雪が降り止むその日まで   作:アステカのキャスター

3 / 4


 あと二、三話くらいかな?
 展開早いけれど完結まで持っていきたいです。鬼滅の刃の二次創作を書く熱が下がる前に。

 良かったら感想、評価お願いします。では行こう。


積もる雪に晴れ始める空

 

 

 無限列車から三カ月が経った。

 その三カ月は目紛しい程の変化が起きた。遊郭にて音柱・宇髄天元と竈門達が上弦ノ伍を討伐、刀鍛治の里にて上弦ノ参・肆を討伐。音柱の引退もあるが、それ以上に驚いたのは禰豆子の太陽の克服。これにより柱達も決戦が近いと予期していた。

 

 それにより、隊士達を鍛える強化訓練。

 全柱による柱稽古が行われる。元音柱である宇髄の体力強化、甘露寺の地獄の柔軟、時透の高速移動、煉獄による型の調整、冨岡による受け身と力の流し方、伊黒による太刀筋矯正、不死川による無限打ち込み、悲鳴嶼による筋肉強化。

 

 そして……

 

 

「坊主、お前無駄が多過ぎねぇ?」

「えっ?」

 

 

 星崎雪の型の改善点指摘と向上だ。

 岩柱の訓練を終えてやってきた炭治郎に雪は告げた。様々な型を見て使う事が出来る雪から竈門炭治郎の型を見て単純にそう思った。

 

 

 ★★★

 

 

 柱合会議にて、全柱が揃った。

 それは禰豆子の事もあり、鬼舞辻無惨と戦うのもそう遠くはないと言う事により、異例の事態もあり会議をする事になった。

 

 

「本日の柱合会議、産屋敷輝哉の代理を産屋敷あまねが務めさせていただきます」

 

 

 お館様の奥さんが出ていると言う事はもうお館様は限界に近いのだろう。

 

 

「そして……当主の輝哉が病状の悪化により、今後皆様の前へ出ることが不可能となった旨心よりお詫び申し上げます」

 

 

 深々と申し訳無さそうにしていたが、気持ちは皆同じくお館様を心配している。特にあまねさんが一番辛いはずだ。故に言葉が出ない。どう励ませばいいのか。

 

 

「承知……お館様が一日でも長くその命の灯火燃やしてくださることを祈り申し上げる……あまね様も御心強く持たれますよう……」

 

 

 しのぶでもお館様を治す薬は出来ない。呪いと必死に戦っている事は皆承知だ。アレは産屋敷から生まれた呪いらしく。治す手立てがないようだ。悲鳴嶼さんが全員の言葉を代弁して告げた。

 

 

「……柱の皆様には心より感謝申し上げます。すでに御聞き及びとは思いますが、日の光を克服した鬼が現れた以上、鬼舞辻無惨は目の色を変えてそれを狙ってくるでしょう……己も太陽を克服する為に大規模な総力戦が近づいています」

 

 

 竈門禰豆子が太陽を克服した。

 それを無惨が取り込めば太陽は克服されてしまう。故に奴は必ず近い夜に総力戦、上弦ノ鬼を引き連れて現れる。

 

 

「上弦の参・肆との戦いで甘露寺様、時透様、そして元よりあったとされる星崎様、御三方に独特な紋様の痣が発現したという報告が上がっております。御三方には痣の発現の条件を御教示願いたく存じます」

 

 

 その言葉を聞いて二人は少し驚いた。

 痣については二人も確信に至ってはいなかったが、身体能力を上げる強さが手に入るのは理解していた。現に雪は上弦との闘いで痣を使いこなし、上弦の弐より上と相対できる。普通の人間なら即死だ。

 

 

「……そして星崎様には輝哉より言伝が」

「俺にですか?」

「上弦ノ弐の情報を教えて頂きたいと、貴方の過去も含めて」

 

 

 雪は目を見開いた。

 いや、いずれはこうなると分かっていたが、出来れば内密にしていたお館様にしか話していない秘密を話せと言ったのだ。それだけ切羽詰まっているのだろう。

 

 

「……わかりました。ですが一つお願いがあります」

「何でしょう?」

「元花柱・胡蝶カナエも同席させてください」

「星崎、その理由はなんだ」

 

