このすばMemorial   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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これは、クリスによって綴られる、世の為に裏稼業に励む盗賊の記憶……


貴族邸への潜入大作戦 (クリス)

 眼下に聳え立つは、広大な敷地を誇る屋敷。

 王都でも指折りの名家、ドヴェルグ家の住いである。

 この貴族は領地のインフラ整備などを充実させ、世間では好評を受けている貴族だ。

 でもそれは表向きの話。

 裏では民衆を権力で脅迫し、不当な税を搾取する悪徳貴族なのだ。

 あたしは口元を覆うように、改めて黒い布をクイッと引き上げ。

 

「それじゃ、いってみよう!」

 

 住宅街の屋根から飛び降り、夜の暗闇へと溶け込んでいった。

 

 

 ――所有者を失った二つの神器が、とある貴族に購入された。

 

 この情報が転がり込んで来たのが、今から半月ほど前。

 それ以来、あたしは王都中の貴族邸と言う貴族邸を調べ回っていた。

 だけど宝感知スキルに反応があるのは、今までに何度も不正の疑いが掛かった貴族の屋敷ばかり。

 おまけに屋敷に侵入する度に目に付くのは、希少な宝石や武具・絵画の数々。

 まったく悪徳貴族って言う人種は。

 無理やり搾取するだけ搾取しておいてお金を余らせて。

 挙句の果てに、ちっぽけな虚栄心を満たす為だけにこんな浪費をするとか。

 そんな事をするぐらいなら初めから正当な額だけ徴収するか、もしくはもっと民に還元すればいいのに。

 なんて思った所で、不法侵入をしている身としては騒ぎを立てる訳にもいかず。

 悶々とした日々を送っていたある時、あたしの頭を稲妻が走った。

 それは偵察がてら王都を歩き回っていた日の事。

 何気なく見上げた先にお城の塔が見え、あたしはある事を思い出した。

 

「――先輩、さっきから何の映画を見ているんですか?」

「これ? これはね、私の世界で一番有名な怪盗の映画よ」

 余程面白いのか、画面から目を離さずに先輩は答えた。

「カイトウ? それは何ですか?」

「そんな事も知らないの? しょうがないわね、無知なあなたに、この私が教えてあげましょう!」

 ドヤ顔を浮かべた先輩は一時停止させてから、バッとその場に立ち上がり。

「怪盗ってのはね、大胆不敵にも犯行前には予告状を出し、民を苦しめる貴族や悪事を働く社長から財産を華麗に掠め取る、社会的弱者の味方よ‼」

「何ですか、その格好良い人は‼ あ、あの、もう少し詳しく聞かせてくれませんか?」

「予想以上に食い付て来たわね。なんならこれの漫画貸してあげようか?」

「本当ですか⁉ ぜひ、ぜひお願いします!」

「わ、分かったわ、分かったからちょっと落ち着きなさいな。それじゃあ代わりに私の仕事少し肩代わりしてくれないかしら?」

「あの……今やってるのも先輩の仕事なんですが――」

 

 ま、まあ、何だかんだあった後で、あたしはその本を借りてそのままドはまりした。

 犯罪者なんだけどどこか憎めなくて、それでいて格好良い面も沢山あって。

 その姿に、あたしはすっかり虜になってしまった。

 と、ここであたしはとんでもないことを閃いた。

 

 いっそ、本当に義賊をやったらどうだろう。

 

 今の所あたしの侵入を察知された前例はない。

 盗むにしてもそれは後ろ暗いお金で得た物だから、持ち主も大っぴらに出来ないだろう。

 ならば、無駄金で集めたお宝を盗んで、エリス教会に寄付したらいいんじゃないかな。

 そうなれば、今も貧しい生活を送る子供達が少し楽になるはず。

 おまけに上手くいったら悪事を働く貴族が減少する可能性までもある。

 これこそ一石二鳥と言う奴なんじゃなかろうか。

 ………………。

 うん、何だか出来るような気がしてきた。

 むしろ、ここまで利点があってやらない理由はないんじゃなかろうか。

 それに何だか楽しそうだし。

 …………。

 

 よしっ、やってみよう!

 

 そうと決まれば、今夜から早速実行に移すとしよう。

 さっき見て来た貴族の家にも、かなりのお宝がありそうだったしね。

 となると、お宝を詰めるための袋も準備しないと。

 どうしよう、無性にワクワクしてきた。

 今から決行が待ち遠しいな!

