆんの声聞こえなかった?」
「そう? がやがやしてて聞き逃しちゃったかも。それにしても、お、男の人がいっぱいね」
物珍しそうにギルド内をきょろきょろと見回す黒髪紅眼の二人の少女が。
これはピンチだ。
「ちょ、ちょっとどどんこ! あの、あの奥にいるお方を見て!」
「どうしたのよ、そんなに息を荒げ、ふぁああああ! な、何あの格好いい仮面は!!」
「でしょでしょ! 紅魔の血にびびっと来たでしょう‼ 里の外にも、あんなセンスのいい人がいたなんて。ね、ねえ、どうせだしあの人にゆんゆんの事を聞いてみない?」
「ええっ⁉ そ、そんないきなり話しかけるなんて……」
恐ろしい提案をするどどんこさんと、少し恥ずかしそうにしつつも満更でもないふにふらさんが、バニルさんのいる机に歩を進め。
その様子を、私は机の下でガタガタと震えながら見ていた。
どうしよう、咄嗟に隠れたはいいけどこのままだと見つかっちゃう。
(ばば、バニルさん、助けて下さい!)
涙目になりながら頼むと、バニルさんはわざとらしく肩をすくめ、
(汝を救ってやりたいのは山々なのだが。もしあの娘達に汝の行き先を尋ねられたら、一介の占い師でしかない吾輩は正直に答えるしかないのでな。いやー、誠に残念である!)
(そ、そこを何とかお願いします! 私に出来る事なら何でもしますから!)
(今の言葉、忘れるでないぞ。悪魔との契約は例え口約束だろうと絶対であるからな。よし、では吾輩が合図を出すまでそこに隠れているが良い!)
さっきは一介の占い師でしかないって言ってたくせに、なんて変わり身の速さなの。
でも、頼れるのはもうバニルさんしかいないし、ここは信じるしか……。
「あっ、あの、すいません! ちょっと聞きたい事があるんですけど……」
「我が相談屋へようこそ、紅魔の娘達よ! 生憎と汝らの探し人は視界の中にはいないので分からんな」
「す、すごい、まだ何も聞いてないのにあてちゃうなんて」
「あなた、そけっとさんにも負けず劣らずの占い師なんですね」
占いの精度に驚く二人に、バニルさんは続けて。
「そんな事よりも紅魔の里より遠路遥々やってきたのだ、何か占っていくが吉! 例えば、汝らに恋人が出来るかな」
「「その話詳しく!」」
バニルさんが言い切る前に二人はすごい勢いで喰いついた。
「わ、分かったからそんなに顔を近づけるな。では早速汝ら二人の明るい未来を見てやろうではないか。ふむふむ、おっと、これは――」
と、バニルさんが手を机の下に入れ指をちょいちょいと動かした。
そ、そっか、二人の注意を引いている間に逃げろってことね。
ちょっとバニルのことを見直しつつ、私は二人に気付かれないように慎重に机から這い出した。
……うん、二人とも占いに夢中で気付いてないみたい。
私はそのままそろりそろりと出口へ向かい、扉を開け……。
「おっと、あそこに見えるは我が友人ではないか! 吾輩に挨拶もなしで帰るとはつれないものであるな!」
大声で声をかけてきたバニルさんを無視して、私は全速力でギルドを飛び出した。
次なる潜伏先として選んだウィズさんのお店にて。
私は今までの事をウィズさんに愚痴っていた。
「バニルさん、酷いです! 帰り際になってあんな大声で私を呼ぶなんてー!」
「それは災難でしたね、ゆんゆんさん。バニルさんが帰ってきたら、私からも怒っておきますから。さあ、紅茶でも飲んでください」
私の前に紅茶を出しつつ、ウィズさんが励ましてくれた。
「ありがとうございます、紅茶もとっても美味しいです。あの、ウィズさん。申し訳ないんですけど、もし私のと、友達が来ても、私がこの店に来たことは……」
「分かりました、お二人が来ても黙っておきますね。それと、街中を走り回って疲れたことでしょうし、ここでゆっくり休んでください」
「い、いいんですか!?」
「勿論です。私も話し相手ができて嬉しいですし」
にっこりと微笑みながらとても嬉しいことを言ってくれるウィズさん。
その言葉に甘えて、私は心行くまでお喋りを楽し……。
「「ごめんくださーい!」」
「あら、いらっしゃいま、きゃっ⁉」
「どうしたんですか。もしかして、驚かせちゃいました?」
「い、いえ、何でもありません。あっ、お二人は紅魔族の方なんですね。ウィ、ウィズ魔道具店へようこそ!」
声が聞こえた瞬間に条件反射でウィズさんの後ろに隠れちゃったけど、これちょっとでもはみ出したら見つかっちゃうじゃない!