 

 悲鳴嶼さんが雪に問いかける。

 確かに理由としてはいささか不可解だ。元花柱の胡蝶カナエを同席する理由が分からない。

 

 

「本来なら、もっと早くに聞かせなきゃいけない話だったんだ。俺の因縁も、過去も、本来ならカナエに真っ先に話さなくちゃいけない話だ。だからこれは我儘だ。それくらい許してくれ」

「……私は構いません。同席の連絡を鎹鴉に伝えます」

「すみません、頼みます」

 

 

 胡蝶カナエが来るまでに三人は痣の発現方法を柱達に話した。甘露寺については穴があったら入りたいと畳に伏せていた。案外、感性タイプだったのか、説明が壊滅的だったので全員が頭を押さえていた。

 

 

 ★★★

 

 

 柱稽古の最後、型の向上と指摘。

 現鬼殺隊最強の柱の雪柱による指導は意外にも厳しいものではない。単純にこれまでやってきたものの基礎は他で身についている以上、教える事が少ないのだ。

 

 だが、それでも指摘する事は多いし、手を抜こうものなら型の練習の餌食となる。そんな中で特別に一人を見ていた雪が竈門炭治郎にヒノカミ神楽について指摘していた。

 

 

「坊主の型は連発がキツいんだろ? 俺もやってみたけどこの呼吸自体がかなりキツい。けどな、俺は坊主より六回は連発出来る」

「そ、それは柱だから?」

「適正が無い俺でここまでやれるって事は、単純に坊主の動きが悪い」

 

 

 ヒノカミ神楽と言った呼吸。

 後々杏寿郎に調べてもらったのだが、雪の鬼殺隊に入るきっかけとなった槇寿郎さんが炭治郎に手紙を渡していたようだ。

 

 日の呼吸と言う始まりの呼吸だ。

 それを使えるものには耳に太陽の耳飾りがあるらしい。竈門炭治郎はヒノカミ神楽という形で日の呼吸を使っているのを理解した。

 

 その攻撃力は雪の呼吸と同等だ。

 雪の呼吸は様々な型から生まれた動きを総体したものだが、呼吸の深さといい、特殊な振り方といい、この呼吸は使える人間にしかあまり使えないものだと理解した。

 

 

「坊主のそれは舞に近いものなんだろ? 型として使えばいきなり踊っているのを止めてまた初めて止めるみたいな、見てて途切れ途切れ過ぎるんだ」

「途切れる?」

「舞は繋がってんだろ? 繋ぎやすいように手首や重心を変えなきゃ無駄に疲れる。始まりの呼吸と同じなら尚更な」

 

 

 舞は繋げて踊るから舞なのだ。

 型と言う形に区切ってしまえばそれは舞ではない。要するに呼吸の型に意識し過ぎているのだ。

 

 

「坊主の型は恐らく順番に舞を使って初めに戻る。要するに呼吸が壱から拾弐まで終わってまた壱から使うもんだ。型に囚われ過ぎるな」

 

 

 それにしても、日の呼吸か。

 雪には使いにくいがある程度使える。雪の呼吸と組み合わせ新しい型を作る事も出来そうだ。

 

 

「俺が戦った上弦ノ壱は恐らく戦国時代から存在する鬼だ。奴に一瞬でも隙を見せたら殺される。今の坊主じゃ瞬殺だ。焦れよ」

「はい!」

「次! 風の呼吸と派生組! 丸太素振り千回終わった奴から来い!!」

「うっし! この山の王が相手だ! 雪男!」

「来い」

 

 

 伊之助が二刀で迫り来る。

 自分の半分はある丸太を素振り千回が終わった奴らが次々と呼吸で雪に襲いかかる。これじゃあ風柱の稽古と変わらないんじゃ、とポツリと呟く炭治郎だった。

 

 まあ、指摘が的確な分まだ良心的な稽古だが。

 

 

 ★★★

 

 

「──────と言う訳だ。俺は過去の人間だ」

 

 

 一同が唖然とする。

 雪柱が少しだけ他の柱とは違うのは薄々感じていたが、まさかそんな事情があるなんて思わなかった。カナエもしのぶも雪の過去を聞いて少し黙っていた。

 

