雪が降り止むその日まで   作:アステカのキャスター

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 まさか連続投稿になるとは……
 日刊ランキング、二位!?だと!?
 ありがとうございます!!あと二話かな!!無惨+黒死牟とエピローグで終わります!!

 良かったら感想・評価お願いします。では行こう。


雪は溶け、日は照らす。

 

 

 そうだ。雪はやがて溶ける。

 雪とは白くて綺麗で、冷たくて儚いものだ。

 

 冬ですら積もるか分からない。

 降る確証もない奇跡の結晶はしんしんと降り積もる。

 

 雪が降る。

 雪が降る。

 雪が降る。

 雪は止まない。

 

 降る雪は止まなければ、この心の冷たさは消えない。

 どうしても、見たくなかった冷たい雪が未だ心を埋め尽くす。それが数百年と十八年。

 

 二人の心は未だ冷たく。

 心に降り積もった雪は溶けないままだ。

 

 

 ★★★

 

 

「来いよっ!! 猗窩座ァァァ!!!」

「待っていたぞ!! 雪ゥゥゥ!!!」

 

 

 拳と日輪刀がぶつかり合う。

 赫刀は腕を斬り裂き、猗窩座の拳は雪の胴に打ち込まれる。互いに距離を取る。一手目は痛み分け。だが、痛み分けと言う程の損傷はどちらも負っていない。

 

 型無しで腕を斬り裂く腕力に猗窩座は警戒し、自由で尚且つ隙が無い動きに雪は同じく警戒する。

 

 

「後ろに下がって威力を殺したか! いい動きだ! あの時以上に練り上げられている!」

「そっちこそ、再生が少し早くなったな。鬼舞辻の血でも貰ったか?」

 

 

 お互いに向かい合って互いの動きを読み合う。

 猗窩座の展開した羅針盤が雪から全く動かない。雪の溢れ出る闘志は上弦として戦った誰よりも強く、滲み出ているのだ。この距離からでも伝わるほどの強い集中力。間違いなく、今日の雪は全盛期だ。

 

 

「やはり素晴らしい。俺は嬉しいぞ雪。あの日のお前より今のお前の方が強い事に」

「現鬼殺隊最強を名乗らせてもらってんでね。そう簡単に抜かされてやらねぇ為に強くもなる」

 

 

 抜かされてやらねぇよ、と時透や甘露寺に舌を出して笑った柱稽古を思い出す。だからってわざわざ二対一で戦うとは思わなかったけど。

 

 あの時と雪は変わらない。

 仲間がいるから、張り合って強くなる。負けず嫌いは今も昔も変わらない。馬鹿は死ななきゃ直らないと言うが、死んでも直らなかった馬鹿がここにいる。

 

 お互いにあの日死んだ二人は変わっても尚、二人の想いは未だに消えない。

 

 

「だからこそ、今一度お前に提案しよう。お前も鬼にならないか」

 

 

 右手を差し出し、再びあの時と同じ提案をする。

 分かっている。あの時と何ら変わりない。狛治は死んで、猗窩座と言う鬼に変わったのだから。

 

 

「ならねぇよ」

 

 

 雪の答えは変わらない。

 例え、鬼になったとしても猗窩座と言う鬼を殺すだろう。

 

 

「なあ、猗窩座。お前は何で強くなりたい?」

『なあ、狛治は何のために強くなりたい?』

 

 

 ピクリと、その言葉に反応する。

 それは妙に懐かしさがあり、雪の隣に道着姿の少年が見える。その少年が雪と似たような事を告げている。

 

 

「闘い続ける為だ! 俺は弱者を許さない!! 闘うのは楽しい。貴様もそう思うだろう!!」

「……そうかい」

 

 

 ずっと後悔していたのだろう。

 素流道場の井戸に毒を盛られた事で大事な二人を失った事を。故に弱者を許さない。その後悔を闘う事で埋める。あの時の狛治と春翔の闘いの高揚感で誤魔化して。

 

 