 

 

「――なんて、軽いノリだけで始めたこの活動だけど、思いの他ハマっちゃったよね」

 なんやかんやでここまで十数軒もの屋敷に侵入し、その全てで成功を納めて来た。

 そしてあたしの噂も広まってか、五回目ぐらいからは警備がどんどん厳しくなっている。

 だけど、最近はそれすら楽しみで仕方がない。

 こう難易度が上がるほど、チャレンジ精神が刺激されるっていうか、奥底に眠る盗賊の血が騒ぐっていうか。

「いや、あたしの本業は盗賊じゃないけどね!」

 そして今回はいよいよ、本命の一つである屋敷を標的に定めてみた。

 主の名前は、ドヴェルグ・ファン・カミーオ。

 ドヴェルグ家の現当主で、国の財政の一角を担っている。

 神経質な事で有名な人だし、これまでとは比べ物にならない程困難を極めるだろう。

 という訳で、昼間の念入りな下調べと準備を経て、こうして屋敷周辺まで来たんだけど――。

「……まずはここを超えないことには始まらないよね」

 あたしは足を止め、目の前に聳え立つ障害物を見上げた。

 屋敷へ潜入するための第一関門。

 それは屋敷を隙間なく囲っている、高さ三メートルほどの外壁だ。

 フック上のロープが引っ掛からない様に、上の部分は丸くなっている。

 唯一壁のない正門には、一日中見張りが立っているから真正面からは無理だ。

 いきなり躓いたかのように思われたこの案件だったが。

「よしよし、ちゃんと残ってる。ここなら多少音がしても誤魔化せるし」

 外壁から五メートルほど離れた場所に植えられた木の中の一本に近付き、ひょいっと上へと登って行った。

 と言っても、木の枝から助走をつけて飛び移るという訳ではない。

 いくらあたしが身軽だとは言え、流石にこの距離では筋力が足りないからね。

 木から飛び降りたあたしの手には、先に大きな正方型の布がついた軽いロープと、水の入った大きめの袋が。

 下調べの時に、葉が生い茂った部分に隠しておいたのだ。

「この布の部分をまんべんなく水で濡らしてっと。こんなもんかな。それじゃあ……」

 ロープ部分をしっかり持って、投げ縄の要領で布の部分をぶんぶんと振り回した。

「えいやっ!」

 掛け声と共にそれを外壁の向こう側に放り投げると、向こう側からビタッと布が張り付く音が。

 試しに数度軽く引っ張ってみたが、布は落ちてこない。

 それを確認したあたしは、思い切って地面から足を離した。

「ほいっ。……大丈夫そうだね。いやー、まさかこんな簡単な道具だけでつるつるの壁を登れるとは。漫画の知識もバカに出来ないもんだね」

 ロープをスルスルッと上っていき壁の上に達すると、さっと屋敷の庭に着地する。

「第一関門突破だね。それじゃ、この布は茂みに隠しておいて……っと。えっと、調理場はあっちだね」

 潜伏スキルを発動させながら、コソコソと壁沿いに移動を開始する。

 この屋敷は小規模ではあるが自家菜園をやっており、調理場から新鮮な野菜を直にとりに行けるよう勝手口があるのだ。

 あたしの調べでは、建物内に入り込むにはそこが一番警備が手薄なはず。

 時々見回りの人がやってくるが、その時は息を殺して茂みや石柱などに張り付くことでやり過ごす。

 そしてあたしは、実にあっさりと目的地に辿り着いてしまった。

「勝手口は手薄だと思ってたけど、見張りが一人もいないなんて不用心過ぎないかな? 外壁に余程自信があるってこと? まあ、あたし的には助かるんだけど」

 独り言を零しながらも、あたしは懐から二本のピンを取り出した。

 それを鍵穴に差し込みこちょこちょと。

 手ごたえを感じた所でグルッと回すと、カチャッと小さな音が響く。

 よし、解錠完了。

 中には誰も……いないね。

 ゆっくりとドアを開けたあたしはスルッと中に入り込み、そっと扉を閉める。

 よしよし、順調順調。

 開錠スキルを発動してから中に入るまでに掛かったその時間、僅か七秒足らず。

 あたしも随分と手慣れてきたものだ。

「さて、『宝感知』……っと。ふむふむ、こっちの方か……」

 壁に手を添えながら宝感知を発動させ、物音をたてないように慎重に、ゆっくりと歩みを進める。

 やっと出口だ。

 ここからが本番な訳だけど……。

「うぐっ、ここを通らないといけないのか……」