 

「だがよォ、それじゃあお前鬼っつー事じゃ」

「傷が付き過ぎて頭に傷がいったか。蝶屋敷で診てもらえ」

「殺す」

「だが不死川の指摘もあながち間違いじゃないかもしれん。星崎、何故貴様は生まれ変わってきた? 鬼の血鬼術か? 貴様自身はどうなんだ?」

 

 

 苛立つ不死川に伊黒は同意する。

 鬼ではないにしろ鬼と関係がある人間としては怪しさがあるだろう。だが、雪もそれに関しては微妙な顔をしている。

 

 

「そりゃ悪いが不明だ。記憶の遺伝なのか、血鬼術なのかは分からんが、少なからず俺は狛治……今の上弦の弐を止める為に生まれたと思ってる」

 

 

 原因は雪にすら分からない。

 本当に、そんな物語のような事が起きるのか。

 

 

「……素流道場の教えを人殺しに使うアイツを止める為に、この雪の痣もあると思う。この痣は多分、アイツと俺が好きだった女が残した最後の力だ。アイツを止めてくれって言ってる気がするんだよ」

 

 

 痣を軽くなぞる。

 それは恋雪が残した想い。好きだった彼を止めてほしいと言うものだ。何故そうなのか分からない。けど、分かるのだ。

 

 どうして、二人を引き合わせるように二人が共通した想いはまだ消えない。好きだった女を忘れられずに鬼となった男と好きだった女が選んだ男に会わせる為に刃を振るう男。

 

 アイツを止める為に再び生まれてきたのだと

 

 

「殺せるんですか? 生まれ変わったとは言え貴方の友なら私達が––––」

「安心しろ」

 

 

 その瞳に宿っていたのは殺意と怒りだった。

 しのぶが言った通り、他の柱に任せた方がいいのかもしれない。下手な情は躊躇してしまうからだ。だが、その闘志はこの場の柱で最も強く存在する。情の一切すら許さない決意を雪は口にした。

 

 

「アレは必ず、俺の手で終わらせる。絶対にだ」

 

 

 その言葉に誰もが反論を出せなかった。

 

 

 ★★★

 

 

 柱合会議が終わり、柱で考え意見を述べた後、柱稽古の為に帰る事にした。雪は、自分の屋敷に帰る前に蝶屋敷による事になり、右にカナエ、カナエの左にしのぶが隣を歩いている。

 

 

「……その、悪かったな。今まで隠してて」

「ううん、いいの。私が同じ立場だったら同じことをしていただろうし」

「……しのぶは? 怒らないのか?」

「怒りませんよ。私も今日の事だけで頭が疲れました」

 

 

 雪は過去の人間だ。

 まあカナエもしのぶも驚愕こそしたが、少しだけ何処かそうなんじゃないかと思っていた。雪が柱になったのは16の時だ。貴族でもないし、16より前に婚約でもしていない。

 

 けど、思い入れがある顔だけはどうしても頭から離れない。まるで誰かを未だに想っているかのようだから。

 

 

「カナエ、分かっていると思うが総力戦は近い。俺の勘ならこの週の後半あたりだ」

「っ……」

「星崎さん、それ本当なんですか?」

「勘は勘だ。だが、どうしようもないくらい、()()

 

 

 痣をなぞる。

 雪の痣は炭治郎のものとは少し違う。もし、これが恋雪に託された力なら、引き合わせるのもまた道理だ。

 

 その痣が疼くと言う事は、決戦が近いのだろう。 

 

 

 

「……俺は」

「ううん。待って」

「……いいのか?」

「その代わり約束して」

 

 

 ––––その言葉は生きて帰ってから聞かせて。

 カナエは優しい笑みを浮かべながら告げた。その言葉はしのぶも分かっていた。けれど、それは帰ってきてから告げるものだ。今もまだ割り切れない事はカナエも理解していた。

 

 だから無理をしないで、必ず終わらせてと告げているようだった。

 

 

「ああ、必ず」

 

 

 小指を交わらせ、指きりをして約束した。

 絶対に、生きてこの場所に帰る事を誓って。

 