「お前にはもう闘う事でしか、その想いを拭えないんだな」

「何?」

「弱者だから卑怯だから、そんな言い訳でしか拳を振るえない。護りたかったものも、どこにもないんだな」

 

 

 弱者であろうと彼女を護ると誓った彼はもう居ない。

 猗窩座からは拭いきれないその不快さに顔を歪める。声が聞こえた。闘う事も出来ない女が啜り泣く声が。

 

 気に入らないのはお互い同じ。

 前のように邪魔は入らない。ならばどちらかが果てるまで闘い続ける。それが二人の宿命だ。

 

 

「もう、言葉は要らねえだろ?」

「ああ、そのようだな」

 

 

 猗窩座踏み込んだ地面から雪の羅針盤が浮かび、雪の頬からは雪の結晶のような痣が浮かび上がる。

 

 此処からは言葉は要らない。

 闘う事だけに集中する事になる。互いに構えて、名を告げる。

 

 

「伊月春翔。改め、雪柱・星崎雪」

「上弦ノ弐・猗窩座」

 

 

 ––––いざ、尋常に

 

 

「「参る!!」」

 

 

 二人は互いを殺す為に駆け始めた。

 

 

 ★★★

 

 

「うむ、よもや迷うとは!」

 

 

 下弦の力を持たされた鬼を狩り尽くし、殺気が強い方向へ向かう煉獄。少なからず、下の方から強い殺気が流れている。

 

 扉を開けると、壁を突き破って時透無一郎が現れる。琵琶の鬼に分断されたようだ。

 

 

「大丈夫か!?」

「あ、れ、煉獄さん!」

 

 

 瓦礫から無一郎を引き上げる煉獄。

 今この瞬間にも誰かが鬼舞辻と対峙しているかもしれない。瓦礫にまみれながら着地し、気配を探った瞬間、無一郎と煉獄の身体に怖気が走った。

 

 それは殺意だった。

 殺意だけで、自分が死んだと錯覚する程に()()

 

 

「来たか……鬼狩り……」

「!!」

「上弦ノ壱!!」

 

 

 侍のような出で立ちの鬼。歪な刀を持った六つ目には『上弦』と『壱』の文字が刻まれている。煉獄は一度闘ったとは言え、背筋が強張りそうだ。無一郎は今まで感じた事のない重厚な殺気に震えが止まらなくなった。

 

 

「(上弦の壱……!! これが……!)」

 

 

 身体が敗北を認め、戦闘を拒否している。

 未だかつてない鬼の存在に無一郎は未だ震える手で刀を構えるが、煉獄が背中を叩く。

 

 

「大丈夫だ。奴は強いが臆しては勝てん。だからこそ、心を燃やせ」

「! はい!」

 

 

 煉獄は一度闘っている。

 あの時、雪でさえ拮抗していた鬼だが、一度見た技と勝つために燃やした執念が煉獄を奮い立たせる。煉獄は頬に炎のような痣を、時透は雲のような痣を浮かび上げ、日輪刀を構える。

 

 上弦ノ壱と、煉獄と時透の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 ★★★

 

 

 その日は祭りだった。

 春翔は狛治に誘われたが、親と一緒に行くと嘘をついた。狛治には恋雪がいる。だから、この祭りで二人の想いに決着をつけてもらいたくて嘘をついた。

 

 

『済まなかったな。春翔』

『何故師範が謝るんですか? 謝られるような事––』

『恋雪と狛治の事だよ』

 

 

 りんご飴を持ちながら歩いていた春翔の脚が止まる。

 師範には恋雪に恋をしていた事を気づかれていたのだろう。

 

 

『俺は、お前に酷い事をしたからな』

『いや、師範が謝るような事じゃあ』

『恋雪と狛治が夫婦になれば、お前はいつもの関係に戻れなくなるんじゃないかって思ってた。だから、本当はもっと別の機会に話せば良かったって思ってる』

『…………』

 

 

 狛治と恋雪が夫婦になれば、少なからず三人の関係は崩壊するだろう。家族と親友では、向けている感情が違う。恋雪も狛治も互いに好きならば、春翔は身を引いて二人の関係を邪魔してはいけないのだ。