 調理場のドアをそっと開けたあたしは、思わず顔を顰めてしまった。

 目の前にあるのは廊下。

 それも玄関につながるメインフロアで、当然の様に明かりが煌々と灯っていた。

 貴族らしく、夜間でも常時つけっぱなしのようだ。

 やれやれ、電気代だってバカにならないのに、お金のある貴族はどうして節約を心掛けないんだろう。

 まあ、それはともかくとして。

 宝感知が示すのは、左斜め前方十メートルほど先にある、大きな両開き扉の向こう側だ。

 そして左手奥にある玄関口には、警備員が二人。

 普通に通ったらあの人達にバレる事は必至、だよね。

 さて、この難所はどうした物か。

 あたしが困り果てていると、二人の警備員の声が耳まで届いてきた。

「はーあ、仕事とはいえこんな夜遅くまで警備とかツイてねえ」

「そうボヤくな。この時間帯は深夜手当が出るから、日中よりは稼ぎが良い。もうすぐ生まれてくる子供の為にも金が要るんだろ? だったら渡りに船じゃないか」

「その分、お嫁さんとの時間が削れてんだけどな! ったく、最近噂の盗賊を警戒してこんなに人手を割くなんて、ドヴェルグ様は神経質過ぎんだよ。屋敷は壁で守られてるし、門番だっているのに……」

「まあ、その盗賊はこれまで何軒も悪徳貴族の屋敷に侵入してるってのに、未だに捕まっていない凄腕らしいからな。何時自分が眼を付けられるかと気が気でないんだろうさ。あの方も裏では金遣いが荒いってもっぱらの噂だし。あっ、今の他の奴に言うなよ」

 す、凄腕だなんて、ちょっと照れ臭いな。

 それにお茶の間での会話みたいに、こうして自然に話されてるのを聞くと、悪い気はしないし。

 って、喜んでる場合じゃなかった!

 今はここをどうやり過ごすかを考えないと。

 いくら潜伏スキルがあるとはいえ、これだけ遮蔽物が少なくて明るかったら、移動しきる前に気付かれるだろう。

 せめて二、三秒間、二人の注意を散漫に出来ればいいんだけど。

 どうしようか悩んだあたしは、何かないものかと周囲を見渡し……。

 右側の手の届く場所に、飾りの付けられた植物が鎮座しているのが判明した。

 ……よし、この手で行くか。

 

「――しかし、その盗賊もご苦労様なことだ。わざわざ貴族の屋敷に侵入なんて危険なマネするんだからよ。それも悪徳貴族に限定されてるし。おまけに盗賊騒ぎがあった次の日には、王都のエリス教会に匿名で多額の寄付が送られてるそうじゃないか」

「聞いた話だと、ここの所教会の子供達が飯をたんまり食べられてるんだってよ。金が届けられるタイミングからして、誰が寄付してるかなんて考えるまでもない。なんて言うか、格好良いよな。こんなこと言っちゃいけないんだろうが、正直応援したくなっちまう……んっ? 何か今俺の足に当たったな。……何だこりゃ?」

「装飾用に使うボールじゃないか、一体どこから転がってきたんだか。一先ず拾っておいて、明日メイドさんにでも渡しておくか」

 今だ!

 あたしは忍び走りで対角線上にある扉に近づき、サッと中へと潜り込んだ。

 そして沈黙を守りつつ、後ろ手にそっと扉を閉める。

「ふー、何とかここまで来れたね。……敵感知に反応もないし、上手くいったみたい。にしても……ここって客間だよね?」

 だって暖炉とかソファとかあるし、そもそも鍵すらかかってなかったし。

 これはどう見ても宝物庫って感じがしない。

 おっかしいな、確かにお宝の匂いはするんだけど。

 周囲をよく確認しようにも、部屋の中は薄暗くてよく見えない。

 こういう時に暗視がないのは不便だよね、なんてないものねだりしても仕方ないか。

 取り敢えず壁沿いに部屋の中をぐるりと回り、一番匂いの強かった場所に巡りついたはいいのだが。

「……これってどう見ても本棚だよね。お宝の匂いはこの奥からなんだけど……」

 壁にビシッと張り付く形で置かれた、見上げるほど高い本棚には隙間なく本が入っており、とてもじゃないけど移動させられそうにない。

 もしかしてスキルが間違ってる? でも昨日までは何の問題もなかったし。

 どうしよう、ここは一度出直してもう一度調べ直そうか。

 途方に暮れたあたしは片手を本棚につき、そのまま体重を傾ける形でガッカリと肩を落とし……。

 

 カチッ。

 