 

 ★★★

 

 

「やぁ、来たのかい……初めましてだね鬼舞辻無惨」

 

 

 月の無い夜。血生臭い風が強く吹いたと同時に、産屋敷邸の庭園に禍々しい空気を纏った男が降り立った。

 

 

「(彼が……鬼舞辻無惨)」

 

 

 耀哉の病が進行する前と瓜二つの顔に紅梅色に縦長の瞳孔を持つ鬼。あまねは憎き存在を失明した伴侶の代わりに静かに見つめ、穏やかな声で因縁の男の名を紡ぐ耀哉の身体を支えた。

 

 

「私は心底興醒めしたよ産屋敷。身の程も弁えず、千年にも渡り私の邪魔ばかりしてきた一族の長がこのようなザマで」

 

 

 皮膚の焼け爛れた耀哉の姿に蔑んだ視界が絡みつき、嘲笑が響いた。

 

 

「醜い。何とも醜い。お前からは既に屍の匂いがするぞ」

「……そうだろうね……。医者からは、もう数日も持たないと言われた。今生きているのも奇跡だと」

 

 

 耀哉の声と言葉が秋の夜長に柔らかく広がる。思惑通り、すぐに攻撃して来ない無惨に絶えず微笑んだままで耀哉は続けた。

 

 

「それでも生き長らえたのは……君を倒したい一心ゆえさ……無惨」

「……迷言もここに極まれりだな。反吐が出る。病で頭まで蝕まれているのか? 終わりを告げるのは貴様等鬼狩りだ」

 

 

 不気味な感覚。奇妙な懐かしさと安堵感に無惨は眉を顰める。だが憎しみの湧かない凪いだ精神状況を大人しく受諾し、八つ裂きにするつもりだった目の前の男の言葉を静かに一蹴した。

 

 

「千年生きた私には分かる。此の世には神も仏もいない。何百何千と人間を殺しても、私に罰が下る事など無い」

 

 

 傲慢な夜の王。

 この男には罪悪感もなければ、人と言うものを何とも思わない。この男は存在してはいけない異常者だ。その言葉を聞いた瞬間に耀哉の脳裏に、今まで看取った隊士達の顔が浮かぶ。

 

 

「だが……君は一つ思い違いをしている」

「何?」

「神も仏も確かにいない……けれど君は罰が下る……君を殺すのは……人が紡ぎ、繋いだ想いだ」  

 

 

 妄言だと吐き捨てる鬼舞辻に輝哉は構う事なく続ける。

 

 

「君は誰にも許されていない……この千年間一度も……。無惨、君はね……何度も何度も虎の尾を踏み……龍の逆鱗に触れている……本来ならば一生眠っていたはずの虎や龍を……君は起こした。彼等はずっと君を睨んでいるよ。絶対に逃すまいと」

 

 

 一瞬、無惨は僅かに身体を強張らせた。  

 それは虎の尾を踏んだような感覚だった。いや、僅かながら鬼舞辻無惨は恐怖したのだ。身体が無意識に強張ったのだ。

 

 

「(……何だ……この妙な懐かしさと安堵感は、気色悪い)」

 

 

 まるで耀哉の言葉が具現化したように睨まれた感覚を憶えた。

 視界の端には童子が二人、数え歌を歌いながら手鞠で遊んでいる。屋敷から感じる気配は子供二人と耀哉と妻の四人だけだというのに。

 

 この嫌な不快感。

 何百何千年と生きた無惨でさえ感じなかったこの感覚に反吐が出そうだ。無表情の裏側で忌々しげに笑みを浮かべ続ける耀哉に殺気を放つ。しかし耀哉は動じず、続けた。

 

 

「無惨、私を殺した所で鬼殺隊は痛くも痒くも無い。私自身はそれ程重要じゃないんだ。意志を継いでくれる者達がいる限り、君の安寧は来ない。君には理解出来ないだろうね。……なぜなら」

 

 

 輝哉は確信を持って無惨に突きつけた。

 

 

「君が死ねば、鬼は皆滅ぶのだから」

 

 