 

 

『……いいんです。それは恋雪が選んだなら、俺は構わないんです』

『けど、お前は……』

「俺だっていずれ道場を出て、夢を追いますし。それに––––』

 

 

 花火が弾ける。 

 その光に少しだけ照らされながらも、春翔は少し悲しそうに笑った。本当なら、自分が幸せにしてあげたい。だが、彼女の幸せは狛治と共にある。奪おうなんて醜い感情は湧かない。

 

 何故なら––––

 

 

『惚れた女には、幸せになってほしいから』

 

 

 ただ、春翔は彼女の幸せを願ったのだから。

 

 

 ★★★

 

 

 ドシャっ、と音が聞こえた。

 血だらけになり、左眼は潰れて肋骨が何本も折れた。必死に立ち上がろうと、膝立ちになりながらも動けない。日輪刀の片方は遠く弾かれて壁に突き刺さっている。

 

 猗窩座も息が上がっている。

 再生が遅すぎる。下弦ノ鬼と同じくらいまで再生速度が失われる程に斬り裂かれた。羅針盤を展開し続けるだけでも体力が奪われ、身体が鉛のように重くなっていた。

 

 

「ハァ……ハァ……楽しかったぞ。雪」

 

 

 意識が無いのか膝立ちのまま、刀を離さずにピクリとも動かない。無理もない、頭の出血や身体に打ち込まれた拳で臓器のいくつかは損傷している。

 

 そんな状態の雪の前に猗窩座は見下ろしながら、拳を振るう。

 

 

「これはその礼だ。一撃で沈めてやる!」

 

 

 狙うは頭蓋、砕けてしまえば簡単に死ぬ。

 自分にこれまでの高揚感を与えた返礼だ。それが猗窩座が雪と闘った事への敬意だった。

 

 だが……

 

 

「っっ!?」

 

 

 その拳を振るう手首が左手で掴まれた。

 動かないにも関わらず、掴まれた手首が動かせない。死に体の身体のどこにそんな力があるのか。

 

 

「……まだだ。まだ終わらねえんだよ」

 

 

 雪は掴んだ手首を()()()()()

 ありえない。何が起きているかもわからず、猗窩座は左手で頭蓋を狙ったが、右手に持つ純白の日輪刀が腕を斬り飛ばす。だが、猗窩座も左脚で日輪刀を弾いて飛ばす。

 

 

「もう居ないんだよ。お前の親父も、師範も、恋雪も」

 

 

 妙な苛立ちを感じた。

 刀を持たない無防備な状態になった雪に渾身の蹴りを入れようとする。しかし、それよりも速く雪の拳が猗窩座の顔に突き刺さる。メキメキと言う音と共に殴り飛ばされる。

 

 その苛立ちは雪も同じだった。

 だからこそ、雪は未だに立ち続け、叫ぶ。

 

 

「お前を止めれる奴は! 俺しか居ねぇんだよ!!!」

 

 

 五つの壁を貫通して吹き飛ぶ猗窩座。

 鬼でもないのにこの膂力はなんだ。猗窩座には理解出来ない。よく見れば首筋から手の甲にかけて痣が浮き出ている。

 

 けれど、それだけの力でここまで……

 

 

「目を逸らしてんじゃねぇ!!! その拳がある意味から目を逸らすな!! 痛くとも辛くとも、受け止めなきゃいけねぇんだよ!!」

 

 

 日輪刀を拾い、猗窩座に向かう。

 体力を消耗し過ぎて赫刀はもう使えない。純白の日輪刀が猗窩座に向かう。どうして、こうなってしまったのかなどと嘆いていても、二人は止まらない。止められないのだ。

 

 

「やはり貴様は不快だ! 雪!!」

 

 

 雪の呼吸 壱ノ型・雪月花

 猗窩座はそれに反応し、後ろに飛んでそれを避ける。だが、躱されようが、御構い無しに雪は呼吸を整える。

 

 

「破壊殺・空式!!」

 

 