「うん? 今の音はなひゃあああっ!」

 突然手をついた部分が扉の様に押し開かれ。

「イッタタタタッ! もう、一体何なのさ……ってあれ? ここって……なるほど、隠し扉になってたのか。大事なお宝だからこうして隠してたんだね」

 秘密の仕掛けを幸運にも起動させたあたしは、転がり込んだ狭い空間を見渡した。

 こういう場合は大抵……あったあった。

 床に取り付けられた、如何にもな取っ手を徐に引っ張る。

 すると、キィーッと嫌な音を立てて開いた先には、地下に続く階段が。

「やっぱりね。宝感知も反応してるし、間違いなさそう。でもちょっと暗いな。どこかに明かりは……っと、御誂え向きのランプがあんなところに。折角だし借りて行こ」

 入口横に引っ掛けられていたランプを点灯させてから、入って来た扉を忘れずに閉め。

 準備を整えたあたしは、物怖じせずに階段をずんずんと降りて行く。

 螺旋状に巻かれた階段を降りきったところで、目の前に鉄格子が嵌められた扉が出現した。

 鍵も罠もかかっていないようなので、扉を開けて中を見渡したあたしは。

「わーっ、これは想像以上だね! しかも、どれも質が良さそうだし。……と、その前に神器があるか確認しなきゃ」

 当初の目的を思い出したあたしは早速捜索を開始するが、神器らしき物は見つからない。

 その代わりと言っては何だが。

「これって最近、紅魔の里で売られ始めたって言う結界殺しだよね? これが宝感知に引っ掛かってたのか」

 確かに珍しい物だけど、嵩む割には換金率が悪そうだし、これは置いて……。

 いや待てよ。今回は大丈夫だったけど、今後結界が張られた宝物庫に侵入することがあるかもしれない。

 そういう場合に、これは使えるんじゃないかな?

「……よし、拝借していこう」

 換金する訳じゃないけど、たまにはいいよね。

 結果的には皆の為になるんだし。

 

 そんな感じで暫く部屋を物色し、持ち逃げ出来るギリギリまでカバンに詰め込んだあたしは、来た道を戻り始めた。

 後は見つからない様にこの屋敷を抜け出すだけ。

 やっぱり、あたしってこの職業に向いてるのかも!

 なんて気が抜けたせいだろうか。

 階段を上り切り、客間の隠し扉を閉めた丁度その時。

「本当なのか、人の悲鳴が聞こえたって? お前の気のせいじゃ……あっ」

「そう言われると自信ねえけど。でも、念の為に確認しとこうぜ。別に見て減るもんでもな……あっ」

「あっ」

 玄関を守っていた警備員達が何の前振りもなく扉を開け、あたしとバッチリ視線が交じり合った。

 しばしの沈黙が流れ。

「……あっ、あはは。どうも、こんばんは……」

「あ、ああっ、こんばんは……」

「い、良い夜ですね……あはっ、あはははは……」

 あたしが愛想笑いを浮かべていると何となく分かったのか、二人も苦笑いを浮かべ。

 …………。

「『バインド』ッッッ!」

 あたしは虚を突く形で捕縛スキルを発動させると、二人の間をすり抜けた!

 

 敵感知と潜伏をフル活用して何とか屋敷を逃げ出し。

「つ、疲れたー」

 予約しておいた宿に辿り着いたあたしは、着替えもせずにそのままベッドへと倒れ込んでしまった。

「はーあ、やっちゃった。帰り際に油断しちゃったからな……」

 油断大敵とはよく言ったものだ。

 捕まりこそしなかったが、顔を目撃されてしまった。

 暗かったし布を当てていたとは言え、何たる失態だろう。

「今回やって分かったけど、やっぱり一人だと限界があるな。警備の人をやり過ごしたり、お宝の場所を見つけたりと、盗みって意外と人手がいるんだよね……」

 暗視があれば探索の幅が広がるし、狙撃を使えば高い場所でも簡単に潜入出来る。

 だけど、いくら人の為とはいえこれは犯罪。

 こんな事に手を貸してくれる人とかいる訳ないよね。

 仮にいたとしても、その人はきっととんでもなく変わった人なんだろうな。

「あーあ、誰か手を貸してくれるようなお人よしはいないかな……」

 

 そんなことをボヤきながら、あたしは夢の世界へと旅立っていった。




次回予告
 どうだったかな? 今でこそ銀髪盗賊団のお頭って持て囃されて、懸賞金まで懸けられてるあたしだけど、昔にはこんな失敗もあったのさ。
 次は商才ゼロの美人店主でおなじみ、ウィズさんのターンだよ。内容は……は? リッチーになって魔王城へ強襲を仕掛けた? ……ごめん、ウィズさんは喋れなくなるかもだけど、話す人が変わってもあんまり気にしないでね。 (by クリス)

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