というか、なんでこんなピンポイントで私がいるところにばっか来るの⁉
「仮面の紳士さんから、ここには面白い商品がたくさんあると教えてもらったんですけど。ちょっと見て行ってもいいですか?」
バニルさんっ‼
「えっ、ええ。も、勿論です。ゆっくり見て行ってくださいね」
「……あの、店主さん。何でそんなに強張ってるんですか? と言うか、どうして後退りしてるんですか? 紅茶のカップが二つあるし、誰か来てたんじゃ?」
「そそそ、そんなことは決してありませんよ⁉ ええ、誰も来ていませんとも! あっ、私ちょっと用事を思い出したので、少しだけ店を離れますね。別に、深い意味はないんですけど! ですから、お二人は私のことは気にせずに商品をじっくりと見ていてください!!」
ウィズさん、そんなに必死だと逆に怪しまれると思います。
だがウィズの挙動不審に二人はちょっと引きながらも、商品の方へ眼を向けてくれた。
逃げるなら今しかない!
私はウィズの服をちょいちょいと引っ張り入口の方へ歩き始めた。
私の意をくんでそれに付いて来てくれるウィズさん。
そして体感では数時間にも及ぶ格闘の末、私は漸く扉を少し開けることに成功した。
よかった、後はもうこのまま外に出るだけ……。
「ちょっ、なにこのペンダント! どどんこ見てよこれ! 『最後の時には、命を賭けて大切な人を守れますように……』だって! どうしよう、すっごいロマンチック‼」
「もしかして、仮面の紳士さんが言っていた今日のラッキーアイテムってこれのことなんじゃ⁉」
「分かりますか、その商品の素晴らしさが! そうですよね、ロマンチックですよね! ああ、私もそんな燃えるような出会いをしてみたいです」
「あれ、店主さん。用事があるんじゃなかったんですか? というか、今ドアを勢いよく開ける音がしたけど、店主さんじゃないとしたら一体誰が……?」
間一髪のところで二人の視線を潜り抜けた私は、げっそりとしながら街中を歩いていた。
もう、なんでこういう時に限っていろんな人に話しかけられるの。
いつもならもっとゆっくり話せるのに。
私が自分の間の悪さを呪っていると。
「おうおう、この未来の大英雄ダスト様に向かってなんつー態度だ! そもそも今日だって客なんか一人も来てねえじゃねえか。むしろ俺が来たことで客が一人増えたんだから、感謝の証に飯の一つでもだせ!」
「お前がいるから誰も来ねえんだよ、この疫病神が! これ以上ガタガタ抜かすようなら警察呼ぶぞっ!」
見知った人が食堂のおじさんに絡んでいるのを見かけてしまった。
毎日一度聞こえる爆音と同じく、この風景も日常茶飯事なので誰一人見向きもしない。
かくいう私も、絡まれたりしたら面倒くさいのでそっとこの場を離れようと。
「おっ、そこに居るのはボッチ娘じゃねえか! 丁度いいところに来たな。このおっさん、さっきから俺にいちゃもんつけてくんだ。お前からも文句言ってくれ。で、ついでに昼飯代貸してくれ」
「流れるように支離滅裂なこと言わないでくださいそれ以前に私を巻き込まないでください。今の私はすごく疲れてるんでそっとしておいて欲しいんですけど」
「あっ、お前! ダチの俺がこんなに困ってるってのに見捨てていくのかよ!」
「ダストさんはただの知り合いであって友達ではないです。きゃっ、ちょっ、どこ触ろうとしてるんですか! しがみ付いてこないでください、蹴りますよ‼」
足に縋り付こうとするその人を蹴り飛ばし、私は呼吸を整えるために荒い息を吐いた。
「嬢ちゃんもこんなのに絡まれて大変だな。ほら、このゴミを気散らしてくれた礼だ。少ないが持って行ってくれ」
「そ、そんな、これぐらいのことで頂けないですよ!」