 その言葉に反応し、殺気を出した。

 そう、鬼舞辻無惨が死ねば全ての鬼が死ぬ。支配から逃れた鬼は兎も角、支配されていた鬼は無惨一人の為に生み出された存在、繋ぐ事など出来はしない。傲慢故の孤高の存在に誰も繋ぐものなど居るはずもないのだ。

 

 

「空気が揺らいだね……。当たりかな」

「黙れ」

 

 

 揺さぶりを掛けられた事に気付き、凪いだ感情が怒りで荒れ始める。

 

 

「先程から下らぬ事をつらつらと……貴様の話には辟易する」

「うん……もういいよ。ずっと君に言いたかった事は言えた」

 

 

 武器を握れない代わりに、宿敵に突きつけた真実を告げた。

 

 

「君の夢は叶わない。太陽を克服出来ない」

 

 

 無惨の怒りと殺気が部屋を埋め尽くす状況に耀哉は心が高揚した。言葉に嘘偽りなど無い。僅かながら鬼舞辻無惨の動揺を誘えた。

 

 

「……禰豆子の隠し場所に随分と自信がある様だが、そんなくだらぬ脅しが効くとでも思ったか」

「理由は簡単さ。私の意志を継ぐ彼らが君を太陽から逃がさない」

 

 

 産屋敷輝哉の意志は失われない。

 何故なら、彼らが居るから。彼らがこの傲慢な王を討つと信じているからだ。鬼舞辻無惨は今日で柱によって殺される。そんな未来を信じて、確信しているからだ。

 

 

「……話は終わりだ。貴様はここで死ね、産屋敷」

「ああ……、こんなに話を聞いてくれるとは思わなかったな。ありがとう無惨」

 

 

 ––––瞬間

 その遺言と共に屋敷全てを崩壊させる爆発が産屋敷輝哉ごと鬼舞辻無惨へ襲い掛かった。

 

 

 ★★★

 

 

 

 柱合会議が終わり、各柱は稽古のために持ち場に戻るが、悲鳴嶼さんと雪はあまねに呼ばれお館様の所へ呼ばれた。

 

 酷い状態だった。

 今にも死にそうな程に、身体の下半身や腕が既に壊死し始めている。薬や包帯を巻いても隠しきれないし屍の臭いが鼻につく。

 

 敬愛するお館様がここまで酷い状態だったとは思わなかった。本来ならもう死んでいる。

 

 

「……五日以内に鬼舞辻無惨が現れる」

「!」

「……それは、先見の明ですか」

「……ただの勘さ、……私を囮にして無惨の頸を……取ってくれ」

 

 

 お館様の勘。それは未来予知に迫るもので先見の明と呼ばれている。幾度となく鬼殺隊の危機を救ってきた。なら間違いないのだろう。

 

 

「……なら四日、もしくは五日ですかね。俺の勘ですが」

「……それは、君の痣……かい?」

「はい」

 

 

 疼く痣とお館様の先見の明。

 恐らく四、五日が鬼舞辻無惨の現れる日だろう。それに確証はない。だが、分かるのだ。この二人の勘は鋭いからだ。

 

 

「そうか……他の子達には……反対される……だろうからね、君達二人に……しか頼めない……行冥、雪」

「「御意」」

 

 

 力強く返事をした二人に安心する輝哉。

 慕われているから、支えてくれるからこそ、任せて逝ける。

 

 雪は最後だと思い、輝哉に質問する。

 

 

「……最後に、一つだけ宜しいですか?」

「何かな?」

「今更かもしれません。どうして、俺の話を信じてくれたのですか?」

 

 

 あの日、柱になった次の日にお館様と二人で話した。

 伝えた方がいいと思った。俺は柱にふさわしい人間ではないと、過去に生きた人間で鬼の力が関わっているかもしれない自分の話をどうして信じてくれたのか。

 

 

「……私はね。君のその眼に嘘はないと信じてたんだ」

「何故?」

「……私が光を失う前……君の瞳は蒼くて……綺麗だった。……子供達とは違う。復讐心からの瞳ではなく……護る一心を貫いた子だったんだ。君は」

 

 