 雪の呼吸 弐ノ型・寒天の嵐

 身体を回すように走り、衝撃波をいなしながら猗窩座の腕を斬り落とす。赫刀でなければ再生は早いが、受けたダメージから通常より遥かに遅い。

 

 

「お前がそれを振るうなよ……護る拳で!! 他人を傷付けてんじゃねぇ!!!」

「黙れ!!」

 

 

 破壊殺・砕式 万葉閃柳

 雪の呼吸 参ノ型・厳冬一閃

 

 迫りくる拳に対して雪の一閃が再生した腕を斬り落とし、砕式を止める。しかし、猗窩座の蹴りが雪の胴体に入る。血反吐を大量に吐きながらも、呼吸を止めない。

 

 

「カハッ……! 雪の……呼吸……!!」

 

 

 肆ノ型・白雪ノ舞

 両腕と胴体に深々と傷を付ける。僅かながら、純白の日輪刀が赫く染まり始める。再生が更に遅れても約一秒半、頸だけは確実に避けられる。

 

 

「おおおっ!!!」

 

 伍ノ型・雪原の乱

 陸ノ型・豪雪冰刃

 漆ノ型・五月雨雪

 

 三つの型が両腕や両足、胴体や眼を斬り裂いていく。

 再生が阻害されても尚、まだ再生する猗窩座。雪が血を吐いて呼吸を止めた瞬間、猗窩座の羅針盤が雪に向かう。 

 

 

「っっ調子に、乗るな!!」

 

 破壊殺・砕式 鬼芯八重芯

 左右四発合計八発の乱打を放つ。雪は意識が飛んだように身体が軽くなった。感覚が更に研ぎ澄まされる。死の淵に立った事により、研ぎ澄まされていく感覚と見える景色は透明に見えた。

 

 雪の呼吸 捌ノ型・白舟

 全ての乱打を一瞬にして掻き消した。雪降る水面を進む舟が全てを無に返すように斬り閃いた。

 

 

「なっ……!?」

「雪の呼吸……玖ノ型……!」

 

 玖ノ型・蓬莱雪白

 猗窩座の胴体を十字のように斬る。頸までは避けられたが、それでも再生が僅かに遅れたこの隙を逃さない。猗窩座は身体全てに力を込め、対応出来るまでの再生を可能とする。

 

 

破壊殺・終式!!! 

雪の呼吸、奥義!!! 

 

 

 二人の闘気が最大限に圧迫する。

 互いの背中に武神が見えた。修羅を生きる男と雪を背負う男、互いに別れた武の境地の一端が、目の前に顕現されるように発動した。

 

 

「青銀乱残光・羅雪!!」

「拾ノ型・淤加美神(おかみのかみ) 桜雪!!」

 

 

 全方向に同時に五百発の乱れ打ちを放つ。

 数の多さに先読みしても対処出来ず、雪の胴体を抉り、右脚が折れる。その乱打を飲み込むように雪は一歩ずつ近づいてくる。

 

 果てしなく遠い一歩。

 左腕が折れ、右脚が折れ、臓器を抉り、大量の血を吐き出しながらも突き進む。頸を捉えた雪に猗窩座の最後の一発が頭に入る。

 

 

「カッ…………」

 

 猗窩座が出していた羅針盤から闘気が消えた。

 最後の一撃で頭蓋を砕いた。雪は奥義を放つ勢いのまま倒れようとした瞬間。

 

 

「……っ、てこい……!」

「なっ!?」

「戻って来い!! 狛治ぃぃぃ!!!」

 

 

 雪は倒れる最後で踏みとどまった。

 闘気は未だ消えたままにも関わらず、その怒号と共に折れた腕にも関わらず赫く染まった日輪刀は猗窩座の頸に届いた。

 

 

 ★★★

 

 

 感じたのは無ではなかった。

 理解が出来ないような記憶を見た。

 

 

『真っ当に生きろ狛治、まだやり直せる』

 

 これは、誰だ。  

 目の前に居るのは弱者だ。自分で立ち上がれない弱者だ。なのにどうして殺したいと思わない。

 