「だったら俺にくれよ、有意義に使ってやるからさ」
「それだけは絶対におかしいです」
早くも立ち上がってきたアクセル一のチンピラと名高いダストさんが、不服そうに舌打ちをしてきた。
何でこの人はこんなにも厚かましくてクズな言動ばかり取れるんだろう。
こんなのをやむを得ずとは言え男友達として数えていただなんて。
やっぱり逃げてきて正解だ。
「なあ、頼むよ。今リーンの奴から借金しててこれ以上貸してくれないんだ。何度か一緒に冒険した仲じゃねえか。なっ、今度金が溜まったら奢るからよ」
「ダストさんの今度なんか一生こないと思うんですけど。……はあ、分かりました。これ以上絡まれるのも面倒なので、今日のお昼ご飯代だけ払ってあげますよ」
「さっすがゆんゆんだぜ! それでこそ俺のダチだ!」
おじさんが同情の眼で見てくる中お金を渡そうとした時、一瞬悪寒が走った。
これは、今日一日で磨かれた敵感知スキルのお陰だろうか。
バッと振り返った先では、案の定ふにふらさんとどどんこさんが街を散策していた。
まだ気づかれていなさそうだが、そんなのは時間の問題だろう。
「ゆんゆん、どうしたんだそんな蒼白な顔してって、なんで詠唱始めてんだ⁉ おい、やめろ! 何の魔法を打つ気か知らねえがやめろっ! わ、分かった、俺も調子乗り過ぎたのは謝るからそれだけは!」
隣でダストさんが何か騒いでいるが、そんなのに構っている暇はない。
私だって学習する、今まで見たいに不意打ちで大慌てなんてことにはならないんだから。
「『ライト・オブ・リフレクション』!」
「おわーっ、とう⁉ ……あ、あれ、何ともねえ。なんだよ驚かすなよ心臓に悪い。そんじゃ、さっき言ってたように俺の昼飯代をだな……。おい、ちょっ、なんで逃げんだよゆんゆん! どっか行くにしても俺の飯代払ってからにしろよ! 約束を破るとかお前人としてそれでいいのか? 自分の発言には責任持てよ、この人でなしがっ!」
「それをダストさんの口から言われると物凄く腹が立ちますね!」
あまりにも腹が立ったせいで、思わず足を止め大声で言い返してしまった。
そして、この距離だとその声があの二人に聞かれないはずもなく。
「あのチンピラっぽい人、あっちの方に向かってゆんゆんって言ったよね? でもあの辺にゆんゆんは見えないんだけど」
「でも、今度はゆんゆんの声もはっきり聞こえたし。もしかして、光の屈折魔法を使ってるんじゃない? なんかこの街でやばいことをしたせいで身を隠してるとか」
「あり得るわね、それ。ってことは……」
二人はこくりと頷き合うと、全速力でこちらに向かって走ってきた。
ああ、私のバカバカバカ!
ダストさんなんかに構ってないで早く逃げればよかった!
「もう、もうっ! こうなったのも全部ダストさんが悪いんです! 反省して下さい『トルネード』ッ‼」
「おま、街中で魔法をぶっ放す奴があるかああああ!」
ダストを空高く飛ばした足で、私は人混みの中を全力で駆け抜ける。
「風の上級魔法、やっぱりゆんゆんがいるのね。絶対に捕まえてやる!」
「私達だってもう上級魔法を使えるんだから、そう簡単には逃がさないわよ」
「もう、どうしてこうなるのおおおお‼」
その日、私と二人のリアル鬼ごっこは一日中続いた。
次回予告
ど、どうでしたか? 私としてはあまり思い出したくない思い出なんですが。でも、それで皆さんが楽しんで下さるなら、私は!
次回の話し手はクリスさんです。内容は、ちょっ、えっ? く、クリスさん、なんてことしてるんですか⁉ それって見つかったら捕まっちゃう奴ですよ! ああ、だから駄目だって言ったのに……! と、とにかく楽しみにしててください! (by ゆんゆん)
この素晴らしい読者様に祝福を!