 誰かを護れる人間になる。

 前世で狛治と一緒に考えた夢だ。誰かを護り笑顔を見せる。その夢は未だに消えていない。弱き者を救う為に刃を振るうその在り方に嘘はないと、輝哉は口にした。

 

 

「……ああ、そうか。漸く分かった気がします」

「雪……」

「俺が、どうしてこの時代に来たのか」

 

 

 きっと、最後だからだ。

 猗窩座が生きている事、禰豆子が鬼になった事も、全てはこの時代で決着がつくからだ。勝つ以上、自分が居なくても猗窩座を誰かが斬る。だから雪は猗窩座を斬る最後の刻に現れたのだ。

 

 護る。お館様の意志を含めて必ず––––

 

 

「必ず、鬼舞辻無惨を討ちます。だからお館様」

 

 

 ––––ご武運を。

 

 本当は護るべき存在だ。

 けど、輝哉は既に覚悟を持っている。雪は止めない。止めてはならない。覚悟を決めた信念が、燻った熱が冷めてしまいそうだから。

 

 そして雪は僅かに溶け始める。

 

 

 ★★★

 

 

 無数に枝分かれした棘が無惨の身体を貫き固定する。それは無惨が浅草で鬼にした人間の血鬼術、深く突き刺さった以上抜け出せない。無惨が棘を吸収しようとした瞬間。珠世の拳が無惨の腹を貫いていた。

 

 

「何をしたか知りたそうですね!貴方が吸収した私の拳には薬が握られていたんですよ!!」

 

 

 握られた拳は既に吸収された。

 身体が僅かながら揺さぶられる感覚を感じた無惨。まとめた髪が崩れ、牙を見せながら正に鬼の形相で珠世は無惨に叫んだ。

 

 

「鬼を人間に戻す薬です! どうです? 効いてきましたか!?」

「なんだと……? そんなもの出来る筈は……」

「完成したのですよ! 鬼狩りと組んだ事で随分と状況が変わった!!」

「……お前も大概にしつこい女だな珠世……! 逆恨みも甚だしい!!」

 

 

 その頭蓋を潰さんと掴む無惨を睨み、珠世は逃がない思いで無惨の身体に爪を立てる。脳裏には鬼の欲求に耐え切れず、食い殺してしまった家族と自暴自棄に殺した人々の顔が巡っていた。

 

 今の今まで生き抜いた意味はここにある。

 この男を殺すまで死なないと言う薄汚くとも執念と呼べる程の復讐心が鬼舞辻に突き刺さる。

 

 

「終わらせに来た!! 罪を償う為に!! 私は……!! お前とここで死ぬ!!」

 

 

 先程の爆撃で人の気配が集まり出す。

 足音が二つ、鎖の音が草履の男が挟むように聞こえた。

 

 

「悲鳴嶼さん!! 星崎さん!!」

「……南無阿弥陀仏……!!」

「おう!!」

 

 

 悲鳴嶼の鉄球が無惨の頸を抉る。

 だが、死なない。お館様の言葉通り、無惨は頸を斬っても死なない。唯一、鬼舞辻無惨を太陽の下で殺せるのはかつて無惨を追い詰めた剣士の赫刀だ。故に雪と行冥がお館様に託された。

 

 

「忌々しい!!」

 

 

 血鬼術・黒血枳棘

 その赫刀は無惨が追い詰められた男のそれと重なる。黒い有刺鉄線のようなものが雪と行冥に迫る。

 

 雪の呼吸 伍ノ型・雪原の乱

 岩の呼吸 参ノ型・岩軀の膚

 両者共に迫りくる棘に斧と無数の赫刀の斬撃で斬り刻む。間合いに入り、再び血鬼術を仕掛ける前に雪は動いた。

 

 

「歯ぁ、食い縛れ!」

 

 

 雪の呼吸 陸ノ型・豪雪冰刃

 吸収されている珠世の腕と無惨の腕を斬り飛ばし、無惨の頸を斬り裂く。かつての剣士は頸は斬れなかったが、再生をさせなかった。頸を赫刀で斬ればどうなるか。

 

 

「ぐがああああああっ!! 貴様ァ!!」

「っ、チッ!!」

 

 