 

『罪人のお前は俺がボコボコにしてやっつけたから大丈夫だ!』

 

 

 お前は誰だ。  

 俺は知る筈がない。俺は鬼だ。お前にやられた記憶などない。なのに、何故こんなにも悲しい。何故拳が上がらない。  

 

 

 

『俺達が揃えば負け無しだな。兄弟!』

 

 

 何故、こんな記憶が流れる。

 俺は、俺は猗窩座だ。お前のような兄弟を知らない。

 

 

 

『なあ、猗窩座。お前は何の為に強くなりたい?』

 

 

 

 目の前の雪が問いかける。

 それは親父に薬を届ける為……親父に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に俺でいいんですか?』

『はい、狛治さんとのささいなお話で私、嬉しいことがたくさんありました』

 

 

 最後に流れたのは、祭りの日だった。

 彼女と花火を見る約束をしたからだ。

 

 

『でも、春翔の方がいいんじゃ。俺は罪人です。その事実が貴女を傷付けてしまう』

『確かに春翔さんはいい人です。でも、私は貴方がいい。来年再来年の話をしてくれた貴方と一緒にいたい』

 

 

 彼女の手が触れる。

 頰が赤くなりながらも、彼女は告げた。

 

 

『私は狛治さんがいいんです。私と夫婦となってくださいますか?』

 

 

 その言葉に答えたのだ。

 自分が身につけた力でこの人を護りたいと。

 

 

『はい。俺は誰よりも強くなって、一生あなたを守ります』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうか、俺が護りたかったのは……

 

 

 ––––雪の呼吸 終ノ型 恋雪

 

 それはまるで祝福のようだった。

 頸を撫でるように斬られた所に不思議と痛みは無かった。雪の呼吸の終ノ型はもう二度は使われない。雪が猗窩座を斬る為だけに編み出した最初で最後の型。

 

 脚が折れているにも関わらず、立ち続ける雪は振り向かずに問いかける。

 

 

「……目は、覚めたか……狛治」

「……ああ」

 

 

 もう、その拳は振るわれない。 

 護る為の拳で、沢山の人を傷つける事も、もう終わる。師範が教えた素流はもう汚されなくていい。

 

 

「……そうか、ああ畜生。俺も好きだったなぁ……!」

 

 

 身を引いたはずなのに恋雪が好きだった想いが涙を流させる。右腕で溢れる涙を擦る。同じ想いだったから、負けたくなかった。だけど、雪は彼女の幸せの為に猗窩座を殺して狛治を取り戻した。

 

 勝ったのに、負けた想いに悔しくて泣いた。

 けど、涙を無理矢理止めた。最後の別れだ。涙一つあっては後悔してしまうからだ。

 

 

「……お前は」

「……心配すんなよ。俺にも、待ってくれてる人がいる」

 

 

 思い出したのは蝶のような女だった。

 漸く想いを断ち切れたのだ。もう、待たせてしまっているあの人に伝えられる。

 

 最後に振り返る。

 身体が朽ち始める。猗窩座と言う鬼が消え去り、狛治は在るべき場所へと向かっていく。

 

 

「じゃあな。()()

 

 

 そう言って笑って最期を見届ける。

 狛治は悲しそうに笑い、涙を流しながらも告げた。

 

 

「……ありがとう。()()

 

 

 最期に見た狛治と共にありがとう、と告げていた女が見えた。

 二人は手を取り合って、空へ飛んでいく。見えなくなるくらいに遠く、向かうのが地獄だとしても彼女はついていくだろう。

 

 

「……言い忘れてた」

 

 

 二人が完全に見えなくなる前に言い忘れた言葉を告げる。

 

 

「結婚、おめでとう。どうかお幸せにな」

 

 

 ずっと言えなかった言葉だった。

 だけど、もう叶ったから。恋雪に会わせて、狛治を救いたいと言う想いはもう叶ったから。

 

 雪は溶けて、春がやってくる。

 積もった雪は溶け始め、また日が昇り始めた。

 

 

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