 やはり頸を斬るだけでは足りない。

 僅かながら奴の身体を()()()()()()()のだが、心臓が七つ、脳が五つある。だからこそ頸を刎ねても死なない。もしくは雪の赫刀がかつての剣士に届かないものだからかは分からない。

 

 だが、効果が無いわけじゃない。

 再生が大分遅い。合わせて十三ある心臓と脳を纏めて潰せれば太陽に焼かずとも殺せる可能性がある。

 

 

「無惨だ!! 鬼舞辻無惨だ!! 奴は頸を斬っても死なない!!」

 

 

 柱が集結する。

 それぞれが呼吸を整え、怒りと共に走り出す。雪も珠世を左手で掴んで右で再び再生した頸を斬ろうとした次の瞬間、べべんと言う音と共に地面が消えて障子が開く。

 

 

「これで私を追い詰めたつもりか? 貴様等がこれから行くのは地獄だ!! 目障りな鬼狩り共! 今宵皆殺しにしてやろう!」

 

 

 怒りが身体を熱くする。

 今日こそは、今宵こそは。

 炭治郎は別の穴に落下する無惨を睨み付け、腹の底から湧き出る言葉で啖呵を切った。

 

 

「地獄に行くのはお前だ無惨!! 絶対逃がさない!! 必ず倒す!!」

「できるものならやってみろ! 竈門炭治郎!!」

 

 

 琵琶の音が再度鳴り、瓦礫と化した屋敷に静けさが戻る。柱の全てが無限城に落ちる。だが、必ず奴を仕留めると誓った柱は鬼舞辻無惨を逃さない。

 

 今日、この日を以て決戦の火蓋はついに切り落とされた。

 

 

 ★★★

 

 

 雪は体制を立て直し受け身を取る。

 直ぐに反応したが、大分落とされた。辺りを見渡せば空間全てが部屋で囲まれている。目の錯覚で重力すらおかしくなりそうだ。

 

 

「大丈夫か」

「はい。ありがとうございます」

 

 

 雪が落ちた所に珠世まで落ちてきた。

 腕を掴み引き上げた瞬間、障子が開き鬼が溢れるように飛び出す。

 

 

「邪魔だ」

 

 

 雪の呼吸 肆ノ型・白雪ノ舞

 鬼の頸を的確かつ素早く斬り殺し、珠世を横抱きしながら走り出す。珠世は鬼でも素早く走れない事は分かっているのだが、恥ずかしいものがある。

 

 

「あ、あの降ろしてくれると……」

「アンタじゃここに居る鬼には勝てん。それに、鬼舞辻無惨を殺した後にやってもらいたい事があるからな。死なせない為に一緒に動いてんだ」

 

 

 下弦程度の力を持った鬼なら片腕でも殺せる。障子を蹴り飛ばしては進み、鬼舞辻無惨が居そうな場所へ走っていく。珠世は首を傾げながら雪が後に依頼する事を聞いた。

 

 

「やってもらいたい事ですか?」

「ああ、それは––––」

 

 

 ズガガガガガッ!!!と音が聞こえた。

 その音を聞くと雪はため息をついた。障子なら兎も角、まさか部屋をぶち破って直進してきているなんて誰が予想したか。珠世を降ろし、両刀に握る力を強め、刃を赫く染める。

 

 

「珠世さん、悪いが俺から二十歩は離れろ。血鬼術の援護は要らん」

「えっ……?」

「悪いがそれ以上離れねぇと、巻き込まねえ自信はない」

 

 

 珠世は察したのか雪から離れる。

 音は雪が向いた正面から、目を閉じて集中力を更に深める。

 

 

 今日が最後になる。

 全身全霊をぶつけなければ勝てない相手、前世で春翔を殺し、狛治を殺した鬼が最後の壁をぶち破って現れる。

 

 来る、来る、来る!来た!!来た!!!

 

 

 

「来いよっ!!猗窩座ァァァ!!!」

「待っていたぞ!!雪ゥゥゥ!!!」

 

 

 お互いに今日が最初で最後の戦い。 

 降り続けて積もった雪が溶け始める。

 今日ここで初めて、曇りながら降る雪が僅かに太陽を照らし、晴れ始めていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。